オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ナザリック地下大墳墓モモンガの執務室/*/
ジョンが広げた地図の上には、魔導国と周辺諸国を結ぶ主要街道の線が太く描き直されていた。
「なあ、街道整備なんだけどよ。ローマ式石畳でやってみねえか?
三層構造にして、下に砕石、その上に砂利を敷き詰め、最上層に切り出した石をきっちり嵌め込む。
雨が降っても水はけが良くて、馬車でも兵隊でも快適に進める。
しかも千年だってもつんだ。整備さえすりゃな。」
アルベドの瞳が妖しい光を帯びる。
「……つまり、帝国や王国の街道を凌駕する耐久性と利便性を持つインフラ、ということですね。
その道を使う者すべてが、魔導国の恩恵を思い知ることになるでしょう」
デミウルゴスが指先で顎をなぞり、低く笑う。
「物資の流通速度が増せば、経済力も軍事展開力も一気に跳ね上がります。
兵站を制する者が戦を制す――それを地で行くことになりますね。
しかも、街道沿いに税関を設ければ、流通を掌握し支配を強めることも可能です」
「ほほう」コキュートスが武器の柄を握りしめながら、低い声で賛同する。
「敵国ヲ攻メル際ニモ、兵士ノ行軍速度ガ格段ニ上ガル……軍事的利点ハ絶大ダナ」
「ふんっ! しかも見栄えもいいだろ?」
ジョンが笑いながら石畳を指でなぞる。
「これを真っ直ぐ伸ばして、街道の両脇には石碑や街道標を立てる。
『ここを通る者は魔導国の保護を受ける』って彫り込んでさ。威光はバッチリだ」
シャルティアが面白そうに首を傾げる。
「へえ……確かに歩きやすいでありんすなあ。ヒトの血ィ吸いに行くにも便利そうでありんす」
その言葉にアルベドが冷たい視線を送るが、モモンガは苦笑を抑えて咳払いした。
「よし。ではそれを進めよう。建設に必要な魔法や労働力はナザリックで十分に賄える。ジョンさん、指揮を執って下さい」
ジョンは胸を張り、親指で自分を指す。
「任せろ。土木ゴーレムを量産して、石材は転移で運ぶ。土魔法で基礎を固めれば、人間が百年かけても出来ない街道が、ひと月で完成するぜ!」
「……ああ、でもドワーフたちにも技術を与えてメンテナンス部隊にしたいですね」
「それなら、主要街道をナザリックで作ってサブの街道の整備をドワーフたちにやらせるか」
その場にいた幹部たちは一様に深い礼を示し、
玉座の間には、魔導国の新たな繁栄の兆しを思わせる重々しい静けさが広がっていた。
/*/ 魔導国・街道建設現場 /*/
轟音を響かせながら、数十体の土木ゴーレムが土を掘り返し、整地していく。
彼らの動きは正確無比で、まるで巨大な機械仕掛けの腕が並んでいるようだった。
「そこ、基礎をもう二尺深く掘れ! 砕石を詰めてから圧縮魔法をかけろ!」
ジョンが指示を飛ばすと、ドワーフ技師たちが手際よく道具を振るい、土魔法を操る魔導士が加わった。
アルベドは視察の途中で、石畳が次々と嵌め込まれていく光景を見つめ、陶酔にも似た声を漏らす。
「……これほどまでに秩序立った街道建設。人間ごときでは到底及びもつきませんね」
デミウルゴスは金縁の眼鏡を押し上げ、笑みを深める。
「まるで大地に刻まれる王の署名……この道そのものが、魔導国の支配を永遠に刻みつけるでしょう」
ジョンは石畳を叩き、ニヤリと笑った。
「ここを千年後に歩く奴らも、『魔導国の連中はすげえ仕事をしたな』って唸るに違いねえ」
/*/ 完成した街道・魔導国西方 /*/
石畳は地平の彼方まで真っ直ぐに延び、陽光を受けて白銀に輝いていた。
雨の後でさえぬかるみ一つなく、道の両端には水を逃す側溝まで備わっている。
最初に馬車を走らせたのは、王国からやって来た商人だった。
彼は揺れることなく進む荷車に驚愕し、思わず御者台で腰を浮かせる。
「な、なんだこの道は……!? 馬車が……揺れん!」
御者の叫びに、荷台に座っていた村人たちも目を丸くする。
「雨上がりでも靴が泥だらけにならないぞ!」
「こんな街道、見たことがねえ……!」
馬も心地よさそうに蹄を打ち鳴らし、一定のリズムで進む。
積み荷の壺や果実も倒れることなく運ばれていく様子に、商人は信じられないといった表情を浮かべた。
道の脇に立つ石碑には、整った文字で刻まれている。
《この道を通る者、魔導国の保護を受ける》
それを読んだ村人の一人が、小さく震える声で呟いた。
「……まるで神の国だ。ここまでしてくれるなら、もう誰も魔導国に逆らえやしない」
商人は唾を飲み込み、ふと背筋に冷たいものを感じた。
――便利さと繁栄、その裏に潜む圧倒的な支配力。
この道はただの街道ではない。魔導国が永遠に刻む、覇権の証そのものなのだ。
石畳を駆け抜ける車輪の音が、やがて遠ざかっていく。
残された人々は道を見つめながら、恐怖と敬意の入り混じった眼差しで、魔導国の名を口々に唱えていた。
/*/ 王国・首都会議場 /*/
王国宰相は震える指で報告書を掲げた。
「魔導国が……街道を整備したとのことです。雨の翌日でもぬかるまず、馬車が揺れぬ石畳だとか」
居並ぶ貴族たちがざわめく。
「ば、馬鹿な。そんな工事、人間がやれば百年はかかるぞ!」
「それをひと月で……? もはや魔導国は神話の領域ではないか!」
王国王は蒼白な顔で呻く。
「……交易はすべて魔導国に吸い寄せられる。あの道を通れば、どんな商人も魔導国を選ぶだろう……」
/*/ 帝国・皇帝の執務室 /*/
ジルクニフ皇帝は、報告を読み終えた途端、額を押さえた。
「……やはり来たか。戦でなく、街道で覇権を握るとは」
傍らの官僚が慌てて口を挟む。
「陛下、これは交易路を制するということ……つまり、魔導国は軍事のみならず経済でも我らを凌駕することになります!」
ジルクニフは小さく笑い、しかしその笑みは凍りついていた。
「詰んだな。我が帝国は、ますます魔導国の傘下に入らざるを得まい……」
/*/ スレイン法国・枢機院 /*/
神官たちは喜色満面で、聖典を胸に祈りを捧げる。
「これぞ、神の御業。千年もつ街道など、まさに神の軌跡!」
「いや……街道はただの道ではない。軍事侵攻の血管であり、交易の動脈だ。
魔導国の庇護の元、我々は千年の繁栄を約束されたのだ!」
老神官長は呻くように結論を出した。
「新たな神は我々に六大神に勝るとも劣らぬ加護を下さった。神の信徒すべてが、魔導国の道を歩くことになるだろう」
そのころ、ナザリックでは――
ジョンと幹部たちが石畳の完成図を眺め、満足げに頷いていた。
周辺諸国の動揺など、すでに織り込み済みのこととして。
/*/ 魔導国西方街道・新設交易拠点 /*/
真新しい石畳を、荷馬車が途切れることなく行き来していた。
王国からの穀物を積んだ車列、帝国からの織物や鉄製品を満載した商隊、さらには南方から香辛料や珍しい果実を運ぶ商人たち――。
彼らは一様に目を輝かせていた。
「なんて走りやすいんだ……馬が疲れない」
「商品が壊れずに運べる! これなら利益が跳ね上がるぞ!」
「雨の後でも乾いたままだ……信じられん」
街道沿いには自然と休憩所や宿屋が立ち並び始め、香ばしい焼きパンの匂いや、異国の香辛料の香りが漂う。
商人たちは互いに取引を交わし、その利益の多くが魔導国貨幣でやり取りされるようになっていた。
/*/ エ・ランテル市場 /*/
かつては寂れかけていた市場が、今や人の波で溢れ返っている。
「魔導国貨幣で払うよ」「こちらも魔導国の紙札で!」
人々はごく自然に、ナザリック発行の通貨を使い始めていた。
ひとりの商人が満足げに呟く。
「……街道を通れば、盗賊の心配もない。石畳は速いし、魔導国兵が護衛してくれる。
もう王国の街道なんざ、誰も使わなくなるだろう」
周囲の村人も頷く。
「税も安いし、道も安全。わしらは魔導国に生かされておるんじゃな……」
/*/ モモンガの執務室 /*/
商人たちの流入と市場の活況の報告を受け、アルベドは恍惚とした笑みを浮かべた。
「自然と商人と民草が集い、魔導国を中心とした経済圏が形作られつつあります。
他国は干渉する間もなく、その繁栄を受け入れざるを得ないでしょう」
デミウルゴスが静かに補足する。
「……支配は剣よりも道によって成される、ということですな。
交易の血流はすでに魔導国の心臓へと流れ込み、止めることはできません」
アインズは満足げに頷き、低く呟いた。
「――ふむ、これがインフラの力か。恐ろしいほどに、効果は絶大だな」
幹部たちは一斉に頭を垂れ、その威光を称えた。
/*/ エ・ランテル市街 大通り /*/
朝靄の中、通りの中央に設けられた作業区画では、ドワーフ職人たちが掛け声を合わせて石を運び込んでいた。
厚い胸板を揺らしながら、大きな石材を肩に担ぎ、次々と並べていく。
「おい、目地をもっと細かく詰めろ! 魔導国式は、千年先まで歪まねえ石組みだぞ!」
リーダー格のドワーフが低い声で怒鳴り、若い職人たちが慌てて砂利を敷き直す。
その脇では、魔導国の魔法使いが淡々と補助魔法を唱えていた。
「《土圧固定》――基礎層を圧縮、安定化」
魔法の光が走るたび、敷き詰められた砕石はまるで一枚岩のように固まり、ドワーフたちが感嘆の口笛を鳴らす。
道の両側に集まった市民たちは、信じられないものを見る目で工事を眺めていた。
「……あっという間に、石が沈まなくなったぞ」
「前は雨のたびにぬかるんでたのに……」
「これが魔導国式……本物の職人と魔法の組み合わせだ……!」
子供たちが石畳の上を駆け回り、親に叱られても笑いをやめない。
ドワーフの親方は誇らしげに腕を組み、宣言するように言い放った。
「聞け、人間ども! この街の道はもう泥には沈まん! これからは雨の日でも商いを続けられるぞ!」
拍手と歓声が沸き起こり、人々は口々に魔導国とその技術を称えた。
それは知らぬ間に、民の心を魔導国へと結びつける鎖となっていく。
/*/ エ・ランテル 中央市場 /*/
まだ朝も早いというのに、市場の大通りはもう人の声と笑い声で溢れていた。
以前は轍と泥にまみれ、雨が降ればぬかるみと悪臭で閉ざされていた地面。そこに今は平らな石畳が敷かれ、白く光る道面が陽を受けて輝いている。
車輪は軽やかに回り、荷車は以前の倍の速さで行き交う。馬が脚を取られることもなく、御者は鼻歌まじりに手綱を操っている。
「ほらよ、魚が新鮮なうちに並んだぞ!」
氷に載せられた川魚が、午前中のうちに運び込まれるようになったのは舗装のおかげだ。
「果物も安くなったってさ、港から半日早く着くらしいぞ!」
農民たちが笑顔で果物を並べ、買い手がすぐに群がる。
子どもたちは石畳を裸足で駆け回り、泥に足を取られて転ぶ心配もない。老人たちでさえ杖をつきながら安心して歩いている。
市場の端では、ドワーフの石工たちがひげを撫でながら誇らしげに完成した道を眺めていた。
「ふふ、これでようやく“市”と呼ぶにふさわしいもんだな」
石畳の道は人と物を招き、街に熱を与えていく。
エ・ランテルの市場は、まるで新しく息を吹き込まれたように脈動し始めていた。
――舗装された道が「交易の血管」となり、この街の経済を潤す未来を、人々自身が声と笑顔で証明していた。
/*/ エ・ランテル市場・視察 /*/
市場は活気に満ち、石畳の道を荷馬車が軽やかに行き交っていた。
露店からは香辛料や焼き菓子の香りが立ち上り、買い手と売り手が声を掛け合い、笑い声が響く。
その中を歩くのは、漆黒の法衣に包まれた魔導国の行政官僚――知性あるエルダーリッチだった。
虚ろな眼窩の奥で青白い光が揺れ、骨の指で握った記録板に淡々と数字を書き込む。
「取引量は顕著に増加。物流速度も予想以上の伸びです。人口の流入も確認できました」
冷静で理知的な声だが、その一言に市場の人々は無意識に背筋を伸ばす。
商人たちは最初、骸骨の官僚に息を呑むが、すぐに歓声と興奮に変わる。
「お役人様、見てください! 仕入れが倍増しました!」
「遠方の村々からも客が来るようになりました! これも石畳のおかげです!」
その場に立つ、旧王国側の住民代表――年配の商人が眉を寄せ、複雑な表情を浮かべる。
「……正直なところ、最初は戸惑った。魔導国の役人が、こんな間近で市場を監督するとは思わなかったからな」
彼は目を細め、子供たちが石畳の上で無邪気に走り回る姿を見つめる。
「だが……これを見ろ。雨が降っても泥に足を取られることもなく、荷物も無事に届く。安全で便利になった」
小さく息を吐き、肩の力を抜く。
「魔導国が支配することにはまだ抵抗はある。だが、この道、この市場の繁栄は……正直、ありがたい。人々の生活が守られるのなら、文句は言えまい」
行政官僚は冷たく頷き、記録板に筆を走らせる。
「民草は整備された街道を“繁栄”として受け取っている。統治の正当性も自然に補強されます」
同行の冒険者が苦笑しながら耳打ちする。
「死人に行政チェックされる日が来るとはな……」
広場には子供たちが笑い転げ、商人や村人も安心した顔で石畳の道を歩いている。
かつて泥濘だった場所が、今や市民生活の血流となり、街全体が新しい活力に満ちていた。
行政官僚は少し頭を傾け、冷静な声で呟く。
「民が笑うことは、国家の繁栄に直結する。評価としては非常に良好だ」
虚ろな眼窩の光がわずかに強く揺れ、冷徹な理知と共に、魔導国の統治の正しさを確信していた。