オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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ナザリック地下大墳墓 工廠区・装備開発室
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青白い魔導灯の下、ジョンが机の上の布を掴んで眉をひそめた。
「……これが、グライダー隊用の新しい飛行服の試作か?」
ぐりもあが頷きながら、布の断面を指先で示す。
「はい。外層は“風避布(ウィンドハイド)”、内層は“魔獣毛断熱繊維”。風を切るような構造にしています」
「見た目は地味だな」
「野伏(レンジャー)たちが派手な服を着ると思います?」
ふっと笑いが漏れた。
――“野伏”とは、竜騎兵団でも特に過酷な任務を担う者たち。
ドラゴンでもワイバーンでもない、人力の滑空具〈グライダー〉を操る偵察兵である。
地表の熱流と風を読み、竜の群れの間を抜け、敵地上空を無音で滑る。
だがその代償は大きかった。
◆
冬季の哨戒任務。
野伏の若い兵が、帰還後の診察で歯を鳴らしながら言った。
「……風が骨に刺さるようで……」
「火球で暖を取る暇もない。降りたら見つかるからな」
報告書には「体温低下による魔力循環障害」と記されていた。
竜は鱗と強靭な身体で守られている。
だが、人力の翼に乗る者は、ただの布と革しか持たなかった。
“風が痛い”“寒くて魔法が途切れる”“指が動かない”――
そんな声が次々と上がり、ついにジョンが椅子を蹴って立ち上がった。
「防風眼鏡の次は防寒服か。いいだろう、やってやる」
◆
素材の選定はドワーフとリザードマン技術局の合同で行われた。
リザードマンがもたらした湿地産の“耐冷藻繊維”は、寒冷地の体温保持に優れる。
さらに、ぐりもあの提案で〈風避布〉の表層に“風精霊符”を織り込む。
これにより、風そのものを滑らせる効果を持たせた。
ジョンは試作品を手に取って腕を通す。
軽い。だが確かに温かい。
「おお……熱が逃げないな。だが汗をかいたら蒸れるぞ」
「そこは内層の“吸魔繊維”で対応しています。余分な熱を魔力に還元して、流体的に散らします」
「……何だその贅沢仕様」
完成した飛行服は、黒と深緑の中間色。
夜間の飛行でも目立たず、肩と腕には滑空中の筋肉運動を妨げない柔軟な関節布が組み込まれている。
腰のベルトには小型の魔導石加温器が装着可能で、長時間の上空任務にも耐える設計だった。
◆
初飛行の日。
山風が吹き荒れる谷底から、一機の滑空具が跳ね上がる。
グライダーの翼を背に、搭乗した野伏の女兵が風を切り裂いた。
頬をかすめる冷気。
だが――痛くない。
「……これなら……飛べる」
滑空を終えて戻ると、彼女は顔を紅潮させて笑った。
「暖かい! 息が凍らない! 今までの皮外套と全然違う!」
仲間たちがどよめく。
「おい、それ、貸してくれよ! 俺の肩、もう感覚ねぇんだ!」
その報告を受けて、ワイバーンライダーの隊舎にも波紋が広がった。
「おい、グライダー隊が着てるあれ、支給されねぇのか?」
「俺らだって風浴びてんだぞ!」
「寒いとは言えねぇけど、冷たいとは言えるよな!」
――こうして、“根性”文化はまた一歩、文明に屈した。
◆
後日。
ジョンは飛行服の完成報告書をモモンガの机に置き、にやりと笑う。
「野伏たちが凍死せずに帰ってこられるようになった」
「……それは、良いことだ。だがコストは?」
「安くはない。だが、人の命より安い装備なんて存在しねぇよ」
モモンガは一拍の沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「了解した。正式装備に認定しよう」
こうして、ウルフ竜騎兵団に新たな標準装備が加わった。
〈天空防寒飛行服〉――通称“ウルフスキン”。
風を裂く影が、夜空を滑る。
その身を包むのは、氷点下の風をも退ける新時代の布。
根性ではなく、知恵と技術で空を征く者たちの象徴だった。