オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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爪切り

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・第六階層 /*/

 

 

「――秘剣、爪切り!」

 

ブレインの渾身の一閃が、虚空を裂き、シャルティアの小指の爪を鮮やかに弾き飛ばした。

空中で爪がきらりと光り、石畳の上にコトリと落ちる。

 

「ふん、爪切りくらいは出来るようになったでありんすね」

シャルティアは口元を扇で隠し、涼やかな微笑を浮かべた。まるで敵を斬られたのではなく、気の利いた美容サービスでも受けたかのような余裕ぶりである。

 

「おおっ! すげぇ!」

横で見ていたジョンは、興奮を隠しきれず身を乗り出した。

「俺の爪も切ってくれよ!」

 

「な、なに?」とブレインは思わず聞き返す。

「頼む! ずっと伸びっぱなしで困ってたんだ。至高の御方たる俺でも、爪は勝手に削れてくれねえからな!」

 

仕方なくブレインは刀を構え、ジョンの大きな手をまじまじと見つめる。狼のような鋭い爪。試しに一閃――

 

ガキィンッ!

 

火花が散り、ブレインの顔に冷や汗が浮かぶ。

「……硬すぎる……!」

まるで神器を相手にしているかのようだ。と、言うかゲーム時代にデータクリスタルを限界までぶちこんだ爪と牙は神話級の武器だ。

 

「流石は至高の御方でありんす!」とシャルティアが感嘆の声をあげ、ぱちぱちと拍手をする。

「いや……爪切れないと普通に不便なんだが……」

ジョンは困惑気味に爪を眺めた。

 

しばし沈黙が流れ、やがてジョンがぼそりと呟く。

「……コキュートスに斬神皇刀で切ってもらうしかないか。いや、でもスキルに武器破壊が乗せないと爪が切れないだろうし、指ごと持ってかれる可能性が……」

 

「爪とぎ石で削るとか?」と、何気なくシャルティア。

「いやいや、そんなんで済む硬さじゃねえ。前に試したら石の方が先に削れたんだ」

 

「……爪切りを神器として鍛冶長に打たせるしかないのでは?」とブレインが渋い顔で言う。

「神器級爪切り……」ジョンは想像する。

 

「それ、爪切りの範疇を逸脱してるでありんすよ……」とシャルティアが呆れ顔を浮かべる。

 

しかし、当の本人は真剣そのもの。

「……爪が切れねえと日常生活に支障が出るんだよ。紙を破るし、服は穴あくし、ちょっとした撫ででもみんな傷つけちまう。

至高の御方としては、ちゃんと爪を整えて美しくなきゃ格好つかねえだろ?」

 

その言葉に、シャルティアもブレインも一瞬言葉を失う。

爪切り――些末な問題に見えて、確かに御身に相応しい課題ではある。

 

シャルティアは半眼になって小さくため息をついた。

「……で、実際どうするでありんす? このままでは至高の御方の御手が獣のまま……」

 

ブレインは刀を鞘に納めつつ、顔をしかめる。

「俺の刀で斬れぬものなど、そう多くはない……だが御方の爪は、まるで神造兵装そのもの。俺の剣術ではどうにもならん」

 

「ふむ……」ジョンは顎に手を当てて考え込む。

「いっそ、鍛冶長に頼んでみるか。あいつなら《神器級爪切り》くらい打ってくれるだろ」

 

ジョンは腕を組み、神妙に頷いた。

「……そう、神器級爪切り――名付けて《天鋏爪断(てんきょうそうだん)》!」

 

シャルティアは小さく目を剥き、扇で口元を押さえる。

「……爪切りに、名前、つけたでありんすか……」

 

ブレインは刀を鞘に納めつつ、苦笑混じりに呟く。

「……まさか、爪切りにまで神器級の名を冠する日が来ようとはな……」

 

ジョン本人は満面の笑みで拳を握り、至高の御方としての威厳を胸に、力強く宣言した。

 

「これで俺の爪も、日常も、すべてが格好よくなるのだ……! 天鋏爪断――かっこよすぎるな。『キリキリくん1号』でいいや」

その姿は、誰よりも真剣に「爪切り」という大問題に挑む至高の御方の威容そのものであった。

 

「鍛冶長殿ならば可能かもしれんが……爪切りを神器として鍛造するなど聞いたことがない」ブレインは渋い顔を浮かべる。

 

「いや、必要だろ。生活の利便性ってのは戦闘以上に大事なこともあるんだ」ジョンは真顔で言う。

「――《キリキリくん1号》! 見た目はただの爪切りだが、神話級アイテムで、装備者の爪を美しく整える効果付き! ついでにクリティカル率も上がる、とか」

 

「お爪の手入れで会心率上昇……」シャルティアは思わず吹き出しそうになったが、すぐに表情を整えた。

「でも……至高の御方の仰ることなら、鍛冶長も全力を尽くすでありんすね」

 

「決まりだな」ジョンは力強く頷いた。

「よし、次の会議で提案してみよう。――『神器級爪切りの製造計画』だ!」

 

ナザリック地下大墳墓に、新たなる奇妙な計画が生まれた瞬間だった。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・玉座の間 /*/

 

 

「……というわけで、モモンガさん」

ジョンは真剣な顔で両手を差し出し、狼爪を見せた。

「俺の爪が……切れねえんです。ゲーム時代は伸びることなんてなかったのに、こっちに来てからは普通に伸びやがる。

しかも、神話級に強化したせいで何で削ってもビクともしない」

 

モモンガは玉座で顎に手を当てた。

「ふむ……確かに、生活に支障が出るのは問題だな」

 

「紙は破れる、服には穴が開く、撫でるつもりが傷をつけちまう。正直、至高の御方としてはかなり格好悪い」

ジョンの顔は至って真剣だ。

 

シャルティアが横で扇を当てながら口を挟む。

「鍛冶長に神器級爪切りを打たせる案が出ておりんす」

 

「……神器級、爪切り?」

モモンガは思わず繰り返した。

 

「はい! ただし、膨大な貴重素材を消費することになりんす」シャルティアがうなずく。

「ヒヒイロカネはもちろん、アポイタカラ、さらにはワールドクラスの残滓が必要かもしれません」

 

「そんな大げさな……」モモンガは額を押さえる。

 

ジョンはさらに畳み掛ける。

「でも、このままじゃ俺の生活の質が著しく低下するんですよ! 神器級《天鋏爪断》もとい“キリキリくん一号”があれば、俺は爪を美しく保てるし、ナザリックの威光もより高まるはずです!」

 

しばし沈黙。

玉座の間に重苦しい空気が漂う。

 

やがて、モモンガはため息をつきつつも、苦笑いを浮かべた。

「……わかった。鍛冶長に相談して下さい。ただし、素材の調達についてはジョンさんの在庫からを優先とすること」

 

ジョンの顔が一気に輝く。

「よっしゃあああ! これで俺も快適な爪ライフだ!」

 

シャルティアとブレインは顔を見合わせ、同時に肩をすくめる。

――こうして、ナザリックに前代未聞の「神器級爪切り製造計画」が動き出すこととなった。

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・鍛冶場 /*/

 

鍛冶長が最後の仕上げを終え、輝く爪切り――《キリキリくん1号》がジョンの前に差し出された。

ジョンは目を輝かせ、両手を広げてその神器を受け取る。

「これが……俺の爪を整える神器……! さあ、我が狼爪よ、キリキリくん1号の力を味わうがよい!」

 

シャルティアは半眼で呆れ顔、ブレインは額に手を当てる。

「……まさか、爪切りにここまでの儀式を……」

 

ジョンは無視して爪を差し出すと、光を帯びた《キリキリくん1号》が華麗に振り下ろされる――

 

ガキィンッ!

 

火花とともに、狼爪の先端がきらりと輝きながら、完璧に整えられた。

ジョンは満面の笑みで拳を握る。

「うおおお! 完璧だ! 爪一本一本が至高の御方の証! これぞ《キリキリくん1号》の力……!」

 

シャルティアは扇で顔を覆い、笑いを堪える。

「……至高の御方……それ、爪を切っただけで感動するでありんすか……」

 

ブレインは刀を鞘に納め、苦笑混じりに呟く。

「……神器級爪切りがここまでの戦果をもたらすとは、思わなかった……」

 

ジョンはさらに気合を入れ、次々と爪を切り揃えていく。

「これで紙も破れず、服も穴が開かない! 撫でても誰も傷つかない! 至高の御方としての尊厳、完全復活だ!」

 

モモンガは玉座から小さくため息をつきつつも、内心で苦笑する。

「……至高の御方、あの爪切り一つでこんなに幸せそうに……」

 

ジョンは爪切りを高く掲げ、光を反射させる。

「《キリキリくん1号》よ、これからも我が爪を、美しく、完璧に保つのだ! ナザリックよ、これが至高の御方の日常生活の力である!」

 

――ナザリック地下大墳墓に、前代未聞の「至高の御方による神器級爪切り実戦デビュー」が、厳かに、しかし滑稽極まりなく執り行われたのであった。

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・鍛冶場 /*/

 

ジョンの狼爪は、《キリキリくん1号》によって完璧に整えられた。

刃を光らせ、神話級のやすりで爪を滑らかに仕上げる鍛冶長。

 

「さて……次は仕上げでございます」

鍛冶長は小さなやすりを取り出す。だが、そのやすりはただの工具ではない。神話級の光を帯び、触れるだけであらゆる硬度を圧倒する逸品である。

 

シャルティアが小さなため息を漏らす。

「……あんな小さい爪にまで、神話級のやすりを使うでありんすか……」

 

ブレインは額に手を当て、無言で呆れる。

「……至高の御方の爪一つに、ここまでの工数をかける日が来るとはな……」

 

そして鍛冶長は、やすり掛けで生じた微細な爪の粉を小瓶に慎重に集め始めた。

「……これも素材として回収しておきまする」

その言葉に、ジョンは目を輝かせた。

「な、なんと……! 俺の爪の粉まで、素材にするのか!」

「勿論、切った爪も回収済でございます」

 

シャルティアは思わず吹き出しそうになる。

「……至高の御方の爪、完全にリサイクルでありんすか……」

 

ブレインは苦笑いしながらも、刀を鞘に納めつつ呟く。

「……爪を切る→やすり掛け→粉まで回収……もはや日常生活ではなく、工房の儀式だな……」

 

ジョンは拳を握り、誇らしげに宣言する。

「《キリキリくん1号》の力は、爪を整えるだけじゃない! その微細な破片すら、ナザリックの戦力に転用できるのだ!」

 

鍛冶長はにっこりと頷き、神話級の粉を小瓶に慎重に封入した。

「よし、これで完璧でございます。爪も整い、粉も素材として活かせる。至高の御方のための最高の仕上げです」

 

シャルティアは目を丸くして、ブレインは肩を落とす。

「……ここまでやるとは、爪切り一つでナザリックに伝説が生まれるな……」

 

ジョンは満面の笑みで爪切りを掲げ、光を反射させた。

「《キリキリくん1号》、これにて爪切り界の頂点に立つ! 粉も無駄なく活用、これぞ至高の御方の生活力!」

 

――ナザリック地下大墳墓に、前代未聞の「爪切り+神話級やすり+爪粉回収儀式」が、厳かに、しかし滑稽極まりなく執り行われたのであった。

 

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