オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

78 / 396
カフェ・ロワイヤルをどうぞ

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓 第9階層 ジョンの私室 /*/

 

 

琥珀色の灯りが揺れる部屋の中、深く落ち着いた香りが満ちていた。

焙煎されたコーヒーの豊かな香りに、かすかにスパイスとブランデーの甘い香気が溶け込み、静かな高貴さを漂わせる――ルプスレギナが心を込めて淹れた〈カフェ・ロワイヤル〉の香りだった。

 

ルプスレギナは銀のトレイを手に、慎重にケーキスタンドを運ぶ。

上段にはふわりとしたスポンジに生クリームが丁寧に塗られたケーキが並び、下段には小さなチョコレートやフルーツタルトが彩りよく配置されている。

 

「ジョン様、恐怖公様がお見えになりました。フォスが扉を確認しております」

 

ジョンは書類から目を上げ、柔らかく微笑む。

「ありがとう、ルプス。さあ、通してもらおう」

 

控えめな足音と共に、扉の向こうからフォスの声が聞こえた。

「恐怖公様、ジョン様よりお招きです。お入りいただけます」

 

ジョンが頷くと、フォスは扉を静かに開き、部屋の内外を確認する。

そして、扉の向こうに黒衣の影が立った。

 

「失礼いたします」

恐怖公――いつもの黒衣に包まれた姿が、ゆったりとした動きで部屋に入る。

漆黒のマントがわずかに床を擦り、冷たくも気高い威圧感が部屋の空気を引き締める。

しかし、その目は柔らかく、深い忠誠心と敬意をたたえている。

 

「ようこそ、恐怖公。今日はこちらで少し、休息を兼ねたおもてなしをしたいと思ってね」

「光栄ですぞ、カルバイン様」

その低く落ち着いた声には、冷静さと礼儀の両方が混ざり合い、通常の威圧感は影を潜めている。

 

ルプスレギナはケーキスタンドを慎重に恐怖公の前に置き、カップにカフェ・ロワイヤルを注いだ。

「お待たせしましたっす。今日は甘めのカフェ・ロワイヤルと、ケーキでのご用意っす」

湯気とともにブランデーの芳香が立ち上がり、黒い液体がカップの縁でわずかに揺れる。

 

恐怖公は礼儀正しく腰を下ろし、カップを手に取る。

「……香り高いですな。ブランデーの温かみが、コーヒーと絶妙に調和しております」

一口含むと、深い苦味の後にほのかな甘みが広がり、目の奥にかすかな光が宿った。

 

「君の献身には、いつも感謝している」

ジョンは静かに微笑み、ケーキの前で手を合わせる。

「恐怖公。ナザリックの秩序を守るため、君は日々全力を尽くしてくれている。

だから、今日はその労いの気持ちを、少しでも伝えたくてね」

 

恐怖公はわずかに目を細め、頭を下げる。

「至高の御方に仕えることが私の務めでございますれば。

それでも、このようにお言葉をいただけるとは……胸中、感謝に満ちておりますぞ」

 

ルプスレギナが微笑みながら、ケーキを一口すすめる。

「甘いものも召し上がってくださいっす。ジョン様が特別に選んだものっすよ」

 

恐怖公は一瞬、少し照れたように見えた表情で、ケーキを口に運ぶ。

「……美味ですな。甘さも、柔らかさも、絶妙に調整されており、心が和みますぞ」

その声には、普段の威厳を保ちながらも、心から喜んでいる様子が滲んでいた。

 

「君の努力があってこそ、ナザリックは今日も安泰だ」

ジョンは穏やかにカップを掲げる。

「感謝の杯として、共に味わおう」

 

恐怖公は小さく頷き、静かに応じる。

「……ありがとうございます、カルバイン様。心より感謝いたしますぞ」

 

しばしの間、三人は香り高いカフェ・ロワイヤルと甘いケーキを前に、静かに時を過ごす。

ナザリックの深奥にあって、今日だけは穏やかで温かい時間が流れ、

その空間には、忠誠と感謝、そして労いの喜びが柔らかく満ちていった――。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。