オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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カルサナス都市国家連合・通信塔建設

 

 

/*/ カルサナス都市国家連合 中央議会堂 /*/

 

 

 陽光が白い大理石の円天井を照らし、広い議場に反射していた。

 円形に並ぶ議員席には、商人貴族・神官・職人代表・学匠たちが座り、ざわめきが渦を巻く。

 今日の議題はひとつ――魔導通信塔の建設を、連合全域に拡大すべきか否か。

 

 中央の壇上に立つのは、連合議会の議長オルディーン。

 老人の声が響く。

 「……では、議題を開始する。まずは帝国東部方面から派遣された第8軍の報告書を確認したい。」

 

 書記官が巻物を広げ、読み上げる。

 

 「――報告によれば、帝国の管理のもと建設された魔導通信塔は、

  カルサナス東部の農村地帯を中心に通信網を整備。

  これにより魔導放送(TV・ラジオ)が普及し、

  気象情報・市場価格・学術教育の共有が進んだとのこと。

  特に“天気予報”による播種・収穫時期の最適化が進み、

  農業生産効率は三割上昇したと記録されています。」

 

 ざわめきが一段と大きくなる。

 

 商業都市サリファの議員が立ち上がる。

 「三割増産……!? それは農業国家にとっての革命ではないか!

  交易も安定し、輸送コストも減る。

  我が市にも同じ塔を建てれば、港の入港予定も天候次第で調整できるはずだ!」

 

 しかしすぐに、別の席から冷静な声が響く。

 「だが、その塔は“帝国の監督下”にあるのだろう?

  通信線を握られるということは、情報を握られるのと同じだ。」

 

 声の主は、神官都市アステリア代表の女司祭。

 「祈りの言葉すら、帝国の耳を通すことになるのでは?」

 

 議場に再びざわめきが走る。

 そこへ、議会に出席していた第8軍代表の将校――レイ将軍が立ち上がった。

 若く、鋭い眼差しを持つ男。

 彼の制服には帝国の紋章と、カルサナス連合の徽章が並んで縫い付けられていた。

 

 「誤解のないように申し上げたい。」

 彼の声は静かで、しかし確固として響く。

 「塔の通信線は帝国の技術によって構築されているが、利用は自由だ。

  気象・医療・学問・商業放送、いずれも“公共の恩恵”として開放されている。」

 

 学匠議員が問う。

 「だが将軍、その技術――“通信魔法”とやらは、魔導国由来だと聞く。

  ならば、魔導国にも我々の声が届くのではないか?」

 

 レイは一瞬だけ口を閉ざし、それから正直に答えた。

 「……その可能性は否定できません。

  だが、現実として塔を通じて得られる恩恵は計り知れない。

  病の流行を事前に予報でき、海の潮流を読み、洪水を避けることができる。

  人が死なずに済む。それを“監視”と秤にかけるのか?」

 

 議場は沈黙した。

 

 商人代表がゆっくりと立ち上がる。

 「我ら商人にとって、最も恐ろしいのは“無知”だ。

  情報は力――いや、命そのものだ。

  この通信塔は、我々の世界を繋ぐ“風の道”になる。

  帝国が風を呼ぶなら、我々は帆を立てるまでだ。」

 

 神官たちは難しい顔をしたが、民衆派の議員たちは頷き合った。

 「通信塔の建設によって教育放送が届けば、地方の子供たちも学べる!」

 「医師の不足する村でも、魔導診療を受けられる!」

 

 意見が次々と上がり、やがて議長が静かに槌を打つ。

 

 「……よろしい。多数の賛成を得た。

  カルサナス都市国家連合は、通信塔の追加建設を承認する。」

 

 議場に拍手が起こった。

 反対派も黙り込むしかない。彼らも心の奥では理解していた。

 魔導通信塔は“便利すぎる”のだ。

 

 レイ将軍は立ち上がり、深く一礼した。

 その表情には勝者の笑みではなく、静かな決意が浮かんでいる。

 

 (これで、東から西まで通信の風が繋がる。

  だが――その風の源は、すべてナザリックにある)

 

 議場の喧噪の中、レイはただ一人、天井を見上げた。

 そこには通信塔の先端を象った装飾が光を反射していた。

 

 ――知らぬ間に、空の風が世界を支配していく。

 それを“便利”と呼ぶうちは、誰もその風の主を問わない。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9層・モモンガの執務室 /*/

 

 

 魔導灯が柔らかく揺れる室内。机の上には設計図と報告符、そしていつもの茶が並んでいる。三人が机を囲み、軽い談笑が続いていた。

 

 「ところでさ――」

 ジョンが肘をつき、にやりと笑った。

 「なんかさ、ジルクニフが言うには、レイ将軍がカルサナス都市国家連合全域に通信塔を立てる許可取り付けてきたってよ。費用はうち持ちで、全土の天気予報とか欲しいそうだ。やっちゃっていいよね?」

 

 ぐりもあは書類をたたみながら目を細める。

 「全域ですか……情報網が伸びますね。天気予報が届けば農業や交易の効率はらくに上がります。まあ、向こうも本気で欲しがってますし、政治的に使えるとは思います。」

 

 モモンガが静かに首を傾げる。

 「レイ将軍というのは、あの若い将ですね。確かに野心家と聞きますが――」

 

 「野心家っていうか、出世熱心ってやつだな」

 ジョンが肩をすくめ、狐のように笑う。

 「そういう奴には“お祝い”を送っといた方が円滑だろ。で、何を贈るかだが……」

 

 ぐりもあの目がきらりと光る。

 「そうですね。功績祝いなら『儀礼用の剣』『記章』、あるいは――」

 

 モモンガが悪戯っぽく口を引く。

 「私たちらしいのを贈るなら、デスナイトでも送りましょうか?」

 

 ジョンが即座に制す。

 「──アンデッドは止めてあげなよ。外交儀礼的にそれはまずい。向こうの民情や宗教感情を刺激する。」

 

 ぐりもあが苦笑して手をひらりと振る。

 「そりゃそうですね。じゃあ、もっと無難に『特製魔導器具』とか『航行用の符章セット』などはいかがです? 実用的で恩義も示せますし、押さえるべき点は押さえられます。」

 

 ジョンが考え込み、すぐに満面の笑みになる。

 「よし、それだ! 『風の子』の小改良キットと、通信塔の遠隔メンテ符のセット──“ナザリック供給パッケージ”だ!」

 

 モモンガが書類棚から巻物を取り出し、穏やかに言った。

 「では手筈を整えておきましょう。レイ将軍の好みに合わせて格式のある包装も用意すること。だが、念のために『非武装の民生用途』として説明を徹底して下さい。帝国側の監視もありますから、誤解は避けねばなりません。」

 

 ぐりもあが嬉しそうにメモを取る。

 「了解しました。魔導器具は民生仕様で統一、データ回収用の暗号符は我々側にのみ閲覧権を付与しておきます。」

 

 ジョンは椅子にもたれ、満足げに頷いた。

 「ふふん、これで“風の時代”はますます広がるってわけだ。プレゼント一つで、関係も円滑になるしな。」

 

 部屋には茶の湯気と、三人の小さな笑い声が残った。外ではナザリックの静かな機械の音が遠く響いている。

 

 

/*/ カルサナス都市国家連合・帝国第8軍駐屯地 /*/

 

 

 夜の風が、天幕の布を静かに揺らしていた。

 カルサナスの街灯が遠くに瞬き、夜営地の中心――レイ将軍の執務幕には魔導灯の青い光が淡く漏れている。

 

 机の上には、今日届いたばかりの木箱が一つ。

 帝国の印章に重ねて、魔導国の紋章が封蝋で押されていた。

 レイはその封を解き、箱の中を覗き込む。

 

 中には、滑らかな黒銀の金属装置が収められていた。

 「……“風の子”の改良ユニット、か。」

 金属の翼を模した魔導器、その表面には〈飛行〉と〈伝言〉の符が重ねられている。

 さらに、その下には小箱に収められた符文石――通信塔の遠隔制御キーと書かれた封書。

 

 レイは思わず笑みを漏らす。

 「魔導国製……これで通信塔の調整も帝国側で可能、か。」

 

 彼は書簡を開き、ジョン・カルバインの名を見つける。

 流れるような筆致でこう記されていた。

 > “我らの風が、貴軍の翼をさらに高く運ばんことを願う。”

 

 レイの口角がわずかに上がった。

 (私の名が、ついに魔導国の耳にも届いたということか……)

 

 机の脇の地図には、カルサナス全域に建設予定の通信塔の印が並んでいる。

 東部で成功を収めた通信網は、今や中央、南部、そして港湾都市にまで拡張されつつあった。

 レイがその印を一つずつなぞりながら、独り言のように呟く。

 

 「この塔が立つたびに、私の名前が報告書に記される。

  “レイ将軍の指揮による通信網整備”。

  それが帝都にも、魔導国にも伝わる……ふふ、悪くない。」

 

 彼は立ち上がり、天幕の外へ出た。

 夜空には、すでに魔導通信塔の赤い信号光が灯っている。

 風が吹くたび、遠くの塔がわずかに瞬いた。

 その光が、まるで自分の領地を示す印のように見える。

 

 「……いい。

  いずれカルサナスを完全に掌握するのは、帝国ではなくこの私だ。

  通信も、情報も、全て俺の指揮下に。」

 

 彼の目が暗く光る。

 若く、野心に燃える瞳。

 魔導国の贈り物は、確かに彼の立場を強固にした。

 だが同時に――その笑みの奥に、ナザリックの掌の影がゆっくりと広がっていることを、彼はまだ知らなかった。

 

 

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