オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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アインズ・ポイント

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・モモンガの執務室 /*/

 

 

モモンガは骸骨の頭を押さえていた。

 

「はぁ……。どうして我が配下たちは、ここまで過労気味なんだろうな」

 

応接セットのソファで報告書を読んでいるジョンが首を傾げる。

「いやいや、モモンガさんが命じれば、奴らは七日七晩寝ずに働きますからね。

 むしろブラック企業どころか、奉仕が生き甲斐みたいな顔してるじゃないか」

 

「それが問題なんだ! サービス残業、無限労働、休日ゼロ。

 守護者たちが『幸せです』って言うたび、サラリーマンとしての良心が痛むんだ!」

 

ジョンは吹き出す。

「良心あったんすか、モモンガさん」

 

「……あるさ! 中身はサラリーマンだぞ、俺は!」

 

モモンガは立ち上がり、椅子をどんと叩く。

「彼らに何か“報酬”を与えたい。

 だが金銀財宝では喜ばぬし、戦闘任務は仕事と変わらん。

 どうすればいい?」

 

ジョンはしばらく考え、にやりと笑った。

「じゃあ――『有給休暇』ってのを導入しましよう」

 

「有給……きゅうか?」

 

「要は、休んでも給料と待遇が保証される夢の制度。

 いやぁ、実装できればナザリックのホワイト化待ったなし!」

 

アインズは目を見開いた(目はないが)。

「な、なんと革命的な……! さすがジョンさん!」

 

その瞬間――。

 

執務室に控えていたアルベドとフィースが同時に振り向いた。

「モモンガ様、休暇など不要です!」

「わたくしは四六時中、モモンガ様のおそばにいたいですわぁ!」

 

ルプスレギナも前に出て頭を下げる。

「モモンガ様、有給休暇の導入はナザリックの生産効率を下げる恐れが……」

 

モモンガは慌てて両手を振った。

「ま、待て待て! これはただの検討だ! 検討だからな!」

 

横でジョンが小声で囁く。

「ほら、見たことか。ブラックは従業員が喜んで働いてるときが一番手強いんだ」

 

「……ナザリックをホワイトにするのは、世界征服より難しいな……」

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 その後 /*/

 

 

モモンガは手を組んで唸っていた。

「よし……有給休暇制度を導入する! まずは一日ずつだ!」

 

守護者たちがざわめく。

 

アルベド「その一日は、モモンガ様にお仕えできる時間を増やせるということですね!」

シャルティア「私は有給を使って、モモンガ様の髪を一本一本愛でる予定ですわぁ!」

デミウルゴス「有給を利用し、世界征服の計画をさらに効率化しましょう」

 

「ちがーーーうっ!」

モモンガの絶叫が執務室に木霊した。

 

ジョンは肩をすくめる。

「ほら見ろ、モモンガさん。有給もブラックに染め上げてしまうんだ、彼らは」

 

骸骨の目(はない)が涙ぐんでいるように見えた。

「……頼む、誰か“普通の休暇”の意味を教えてやってくれ……」

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 /*/

 

「よし! 給料代わりに――アインズ・ポイント制度を導入しよう!」

モモンガは誇らしげに高らかに宣言した。

 

「日々の働きによってアインズ・ポイント、略してA.P.を貯められる!

 そして貯めたポイントは、至高の41人にまつわる特典と交換可能だ!」

 

ジョンが笑いながらペンを走らせる。

「はいはい、社内通貨ですね。ブラック企業のインセンティブ制度そのまんま」

 

*アインズ・ポイント交換一覧(初期案)

 

10 A.P. → アインズ様から「よくやった」の一言

50 A.P. → アインズ様の使用済み羽ペン(インク付き)をプレゼント

100 A.P. → 至高の41人の落書き入りメモ帳のコピーを閲覧可

300 A.P. → 至高の41人の誰かとお茶会15分

500 A.P. → アインズ様の膝に10秒座れる権利

1000 A.P. → 至高の誰かに質問できる(答えてくれるとは言ってない)

??? A.P. → 「至高の夢枕訪問」権利(発動条件不明)

 

「す、素晴らしいですわモモンガ様!」

アルベドが顔を紅潮させて叫ぶ。

「私は1000ポイントを貯めて、“モモンガ様は私をどう思ってくださっているのか”を直接お聞きします!」

 

「えっ、それは……」

モモンガが言葉に詰まる。

 

シャルティアが拳を突き上げた。

「わたしは500ポイントで膝に座るでありんす! 座って骨を磨いてモモンガ様の温もりを感じますぅ!」

 

「いや……骨に温もりは……」

 

アウラは眉をひそめる。

「えー、私は10ポイントの“よくやった”でいいかなぁ。モモンガ様に褒められる方が一番うれしいし」

 

マーレはおずおずと手を挙げる。

「ぼ、ぼくは……至高の落書きが見たいです……! どんな絵を描いてたのかなぁって……」

 

デミウルゴスは眼鏡を押し上げて笑みを浮かべた。

「フフフ……この制度を利用し、守護者たちの忠誠心をさらに研磨することができます。

 私なら“よくやった”の一言すら何百回と集め、モモンガ様の発声ログをデータ化し、永久に再生できる装置を……」

 

「やめろォ!」

モモンガは頭を抱えた。

 

ルプスレギナは肩をすくめる。

「これって結局、ブラック企業の“ポイント還元”そのまんまっすよねぇ。

 働けば働くほどポイントが貯まるけど、結局みんな仕事しかしてないっす」

 

ジョンがニヤリと笑い、モモンガの肩を叩く。

「モモンガさん、インセンティブ制度ってのはブラックがホワイトに見せかけるためのカラクリなんですよ。

 結局みんな“喜んで働く”方向に強化されてる」

 

骸骨の目(はない)が涙ぐんでいるように見えた。

「……やっぱりナザリックをホワイトにするのは、世界征服より難しい……」

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 続き /*/

 

ジョンがにやにやしながら提案する。

「せっかくなら、もっと高額の“夢の特典”を用意しましょう。社員が頑張るモチベーションになりますぜ」

 

モモンガがうなずく。

「なるほど……! ならば“アインズ・ポイント交換表・上級版”を作ろう!」

 

*アインズ・ポイント交換一覧(上級編)

 

10,000 A.P. → 至高の41人が全員で「おつかれさま」と幻影演出

25,000 A.P. → 玉座の間でアインズ様と記念撮影(※撮影者はアルベド)

50,000 A.P. → モモンガ様と一緒に「残業をしないで一日過ごす権利」

100,000 A.P. → 至高の41人の名前入りグッズ(幻影加工)フルセット

500,000 A.P. → 至高の41人が夢の中でカラオケしてくれる権利

1,000,000 A.P. → “至高の41人 緊急会議”の幻影を生再現(※発言内容はNPCが妄想で補完)

????? A.P. → 「アインズ様と二人で人間界に社員旅行」権利(※モモンガが一番嫌がる)

 

アルベドが目を輝かせて叫ぶ。

「私は……1,000,000ポイントを貯めて、至高の緊急会議に乱入します! そしてアインズ様と並んで議題を進行いたしますわ!」

 

シャルティアが両手を握りしめる。

「わたしは50,000ポイントで残業しない日! そしてその日は一日中モモンガ様と遊ぶですわ!」

 

「いや、それ……俺が休めないんじゃ……」

 

コキュートスは拳を震わせた。

「……10,000ポイントデ“オ疲レサマ”ヲ浴ビル! ソレコソ武士道ノ誉レ!」

 

マーレは顔を赤くして呟く。

「ぼ、ぼく……25,000ポイントの記念撮影がいいです……。一生の宝物になります……」

 

アウラは大きくため息をついた。

「なんかさぁ……ポイント稼ぐために、みんなもっと働きそうだよね? ブラック加速じゃん」

 

ジョンが苦笑しながらモモンガの耳元で囁く。

「ほらね、結局“やりがい搾取”の黄金システム完成ですわ」

 

モモンガは崩れ落ちそうになりながら、天を仰いだ。

「……やっぱりナザリックをホワイトにするのは、世界征服より難しい……!」

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 ポイント稼ぎ実践編 /*/

 

モモンガは机に突っ伏して溜息をついた。

「……アインズ・ポイント制度を作ったはいいが、守護者たちの熱意が暴走しているな」

 

ジョンはペンを走らせながらニヤリ。

「暴走? モモンガさん、見てくださいよ。既に始まってます」

 

 

/*/ 守護者たちのポイント稼ぎ実践・拡張版 /*/

 

 

アルベド

国政処理を秒単位で終わらせ、モモンガが「仕事がない!」と嘆く。

属国の太守や王たちが「速すぎる報告」「要求が一分以内に返ってくる」ことに悲鳴。

最終的に「モモンガ様の机に仕事を置く暇がないので、机ごと持ってきました!」と本気でやらかす。

 

シャルティア

輸送効率を極限まで追求し、ドラゴンやアンデッドが次々と過労死寸前。

倒れたドラゴンを無理矢理ヴァンパイアしようとし、「不死だから休まなくてもいいでありんす!」とパワハラ。

最終的に、運送ルートが地獄の軍隊行進のような光景に。

 

デミウルゴス

亜人や裏社会へ「アインズ・ポイントを稼がせる」名目で超過酷労働を押し付ける。

「報酬? お前たちがアインズ様に尽くすことこそが至高の特典だ」

各地で“アインズ・ブラック企業支部”が乱立、世界規模の労基違反に発展。

 

コキュートス

リザードマンたちを総動員し、「アインズ・ウール・ゴウン大祭」を毎週開催。

稲作や漁を放置し、踊りと祭りに全力投入。

「これもアインズ様の威光を広めるため!」と真剣。村のリザードマンは「いや米がねぇ!」と悲鳴。

 

アウラ&マーレ

「見守りポイント」で稼ぐため、モモンガの日常を24時間フル監視。

執務室、浴場、寝室、転移先すべてに影から監視の視線が。

モモンガ「見張られてると落ち着かん……!」とサラリーマン時代の監視社会トラウマを思い出す。

 

ルプスレギナ

「効率化観察実験」と称し、作業者の速度を強制的に1.5倍化。

兵士もメイドも悲鳴を上げるが、「ポイントが増えるからいいっすよねぇ?」と笑顔。

最終的に「アインズ様の笑顔ポイント」という謎の非公式制度を導入。

 

セバス

メイド隊に「アインズ・ポイント競争」を導入。

「掃除一部屋につき2 A.P.!」と掲げた結果、館の床が三日でピカピカ過ぎて反射する。

食器は磨かれすぎてツルツルし、家具は光り輝くが床もツルツルで滑る。

 

番外編:その他の連中

 

パンドラズ・アクター

「A.P.を貯めれば“至高のコスプレ特典”が実現できるのデース!」と暴走。

執務室がコスプレショー会場と化す。

 

エントマ

「お菓子を作って献上すればポイント……」と大量生産。

ナザリック中が菓子で埋まり、蟲が甘味まみれに。

 

ナーベラル

「アインズ様の役に立てば何でも良い」とポイント無視で無茶働き。

逆にブラック勤めが強化され、モモンガが頭を抱える。

 

ジョンが腹を抱えて笑う。

「いやぁ、モモンガさん。これはもう“アインズ・ブラック・イノベーション”だ」

 

モモンガは椅子に崩れ落ちた。

「……世界征服より先に、ブラック征服してしまった……!」

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 /*/

 

モモンガは机をばんっと叩いた。

「いい加減にせよ! お前たち、ポイントに釣られて暴走しすぎだ!」

 

守護者たちがぎょっとして姿勢を正す。

 

モモンガは一人ずつ骨の指を突きつけた。

 

「アルベド、人間に合わせて仕事の速度を落としてくれ!

 属国が悲鳴を上げているぞ。人間相手に秒速処理など不要だ!」

 

「はっ……! 申し訳ございません、モモンガ様!」

アルベドは真っ赤になってうつむく。

 

「シャルティア! ドラゴンは資源だ! 繁殖してもらわねば困る!

 アンデッド化など言語道断だ!」

 

「で、ですがモモンガ様ぁ……労働力が……」

「生かせ! そして休ませろ!」

 

「デミウルゴス! 亜人の部下どもは一日八時間労働に抑えよ!

 残業など以ての外だ!」

 

「なっ……八時間!? 非効率では……」

「効率より健全さだ!」

 

「コキュートス! 祭りは年一回で充分だ!

 リザードマンが稲を植える暇がないではないか!」

 

「ハッ……! 心得タ!」

コキュートスが氷の涙を流す。

 

「アウラ、マーレ! 見守りポイントは禁止!

 通常業務でポイントをやるから、通常業務に戻るように!」

 

「えー……でも……」

「えーじゃない!」

 

「ルプスレギナ! お前はジョンさんについていろ!

 効率化の悪魔を放置したらナザリックが滅ぶ!」

 

「えぇ~……じゃあジョンさん、これから付き添いまーす?」

「え、俺ぇ!?」

 

「セバス! 掃除は一日一回で良い!

 床が光りすぎて眩しいのだ!」

 

「御意!」

セバスが深々と頭を下げる。

 

執務室はしんと静まり返った。

守護者たちが頭を垂れ、モモンガの言葉を噛み締める。

 

ジョンは腕を組んで笑った。

「いやぁ、モモンガさん。ついに労基法を導入しましたね」

 

モモンガは大きく溜息をついた。

「……ナザリックをホワイト化する道は遠い……が、まずは第一歩だ」

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 /*/

 

 

モモンガは眉(というべき凹み)を寄せて言った。

「人間の8時間労働は、一日にやらせてよい最長時間だ。連日それを続けていいわけではない。属国も亜人も、回復と安定が必要だ。」

 

アルベドはきっぱりと首を振る。

「モモンガ様……それはあまりに厳しすぎます。1日の三分の一しか至高の御方のために働けないとは、重すぎる罰です!」

 

デミウルゴスが静かに近づき、眼鏡を押し上げる。

「我が部下はもっと多く奉仕したいと願っております。効率を下げることは至高への侮辱に等しい。16時間、いや20時間でも厭いません。」

「増やすな、増やすな」

 

シャルティアが拳を握りしめる。

「わたくしも同意ですわ! 休息などは心の隙。骨は折れても奉仕の精神は折れませぬ!」

 

モモンガはこめかみ(辺り)を押さえ、疲労の声を漏らした。

「ちょ、ちょっと待て……それは『人間の労働基準』の趣旨を逸脱してるだろう! 8時間は健康を守るための基準だ!」

 

アルベドは目を潤ませ、真顔で言う。

「健康? モモンガ様、私たちの健康とは、御方のために尽くし続けることで保たれるのです。至高の微笑みがあれば我らは生きられるのです!」

 

シャルティアが舞うように斬り返す。

「骨などいくらでも付け替えられますの! 新しい骨で二十四時間でも働いてさしあげますわ!」

 

モモンガが冷ややかに一言。

「お前ら、そう言って皆で倒れたらナザリックが困るんだぞ。兵力が減るのは本末転倒だろうが。」

 

その瞬間、アルベドとシャルティアが同時に振り向き、二人の声が重なる。

「それでも構わないのです! 至高のためなら!」「骨が粉になろうとも!」

 

モモンガ、思わず椅子から転げ落ちるように崩れ落ちる(骸骨だけど勢いはある)。

「やめろおおおおお! 誰か常識を持ってくれ!」

 

ジョンが冷静に立ち上がり、ぺんをカチカチ鳴らす。

「モモンガさん、まず落ち着きましょう。忠誠心が高すぎるのは美点ですが、組織運営としては危険です。妥協案を出します」

 

ジョンは腕を組み、プレゼンするように続けた。

「提案その一:シフト制。守護者を複数班に分け、総稼働時間は増やさずに個別担当を伸ばす。

 提案その二:ポイントを“休息ポイント”としても使えるように変更。A.P.を消費することで強制休暇を買える。

 提案その三:‘精神的奉仕’は非労働扱い。つまり、心の中で奉仕するのは無限だが、身体は休ませる。」

 

アルベドが眉を上げる。

「‘精神的奉仕’が無制限……? それならば――」

 

シャルティアが口を尖らせる。

「身体は休めと言うが、心は常にモモンガ様を想っておりますわ。よろしいでしょう?」

 

モモンガは浅く息をつき(骸骨に息はないが雰囲気で)、厳しく言い渡す。

「よし。ならばこうだ。通常業務は原則8時間、週に二日は強制休息日。ただし、A.P.で一時的に追加シフトを買うことは可能だが、連続使用は不可とする。さらに、繁殖や輸送には専用の‘回復ウィンドウ’を設定する。アルベド、シャルティア、デミウルゴス――お前たちもこれを守ること。いいな?」

 

アルベドは一瞬戸惑ってから、毅然と頭を下げる。

「承知しました。私たちも……至高のために健全であらねばなりませんね。」

 

デミウルゴスは渋々眼鏡を外して溜息をつく。

「非効率のようでいて、長期的には効率的であります――理に適っています。」

 

シャルティアだけは小声で、しかし明確に囁く。

「……一日一回は心の奉仕を許してくださいね、モモンガ様?」

 

モモンガは苦笑(骸骨だから苦笑の形だけ)して目を細めた。

「……わかった。だが、『心の奉仕』は勤務時間にカウントしない。身体は休め。」

 

ジョンが満足げにメモを取り、会議を締める。

「よし。これで過労と忠誠のバランスは取れるはずです。あと、セバスは家具の耐久度管理も忘れずに――」

 

セバスが深々と頭を下げる。

「御意。家具の耐久を見て、必要なら廃棄と交換を行います。」

 

執務室に小さな安堵の空気が流れた。アルベドは目に涙を浮かべ(雰囲気で)、シャルティアは内心で膝座りの機会が減ることを悔しげに噛み締める。だが、誰もが静かに頷いた。

 

モモンガは椅子に戻り、骨の指で書類に目を落とす。

「……ナザリックをホワイトにする道はまだ長いが、今日は一歩前進だな」

 

アルベドはそっと耳元で囁く(そういう演出で)。

「モモンガ様、身体の奉仕はいつでも受け取っておりますわよ……」

 

モモンガは微妙に顔を赤らめる(骸骨だが概念的に赤くなる)。

「や、やめろ……!」

 

/*/

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 /*/

 

 骸骨の顔を歪め、アインズ・ウール・ゴウン――モモンガは書類の束を机に叩きつけた。

 

「よし……! ナザリックもそろそろ“ホワイト企業”を目指すべきだ!」

 

 守護者たちが一斉に驚愕の表情を浮かべる。

 

「ホワイト……企業……?」

「モモンガ様のお考えならば、我ら従うのみですが……」

 

 重苦しい沈黙ののち、モモンガは決意を込めて宣言した。

 

「よって! 週に二日の休日を設ける!」

 

 会議室がざわめいた。

 

 だが、意外な方向から声が上がった。後方に控えていた一般メイドの一人――フォスが、静かに一歩前へ進み出たのだ。

 

「……恐れながら、モモンガ様」

 

「な、なんだ?」

 

「週休二日は……多すぎます」

 

「はあぁ!?」

 

 思わず椅子からずり落ちそうになるモモンガ。

 

 フォスは凛とした表情で言葉を続けた。

 

「至高の御方に仕えるという、何ものにも代え難い奉仕の時間を、私たちから奪うのですか? 休日など、むしろ罰に等しゅうございます。四十一日に一度の休日で十分にございます」

 

「い、いやいやいや、それは……ブラックすぎるだろ! 人間社会では違法なんだぞ!?」

 

 フォスは首を振り、微笑を浮かべる。

 

「ブラック……? いえ、それは“至高色”でございます。奉仕こそが我らの存在理由。休むことは、堕落以外の何ものでもありません」

 

「ぐぬぬ……」

 

 頭を抱えるモモンガ。だが守護者たちの目が妙に光っているのに気づいた。

 

 アルベドが興奮を抑えきれずに口を開く。

「週休二日が多すぎる、というメイドの判断は正しいと存じます! むしろ一日二十時間の奉仕でも足りません!」

 

 デミウルゴスが眼鏡を押し上げて頷く。

「さすがはフォス殿。下層にまで至高の理念が浸透しているとは……素晴らしい教育の成果です」

 

 シャルティアが手を叩く。

「そうですわ! 休むくらいなら骨磨きでもしてますわ!」

 

 アウラとマーレですら、顔を見合わせて困ったように笑った。

「……えーと。休日、いらないっちゃいらないんだよね」

「ぼ、僕も……掃除してる方が落ち着くかも……」

 

 ルプスレギナが口笛を吹いて肩をすくめる。

「モモンガ様、これはもう手遅れっすねぇ。ホワイト改革しようとして、逆に守護者もメイドも“自主ブラック”に突入してますよ」

 

 横でジョンが苦笑していた。

「モモンガさん。休日を与えても、全員がボランティアで働く未来が見えるんですが」

 

「や、やめてくれ……俺はただ……普通の会社みたいに……!」

 

 骸骨の両手で頭を抱えるモモンガの姿に、誰もが満面の忠誠笑顔を浮かべていた。

 

 ――こうして、ナザリックの「ホワイト化計画」は、開始早々に頓挫するのであった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・執務室 /*/

 

 

「……よし、こうしよう!」

モモンガは思いついたように立ち上がった。

 

「休日には、ナザリックの各施設――大浴場、バー・ラウンジ、雑貨店、ブティック、ネイルアートショップ……すべてを自由に利用して良い!」

 

 守護者たちとメイドたちがどよめいた。

 

「な、なんと豪華な! モモンガ様が用意してくださった余暇の楽園……!」

「これで至高の御方に磨かれた身を、さらに磨き上げられる……!」

「わたし、モモンガ様とネイルおそろいにしたいですぅ!」

 

 アルベドは目を潤ませ、両手を胸に当てて熱に浮かされた声をあげる。

「休日を利用してモモンガ様とご一緒にスパへ……夢のようです!」

 

 しかし横でジョンが、ペンをくるくる回しながら冷静に水を差した。

 

「いや、モモンガさん。ちょっと待ってくださいよ」

 

「……な、なんだジョンさん」

 

「その施設、稼働させるためには一般メイドや男性従業員が必要でしょう? つまり彼女たちに休日を与えたとしても、誰かは必ず働かされる。結局“41日に一休”のままだと……」

 

 ジョンは苦笑しながら肩をすくめる。

「利用者は一人きりで貸し切り状態になるんですよ」

 

「なっ……!?」

 

 モモンガの骸骨の顎がカタカタと震えた。

 

 思い浮かべてしまったのだ――。

広すぎる大浴場に、アルベドが一人きりで鎮座する姿。

煌びやかなバーに、シャルティアが一人、バーテンダーの幽鬼を相手に延々と飲んでいる姿。

ブティックに立ち尽くし、全商品を独りで試着するアウラ。

ネイルアートショップで、延々と同じ指にデザインを重ねるマーレ……。

 

「う、うむむ……! なぜこうなる!?」

 

「だから言ったでしょう」ジョンがにやりと笑う。

「ナザリックをホワイト化するのは、世界征服より難しいんですって」

 

 その場の全員が一斉に頷き、しかし誰一人として休日を求めようとはしなかった。

 

骸骨の王は、己の“善意”がまたしても空回りしたことを悟り、重々しいため息をついた。

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・余暇施設試験運用日 /*/

 

その日は、初めての「ナザリック休日試験運用日」だった。

モモンガは内心ドキドキしながら、各施設の様子を“千里眼”で確認していた。

 

――まずは大浴場。

 

蒸気が立ち込める広大な浴槽には、アルベドひとり。

両腕を広げて、湯面に映る己の姿をうっとりと見つめる。

 

「はぁぁ……この湯も、蒸気も……すべてがモモンガ様と共有しているようで……! モモンガ様と“混浴”しているのと同義ですわぁ!」

 

(ちがう! それはちがうぞ!)

モモンガは内心で必死にツッコミを入れた。

 

――次に、バー・ラウンジ。

 

カウンターにはシャルティアが一人。

虚ろな目をしたアンデッドのバーテンダーを相手に、グラスを何十も並べている。

 

「……飲めば飲むほど、モモンガ様の幻影が見えるですぅ……!」

「……」アンデッドは無言で注ぎ続ける。

「もっと! もっとぉ! 愛を注ぎなさいぃ!」

 

(バーテンダーが過労死する! いや、アンデッドだから死なないけど!)

 

――そして、ブティック。

 

そこではアウラが服を抱え、全身鏡の前を行き来していた。

 

「うーん……こっちのドレスはちょっと派手かなぁ。でもモモンガ様が喜んでくれるなら……」

次の瞬間、両手いっぱいに服を抱えたまま振り返る。

「全部買う!」

 

(いや、買うって何だ!? ナザリックの商品は全部うちの資産だろ!?)

 

――ネイルアートショップ。

 

マーレが椅子に座り、職人スケルトンにおずおずと指を差し出す。

 

「えっと……じゃあ……“モモンガ様”って彫ってください……」

その指にはすでに十回以上“モモンガ様”の文字が彫られている。

「も、もう一回……! もっとはっきり見えるように……!」

 

(やめろォ! 俺の名前をそんなに爪に刻むなぁぁ!)

 

――最後に、雑貨店。

 

ルプスレギナが店員アンデッドを相手に、楽しそうに品物を並べていた。

 

「おぉ、ポイント景品と同じ“モモンガ様グッズ”っすねぇ! これまとめ買いします!」

「お支払いは?」と無言で首をかしげるアンデッド。

「もちろん、命と忠誠っす!」

 

(買い方が命懸けだぁ!?)

 

――すべてを見届けたモモンガは、骸骨の頭を両手で抱えた。

 

「……やはり休日を導入しても、ナザリックはブラックのままなのか……」

 

横で見ていたジョンが、肩をすくめて笑う。

「ほら、言ったでしょう。休暇を与えたら、逆に“ブラックな楽しみ方”を見つけてしまうんですよ。これがナザリック・クオリティってやつです」

 

骸骨の王は重々しい溜め息をついた。

 

「……世界征服より難しい……やはりホワイト化は世界最大の難題だ……」

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・メイド区画 /*/

 

 

 休日試験運用の波は、セバスや一般メイドたちにも及んでいた。

 だが――彼らの過ごし方は、守護者たちとは少し違っていた。

 

「……さて。本日は休日。皆は自由に過ごすように」

セバスが厳かに宣言する。

 

「はい!」

一糸乱れぬ声で応えるメイドたち。

 

 だが次の瞬間。

 

「では、休日特別掃除大会を開始します!」

「勝者にはアインズ様から10 A.P.!」

「おぉぉー!」

 

 モモンガがこっそり覗いたとき、そこには掃除用具を手にしたメイドたちが、鬼気迫る勢いで床を磨いている姿があった。

「……おかしい……休日とは……」

 

セバスが横で静かに頷いた。

「休日こそ、自主的に奉仕を楽しむ時間。これは強制ではありません」

 

「強制じゃないなら、余計にタチが悪いんだよぉぉ!」

 

――別の部屋では。

 

「休日ネイル教室、始めます!」

フォスが講師役となり、他のメイドたちの爪に“モモンガ様”を描きまくっていた。

「……また俺の名前かぁぁ!」モモンガは頭を抱えた。

 

――さらに別の区画では。

 

「休日演劇練習会、始めます!」

メイドたちが小さな舞台を設営し、即席の演劇を開始していた。

内容は――「至高の御方が世界を救う偉大な物語」。

主演:モモンガ役のメイド、悪役:すべて人間の王や冒険者たち。

 

「脚本が偏りすぎている……! というか、休日を演劇の稽古に費やすとは……!」

 

――そして極めつけは、大食堂。

 

休日特別メニューとして、メイドたちが総出で料理を作っていた。

その名も――「アインズ様ランチ」。

骨型のパン、骸骨顔のハンバーグ、黒いスープに“至高”の文字を浮かべたラテアート……。

 

「……なぜ休日にまで俺モチーフの料理を……」

 

ジョンが横で笑いながら言う。

「モモンガさん。これはもうダメです。休日を与えても、全員が“自主的ブラック奉仕”を始める。

ナザリックはブラックじゃなくて、もう“至高企業”なんですよ」

 

「至高企業って何だぁぁ!」

 

モモンガの悲痛な叫びは、今日も地下大墳墓に虚しく響いた。

 

 

/*/

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