オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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魔導国と王国の冒険者組合

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者組合 /*/

 

 

蒼の薔薇の面々は組合の掲示板を眺めていた。そこにはずらりと依頼が貼り出されている――だが、従来のものとは大きく様相が違っていた。

 

ガガーランが鼻を鳴らす。

「おい見ろ。ゴブリンの群れ討伐に“白金貨二枚”だと? 村一つじゃ用意できねぇ額だ」

 

イビルアイが小さく肩をすくめる。

「依頼主は“村”じゃない。支払いは魔導国直轄。村はただ目撃情報を届けるだけでいい……。こんな仕組み、他のどの国にもなかった」

 

ラキュースは真剣な表情で掲示板の文字を追った。

「……従来の冒険者組合では、金のない村は泣き寝入りするしかなかった。報酬を払えなければ依頼も受けられない。村が滅ぼされても、ただ運が悪かったとしか言いようがなかった」

 

ティアが低く呟く。

「だが今は違う。村人が“見た”と報告すれば、それだけで討伐依頼が成立する」

 

ティナが続ける。

「討伐した者には魔導国から報奨金。しかも桁違いの額。……冒険者は“食える職業”になる」

 

掲示板を見渡したガガーランが、苦笑に近い息を吐く。

「それに、いざ村が襲われたらデスナイトが出動する。俺たちの役目は討伐じゃなく、その前に“予防”することになるわけだ。……冒険者の役割そのものが変わっちまう」

 

ラキュースが拳を固く握りしめる。

「村々から届く目撃情報が、この国の防衛網を形づくっているのね。冒険者はもはや孤立した存在ではない。完全に国の治安維持システムの一部……」

 

沈黙が落ちた。

イビルアイが低く呟く。

「……冒険者組合が“国の庇護の下で働く下請け”になる未来が、もう形になり始めている」

 

ラキュースは仲間たちを振り返り、強い声で言い放った。

「このままでは、冒険者組合は“冒険者”の誇りを失い、ただの行政機関の枝に成り下がる。――どうする、蒼の薔薇?」

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者組合 依頼掲示板前 /*/

 

 

ラキュースは依頼板に目を走らせ、思わず声を呑んだ。

「……遺跡の学術調査、古代文献の翻訳、瘴気地帯の環境測定、結界魔術の実地研究……」

 

ガガーランが眉をひそめる。

「なんだぁこりゃ。盗賊退治も護衛依頼もねえじゃねぇか」

 

イビルアイは淡々と告げる。

「あるにはあるが……目立つのは圧倒的に学術系だ。王国じゃ軽んじられてきた分野ばかり。冒険者がやる仕事とは、とても思えない」

 

ティアが冷静に分析した。

「これは……ごろつき同然の冒険者じゃ手に負えない。依頼そのものが“知識と教育を前提”にしてある」

 

ティナがぽつりと付け加える。

「測量、符文解析、魔術理論の検証……高度な訓練を受けた者がいなければ、達成不可能」

 

ラキュースは唇を噛み締めた。

「……そしてその冒険者を“育てる仕組み”から、この国は整えている。訓練施設、教育課程、図書館、学者との連携……全部を揃えて」

 

ガガーランが低く唸った。

「つまり魔導国じゃ、“冒険者はただの荒事屋じゃない”。研究者であり探検家であり、国の知を拡張する兵隊ってわけだ」

 

イビルアイの紅い瞳が細められる。

「……恐るべきは、依頼の内容じゃない。その依頼をこなす人材を、ゼロから計画的に生み出していることだ。冒険者を一世代で作り替える仕組みが、ここにはもう存在する」

 

蒼の薔薇の四人は、言葉を失い、ただ依頼掲示板に並ぶ文字を見つめた。

胸に広がるのは――圧倒的な時代の変化に置き去りにされかねない、自分たち自身への恐怖だった。

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者組合・会議室 /*/

 

 

依頼掲示板を一巡してきた蒼の薔薇は、部屋に戻るや否や激しく議論を始めた。

 

ラキュースの蒼い瞳は、興奮で輝いていた。

「未知の探究……! これこそ冒険者の本質じゃないかしら? 失われた遺跡を調べ、古代の魔術を解き明かし、世界の仕組みを理解する。魔導国の冒険者は、まさに真の意味で“冒険”をしているわ!」

 

イビルアイも頷く。

「同感だ。今までの王国の冒険者は、ごろつきと変わらぬ荒事屋に過ぎなかった。だが、ここでは“知を切り拓く者”としての冒険者像が確立されつつある。……これほどの刺激を受けるとは思わなかった」

 

しかし、ガガーランは苦々しく腕を組む。

「だがよ、実際に依頼をこなせる奴らがどれだけいる? 遺跡の調査だの、瘴気の測定だの、そんなのに手を出せる冒険者なんて限られてる。大半は斧を振り回すしか能のねぇ連中だ」

 

ティアも静かに言葉を添える。

「依頼そのものが“高度な教育を受けた冒険者”を前提にしている。王国の組合がそういう人材を育ててきたか……答えは、否」

 

ティナが続ける。

「依頼をこなせる層がいなければ、組合そのものが形骸化する。……王国は変われるか、それとも取り残されるか」

 

重い沈黙を破ったのは、再びラキュースだった。

「けれど希望はある。聞いた? エ・ランテルの冒険者組合長と魔術師組合長――あの老獪な二人が、現役復帰して未知の探究に挑んでいると」

 

イビルアイの瞳が輝きを増す。

「……まるで若返ったかのように、遺跡調査の先頭に立っているというな。時代が冒険者の姿を変えつつある証左だ」

 

ガガーランは渋い顔で鼻を鳴らした。

「……だが、王国の組合がその流れについて行けるとは限らねぇ。現場の荒事しか知らねぇ奴らに、学問や研究なんざ荷が重い」

 

ラキュースは拳を固め、強く言い放つ。

「だからこそ、私たちが先頭に立たなければ! 未知の探究こそ、真に人の未来を切り拓く“冒険”。王国の組合が変わらなければ、滅びるだけよ!」

 

蒼の薔薇の間に、熱と不安、希望と恐怖が入り混じった沈黙が広がった。

――“未知の探究”を掲げる魔導国。その波に乗るか、呑まれるか。彼女たちもまた、選択を迫られていた。

 

 

/*/ リ・エスティーゼ王国・王都 冒険者組合本部 /*/

 

 

広間に集まった冒険者組合幹部と王国貴族たち。

蒼の薔薇が提言する「組合改革」は、冷たい空気に迎えられた。

 

ラキュースは正面に座る組合長へ身を乗り出す。

「冒険者は変わらねばなりません! 従来の依頼――盗賊退治や護衛だけでは生き残れない。魔導国は“未知の探究”を掲げ、冒険者を国家戦略の一部に組み込んでいるのです!」

 

組合長は苦い顔をしたまま視線を逸らす。

「……それは理想論だ。わしらの冒険者は力仕事で食ってきた。急に学問だ研究だと言ってもな」

 

ガガーランが低く呟く。

「気概のある奴は皆、エ・ランテルに渡っちまった……だろ?」

 

組合長の肩がわずかに震える。否定はしなかった。

 

すると、列席していた貴族の一人が声を荒げた。

「結局、貴様ら蒼の薔薇はラナー王女――いや、“魔導国エ・ランテル太守”に尻尾を振っているだけではないか! 裏切り者に組合の未来など語る資格はない!」

 

場の空気が凍り付く。

ティアが眉一つ動かさず、冷たく言い放つ。

「裏切り者……。なら、村人を見捨て、報酬が払えないからと依頼を拒む旧来のやり方こそ、真の裏切り?」

 

ティナが小さく続ける。

「魔導国のやり方が正しいとまでは言わない。けど、王国のやり方が時代遅れなのは明らか」

 

イビルアイはフードの奥で笑った。

「……滑稽だな。冒険者を守り育てるはずの組合が、自ら変わる意思を持たず、ただ“魔導国に渡った者”を妬むだけか」

 

だが組合長は机を叩き、強引に議論を打ち切った。

「これ以上は無駄だ! 蒼の薔薇の提案は聞かなかったことにする。……以上!」

 

ラキュースは唇を噛みしめた。

自分たちの言葉は届かない。

王国の組合は、もはや変革を拒み、衰退を待つだけの存在になってしまっているのだ。

 

廊下へ出た蒼の薔薇の面々は、互いに視線を交わした。

――彼女たちが帰属すべき場所は、もう王国にはないのかもしれない。

 

 

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