オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 魔導国軍演習場・ウルフ竜騎兵訓練空域 /*/
草原を渡る風が、朝靄を裂いた。
その向こう、白い翼が列をなし、低空を滑るように飛んでいく。
人影がひとつ。グライダーの中央胴体に腹ばいとなり、腕を伸ばして操縦桿を握っている。
――新装備、個人滑空装置《風の子》。
ナウシカの“メーヴェ”を思わせる、魔導国式小型飛行機。
第3位階魔法〈飛行〉を機体そのものに付与したため、操縦者が魔法を使えなくても飛行が可能だ。
ジョンは地上から望遠魔導鏡を覗き込み、空の光景を確認した。
隣にはぐりもあ、さらにその後方でウルフ竜騎兵の隊長たちが待機している。
「どうだ、安定してるか?」
ジョンの問いに、ぐりもあが魔導計測器を操作しながら応じた。
「はい。魔力波は安定。飛行補正陣も正常作動。
操縦士の魔力素はほとんど消費していません。意識波で姿勢制御してるだけです。」
上空では、六機の《風の子》が並んで旋回していた。
風を受け、白い翼がきらりと光る。
操縦しているのは、元野伏(レンジャー)たち――山野での索敵や追跡に長けた偵察兵。
〈飛行〉魔法を使える者は貴重な戦力であり、前線偵察に出す余裕はない。
だが、魔法を使えない彼らでも――この翼なら空を行ける。
「よし、通信試験に移る。各員、魔導伝話機を起動!」
ジョンの号令と同時に、胸の符が淡く光る。
〈伝言〉魔法を改造した短距離通信機――“魔導伝話機”。
耳の奥に、空からの声が届いた。
『こちら一号機・バルト! 高度六十、速度五十! 視界良好!』
『こちら二号機、風向き北西。上昇気流を確認、滑空に移行!』
野伏らの声が次々と入る。
最初は緊張した声だったが、すぐに興奮が混じる。
『すごい……本当に飛べる! 空気が背中を押してくる!』
『地面が遠い……でも怖くない!』
ジョンの頬が緩む。
「な? 風を読める奴らは、やっぱり上手い。空の動きが分かる。」
ぐりもあも同意するように頷いた。
「滑空姿勢の制御が自然です。重心の取り方がうまい。
これなら“空の偵察兵”として実戦投入できますね。」
遠くの空で、ウルフ竜騎兵の編隊が現れた。
竜の背に乗る通信兵たちが、《風の子》の列の左右を挟み込むようにして編隊を組む。
『こちら竜騎兵一番隊、連携訓練に入る。グライダー隊、右側並走!』
『了解、右旋! 通信間隔三十秒で交信を維持!』
空の中で、人と竜の二種の飛行形態が交錯する。
翼が交わるたびに光が走り、風が渦を巻く。
竜騎兵が上昇し、グライダーが低空へ。
〈飛行〉魔法による浮力が機体を支え、彼らは互いの死角を補うように動く。
ジョンが魔導鏡越しに叫んだ。
「よし、そのまま旋回! 竜が敵を引きつけ、風の子が側面から視界を取る!
魔導伝話機で常時報告を――!」
『了解! 風の子三号機、東側地表に魔力反応を確認! 送信中!』
地上のぐりもあが、魔導計測機に走る数値を読み取る。
「通信、良好。距離一キロ以内なら魔力遅延ほぼゼロ。
〈伝言〉式通信は安定しています!」
竜と人が、空で交差しながら声を交わす。
魔法で繋がる、風と意志の連携。
ジョンはその光景を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
「……これで、人間でも空を制せる。」
隣でぐりもあが微笑む。
「ワイバーンや竜に頼らずとも、空を読む力があれば飛べる――まさに野伏らしい空ですね。」
「そうだな。あいつらの目が、地上と空を繋ぐ。」
空に並ぶ白い翼が、太陽の光を反射する。
魔導国にとってそれは、ただの訓練風景にすぎない。
だが、ジョンには確かに見えていた――
“人が自分の力で空を拓く”という未来の始まりが。
彼は静かに言った。
「この翼を、戦の道具で終わらせるな。
あれは、人の夢の形なんだ。」
ぐりもあが頷き、記録装置を止める。
上空では、竜と《風の子》の影が一つに重なっていた。