オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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隣り合わせの罠と青春32

/*/ 桃色の残滓 /*/

 

薄暗い松明の炎が揺れる「エ・ランテル冒険者訓練ダンジョン」第6層。

 

湿り気を帯びた石造りの壁は、下層に降りるほどに生物的な質感を帯び、空気には微かに甘く、どこか腐ったような芳香が混じり始めていた。

 

「……静かすぎるな」

 

先頭を行く重装戦士が、鈍く光る盾を構え直す。

 

その後ろには、油断なく周囲を索敵する弓使い、魔力の残滓を読み取ろうとする老人、そして緊張で剣を握る手が震える若者の姿があった。

 

彼らが一歩踏み出すごとに、カツン、カツンと響く金属靴の音。

 

しかし、ある境界線を越えた瞬間、その足音が「ペチャリ」という、濡れた肉を踏みしめるような不快な音へと変わった。

 

「なんだ、この色は……?」

 

若者が眉をひそめた。

 

前方から溢れ出してきたのは、迷宮には不釣り合いな濃密なピンク色の光。

 

それは霧のように通路を埋め尽くし、4人の視界を、そして意識を、じわじわと侵食し始める。

 

「気を付けろ、幻覚魔法の類かもしれん」

 

老人が警告を発しようと口を開いたとき、異変はすでに完成していた。

 

光の中を進むにつれ、彼らの身体には「重力」とは異なる奇妙な違和感が生じ始める。

 

枯れ木のように細かった老人の指先が、見る間に瑞々しい弾力を取り戻していく。背中に流れる白髪は、光を吸い込むような漆黒の長髪へと塗り替えられ、深い皺の刻まれた顔立ちは、冷徹な美を湛えた貴婦人のそれへと変貌した。

 

分厚い胸当ての下では、あり得ないはずの肉の膨らみが金属を内側から圧迫し、金属の軋む音が通路に虚しく響く。

 

太く逞しかった戦士と若者の首筋は、手折れそうなほどにしなやかな曲線を描き、全員の視界がわずかに低くなっていった。

 

「おい、あんた……声が……」

 

若者が指摘しようとした声は、鈴を転がすような、艶めかしい高音へと裏返っていた。

 

「……不味いぞ!引き返せ!」

 

黒髪の美女へと成り果てた元老人が、本能的な恐怖を露わにして叫んだ。

 

「わざわざ『女』の身体に作り替えたってことは……ここから先は、女として酷い目にあわせるという宣言だ!」

 

その言葉が、迷宮にとっての開宴の合図となった。

 

逃れようと踵を返した瞬間、壁の「粘膜」が裂け、そこから節足動物のような節を持ち、なおかつ産みたての臓器のように生々しく蠢くピンク色の触手が、弾かれたように飛び出した。

 

「あ――っ!?」

 

逃げ場のない狭隘な通路で、4人の「新しく、柔らかな肢体」は、無慈悲な触手によって宙へと吊り上げられた。

 

抵抗しようともがくほどに、触手はその細かな吸盤で肌を吸い尽くし、衣服の隙間から熱い粘液を滴らせながら、彼女たちが自分でも気づいていなかった「未開の快楽」へと牙を剥き始めた。

 

それは暴力的なまでの蹂躙であり、同時に神経の限界を超えた過剰なまでの調教だった。

 

肉体を内側から作り替えられた彼女たちの感覚は、人外の太さと硬さ、そして粘膜を焼き尽くすような熱い脈動を「正解」として脳髄に深く刻み込まれていった。

 

 

 

/*/ 清掃班の目 /*/

 

 

 

「……またこの区画か。全く、悪趣味な魔力溜まりね」

 

清掃班の班長、バニアラは鼻をつく甘ったるい匂いに眉をひそめ、松明の光を掲げた。

 

背後には、手慣れた様子で回収用の担架を運ぶ班員たちが続く。

 

「班長、今回のは少し……酷そうですよ」

 

そう呟いたのは、まだ幼さの残る若者の班員だった。彼は通路の奥に転がっている「肉の塊」のようなものを見て、顔を引きつらせた。

 

第6層9区画。そこには、数時間前まで勇ましく迷宮に挑んでいたはずの4人の「成れ果て」があった。

 

「……ほう。元は老人と若者、それに戦士と弓使いか。それが今じゃ、見事なまでの『雌』だな」

 

知識豊富な老人の班員が、眼鏡の奥の目を細めて観察する。

 

バニアラの視線の先には、かつて老練な戦士だったはずの黒髪ロングの美女が、白目を剥いて横たわっていた。

 

その肌には、触手が吸い付いた跡が紫色の斑点となって無数に浮かび上がり、股の間からは、迷宮が注ぎ込んだ得体の知れない白濁した粘液が、絶え間なく溢れ出して床に水溜りを作っている。

 

「おい、大男。運ぶぞ。……おい、聞いてるのか?」

 

老人の呼びかけに、岩のように動かない無口な大男が、静かに頷いた。彼は一言も発しないが、その視線は、若者から美少女へと作り変えられた冒険者の、いまだにピクピクと快楽の名残で震え続けている太ももに釘付けになっていた。

 

バニアラは革手袋をはめ直すと、無造作に一人を引き起こした。

 

「ひ……あ、ぅ……」

 

意識が混濁した元若者の美少女が、バニアラの手に触れられただけで、ビクンと背中を逸らせてあられもない声を上げる。

 

「ダメよ、まだ身体が『中』の感触を覚えてるわね。完全に開発されきってるわ」

 

バニアラは冷淡に告げたが、その指先は、少女の服の破れ目から露出した、真っ赤に腫れ上がった胸の先端をわざと掠めた。

 

担架に乗せられる際、4人の肢体からは、溜まっていた蜜や涎がボタボタと滴り落ちる。

 

触手に徹底的に「教育」された彼女たちの身体は、救助された後も、見えない愛撫に反応して腰を浮かせ、虚空を掴むように指を彷徨わせていた。

 

「班長、これ、街に戻るまでに意識戻りますかね?」

 

若者の班員が、あまりに淫らな姿に目のやり場を困らせながら尋ねる。

 

「無理ね。脳まで桃色に染まってるわ。バカげた快楽の海から引き上げるには、相当な時間がかかるわよ」

 

バニアラは吐き捨てると、無口な大男に顎で指示を出した。

 

「運べ。……それから大男、あんまりジロジロ見るんじゃないわよ。役得は報告書を書き終えてからにしなさい」

 

薄暗い通路に、ぐっくりとした4人の肉体が揺れる担架の音と、時折漏れる、湿った情けない吐息だけが虚しく響いていった。

 

 

 

/*/ 石の寝台の上で /*/

 

 

 

魔導国の回収所に運び込まれた四人は、清潔な石造りの寝台に横たえられていた。しかし、そこには安堵の表情など微塵もなかった。

 

身体の反逆と記憶の刻印。

 

かつての屈強な体躯は見る影もなく、滑らかで瑞々しい「女」の肉体へと変質したまま、彼女たちは絶え間ない余韻に震えていた。バニアラ班長が冷淡に指示を出す傍らで、元老人の黒髪美女は、自身の太ももを無意識に擦り合わせ、溢れ出る熱を抑えられずにいる。

 

「さて、魔術的な処置を施せば、元(男)の姿に戻ることは可能よ。……どうする? 冒険者ギルドへの報告もあるし、早めに決めてもらいたいんだけど」

 

バニアラの問いかけに対し、返ってきたのは沈黙、そして重苦しい「ためらい」だった。

 

かつては力自慢だった元若者の美少女は、自らの膨らんだ胸を隠すように抱きしめていた。

 

しかし、その指先は触手に捏ねられた先端の感覚を鮮明に覚えており、衣擦れが起きるたびに、脳髄を痺れさせるような「あの瞬間」の閃光が走り抜ける。

 

元弓使いの女戦士が、掠れた声で呟いた。

 

「……戻り、たい。はずなんだ」

 

しかし、その瞳は虚ろだった。

 

彼女の体内には、普通の人間では到底成し得ない人外の刺激が、消えない熱として居座り続けていた。

 

彼らを最も苦しめているのは、自分たちが「人間による愛情や性交」では二度と満足できない身体にされたという確信だった。

 

迷宮の触手が与えたのは、ただの暴力ではなく、魂の根底を融解させるような絶頂の記憶。

 

それが、どんなに激しく人間に抱かれても、あの第6層で味わった感覚の足元にも及ばないという残酷な事実を突きつけていた。

 

「嘘だろ……あんな、バケモノに弄ばれただけなのに……」

 

 

若者だった少女は、頬を紅潮させ、涙をこぼしながら自問自答する。戻らなければならない、誇り高き男の冒険者だったのだから。

 

しかし、元の姿に戻れば、あの「人外の悦楽」へのパスポートを永久に失ってしまうのではないか。その恐怖が、理性を上回ろうとしていた。

 

バニアラは、そんな彼女たちの葛藤を飽きるほど見てきたような冷めた目で見下ろす。

 

「……ま、無理もないわね。このまま街に戻っても、結局は魔導国の『モンスター宿』に小銭を運ぶことになる奴らが大半よ」

 

彼女が口にしたその場所は、かつて冒険者が討伐対象としていた魔物たちに、文字通り「貢いで」自らの身体を差し出す、堕落した楽園。そこでは、迷宮で味わったような狂おしい刺激を金で買うことができる。

 

四人の冒険者は、バニアラの言葉に弾かれたように肩を震わせた。

 

「自分はそんな風にはならない」と断言したいのに、身体の奥底が、その「モンスター宿」という響きに期待して熱く疼いてしまう。

 

「……あ、ぅ……」

 

誰からともなく漏れた、情けない吐息。

 

元に戻るか、このまま「女」として快楽の奴隷になるか。

 

その天秤は、すでに魔導国の悪意によって、大きく傾き始めていた。

 

 

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