オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
ひゃー勤労感謝の日まで投稿まてねぇぜ!
/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層 ジョンの私室 /*/
静謐な夜の帳が、第9階層を包み込んでいた。
天井に浮かぶ魔導燭が柔らかく揺れ、琥珀の光が部屋の黒檀の机と深紅の絨毯を照らしている。
ジョンは執務を終え、湯気を立てるカップを手にしながら一息ついた。
その時――重くも規律正しいノックの音が響く。
「――入室ヲ願ウ。」
低く、凛とした声。
ジョンは顔を上げると、近くに控えていた一般メイドの一人に目を向けた。
「シククス、誰だ?」
「はい、ジョン様。……第5階層守護者、コキュートス様でございます」
「通してくれ」
「かしこまりました」
シククスは静かに一礼し、扉の前へと歩む。
優雅な動作で扉を開けると、冷気が一瞬、部屋の中に流れ込んだ。
そこに立っていたのは――氷の武人、コキュートス。
彼の周囲には淡く霜が漂い、青く光る複眼が静かに輝いている。
その威容に一瞬息をのむも、シククスは怯まず深々と礼をした。
「ようこそお越しくださいました、コキュートス様」
「御苦労。」
低くも礼節を持った声で答えると、コキュートスは一歩、部屋に足を踏み入れる。
その足音は石床に重く響き、まるで氷の鐘の音のようだった。
ジョンは立ち上がり、軽く手を差し伸べた。
「来てくれてありがとう、コキュートス。今日はお前に少し礼を言いたくてな」
「礼……デ、ゴザイマスカ?」
「そうだ。お前が日々、戦士として、そして守護者として尽くしてくれていること――心から感謝している」
コキュートスの冷気がわずかに揺れた。
その鋭い眼差しが、ほんの一瞬、驚きの色を帯びる。
「……アリガタキ御言葉……身ニ余ル光栄。」
ジョンは微笑み、隣の小卓へと視線を向けた。
そこには、ルプスレギナが用意していた銀盆が置かれている。
「ルプー、頼む」
「はいっす♪」
ルプスレギナが軽快に動き、冷やされたグラスと琥珀色の液体――シェケラートを運んでくる。
氷の中に閉じ込められた光が、きらめくように反射していた。
「ジョン様特製っすよ~。氷も〈永劫凍結水〉で作った特注品っす♪」
ジョンはグラスを二つ取り、一つをコキュートスへと手渡した。
「さぁ、受け取ってくれ。今日は少し、肩の力を抜いてくれ」
「……主ト盃ヲ交ワス……誠ニ、栄誉。」
コキュートスは慎重にグラスを持ち、四本の腕のひとつで掲げた。
「カルバイン様ニ――感謝。ナザリックノ繁栄ニ――乾杯。」
「乾杯だ」
カシン、と氷が触れ合う音。
それは戦場の剣戟ではなく、静かな友情と信頼の音だった。
コキュートスはゆっくりと一口含む。
氷の中を通して伝わる冷気に、わずかな甘味と深い香りが広がる。
「……ウム……芳醇ナ甘味……氷ノ如ク冷静ニシテ、心ヲ温メル味……。
コレハ……主ノ心ヲ象徴スル飲ミ物……!」
ジョンは微笑んで応じた。
「お前がそう感じてくれるなら、うれしいよ。ナザリックを支えてくれる皆への感謝を込めた」
「カルバイン様ノ御心――氷ノ刃ニ刻ミ込ミマス。
我ガ剣ハ、ナザリックノ栄光ノ為ニ在ル!」
その声は凍てつくように鋭く、それでいて熱を帯びていた。
ジョンは小さく頷く。
「頼もしい言葉だ。お前がいる限り、第5階層は安泰だな」
「当然ニゴザイマス! 氷ノ守護者タル我、ナザリックノ一片トシテ、永久ニ戦ウ!」
ルプスレギナが微笑みながら、もう一度グラスにシェケラートを注ぐ。
「おかわりっす。コキュートス様が飲んでくれるなんて、ちょっと嬉しいっすね」
「ウム……美味也。コレヲ造リシ者モ、誇ルベシ。」
シククスが静かに後方で控え、扉の外へ出る前に一礼した。
彼女の目には、氷の戦士と主との間に流れる信頼が、まるで儀式のように映っていた。
やがて、静かな乾杯がもう一度。
氷と光の音が響く。
ジョンは穏やかに言葉を結んだ。
「これからも、共に歩もう。氷の守護者よ」
「御意――カルバイン様。コノ身、凍テ尽キル日マデ、忠誠ヲ誓ウ!」
その言葉とともに、青白い冷気が部屋に漂い、ろうそくの灯が微かに揺らめく。
それはまるで、忠義そのものが形を持ち、そこに在るかのようだった。
今宵、第9階層の私室では、静かで誇り高い絆が、氷の杯の音と共に深まっていった。