オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ナザリック地下大墳墓第9層ジョンの工房 /*/
ジョンは湯気を立てる銀色のパウチを眺めながら、眉をひくりと上げた。
「うーん……思ったより“美味しそう”なのが出来てしまったな」
作業台の上には、魔封レトルト《ソウル・パウチ》の試作品がずらりと並んでいる。
袋を叩くと淡い赤の符文が走り、じわりと温かさが広がる。数秒後、封を開けると香ばしい匂いが部屋中に満ちた。
モモンガは机越しに覗き込み、骨の顎を軽く鳴らす。
「……保存食、ですよね? おいしそうなら、むしろ成功では?」
ジョンはレードルで中身をすくいながら、渋い顔で答えた。
「保存食ってのはな、腹を満たすためのもんであって、食欲をそそる必要はないんだよ。
これ、普通に晩飯レベルだぞ」
「ほう?」
モモンガが興味を示し、スプーンを取り上げる。中には黄金色のソースに包まれた肉と根菜。
見た目からして本格的なカレーのようだった。
ひと口。
「……うん、これは普通においしい。温かいし、香りもいい。アンデッドの私には味は分かりませんが、匂いで分かります」
ジョンは頷き、少し得意げに鼻を鳴らした。
「〈真空封印〉と〈防腐符〉の合わせ技だ。空気を抜いて菌を殺し、魔法で腐敗を止めてる。
しかも底を叩くと自動加熱。これなら寒冷地でも食える」
「軍用糧食にも良さそうですね」
「だろ? でも問題は??」
ジョンはフォークで肉を突き刺し、眉をしかめた。
「……うま過ぎる」
モモンガは小さく笑う。
「問題ですか?」
「前線の兵が“うまい飯食うために出撃する”とか、士気の方向がおかしくなる。
腹が減っても死なないようにするのが目的なのに、楽しみにされちゃあ本末転倒だ」
「なるほど。まるで給食の新メニューを気にする子どもみたいですね」
ジョンは苦笑しながら封をもうひとつ開けた。
「……まあ、悪くないか。食事が楽しみで戦える国、悪い話でもない」
モモンガは腕を組み、頷く。
「確かに。魔導国の軍勢が“温かい飯”で戦うとしたら、それは他国にとって想定外の強さになるでしょう」
ジョンはパウチを差し出し、にやりと笑った。
「モモンガさん、あなたもどうです? “魂の味”はしないけど、香りだけは保証するぜ」
モモンガは受け取りながら、愉快そうに応じる。
「では、研究記録に“嗅覚による満足効果”とでも記しておきましょうか」
二人の前で、温かな湯気が静かに立ちのぼった。
その香りは、戦場にも平和の食卓にも似つかわしい、不思議な優しさを帯びていた。