オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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活人拳流特訓

 

/*/エ・ランテル冒険者組合・訓練所/*/

 

滝のような汗が床に落ちる。訓練所の空気は熱気と鉄の匂いに満ち、限界まで鍛錬を積むクライムの呼吸は荒く、全身の筋肉が緊張で震えていた。ジョンはその姿を見下ろし、少年がまるで限界まで膨らんだ風船のように張りつめた器だと感じた。

 

「クライムだったな。修行が行き詰っているようだな」

 

青と白の毛並みを誇る人狼の巨躯を誇らしげに見上げながら、クライムは少し悔しげに答える。

「はい。蒼の薔薇の皆さんにも、私はこれ以上強くなれないだろう、と……」

 

ジョンは低く唸るように言った。

「だが、諦めないと」

 

クライムの瞳は決意に燃える。

「私はラナ―様を守る剣です。剣でありたいのです!」

 

その目は、己の生き方を己の手で決めた人間の瞳そのものだった。ジョンはしばらく黙って見つめ、そして満足そうに頷く。

「良い目だ」

 

「え?」クライムは眉を上げる。

 

「才能が限界なら、魂を拡張するしかない。通常の蘇生では生命力が失われ、効果が分からんが、高位の蘇生なら実感できる。蘇生の際、死の領域から魂で力をつかみ取って戻ってくるのだ」

 

「死の領域から……」

 

「もちろん、何度も死ななければならん。それでもやるか?」

 

クライムは一瞬も迷わず答えた。

「はい。それが道ならば」

 

その声に、決意と覚悟が宿っていた。限界を超え、魂で力をつかみ取る――死と再生を通してのみ到達できる道を、クライムは迷いなく選んだのだ。

 

滝のような汗の中で、少年は己の剣としての生き様を、静かに、しかし確かに刻み続けるのであった。

 

 

/*/エ・ランテル冒険者組合・訓練所/*/

 

 

クライムとペテルが向かい合い、訓練所の広間に静かな緊張が走る。立ち合いにはジョンとルプスレギナが控えていた。

 

ジョンは腕を組み、冷静な視線を二人に向ける。「どちらかが死ぬまで戦え」

 

ペテルは目を丸くして叫ぶ。「師匠、なんでですか! 唐突過ぎます!」

 

ジョンは微かに笑みを浮かべ、まるで当然のことのように答える。「7:3でペテルが勝つ」

 

「いや、だから……」ペテルは言葉を詰まらせる。

 

「クライムに必要だからだ」ジョンの声は淡々としている。「才能の限界まで鍛えたコイツが、これ以上強くなるには、死んで復活する時に、死の領域から魂で力をつかみ取ってくるしかない。――どうせ死ぬなら、特訓で死ぬ方が有意義だろう」

 

ペテルが小さな声で呟く。「だからって……」

 

「油断するとお前が死ぬぞ」ジョンはぴたりと目を合わせる。「その時も蘇生はしてやる。しかし、ちゃんと掴み取って蘇生しろよ」

 

ペテルは息を荒くしながらも、覚悟を決めて剣を握り直す。クライムの鋭い目線が彼を貫き、広間に張り詰めた空気が一層重くなる。

 

ルプスレギナは隣で静かに見守る。訓練場に立つ者たちにとって、死と再生を伴う極限の特訓は恐怖と希望が交錯するものだった。だが、これこそが、才能を極限まで引き出す唯一の方法――ジョンの考えは揺るがない。

 

ペテルは剣を振るい、クライムも応じる。火花が散り、衝撃が床を震わせるたび、魂の奥底に眠る力を呼び覚まされる。

 

死の覚悟を胸に、二人の戦士は己の限界を突き破るため、戦い続けるのであった。

 

 

/*/エ・ランテル冒険者組合・訓練所/*/

 

 

滝のような汗と鉄の臭気に包まれた訓練所。長剣一本、白銀の鎧に身を包むクライムは、全身の筋肉を限界まで張り詰め、武技〈脳力解放〉を発動させて基礎ステータスを引き上げる。精神と肉体の力を総動員し、挑む相手は幅広剣と盾、漆黒の鎧で武装したペテルだ。

 

「さぁ、どちらかが死ぬまでだ」ジョンの声が冷たく響く。立ち合うルプスレギナの目も真剣そのものだ。

 

クライムは突進し、盾を破ろうと鋭い長剣を振るう。ペテルは冷静に盾で受け止め、幅広剣で迎撃する。最初の数分、クライムの〈脳力解放〉により互角に渡り合う。しかし、地力の差が徐々に現れる。

 

クライムは跳躍し、突き上げ、体を捻ってペテルの隙間を突こうと試みるが、ペテルの盾が正確に迎撃し、反撃の一撃が背中に深く刺さる。息が詰まり、全身の血が逆流するような痛みが走る。

 

「く……っ」クライムは声を上げながら踏ん張るが、低い姿勢から繰り出されたペテルの突き上げが、みぞおちから背中まで一直線に貫通する。

 

体が重く、下半身の感覚が消える。血を喉元で味わい、力が抜けていく。

 

「――死……か」意識が朦朧とする中、クライムはそれでも己の決意を思い返す。ラナ―様を守るため、剣として生きる自分の道。だが、今は死の領域が彼を包み込む。

 

ぶつん、と下半身の感覚が完全に途切れ、胸を締め付ける痛みとともに血を吐く。目の前が真っ暗になり、そして静寂が訪れる。

 

ジョンは黙って見守る。

「油断するとお前が死ぬと言っただろう。だが、これも訓練だ」

 

ルプスレギナは息をのむ。必死に戦い力及ばず倒れていくクライムの表情に絶望はなく最後まで闘志が燃えていた事を少し残念に思う。せっかくなら絶望に染まる表情を見たかった。

ペテルは剣を下ろし、深く呼吸を整える。

 

死の領域から魂を引き上げ、復活するための時間が訪れる。限界まで鍛えられ、魂で力をつかみ取る道――これが、クライムの進むべき、厳しくも真の力を得る訓練だった。

 

 

/*/死の領域/*/

 

 

クライムは、闇に包まれていた。目を開けても、体を動かしても、全てが黒く、濃密な闇に溶け込む感覚。自分が泥のように、土のように、空間に溶けていく――そんな感覚に、心も体も同化していく。

 

そのとき、暗闇の奥から、柔らかな光が差し込んだ。天井からではなく、自分の内側から、手のひらの先から伸びるかのように、光が手を差し伸べてくる。

 

無意識に、クライムは手を伸ばした。指先が光に触れようとする。すると、低く、しかし魂の奥底を震わせる声が聞こえた。

 

『力が欲しいか――』

 

「欲しい……!」反射的に口から声が漏れそうになるが、声は出ない。喉の奥で震えるだけ。

 

『力が欲しいなら――掴み取れ!』

 

その瞬間、クライムは理解する。力は与えられるものではない。受け身では得られない。手の先に何もなくとも、暗闇の中でも、掴もうとし、力を引き寄せること。必死に、全身の魂を集中させ、空虚を掴む。

 

掴んだ――何もないはずの闇を握る感触。だが、確かに何かが手の中に流れ込む。血でも汗でもない、純粋な“力”の手触り。握りしめる。逃すな、離すな、自分のものにするのだ。

 

闇の中で、息をしている実感が戻り、体が少しずつ温まる。視界が戻り、意識が立ち上がる。

 

そして、クライムの目が開いた。白銀の鎧の感触が、長剣の重みが、訓練所の匂いが、現実の世界を知らせる。胸の奥で、まだ暗闇の余韻を感じながらも、確かに自分の力が拡張されたことを実感していた。

 

死の領域で魂を削り、掴み取った力――それは、単なる強さではない。己の意思で勝ち取った、唯一無二の力だった。

 

 

/*/蘇生後の訓練所/*/

 

 

「目が覚めたか」

 

ジョンの低く落ち着いた声に、クライムはゆっくりと体を起こす。周囲を見渡すと、訓練所の地面には自分が流したであろう大量の血がまだ赤く光っていた。だが、驚くべきことに、傷は既に塞がっている。鎧に開いた穴だけが、先ほどの死闘が現実だったことを物語っていた。

 

ペテルが慌てた声で言う。

「なんて無茶するんですか……まるで物語の悪の組織みたいなことを!」

 

ジョンは微笑みもせずに答える。

「うちは活人拳だからな。死んだら終わりなんて、優しくはないぞ」

 

ペテルは小さく震え声でつぶやく。

「……こわい……」

 

クライムはよろよろと立ち上がり、まだ血の匂いが残る床の上で、深く一礼した。心の中で、体に漲る力の余裕を感じる。先ほどまでの限界の張り詰めた風船のような感覚が、少し落ち着き、しかし以前よりもはるかに大きく広がったことを実感する。

 

「まだ、俺は強くなれる……」

 

余韻に浸るクライムの背後で、ジョンが低く一声かけた。

「鎧の穴は、ラナ―になんて言い訳するつもりだ?」

 

その瞬間、クライムの顔が青ざめる。戦いで得た力の充実感と、日常の責任が、同時に重くのしかかった。だが、その恐怖すら、かつての自分なら逃げてしまった感覚。今の自分は、それを受け止め、乗り越えられる力を持っていることを知っていた。

 

静かな訓練所に、まだ剣の余韻と、蘇生の熱気が漂っていた。

 

 

/*/エ・ランテル・訓練所の控え室/*/

 

 

訓練を終えたクライムが、ふらふらとした足取りで蒼の薔薇の前に現れた。

白銀の鎧には大穴が空き、血の匂いがまだ微かに漂っている。

 

「クライム! その鎧……いったい何があったの!?」

ラキュースが目を見開き、慌てて駆け寄る。

 

「……訓練です。ですが、問題ありません」

クライムは短く答えると、深く一礼した。

 

その瞬間、ガガーランが眉をひそめた。

「おい……なんだコレ。お前、雰囲気が全然違うぞ」

 

「……確かに」イビルアイの赤い瞳がぎらりと光る。

「魔力じゃない……もっと根源的な“魂の輝き”が増してる。こんな短期間で……あり得ない」

 

ティアとティナが顔を見合わせる。

「……死んだ?」

「……蘇った?」

 

言葉は囁きだったが、控え室の空気が凍りつく。

 

ラキュースは思わず息を呑んだ。

「まさか……そんな訓練を……」

 

クライムは沈黙したまま、しかしまっすぐラキュースの瞳を見据えた。

その眼差しには、もはや従順なだけの従者ではなく、“己の剣として生きる決意を遂げた戦士”の光が宿っていた。

 

ラキュースの心臓が高鳴る。恐怖ではない。

目の前の青年が、確実に一歩、人の領域を越えた――その実感が彼女を震わせていた。

 

「クライム……あなた、いったい……何を掴んできたの?」

 

クライムは静かに、しかし強く答えた。

「――ラナ―様を守るための、力です」

 

その言葉に、蒼の薔薇全員が息を呑んだ。

彼の背に漂う圧は、もはや凡庸な騎士のものではなかった。

死を経て、魂を拡張した戦士だけが持つ気配――それを彼女たちは確かに感じ取っていた。

 

 

/*/エ・ランテル太守の館・私室/*/

 

 

ラナーは白銀の鎧に穴を開けたままのクライムを迎え入れる。

その姿を見た瞬間、彼女の唇は自然に微笑みを形作った。

 

「……クライム」

 

以前よりも落ち着いた瞳。

以前よりも硬質な気配。

以前よりも――彼女から離れていくような遠さ。

 

「怪我をしたの?」

声は柔らかい。しかし、その奥で計算する。

 

(違う……怪我ではない。変わったのだ、この子は)

 

クライムの瞳に宿る“光”。

それは凡庸な人間が持ち得ない、死を潜り抜けた者の輝き。

魂が拡張された者だけが纏う気配。

 

――だが、それは危険でもある。

これまでのクライムは「自分に全てを捧げる従者」だった。

だが今の彼は、「己の意志で剣たり得る戦士」になりつつある。

 

ラナーは頬に微笑を浮かべながらも、心の中で鋭く考える。

(このままでは、クライムが私の手を離れてしまう……)

 

だが同時に、胸の奥で熱が灯る。

(素晴らしい……! もっと強く、もっと美しく――私のために!)

 

「クライム」ラナーは椅子から立ち上がり、そっと近づく。

「あなたが掴んだその力……私に見せてちょうだい」

 

クライムは一瞬、言葉に詰まった。

だが、すぐに決意を宿した目で彼女を見据える。

「――ラナー様を守るための、力です」

 

その言葉に、ラナーの胸は甘美な震えで満たされた。

同時に――冷たい恐怖が背筋を走る。

(守るため? 守るだけ? 本当にそれだけ?)

 

彼がもし、自分を超えてしまったら。

自分の“鎖”が効かなくなってしまったら。

 

ラナーは笑顔を崩さず、静かに手を伸ばし、クライムの頬に触れた。

「ええ……頼もしいわ。私の剣……」

 

その指先に感じた熱は、彼の血潮と魂の拡張の証。

ラナーは甘美な支配欲と、言い知れぬ不安の両方を噛みしめながら、微笑み続けた。

 

――彼女の瞳には、愛と狂気が混ざり合っていた。

 

 

/*/エ・ランテル太守の館・私室/*/

 

 

ラナーはクライムの鎧に残る血の跡を指先でなぞった。

赤黒い汚れは拭われても、そこに刻まれた「死」の記憶は消えない。

 

(死の領域に触れた……そんな芸当、普通の人間にはできない)

 

彼をこうまで変えたのは――あの人狼。

青と白の毛並みを持つ、異形の戦士ジョン。

 

思い出すだけで胸の奥がざわめく。

憎しみか、嫉妬か、それとも……興味か。

 

(なぜクライムにそんな訓練を課したの? あなたは何を企んでいるの?)

 

クライムは純粋だ。

だからこそ、彼の心に「別の師の影」が根を下ろすことが恐ろしい。

彼はラナーだけの剣でなければならないのに。

 

ラナーは笑顔を崩さず、クライムの頬に触れ続けた。

「ねえ、クライム。……ジョンという人は、どんな方なの?」

 

クライムは真っ直ぐ答える。

「強く、恐ろしく……でも導いてくださる方です。私に道を示してくれました」

 

その言葉に、ラナーの胸の奥で何かが軋んだ。

導く――? それは彼女の役目のはずだ。

彼女こそがクライムの「唯一の道」でなければならない。

 

(許さない……誰であろうと、私とクライムの間に割り込む者は)

 

だが同時に、ラナーの瞳は好奇心に輝いた。

(その人狼……面白い。クライムをここまで変える力を持つなら、利用できるかもしれない)

 

支配欲と嫉妬と好奇心。

それら全てが渦巻く心の奥で、ラナーはゆっくりと笑みを深めた。

 

「クライム……これからも、その方のもとで学びなさい。あなたが強くなればなるほど、私は嬉しいのだから」

 

声は優しい。

だがその胸の内では――

(奪うわ。その力も、その導きも、すべて……あなたごと)

 

ラナーの金の瞳には、狂気の光が宿っていた。

 

 

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