オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

391 / 396
早着替え出来るなら

 

 

/*/エ・ランテル 訓練場・模擬戦リング(黄昏)/*/

 

 

夕陽が赤く砂塵を染める。

ジョンの合図で、四人の腕輪が同時に青白く明滅した。

 

「切替テスト――開始。各自、“軽装>フル>研究>緊急回避”の順で」

 

ラキュースの外套がひらりとほどけ、黒銀の軽戦闘ドレスに収束。

次の瞬間、蒼の紋が走ってフルプレートへ――甲冑は薄刃の花弁のように重なり、音もなく閉じた。

ガガーランは肩口が開いた艶黒の“綺麗系”戦闘舞踏服へ、さらに瞬時に従来の重鎧。

ティナとティアはレイヤードスカートが“刃隠し”構造に変形し、裾がバネのように弾む。

最後、イビルアイは赤黒×月銀のデカダン・セット――腰布の裏に魔術式、袖口に小型結界具。

 

「……ふむ」ジョンが満足げに腕を組む。「遅延は最大でも〇・三秒。上出来だ」

 

合図の笛。

訓練用ゴーレムが四体、砂を蹴って突進する。

 

「フル装備!」

ラキュースの甲冑が閉じ、剣が蒼光を纏う。

「軽装!」

ティナは足音を消し、ティアは裾からスローイングナイフを雨のように。

「研究!」

イビルアイの袖口魔具が展開、魔力波形を記録しながら抑制結界を薄く敷く。

「緊急回避!」

ガガーランの重鎧が一瞬で舞踏服へ――体重移動だけでゴーレムの肩を踏み台に、空中で半回転。

 

「――転換早い!」ケネウスが目を見張る。

ジョンは口笛を鳴らし、片手を上げた。

「次、合成パターン。ラキュース“軽装+盾術サブ”。イビルアイ“研究+狙撃”。」

 

ラキュースの左前腕が小型楯に変形、足運びが舞うように軽くなる。

イビルアイは腰布の内側から“月銀”のスコープを引き出し、魔力線を一点に折りたたむ。

 

「照準――いける」

乾いた閃光。ゴーレムの関節に穴が穿たれ、ラキュースの剣がたちまち要を断つ。

 

砂埃が落ち着く。静寂。

 

ジョンが指を鳴らした。

「合格。――じゃ、仕上げだ。お洒落モード」

 

四人の抗議が同時に飛ぶ。

「今は要らん!」

「戦闘だぞ!?」

「撮影は?」

「撮影は無い!」

 

……が、リングの外から歓声。

「かっこいー!」

「蒼の薔薇、新衣装だってよ!」

 

見学の冒険者たちがわらわら集まってきて、空気が一気に祭りめく。

ジョンは肩をすくめる。

「世間は求めてるらしい。ラキュース、ポーズ三秒だけ」

 

「三秒だけよ……!」

くるり。黒薔薇が一輪、夕陽に咲いた。

ティナとティアも無表情のまま、わずかに裾を翻す(裾裏の刃は見せない)。

ガガーランは肩で風を切り、筋肉の陰影が光沢布に映える。

イビルアイは――顔をそむけながら、袖口の銀を指で弾いて小さく月光を踊らせた。

 

拍手。口笛。

ジョンは観客に向かって片手を振ると、四人へ小声で告げる。

「よし、宣伝完了。予備の触媒は組合経費で――」

 

「待って」

ラキュースが咳払いし、少し照れた声で言う。

「……戦闘効果が実証された以上、広報はやむなし、ということで」

 

「撮影は?」

「一枚くらいなら……」

 

ジョンがにやり。ケネウスが記録水晶を掲げる。

「じゃ、装備切替・同時発動で決め絵いきます! 三、二、一――」

 

四人の衣装が一瞬で切り替わり、各々の象徴が重なる。

黒薔薇の蒼刃、艶黒の肩影、無音の刃衣、月銀の袖。

砂に長い影が交差し、夕陽がそれを金に縁取った。

 

ぱしん、と水晶が光を封じる。

 

ジョンは満足げに親指を立てた。

「――これで“速さ”は装備にも宿った。次は中身だ。誰よりも速く勝つ、忘れるなよ」

 

沈む陽。上がる熱。

装備も、心も、切り替えは万全だ。

 

そして遠く街道の向こう、白と緑の影が風を裂く。

ネムの歌声が微かに届き、上空では青白い影が進路をなぞった。

守る手も、駆ける足も、今この街にそろっている。

 

――エ・ランテルの夜が、気持ちよく始まる。

 

 

/*/エ・ランテル 冒険者組合・中庭 夜の反省会/*/

 

 

夜風が涼しく、訓練場からの喧騒もようやく静まってきた。

蒼の薔薇とジョン、ケネウスが木のテーブルを囲んで腰を下ろしている。

その中央には、ジョンがどこからか持ってきた――光を帯びる金色のリンゴ。

 

「……なにこれ。光ってるんだけど」

ガガーランが目を細める。

 

ジョンはにかっと笑い、ナイフでリンゴを割った。

果肉の断面が、淡く金糸のように輝く。

 

「《黄金果(ゴルデン・アプル)》って言ってな。

 千年樹の上で稀に実る魔樹果だ。味は……まあ、食えば分かる」

 

「見た目からして高級品じゃないの!?」

ラキュースが驚き、イビルアイが腕を組んだ。

「魔導国の備蓄庫から持ち出したとか言うんじゃないだろうな」

 

「ちゃんと許可は取った。たぶん」

「たぶん!?」

 

一斉に突っ込みが入る中、ジョンは気にせずひと欠片を口に運んだ。

「ほれ、皆も食えよ。しゃくしゃくして気持ちいいぞ」

 

ティナとティアが顔を見合わせ、恐る恐るかじる。

――しゃくっ。

「……甘い。なのに後味が薄い」

「体がぽかぽかする。……魔力循環が活性化してる」

 

「ほう、やはり効くか」ジョンが頷く。

「身体強化系の魔樹果だ。副作用なし。魔力疲労がリセットされる」

 

ガガーランはすでに丸ごとかじりついていた。

「うめぇっ! 戦闘後のこれ、最高だな!」

「ちょっと! 皮まで食べないでください!」ラキュースが慌てる。

 

イビルアイは小さく切った欠片を見つめながら呟く。

「……こうしてみると、私たち、ずいぶん派手なことしてるわね」

 

ジョンが笑う。

「派手でもいいだろ。誰もが命懸けで戦ってんだ。

 格好つける余裕があるなら、その方が強い」

 

ティナが無表情のまま言った。

「装備の切り替え、成功率は九割八分。もう少し調整の余地あり」

ティアがうなずく。

「でも、楽しかった」

 

ラキュースは紅茶のカップを手に、ふっと微笑む。

「ええ。今日の戦闘、なんだか舞っているような気分だったわ」

 

ガガーランが頷く。

「アタシもだ。動きが軽いのに、力が出る。

 ジョン、あの腕輪は革命だぜ」

 

ジョンは照れたように頭をかいた。

「まあ、ぐりもあの設計あってのもんだ。

 あいつ、寝ないで図面引いてたからな」

 

イビルアイがカップを置き、真剣な眼差しで言う。

「……ジョン。あなたは、どうしてそんなに“人間”に関わるの?」

 

ジョンは少し黙ってから、笑みを浮かべる。

「面白いからだよ。人間ってのは、限界の先に行こうとする。

 不便を工夫で覆そうとする。そういう姿を見るのが好きなんだ」

 

沈黙が一瞬、温かく満ちる。

リンゴの香りが夜風に乗り、灯火が金色に揺らいだ。

 

ケネウスがそっと口を開く。

「……俺、今日、初めて“本気で強くなりたい”って思いました。

 装備が変わると、心も変わるんですね」

 

ジョンはにやりと笑い、金色のリンゴを半分にして渡した。

「だったらそれ、持ってけ。今日の努力のご褒美だ」

 

「え、でも――」

「“でも”は禁止。食って明日に備えろ」

 

ケネウスは小さく頭を下げ、かじる。しゃく。

その音が、どこか清々しく響いた。

 

イビルアイがふと呟く。

「……悪くないわね、こういう夜」

 

ラキュースが頷く。

「反省より、感謝を語りたくなる夜ですわ」

 

ガガーランが笑う。

「じゃあ、次の戦いの後もやるか。反省会という名の――」

 

「感想会!」ティナとティアが声を揃えた。

 

ジョンは金色の果汁を指先で拭いながら、夜空を見上げる。

「いいねぇ。戦って、笑って、食う。

 それが一番、冒険者っぽくて好きだ」

 

夜空の下、笑い声とリンゴをかじる音が続いた。

金色の果実の光が、まるで焚き火のように彼らを包み、

その夜のエ・ランテルは少しだけ、温かく輝いていた。

 

 

/*/エ・ランテル 冒険者組合・中庭 夜の感想会/*/

 

 

金色のリンゴの甘い香りが漂う中、焚き火の火がぱちぱちと弾けていた。

蒼の薔薇の面々とジョン、ケネウスが丸く囲み、しゃくしゃくと音を立てながら果実を食べている。

談笑が一段落した頃、ラキュースがカップを手にしたまま、ふと思いついたように口を開いた。

 

「……ねぇ、ジョンさん」

 

「ん?」

 

「この《準備の腕輪》って、決まった“ワード”で装備が切り替わるようにできないかしら?」

 

ジョンの手が止まる。

次の瞬間、口の端がぐいっと上がり、目尻に愉快そうな皺が寄った。

 

「……ほぉ。音声認識の変身か。わかってるじゃねぇか」

 

その言い方が、まるで子供のいたずらを見つけた大人のようで、

ラキュースは少し照れくさそうに笑った。

 

「だって、掛け声ひとつで装備が切り替わったら――格好いいじゃない?」

 

ジョンは身を乗り出すようにして、焚き火の明かりの中で指を鳴らした。

「いいな、それ! “アクティベート・ローズモード”とか“ナイトフォーム”とか言うんだろ?

 わー、想像しただけでワクワクするじゃねぇか!」

 

「……そんな馬鹿みたいな掛け声、私が言うと思ってるのか?」

イビルアイが呆れたように言うが、口元は笑っていた。

 

「いやいや、イビルアイ。“血と月の契約・フォームチェンジ”とか絶対似合うぞ」

「だからそういうのが嫌なんだってば!」

 

焚き火の周りがどっと笑いに包まれる。

 

ティナが冷静に付け加える。

「音声入力式の切り替えは合理的。手が塞がっている時にも有効」

 

ティアも無表情のまま頷く。

「あと、“変身ポーズ”を組み合わせると映える」

 

「あなたたちまで!?」ラキュースが顔を覆った。

 

ガガーランが腹を抱えて笑う。

「いいじゃねぇか! “紅蓮装!ガガーラン・ドライブ!”とか言ってみたいぜ!」

 

ジョンは完全にノリノリだ。

「いやぁ~ロマンだよロマン! 音声認識+魔導制御、

 ぐりもあに相談すりゃ一晩でプロトタイプ作ってくれるな!」

 

ケネウスが目を輝かせて口を挟む。

「じゃあ僕も、“エルダー・コード・アクティベーション”とかどうです!?」

 

「よし採用!」

 

イビルアイが肩を落とす。

「……なんか、急に演劇ものみたいになってきたわね」

 

ジョンはリンゴをかじりながら笑い、

「いいじゃねぇか。装備ってのは戦いの心構えだ。

 気分が上がるなら、それもまた強さの一部さ」

 

ラキュースは頬を染めながら、こっそり呟いた。

「……“ローズ・コンティニュアム”とか……」

 

ジョンがそれを聞き逃さず、にやりと笑った。

「決まりだな。それ、登録しとく」

 

「ちょ、ちょっと!? 聞こえてたの!?」

 

周囲が再び笑いに包まれ、焚き火が弾けた。

夜空に金の果実の光が滲み、

焚き火の灯が少し弱まり、金色のリンゴの芯が皿の上で光を失っていく。

ジョンはそれを指先で転がしながら、ぽつりと呟いた。

 

「――いい夜だな。こういう無駄話から、新しい魔法ってのは生まれるんだ」

 

イビルアイがため息をつきつつ、口の端をわずかに上げる。

「……そうやって、また世界を一歩めんどうにするのね」

 

ジョンは笑って肩をすくめた。

「便利ってのは、めんどうの先にあるもんだ」

 

ラキュースが小さく笑いながら、夜空を見上げる。

「なら……次の夜も、また集まりましょう。

 “反省会”という名の――」

 

「――“開発会”だな!」ジョンが笑い、皆が噴き出す。

 

夜空に笑い声が広がる。

星々の光が、まるで新しい魔法陣のように輝いていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。