オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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防塵防風眼鏡

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 ナザリック地下大墳墓 第八工廠区・風防試験室

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 風が唸る。

 真紅の旗が、試験場の天井に吊るされた鉄骨を鳴らした。

 

 試作型グライダーの機首には、黒曜石のような透明素材で作られたレンズ――〈防塵防風眼鏡〉が固定されている。

 その隣で、ウルフ竜騎兵団の整備士が顔をしかめていた。

 

 「……また割れました。五回目っす」

 「風圧で?」

 「いえ、汗で曇って、拭いたら……パキッと」

 

 報告を聞いていたぐりもあが、羽ペンを止めて首を傾げた。

 「透明度を保つ素材は十分なんですがね。硬度を上げすぎると、こうなります」

 

 その後ろで、ジョンが腕を組む。

 「ワイバーンライダーどもが“根性で耐える”とか言ってた頃が懐かしいな」

 

 試作場の外では、まさにその“根性”が砂嵐の中を飛んでいた。

 黒いワイバーンの背に跨った若者が、顔に砂を受けながら叫ぶ。

 「目がぁぁあああ! 見えねぇえええ!」

 それでも降りない。降りたら、仲間に笑われるからだ。

 

 ――彼らは誇り高き空の戦士。

 だが同時に、愚かしいほど頑固だった。

 

 

 きっかけは、もっと地味な場所から始まった。

 ウルフ竜騎兵団の中でも最も下層――“風見班”と呼ばれるグライダー偵察兵。

 

 彼らは上昇気流を読むために、地表すれすれの砂嵐を飛ぶ。

 その任務の過酷さは竜に乗る者をも凌ぐ。

 目を開けたまま飛べば乾き、閉じれば墜落。

 帰還した兵士たちは、常に目を赤く腫らし、涙と血で頬を汚していた。

 

 「風で目が乾く」

 「埃で痛む」

 

 そんな報告書が積み重なり、ようやくジョンが腰を上げた。

 

 「……眼鏡、作るか」

 

 ぐりもあが顔を上げる。

 「え、今さらですか」

 「根性に頼る時代は終わりだ。俺が“文明”を教えてやる」

 

 

 素材開発は難航した。

 魔導ガラスは衝撃に弱く、竜の飛行風圧に耐えられない。

 代わりに使ったのは、ジョンがドワーフ技術局から引き上げた試作品――“樹脂魔晶”。

 〈硬化樹脂〉に微量の魔晶粉を練り込み、光を乱反射させずに強度を保つ。

 

 ぐりもあが試験装置の魔力を上げ、風速を調整する。

 「風速六十メートル。……よし、割れません」

 「くもりは?」

 「……まだ曇ります」

 

 ジョンは額を押さえた。

 「じゃあ、内側に“冷気防御”の魔法刻印を薄く貼れ。温度差をなくせば結露は減る」

 「そんな応用、思いつく人がどれだけ……」

 「だから俺がやるんだろ」

 

 

 やがて完成した〈防塵防風眼鏡〉は、薄い青銀のフレームに、無色の魔導樹脂レンズを嵌めた精巧な逸品となった。

 竜の鱗片を粉砕して作った金属粉が縁を走り、装備としての美しさすら放っている。

 

 初飛行の日。

 グライダー搭乗員の若い女兵士が眼鏡をかけ、翼の上で風に顔を向けた。

 「……見える。痛くない」

 仲間が歓声を上げる。

 「おい、本当に? 砂嵐の中で?」

 「目ぇ、乾かねぇ! これ、神装備だぞ!」

 

 その様子を見ていたワイバーンライダーたちが、こっそりと隊舎の後ろで言い合った。

 「……なぁ、俺たちもあれ、使っていいんじゃね?」

 「だめだ、あれは偵察専用だって」

 「でも目、痛ぇし……」

 

 翌日、ワイバーン隊の半分が“視界不良の訓練事故”を理由に眼鏡の支給申請を出した。

 

 さらに翌週、ドラゴンのパイロットたちも同じ申請を出した。

 「我々も砂煙を浴びる。ワイバーンにできてドラゴンにできぬ道理はあるまい」

 

 

 後日、竜騎兵団の会議室で。

 モモンガが眼鏡を手に取り、レンズ越しにジョンを見た。

 「……なるほど。これが“根性に勝った発明”か」

 ジョンは笑って肩をすくめる。

 「根性も大事だが、視界ゼロで戦っても勝てねぇよ」

 

 ぐりもあが記録書を閉じる。

 「では、正式名称は?」

 ジョンは一拍おいて答えた。

 「〈蒼空護眼具・マナシールドゴーグル〉――略して“スカイグラス”。どうだ」

 

 風防試験室の窓が開かれ、砂の匂いが流れ込む。

 その外、空を切るような咆哮が響いた。

 青空を翔ける竜たちの眼に、銀の光が閃いた。

 

 それが、ウルフ竜騎兵団を“天空の兵”たらしめた新たな象徴――

 〈防風眼鏡〉誕生の瞬間であった。

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