オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓 表層・転移門前 /*/
白銀の転移門が、静かに光を放っていた。
その前に立つのは、漆黒の魔導王モモンガと、黄金の瞳を持つ美貌の守護者アルベド。
彼女は黒金の礼装ドレスを纏い、純白の羽を畳んで微笑んでいる。
対してモモンガは正式外交用の魔導長衣。
漆黒の生地に白銀の紋が輝く――王としての威厳そのものだった。
ジョンが腕を組みながら見送る。
「国賓訪問を新婚旅行に兼ねるとは、効率的だな。」
ぐりもあは頷く。
「外交ルートで観光ですから、費用対効果は最高ですよ。
……ただし“愛のコスト”を差し引けば、ですが。」
「うるさいぞ、ぐりもあ。」
モモンガはため息をつきながら、書類鞄を抱えた。
「外交、公式行事、晩餐会、そして……観光。すべて予定通りに終えられれば、完璧な旅行です。」
アルベドが優雅に笑い、モモンガの腕を取る。
「完璧なのはあなたですわ、モモンガ様。
私はただ、その隣で“幸せ”という言葉を定義するだけです。」
ジョンは苦笑し、ぐりもあと視線を交わした。
「……言ってることがもう詩だな。」
「いいじゃないですか。詩人の旅路のほうがロマンチックですよ。」
モモンガは軽く頭を振り、転移門に手をかざした。
「では行ってきます。最初の目的地は――バハルス帝国・皇都アーウィンタール。」
白い光が二人を包み、姿が消えた。
/*/ バハルス帝国・皇都アーウィンタール 皇城迎賓館 /*/
煌めくシャンデリアの下、長大な晩餐の卓が並ぶ。
金の皿、宝石を散らしたグラス、帝国の威信を象徴する赤い絨毯。
ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが中央に立ち、杯を掲げた。
「――魔導国陛下、そしてアルベド夫人。
この宴は、あなた方のご結婚と両国の友好を祝すものです。」
モモンガはゆっくりと立ち上がり、軽く頷いた。
「陛下のご厚意に感謝します。
帝国の繁栄と、両国の平和を心より祈念いたします。」
拍手が鳴り響く。
貴族たちがその異形の王に目を奪われながらも、圧倒的な威厳に頭を垂れた。
隣のアルベドは微笑を崩さず、透き通る声で言葉を添える。
「このご縁が、やがて人と魔導が共に歩む未来となりますように。」
その姿は、神話の女王のようだった。
晩餐会の後、モモンガとアルベドは魔導国大使館へと宿泊した。
皇都の夜を見下ろすバルコニーで、二人きりの時間。
「……ジルクニフ陛下、少しやつれましたね。」
「彼は働きすぎです。まるで私のように。」
「ふふ、仕事ができる男性は皆、休むことを知らないのですね。」
アルベドはそっとモモンガの腕に寄り添う。
「でも、今夜だけはお休みくださいませ。
“王”ではなく――わたしの“夫”として。」
モモンガはその言葉に一瞬動きを止め、
やがて静かに頷いた。
「……了解しました。では、今日は政治の話はやめましょう。」
「はい」
皇都の灯が遠くに瞬いていた。
その夜、帝国の空の下で、魔導国と人の国は確かに“ひとつの祝福”を分け合った。
/*/ ドワーフの国・フェオ・ジュラ 外交迎賓館 /*/
翌日。
山脈の間を抜ける飛空艇が、地熱の蒸気を上げる都市フェオ・ジュラへ降り立った。
岩と炎の国――鍛冶の神を信仰するドワーフたちの都だ。
迎えたのは元老会代表ドルガン。
「魔導国陛下、アルベド殿。
貴方方の結婚を祝し、わが国の宝――“地熱泉”を開放いたしました。」
「温泉ですか。」
モモンガが目を瞬かせると、アルベドが嬉しそうに笑う。
「まあ……フェオ・ジュラの温泉、ぜひ一度入りたかったのです。」
夕刻、二人は外交迎賓館の露天風呂を貸し切りにした。
地熱の蒸気が夜空へ昇り、湯面には満月が浮かぶ。
遠くではドワーフたちの鍛冶槌の音が、まるで子守唄のように響いていた。
湯気の中、アルベドが髪を上げ、微笑む。
「……こうして、誰にも邪魔されずに過ごせるの、初めてですね。」
「ええ。ジョンさんたちがきっと、ナザリックを守ってくれています。」
「守るだけでは済んでいない気もしますけど。」
モモンガは小さく笑い、湯の中で肩をすくめた。
「ま、帰ってから考えましょう。今は――」
「はい。今は、わたくしたちの番ですわ。」
アルベドは静かに寄り添い、月の光が湯面を揺らす。
蒸気に包まれた二人の影が、夜風に溶けていった。
その夜、フェオ・ジュラの空は澄み渡り、
どの星よりも静かな“幸福”が、
ナザリックの主のもとに降り注いでいた。
※後日談(記録に残らぬ注釈)
モモンガ帰還後、第9層温泉にはなぜか「アルベド専用・紅玉湯」と刻まれた個室が増設されていた。
ジョンとぐりもあの仕業である。
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9層・統制中枢室 /*/
煌々と輝く魔導灯の下、無数の魔法陣が空間を埋め尽くしていた。
金属のように冷たい空気。
制御塔の中心では、ぐりもあが両手を広げ、十数層に重なった制御術式を同時展開していた。
魔導国全土に散らばるアンデッド――
その総数、約二十万。
本来ならモモンガが制御しているはずの“王の支配権限”が、
留守の間だけぐりもあに委譲されていた。
「……えっと、第四軍団のデスナイト二千体、整列よーし……。
西方防壁のボーンメイジ群、座標同期ずれ……? なんで!?
あっ、こっちのグレーターマミー隊、勝手に合唱してる!?」
髪が逆立ち、魔力制御環がきらきらと回転する。
頭上の魔法陣が火花を散らし、あちこちのスクリーンに
「※干渉警告」「※不明指令源」「※死霊群暴走注意」の赤い文字が踊った。
「モモンガさぁぁぁん! 早く帰ってきてぇぇぇぇ!!!」
悲鳴と同時に、周囲のデスナイト群が一斉に頭を下げる。
だが命令系統の乱れで、別の部隊が“敬礼=突撃”と誤認して進軍を開始した。
遠隔映像に映る――帝国国境方面で、デスナイトの大行進。
「ストーーップ!! ストップストップストップッ!!」
ぐりもあが頭を抱え、制御式をひっくり返す。
そこへ、整備班の扉を蹴破ってジョンが飛び込んできた。
「おい! 地上の墓地警備隊、全員行進してんぞ!? どういうことだ!」
「だってぇぇぇ! 制御リンクがこんがらがって、誰が誰だかわかんなくなってきたんですもん!!
デスナイトの顔ってどれも似てるし!!」
「似てるとかの問題じゃねぇよ!? 軍勢単位で識別タグあるだろ!」
「タグはあるけど、命令入力が同時処理上限を超えちゃって、もう数値バグってるんですぅぅ!」
ジョンは額を押さえ、長く息を吐いた。
「……だから言ったろ。アンデッドの制御まで受け持つのは無理だって!」
「でもでも! “ぐりもあなら大丈夫”って言われたんですもん!」
「誰がだよ!?」
「モモンガさんですぅ!!!」
「やっぱりなァァァ!!!」
ジョンは机を軽く叩き、周囲の魔法陣を確認する。
「よし、手分けする。俺が第九防衛層から外部リンクを順次切断して、
制御を半自動化する。お前は――酸素吸って落ち着け。」
「……酸素吸う暇ないですっ!!」
「だーめ。倒れたら俺が怒られる。」
ジョンが呪詛のような速度で魔力制御文字を書き換え、
ぐりもあの展開していた陣を安定化させていく。
ようやく全ての赤警告が黄色に変わり、
進軍しかけたアンデッド部隊が停止。
ぐりもあはその場にへたり込み、ぐったりと息を吐いた。
「……もう、無理……。
あの人、よくこれ全部同時に制御してられますね……。」
ジョンは苦笑して答えた。
「王の器ってのは、そういう狂気を笑ってこなせる奴のことを言うんだよ。」
「じゃあ、私まだまだですぅ……」
「安心しろ。お前は充分やばい。」
ぐりもあは顔を上げ、苦笑した。
「……戻ってきたら、褒めてもらえるかなぁ。」
「たぶんな。
“よくがんばりました。次はもう少し効率的に”って言いながら、
また仕事を押しつけてくると思うけどな。」
「それ、褒めてないですー!!!」
制御室に笑い声が響く。
遠くでは、整列したアンデッドの群れが静かに敬礼していた。
――モモンガ不在のナザリック。
その心臓部は、今日もギリギリの理性で動いている。