オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
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ナザリック地下大墳墓 工廠区・飛行装備試験棟
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「――なんで今まで誰も言わなかったんだ?」
ジョンの問いに、整列していたワイバーンライダーたちは顔を見合わせ、誰も口を開けなかった。
沈黙を破ったのは、古参の隊長だった。
「……いやぁ、その……そういうものだと思ってまして」
「そういうもの?」
「ええ。風が痛いのも、寒いのも……空を飛ぶなら当たり前のことだと」
後ろでぐりもあが顔を覆った。
「根性でどうにかなる気温じゃないですよ、皆さん……」
ワイバーンのパイロットたちは一様に頷いた。
「俺らだって我慢してきたんだ。指の感覚が無くなっても操縦はできる!」
「鼻水が凍っても飛び続けられる!」
「誇りです!」
ジョンは頭を抱えた。
「誇りで風は防げねぇよ……」
◆
――そもそも発端は、グライダー部隊の野伏たちから上がった一通の報告だった。
〈風があたって寒い。凍傷で三名が療養中〉
その報告を読んだジョンは愕然とした。
だが不思議なことに、ワイバーン隊もドラゴンパイロットも、誰一人として同じ訴えを出していなかったのだ。
「なあ、寒くねぇのか?」
尋ねても返ってくるのは同じ答え。
「寒いけど、それが普通です」
どうにも腑に落ちず、ジョンは魔導省の魔法使いたちに直接聞いた。
「お前ら、飛行魔法使う時、寒くねぇのか?」
「寒い? 何を言っているんです?」
「風が当たるだろ」
「ああ、でも魔法力場(マナフィールド)で身体全体を包んでますから」
「――なにっ!?」
その時、同席していたワイバーン隊の副長が血の気を失った。
「ま、魔法力場で包む? そんな……じゃあ俺たちは……」
「ただの外気を全身で浴びてたわけだな」
「そ、そんな馬鹿なぁぁぁ!」
部屋中に悲鳴と嘆きが響いた。
◆
それからというもの、開発室は地獄のように忙しくなった。
防塵眼鏡に続く第二のプロジェクト――〈飛行服開発計画〉。
ぐりもあが図面を広げる。
「ワイバーンの風圧は時速二百キロを超えます。防寒だけでなく空気抵抗の軽減も必要です」
「ドラゴン隊の連中は炎を吐く関係で前面が焦げない素材じゃねぇと駄目だな」
「じゃあ耐熱層も追加しましょう」
ジョンは舌打ちをした。
「……結局、全員が“寒い”って言わなかったおかげで、仕様が三倍になったな」
「いいじゃないですか。文明の進歩です」
◆
数週間後。
竜騎兵団演習場――朝の凍てつく風の中。
初の〈飛行服〉試作品を着たワイバーンライダーが、翼の上に立っていた。
黒と銀の防風布、胸元の魔導結晶が淡く光を帯びている。
「どうだ、寒いか?」
ジョンの問いに、パイロットは頬を緩めた。
「いえ……むしろ暑いくらいです!」
後ろで見ていた別のライダーが信じられない顔をする。
「そんな馬鹿な……! 今、氷点下だぞ!」
「本当だって! 背中がポカポカしてるんだ!」
それを見たドラゴンパイロットたちもざわめき出した。
「……なあ、俺たちも、あれ、着ていいのか?」
「ずっと根性で我慢してたけど……もう根性いらないのか?」
「俺らの“誇り”が……溶けていく……」
◆
ジョンは腕を組んで、満足げに頷いた。
「根性はな、使う場所を間違えんな。凍死しても勲章は出ねぇぞ」
ぐりもあが笑いながら記録板に書き込む。
「正式名称、〈魔導防寒飛行服・マナサーマルスーツ〉。通称、“空狼装束”ですね」
「いい名だ」
モモンガが報告を受けた時、静かに笑った。
「ワイバーンもドラゴンも、ようやく空を文明の目で見られるようになったか」
「まあ、ようやく“寒い”と言えるようになっただけだがな」
その夜、凍てつく空を翔ける竜たちの影は、
以前よりも確かに、暖かく見えた。