オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ エ・ランテル南区・酒場前 /*/
夜。
喧嘩の理由は、たった一枚の銀貨だった。
どちらが先に依頼を見つけたか、それだけの話だ。
だが、若い冒険者の一人が腰のポーチから小さな球体を取り出した瞬間、周囲の空気が変わった。
「おい、やめろッ! それは訓練用じゃ――!」
次の瞬間、路地裏が白光に包まれた。
爆炎が店の壁を焼き、看板が吹き飛ぶ。
「焔封手榴弾」。本来、遺跡内の掃討作戦や魔獣制圧のために支給されていたもの。
──それを、酒場の喧嘩で使ったのだ。
火傷した通行人三名、巻き込まれた商人の荷車が炎上。
事件は瞬く間にギルド全域へ伝わった。
/*/ 翌日 冒険者ギルド本部・会議室 /*/
会議室の空気は重かった。
窓辺に立つギルド支部長が、焦げ跡の残る手榴弾の残骸を机に置く。
「……これを、金貨数枚で買えるようにしたのが間違いだったな」
対面に座るジョンは腕を組み、目を細めていた。
「事故じゃない。明確な“乱用”だ。
これ以上、未熟な奴らに戦場兵器を流せば、街が火の海になる」
他の幹部たちが次々に意見を出す。
「魔導国としても、販売統制の要請が来ています。被害者の中に貴族の使者がいたそうで……」
「金級以上の冒険者に限定して販売するのが妥当かと。
少なくとも、自己責任と戦術判断ができる階級じゃないと」
ジョンは小さく頷いた。
「……MAW-1も制限対象に入れろ。
あれは射程も威力も桁が違う。銀級以上――最低でも一度は遠征任務を経験した者だけにしろ」
「承知しました。焔封手榴弾は金級以上、MAW-1は銀級以上。販売には登録証と戦術講習の受講が必須、ですね」
「それでいい。だが――」
ジョンは残骸を指で転がした。
「……いつか、また別の形で同じことが起きる。どんな道具でも、馬鹿が使えば災厄になる。俺たちはその“使い方”を教えなきゃならない」
/*/ 数日後 ギルド告知板 /*/
【重要告知】
新規魔導兵器類の販売・携行制限について
・焔封手榴弾(火球封印型)は金級以上の冒険者にのみ販売を許可。
・MAW-1型魔導射出器は銀級以上、戦術講習修了証の提示が必須。
・許可外の携行・譲渡はギルド規約第22条違反として資格停止・罰金対象。
なお、既存所持者は一週間以内に登録を行うこと。
再封印・廃棄は魔導国技術局またはギルド工房にて受け付けます。
酒場の掲示板の前で、冒険者たちはざわついた。
「ったく、馬鹿が一人やらかすとこうだよ」
「これでまた値段が上がるな……」
「まぁ仕方ねぇ。あの威力じゃ、街中じゃ危ねぇもんな」
そこへ通りかかったジョンが、静かに言った。
「――兵器を持つ資格は、“強さ”だけじゃない。扱う覚悟も要るんだ」
冒険者たちは言葉を失い、彼の背中を見送った。
夕暮れの空に、遠くウルフ竜騎兵団の竜影が舞い上がる。
その下、地上では“道具と責任”の新しい時代が始まろうとしていた。
世界設定メモ:
項目 内容
事件名 「南区手榴弾事件」または「火球酒場爆炎事件」
被害 死者0名、負傷者数名、財産被害多数。ギルドの信頼を大きく損ねる。
新制度 ギルド販売統制制度(火力兵器分類表)
制限区分 焔封手榴弾=金級以上、MAW-1=銀級以上
運用条件 登録証・戦術講習受講・再封印責任者による点検義務
余波 闇市場での横流し・偽造符などが発生。冒険者の間に“兵器ブローカー”が暗躍するようになる。