オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 魔導国・工房周辺試験場 薄曇りの午後 /*/
MAW-1の試験音がまだ残る工房の片隅で、ジョンは小さな丸い物体を並べていた。直径はこぶし大ほど。外皮はナイロス樹脂の薄い殻で、ところどころに細い符刻の溝が走る。触れると、殻の下で微かな振動が伝わってくるようだ。
「これは何だ?」と技師が尋ねると、ジョンはいつものように少しふざけた目で答えた。
「<火球>を“閉じ込めた”やつだよ。投げて遮蔽物の向こうへ入れば、向こう側で“ドン”ってなる。魔導器具で遠隔投射するよりずっと素早く、簡単に制圧が取れる」
彼が一つ手に取り、転がすように見せると、殻の溝が薄く光った。ジョンは蓋をとって中身を一瞥する。中には小さな魔核(短寿命の触媒結晶)と、薄く畳まれた符紙の小片、そして小さな発火芯が収まっている。いかにも「一回限り」の設えだ。
「原理は単純だ。符紙で<火球>の魔力波形を“封印”しておく。殻が破砕された瞬間に封印が崩れて、魔力が一斉に解放される。だが、ただの爆発ではない。封印を成形してあるから、火球はある程度の精度で“局所化”され、遮蔽物の向こう側で爆発するんだ」
技師が眉をしかめる。
「遮蔽物の向こうに投げ入れるだけで使えるのですか? 詠唱は?」
ジョンは笑って首を振る。
「詠唱不要。仕込みの時に短時間だけ魔力を注入して封じておく。その間に現場へ。投げて、殻が割れれば魔力が解ける。操作はこれで身一つの冒険者でも可能になる。コストもMAW-1並に抑えた」
ジョンは試作品を手早く投げた。小さな石の塀の向こう側にポンと転がり込み、すぐに殻が弾ける。塀の向こうで圧縮された熱と閃光が弾け、短い間、塀の上に火の舌が跳ねる。実験場の標的人形が炎に包まれ、黒焦げの跡を残した。
観測席の若い兵士が目を丸くする。
「うわ……遮蔽物の陰に入った奴を一網打尽にできますね」
ジョンは頷き、眉間に少し影を寄せた。
「だからこそ、運用の基準をはっきりさせる必要がある。風向き、友軍の位置、可燃物の有無。投擲兵は投げる前に“煙”で合図するか、標的の側にいる仲間が投げ込むべきだ。乱用すれば民家や森林を焼いてしまう」
主要スペック(世界観内簡潔表記)
名称:焔封手榴弾・零号(仮称)
形状:ナイロス樹脂殻、拳大
稼働方式:一次封印―殻破砕で封印解除(詠唱不要)
魔力源:短寿命触媒結晶+一次注入魔力(出荷時に封印)
効果範囲:直径約3?5メートルの火球衝撃(封印成形により多少変動)
使用回数:一回使い切り(再充填不可)
安全装置:底部に弱符の崩壊抑止(一定衝撃以下では起爆せず、落下での誤爆を低減)
製造コスト:再チャージ式の魔導爆具より大幅に低廉(大量配備を想定)
戦術運用:遮蔽物の向こうに“ぽい”と投げるだけで制圧する流れ
敵が塀や低い石垣、建物の窓枠の向こうに隠れている場合、投擲で簡単に投げ入れる。
投擲後に裂け目で火球が発生し、隠れていた地点を直接制圧。視界に入らない相手にも効果を与えられる。
短時間の制圧が取れるため、その間に突入(突撃)や退避が可能。
小隊では「投げる人」「合図役」「突入役」の役割を決め、誤射・火災リスクを最小化。
城塞や要塞のような堅固構造には威力不足だが、都市戦・遺跡内の清掃戦闘で有効。
/*/ 実戦短景:遺跡の廊下 夜明け前 /*/
薄暗い石造りの廊下。向こうの角にゴブリン二匹の影が動いている。アルルは息を殺し、ぽいと手首のスナップで焔封手榴弾を放り込んだ。音はなく、殻は角を越えて瓦の隙間に落ちる。すぐに、向こう側で小さな爆発とともに火球が炸裂した。ゴブリンが悲鳴を上げる間、アルルと仲間は角を曲がって一気に押し込んだ。数分後には部屋は制圧され、味方の被害はゼロだった。
アルルは息を吐き、地面に落ちた殻の残骸を蹴った。灰と焦げた紙片が風に飛ぶ。
「簡単だ。けど使いどころはきっちり覚えとかないとな」