オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ ナザリック地下大墳墓 第5階層 氷結牢獄 ニグレドの部屋 /*/
氷結牢獄の冷たい空気に、かすかな温もりが漂い始めた。青白い光が氷の壁を反射し、静寂の中にほんのりとした柔らかさを添える。
ルプスレギナが手早くワゴンを押し、フサフサとした音を立てながら、フレッシュなフルーツとクリームをたっぷり載せたタルトと、香り高い〈カフェ・ド・シトロン〉を運ぶ。
「ジョン様、準備できましたっす」
「ありがとう、ルプー。今日はニグレドに少しでも安らいでいただきたいね」
氷結牢獄に封じられ、自由に外へ出られないニグレドの部屋の前に立ち、ジョンは静かに微笑む。
「ニグレド、今日はこちらに少しお邪魔させてもらった。君の日頃の献身に、感謝を示したくてね」
リュミエールがワゴンを慎重に押しながら、部屋の入口で待機する。
彼女の細やかな手つきで、ケーキとカップはニグレドの手の届く位置にぴったりと配置される。
柔らかくも爽やかなレモンの香気が、冷たい空間に温もりをもたらす。
「失礼いたします、ジョン様、ルプスレギナ様……」
氷のように静かで整った声が響く。ニグレドは淡い青の瞳を光らせ、部屋の中央の小さな椅子に座ってこちらを見上げる。
「お招きいただき、恐縮です」
普段の冷静さと沈着さの奥に、微かに喜びの光が宿っている。
ジョンは柔らかく微笑み、手元のワゴンを軽く指さす。
「こちら、ルプーが淹れたカフェ・ド・シトロンと、季節のフルーツタルトだ。どうぞ、ゆっくり楽しんでほしい」
ルプスレギナがカップにコーヒーを注ぎ、香りが部屋いっぱいに広がる。
レモンの爽やかさとコーヒーの苦味が絶妙に調和し、ニグレドの瞳がわずかに輝いた。
「……香りだけで、心が和みます。ジョン様、心遣いをありがとうございます」
彼女は静かに手を伸ばし、カップを手に取る。温かい液体が手のひらに伝わり、氷結の牢獄の冷たさの中でもほんのりと温もりを感じる。
フルーツタルトも一口かじると、柔らかい生地と甘酸っぱい果実が口の中で溶け、目の奥に自然な笑みが浮かんだ。
「……甘美でございます。普段はこのように労っていただくことは少なく、胸が温かくなります」
ジョンは静かに頷き、ティーカップを軽く掲げる。
「君の献身があるからこそ、ナザリックは安泰だ。今日はその感謝の気持ちを、こうして伝えたかった」
ニグレドは小さく頷き、胸に手を置く。
「ありがとうございます、ジョン様。心より感謝申し上げます」
その語尾に、普段は見せない愛らしさが混じり、労われた喜びが隠し切れない様子が滲む。
ルプスレギナとリュミエールは微笑みながら、そっとお茶会を見守る。
氷の牢獄の静寂に、フルーツの甘い香りとレモンの爽やかさが混ざり合い、温かく穏やかな時間が流れる。
部屋から出られないニグレドにとって、こうして直接訪れてもらえること自体が特別な喜びであり、ジョンの心遣いは彼女の胸を深く満たしていた。
ナザリックの深奥で、忠誠と感謝、そして労いの喜びが静かに、確かに満ちていく――。