オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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プレアデス定例お茶会

 

 

/*/ プレアデス定例報告会 ― お茶会 /*/

 

 

ナザリック地下大墳墓、第九階層。

重厚な扉の奥の広間では、香り高い紅茶と焼き菓子がテーブルに並んでいた。

 

これは毎月一度、プレアデスが集まり情報を交換する場――表向きは「報告会」。

しかし実態は、姉妹同然の彼女たちが束の間の休息を楽しむ「お茶会」でもあった。

 

「では……まず、警備区画の巡回について報告」

冷静沈着なシズが簡潔に報告を済ませ、静かに紅茶を口に運ぶ。

 

「シズはいつも淡々としてるっすね~。もっとこう、楽しい話はないんすか?」

ルプスレギナが頬杖をつきながらお菓子をつまみ、からかうように笑う。

 

「任務の報告会……楽しい話は不要」

即答するシズに、ルプスレギナは肩をすくめて笑った。

 

「まったく、シズは相変わらずですね」

ナーベラルが小さく溜め息をつきながらも、内心は頼もしそうに目を細める。

 

その隣では、ソリュシャンが艶やかにカップを傾けながら口を開いた。

「わたくしは情報収集の件を。……最近、エ・ランテルの市街に潜む商人どもが面白い動きをしておりましてよ」

妖艶な微笑と共に語られる諜報の話に、場がわずかに張り詰める。

 

「ん~でも、堅苦しいのはいやっ!」

発言を遮るように、エントマが蜂蜜をたっぷりかけた焼き菓子にかぶりつき、もごもごと声を上げた。

「……あまい……しあわせ」

 

「エンちゃん、かわいいっすねぇ~。ほら、もっと食べな」

ルプスレギナが嬉々として皿を差し出し、エントマはこくりと頷いて受け取る。

 

その光景を見て、ユリ・アルファはわずかに微笑みながらも姿勢を正し、皆に向けて言った。

「任務に励むのは当然ですが……こうして集まることで連携も強化されます。お茶会を軽んじてはなりません」

 

「立派な意見です。ユリ姉様」

ナーベラルが皮肉めいた調子で言うと、ユリは動じず真面目に頷く。

 

「ふふ……結局、みんな仲良しなんだから」

ルプスレギナが笑い、場は柔らかい空気に包まれた。

 

紅茶の香りと甘い菓子の匂いが漂う中、定例報告会は静かに、しかし確実に彼女たちの絆を深めていく。

 

「……ふふ。やはりこうして甘いものを口にするのもよろしいですけれど……」

 

艶めいた笑みを浮かべ、ソリュシャンが紅茶を揺らす。

「わたくし、どうしても思ってしまいますの。甘味なら、人の“純粋な魂”に勝るものはないのではないかしらって」

 

「……ソリュ」

ユリが静かに制止するように名を呼ぶが、ソリュシャンは楽しげに続けた。

「罪人や盗賊など、苦味ばかりで口当たりが悪いのですもの。むしろ……無垢な者の方が、よほど芳醇で甘やか。あぁ……一度でいいから、そうした逸品を口にしたいですわ」

彼女の目が潤んで見えるのは、紅茶の蒸気のせいではないだろう。

 

「……にく」

もごもごと、エントマが蜂蜜まみれの菓子を食みながら呟いた。

「……かたいの……あきた。やわらかいの……たべたい」

 

「おいおいエンちゃん、怖いこと言ってるっすねぇ~」

ルプスレギナはおどけて笑いながらも、皿に新しい菓子をのせて差し出す。

「ほら、これで我慢しな~」

 

エントマは素直に頷いて受け取ったが、視線の奥にはまだ、血の滴る肉を欲する光が消え残っていた。

 

紅茶と焼き菓子の甘い香り。

その裏にひそむ、血と肉への淡い渇望。

プレアデスのお茶会は、やはりナザリックに相応しく――甘美で残酷な時間だった。

 

 

/*/ 第九階層・ナザック・モモンガの執務室 /*/

 

 

ルプスレギナがひょいとお菓子をつまみながら、にやにや笑ってジョンに話しかけた。

「ねぇジョン様。さっきの報告会でさ~、ソリュシャンとエンちゃん、人間食べたいってぼやいてたんすよ。ソリュシャンなんて“無垢なやつが一番美味しい”ってさ~」

 

「……無垢?」

ジョンは腕を組み、唸るように考え込む。金の瞳が細く光った。

「そうか……そうだ!いいこと思いついたぞ!」

 

勢いよく立ち上がったジョンに、周囲が一瞬目を向ける。

「ソリュシャンは花街に行って、望まぬ妊娠をしてしまったお姉さんたちの……その、中絶を手伝えばいい! そうすれば“無垢なる者”を食っても、どこからも文句は出ないじゃないか!」

 

「……っ!?」

横で聞いていたモモンガが、思わず声を上げる。

「天才か!……いや待て。本当にいいのか、それは? 正気で言っているのか、ジョン?」

 

「もちろんさ! これなら罪人でもないし、無垢な存在だし……需要と供給が一致する!」

ジョンは自信満々に胸を張った。

 

モモンガは頭を抱える。

「需要と供給の話ではないだろう……。いや、だが一理あるのか……? ……いやいや、いや待て……」

 

ルプスレギナは腹を抱えて笑った。

「ジョン様、発想がぶっ飛んでるっすね~! でも確かに、ソリュシャン喜びそう!」

 

モモンガは深いため息をついた。

「……結論を出す前に、ソリュシャン本人の希望も聞いてみよう。な?」

 

 

/*/ 第九階層・ナザリック・モモンガの執務室 /*/

 

 

ルプスレギナがケタケタ笑う中、ソリュシャンが優雅に姿を現した。

波打つ髪を揺らし、赤ワインのような瞳を細めながら、ジョンとモモンガを見やる。

 

「まぁ……とても面白い発想ですわねぇ」

指先で唇をなぞりながら、妖艶な微笑を浮かべる。

「“無垢なる者”を頂けるのであれば、わたくしはそれで満足ですわ。望まれていない命であればなおさら……甘美に感じられますもの」

 

「……」

モモンガは沈黙したまま、心の中で葛藤していた。

(やはり止めるべきでは……いや、しかし、ソリュシャンが満足するのなら……)

 

ジョンはにやりと笑う。

「だろ? これなら誰も損しない! むしろ救済と食欲を両立できるんだ」

 

「ふふ……ジョン様はやはり面白いお方ですわ。どんなに歪んでいても、理に適ってさえいれば“正義”になり得るのですものね」

ソリュシャンは甘くとろけるような声音で告げ、長い舌でそっと唇を湿らせた。

 

「お、おい……」

モモンガが小さく呻く。

「……いや、決めるのは私ではなく……結局、アインズ・ウール・ゴウンの方針だ……。だが、これは……」

 

ルプスレギナが悪戯っぽく口を挟む。

「んじゃ、ソリュシャンにその“任務”与えるのもアリっすね~。エンちゃんも柔らかいお肉にありつけるかも?」

 

「……ん、やわらかい……ほしい」

いつの間にか背後にいたエントマが、もごもごと呟いた。

 

モモンガはしばし沈黙していたが、やがて低く呟いた。

 

「……ふむ。確かに、検討に値するな」

 

その一言に、場の空気が変わった。

ジョンが「ほら見ろ!」とばかりに胸を張り、ルプスレギナがケタケタ笑い、ソリュシャンは艶めかしい笑みを深める。

 

「さすがはモモンガ様……!」

ユリが思わず感嘆の声を漏らし、ナーベラルまでもが恍惚とした表情で頷く。

 

「わたくしの欲望をここまで的確に理解し、しかも理として昇華なさるとは……やはり至高の御方のお考えは常人には及びもつきませんわ」

ソリュシャンは恍惚とした表情を浮かべ、胸に手を当てる。

 

「……やわらかい……お肉……」

エントマも無表情のまま頷き、蜂蜜のように甘い声をもらした。

 

「ん~、やっぱりジョン様の突拍子もない発想と、モモンガ様の決断力! 最高っすね!」

ルプスレギナは尻尾をぶんぶん振りながら笑う。

 

モモンガは内心、冷や汗を流していた。

(ま、待て……うっかり口にしただけなのに……みんなが“さすが”って顔を……! い、いや……ここで撤回したら逆に威厳が……!)

 

「……よし。この件は今後の作戦として、ソリュシャンに一任しよう」

 

その言葉が決定打となった。

「「「さすがはモモンガ様!」」」

広間に一斉に響き渡る称賛。

 

モモンガは心中で頭を抱えつつも、玉座の王としての威厳ある態度を崩さずにいた。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓第9階層モモンガの執務室 /*/

 

 

静まり返る広間に、モモンガのため息が漏れる。

「……アルベド、デミウルゴス。少し相談したい」

 

恭しく頭を垂れた二人が前に進み出る。

 

「ソリュシャンの件だ。……いや、私も軽々しく承認してしまったのだが、本当に“それ”で良いのだろうか?」

モモンガの声には珍しく迷いが滲んでいた。

 

アルベドは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに熱に浮かされたような微笑みを浮かべる。

「……なんという慈悲深さでしょう。ご自分の決断を正しいと確信なさってもおかしくないのに、あえて配下の意見を求められる――」

陶酔したように胸に手を当てる。

「その謙虚さこそ至高。だからこそ、モモンガ様の一挙手一投足が、我らにとって絶対の指針となるのです」

 

デミウルゴスも眼鏡の奥で瞳を輝かせ、深く頷いた。

「まさしく。あえて“迷い”を口にされることで、我らの知恵をも引き出し、より高みに至ろうとされる……。愚かなる凡俗にとっては矛盾に見える行為すら、至高の御方の手にかかれば知恵の泉となる」

唇に笑みを浮かべる。

「その先見の明、そして御心の深さ……。流石は、モモンガ様でございます」

 

(いやいやいやいや! 本当に軽率に言っちゃっただけなんだよ!?)

モモンガは心中で頭を抱えるが、外見は王者の威厳を崩さずに静かに頷く。

 

「……そうか。お前たちがそう言うのなら……よし、この件は継続して進めよう」

 

「「流石はモモンガ様!!!」」

 

その瞬間、またしても広間に響き渡る歓呼の声。

ますます引き返せなくなる未来を想像しながらも、モモンガは王として玉座に君臨し続けるしかなかった。

 

 

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