オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 竜王国・王城 /*/
ジョンは玉座の間に残されたガル=トゥルクの死体を指差し、淡々と告げる。
「女王陛下、ガル=トゥルクの死体くれ」
女王は一瞬、目を見開く。
「……?」
「そんなに人間が良いなら、ビーストマンも食料になるか試してみたいんだ」
ジョンの声には、冗談半分、実験半分の冷静さが混じる。
/*/ウルフ竜騎兵団・駐屯地/*/
炊飯車から呼び出されたウルフ竜騎兵団のコックが、手際よく肉を調理する。焼き網から立ち上る香ばしい匂いがテントに広がり、団員たちは興味深そうに箸を伸ばす。
ジョンは一切れ口に運び、鼻をしかめつつ分析する。
「うーん、ウシやブタの方が食べやすいか……肉食よりの雑食なのか、やっぱり少し臭みが強いな」
獣身四足獣〈ゾーオスティア〉の魔爪ヴィジャーも首を傾げ、尻尾をゆらす。
「きちんと処理された牛や馬の方がいいな。団長、これは臭くて食えない」
一同、軽く顔をしかめつつも、興味と好奇心で視線は皿に集中する。
「やっぱりか……」ジョンは納得したように頷く。
「人間の生肉と比べるとどうだ?」
ヴィジャーは思い出すように答える。
「聖王国の農民は肉をほとんど喰わない。だからこいつより臭みは少なくて、美味かったぞ」
ジョンは皿を見つめ、舌打ちする。
「食い物次第ってことか……なるほどな」
テーブルの上には、評価と批評だけが静かに残った。黒い冗談の裏に、戦場での厳しい現実が仄かに透けて見える。
しばしの間、全員が無言で箸を止める。やがてジョンがふと口を開く。
「そうすると、竜王国が発展して農民も肉を普通に喰えるようになったら、ビーストマンからすれば……臭くて食えない肉になるってことか」
ヴィジャーが首をかしげ、軽く唸る。
「なるほど……味覚の基準は、食べ慣れた環境によって変わるってことか」
「うん、面白い話だな」ジョンは箸で一切れをつまみ、口に運ぶ。
「人間やビーストマンを食べるより、栄養と食べやすさを考えた方が戦略的には効率いい。食文化次第で『美味い』『臭い』の判断が変わるって、戦場の補給でも同じことが言える」
ヴィジャーは鼻をひくつかせ、しばらく考え込む。
「団長、結局は処理と調理次第ってことか。臭みを消せば、どの種族の肉でもそれなりに食えるってことだな」
コックのゴブリンが皿を覗き込み、にやりと笑う。
「だったら次は、調味料や香辛料でどこまで美味くできるか試すしかないっスね。団長、次はビーストマンカレーですか?」
リザードマンの団員が肩をすくめ、笑みを浮かべる。
「俺は……生肉でもいけるけど、やっぱり焼いた方が食べやすいな。戦場で臭い肉は勘弁だ」
ジョンは軽く笑みを浮かべ、箸を置く。
「そうそう。食べ物の価値は、味覚だけじゃなく、文化や習慣で決まる。戦場で『食えない』と思われたら、どれだけ栄養があっても意味がない。補給の計画も、こういう観察から始めないと」
ヴィジャーが尾を揺らし、少し舌打ちする。
「団長、じゃあ次はビーストマンを美味しく食べるレシピ研究会か……戦略会議なのか料理会議なのか、よくわからんな」
ゴブリンコックが肩を揺らして笑う。
「戦略会議に香辛料と火加減の話が入るのは当たり前っスよ!」
ジョンは軽く眉を上げ、にやりと笑う。
「まあ、戦場でも食い物の評価は大事だ。兵士の士気と補給の効率は、味覚や食習慣で左右される。何なら、次の補給計画には食文化研究も入れようか」
団員たちは口々に笑い、場の空気は少し和らぐ。
ヴィジャーが再び鼻をひくつかせ、少し真面目な声で言う。
「団長、だったら俺たちの食材の範囲も広げないと……次は人間以外の雑食系も試すのか?」
ジョンは箸を掲げ、軽く肩をすくめる。
「試す。味と栄養の評価は、戦場での選択肢を増やすための実験でもある。まあ、冗談半分でな」
テーブルの上には、残りのビーストマン肉、団員たちの笑い声、ヴィジャーの首かしげ、そしてジョンの計算された冷静さが並ぶ。
戦場の知略とブラックユーモアが奇妙に交錯する、静かで濃密な空間だった。
/*/ ウルフ竜騎兵団・料理試食のテント /*/
ジョンは皿のビーストマン肉をつまみながら、思索を口に出した。
「そういえば……辺境の村人がオーガに襲われることがあるのは、植物性ばかりで肉をほとんど食べてないからかな、なんて考えちゃうんだよな」
ヴィジャーが尾を揺らしながら鼻をひくつかせる。
「……確かに、栄養と味覚の問題はあるかもしれん。昔、辺境の食材しか食べてない人間を口にしたことがあるが、まあ……香りが弱くて淡白だったな」
ジョンは箸を置き、古参オーガとウォートロールを見渡す。
「お前ら、辺境の農民とか、逆に良いもの食べてる商人や貴族を食べたことあるなら、味の違いってどうだった?」
古参オーガは喉を鳴らし、思い出すように答える。
「農民は確かに淡白で硬い。毎日同じ野菜と少しの穀物……食べ応えはあるが香りは弱い。
商人や貴族は、確かに香りも味も濃いが……生で喰うには臭みが強すぎる。しっかり処理して〆てから調理しないと、食べにくいな」
ウォートロールも首を傾げ、低い声で続ける。
「俺もそう思う。農民は淡白で噛み応えがあるが、香りと脂の味が少ない。上流階級は逆に香り豊かで旨味も濃い。ただし、処理が悪いと臭みが強くて食えたものじゃない」
ヴィジャーが鼻を鳴らして一言。
「団長、つまり、戦略的に考えたら辺境の村は栄養的にも『狩りやすく』、貴族や商人は『調理次第で選んで食う価値がある』ってことか……」
ジョンは微笑みながら頷く。
「そういうこと。栄養と味覚の差、そして処理の重要性を理解することは、補給や戦略に直結する。食べるだけじゃなく、相手の体質や食習慣も把握する。戦場での補給、士気、兵士の健康……全部つながってるんだ」
古参オーガが軽く笑い、尾を揺らす。
「団長、こうなると味の良い商人や貴族を探す戦略も必要になるな。食い物の価値が戦術に直結するとは……さすがだ」
ジョンは皿の肉を眺め、淡々と箸を置く。
「まあ、あくまで仮説だ。実際に試すのは……安全な範囲でな」
ヴィジャーが目を細め、尾をゆっくり揺らす。
「団長、冗談半分でも……俺たち、どこまで本気で調査するんだ?」
ジョンは小さく笑みを浮かべ、天井を見上げる。
「戦場の知識も、食文化も、観察と経験からしか得られない。どこまで本気かは……そのとき次第だ」
テーブルには再び沈黙が訪れる。
残った肉と団員たちの笑い声、ヴィジャーの首かしげ、そしてジョンの冷静さが奇妙な調和を生む。
ブラックユーモアと戦略眼が入り混じった、この空間は、竜王国の異色な会議場として記憶されることになった。
/*/ ウルフ竜騎兵団・料理試食のテント /*/
ジョンは皿を置き、ヴィジャーやオーガ、ウォートロールの顔を見渡す。
「そうだな……次の仮説として、ドラウディロン女王とか食べてみる? あの人の肉は柔らかそうだな」
ヴィジャーが目を丸くし、尾を揺らす。
「……団長、マジで言ってるのか?」
古参オーガが喉を鳴らして笑う。
「柔らかそうって、戦略会議の範囲を逸脱してる気がするぞ。けど……香りと脂の質はどうなるか気になるな」
ウォートロールも低く笑う。
「うん、調理次第では意外に美味しいかもしれん。女王クラスの食事内容を考えれば、肉の質は間違いなく上だろうしな」
ゴブリンコックが小さく手を叩き、興奮気味に言う。
「団長、次は高級レシピ開発会議ですか!? 王族の味比べとか、貴族の肉質調査とか……楽しそうっスね!」
リザードマンの団員が肩をすくめ、笑いをこらえつつ口を開く。
「戦場の戦略と食文化の調査が混ざると、こうもブラックユーモアになるのか……俺たち、どこまで本気で付き合わされるんだ?」
ジョンは箸を掲げ、軽く肩をすくめる。
「付き合うも何も……食文化の理解は、戦略眼の一部だ。どの階層がどういう食材を食べているか知れば、補給や士気にも役立つ。まあ、冗談半分だけどな」
ヴィジャーが少し首をかしげ、尾を揺らす。
「団長、冗談だとしても、上流階級の肉って、どうやって〆るのがベストなんだろうな……」
古参オーガが低い声で付け加える。
「処理と調理次第で、辺境の農民より美味くなるのは間違いない。香りも脂も濃いからな」
ジョンは薄く笑い、皿の肉を眺めながらまとめる。
「結局は、処理と調理次第、食文化と習慣次第。どの階層を食べるにしても、観察と経験が必要ってことだ」
団員たちは小さく笑い、再び箸を取り始める。
テーブルの上には、残りの肉、団員たちの笑い声、ジョンの計算された冷静さ――
戦略眼とブラックユーモアが奇妙に混ざり合った、竜王国の異色な会議場の光景が広がった。