オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
シリアスが続くと溜まってくるものがあるよね
/*/アルベドとモモンガの夜/*/
アルベドは、愛しいモモンガの腕の中で深く息を吐いた。人化した主人は、しばしば死の支配者の姿を失い、儚げな人間の姿で眠っている。目を閉じ、無防備に身を預けるその姿は、アルベドにとってあまりにもか弱く、同時に守るべき存在としての感情を呼び覚ます。
そのか弱さゆえに、アルベドは自身の力を用いれば簡単に思いを遂げることができるのを知っている。しかし、腕の中で安心しきった主人の表情を見れば、その心を乱すなど、到底考えられなかった。腰の奥にぞくぞくと上ってくる衝動を押さえつつ、アルベドは自らの欲望を制御する。
「……どうして、こんなに愛おしいのだろう」
小さく呟きながら、アルベドは自分の手が無意識に動きそうになるのを意思の力で抑えた。サキュバスとしての本能は、どうしても抗えない衝動を呼び起こす。しかし、今はしもべとして、主人を守り、安らかな眠りを支えることこそが喜びなのだと、心の奥で自分に言い聞かせる。
柔らかく温かい体温が伝わる腕の中で、モモンガは何も求めず、ただ眠る。アルベドはその無垢な姿をそっと抱きしめ、胸の奥から込み上げる感情を静かに押し込める。眠る主人に触れることも、声をかけることもせず、ただ存在を感じること。それが、アルベドに許された唯一の贅沢であり、至福の時間だった。
「今日も……無事でよかった」
アルベドは心の中でそっとつぶやき、しもべとして、そしてサキュバスとしての喜びに包まれながら、主人の腕の中で眠りにつく。二人の間に流れる静かな時間は、外界の喧騒とは無縁の、穏やかで密やかな夜だった。
主人の呼吸のリズムに合わせ、アルベドは自分の心を落ち着け、今日一日の守護を振り返る。サキュバスとしての本能も、人としての感情も、すべて包み込みながら、アルベドはただ一人の存在として、愛しい主人と共に横たわるのであった。
/*/ナザリック地下大墳墓第9階層ナザリック・ウォーターパーク/*/
いつもの青と白の毛並みの人狼姿ではなく、巨躯の人間形態をとってプールを楽しむジョン。
褐色の肌に金の瞳、白髪が光を反射する偉丈夫の姿は、地下大墳墓の人工の光に照らされて一層際立つ。
一通り泳ぎを終えたジョンは、ビーチチェアにゆったりと横たわり、手にはカクテルグラス。目の前では、ルプスレギナが水面を駆け回り、泡を蹴散らして笑顔を弾けさせる。
赤いビキニに包まれた褐色の肌は艶やかで、駆け寄るたびに揺れる双丘が目に飛び込む。
「うぉ、でっか」
ジョンの視線は思わず吸い寄せられる。水面に跳ねる滴が光を反射し、ルプスレギナの笑顔と共に煌めく。
「なに見てるっすか~ジョン様~」
胸を強調するように腕を組み、迫るルプスレギナに、ジョンはにやりと笑いながら答える。
「もちろん、愛しのルプーを見ていたんだ」
「もージョン様、そういうとこっすよ!」
照れ隠しに蒸気した表情のまま、ルプスレギナはバシバシと横たわったジョンの鍛え上げられた腹筋を叩く。
「……ジョン様、大きくなってる」
「ルプーのおかげだな」
二人の距離は自然と縮まる。水の跳ねる音、軽やかな笑い声、カクテルの氷がぶつかる音が、地下大墳墓とは思えないほどの開放感を作り出す。ジョンはビーチチェアに寝転びながら、ルプスレギナの動きに合わせて視線を滑らせ、胸元や腰、柔らかく弾む曲線に見入る。
「……」
唇がゆっくりと重なり、ルプスレギナがジョンの身体に跨る。微かに伝わる温度と鼓動が、二人の間に静かな熱を生む。
「あは」
「ん、あついな」
「ジョン様の方があついっすよ」
微かな衣擦れの音と水音がプールサイドに反響し、二人以外の世界は消え去ったかのような空間が広がる。ルプスレギナの指先がジョンの胸に触れ、背筋を撫でるように滑るたび、ジョンの体は自然と反応する。
水滴が二人の肌に光を描き、泡立つ水面に二人の影が揺れる。ルプスレギナの髪の先に光が踊り、微笑みを浮かべる顔が黄金色の瞳に映り込む。
「腰上げて下さい……」
ルプスレギナの甘く、しかし少し命令めいた声が耳に届く。ジョンは微笑みながら手を伸ばし、ルプスレギナの腰を支え、二人はゆっくりと身体を寄せ合う。
水面に弾む波紋が二人の息遣いと混ざり合い、誰もいないプールサイドに水音と笑い声、ささやきが交錯する。
時間の流れはゆっくりと、しかし熱を帯びて流れ、二人だけの世界がナザリックの地下深くに静かに広がっていった。
ジョンの手がルプスレギナの背を滑り、髪に触れる。ルプスレギナは息を弾ませながら微笑み、胸を少し押し付けるように身体を近づける。
水の香り、温かい肌、響く水音が重なり、二人の距離はますます縮まっていく。
「……ルプー、ずっとこうしていたいな」
「ジョン様……私もです」
地下大墳墓の人工の光が二人を柔らかく照らし、プールサイドで過ごす時間は、甘く、熱く、そして永遠に続くかのようだった。
/*/ 夜の独白 ― シャルティアのぼやき /*/
ナザリックの夜は深く、静まり返っている。
その中でシャルティアは長椅子に腰を掛け、頬杖をついていた。
「……退屈でありんすねぇ……」
吸血鬼の花嫁たちは彼女の周囲で控えているが、その姿にシャルティアの紅い瞳はほとんど興味を示さない。
彼女らは完璧な下僕だ。命令には逆らわず、いくら弄んでも心が折れることはない。だからこそ、そこには「落差」も「恐怖」も存在せず、物足りなさばかりが募る。
「やっぱり、人間で遊ぶのが一番……でありんすよ」
低く呟いた言葉は、部屋の闇に溶けていく。
脳裏に浮かぶのは、かつての「玩具」クレマンティーヌたちの顔。
恐怖に歪んだ瞳、必死に懇願する声、誇りを砕かれてなお抗おうとする弱々しい指先。
その一つひとつが彼女を興奮させ、昂揚させる。
「命を賭けて抵抗して、なお絶望する……その瞬間が、至高の美味でありんす」
シャルティアは赤い舌で唇を舐め、肩を震わせて小さく笑った。
「花嫁は便利ではあるけれど……初めから従う奴に、心を折る楽しみなんぞ無い。……まるで味の抜けた肉を噛んでるようでありんす」
爪をカツリと机に打ちつけ、笑みはますます妖しくなる。
「至高の御方に背いてまで人間を攫うなど……絶対に許されぬこと。でも……」
紅い瞳が闇の奥で妖しく光った。
「もし、いつか許しが出るなら……あの甘美な夜を、何度でも繰り返してみせるでありんすよ」
花嫁の一人が恐る恐る声をかける。
「お慰めいたしましょうか、主さま……?」
「……ふん。お前らじゃ、物足りんでありんす」
吐き捨てるようにそう言い放つと、シャルティアは椅子にもたれ、ただ紅い瞳を爛々と輝かせながら、過去の記憶に酔いしれた。
静寂の夜に響くのは、彼女の抑えきれぬ笑い声。
乾いた嗤いは次第に狂気を帯び、ナザリックの闇に溶けていった。