オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/エ・ランテル冒険者組合・新規事業「冒険劇」/*/
エ・ランテルの冒険者組合では、依頼の遂行報告の中から特に顕著な功績を残した冒険者パーティを選び、その活躍を劇化して市民に公開する取り組みが始まった。
劇場は組合の隣に新設され、舞台は魔法灯に照らされる豪奢な造り。俳優や吟遊詩人、そして魔導国の幻影魔法師たちが協力し、壮大な演出で物語を再現する。観客は庶民から貴族、商人、旅人まで幅広く、連日大入りで賑わった。
「漆黒のモモン」に続く新たな英雄像を生み出し、市民に希望を与えるのが狙いだ。冒険者たちは自らの活躍が劇となって語り継がれる可能性に胸を躍らせ、依頼に対する熱意も増していく。
ある日、舞台にかけられたのは「赤鉄の剣」パーティの活躍だった。
オークの群れを退治した戦闘を再現した場面では、炎の幻影が舞台を覆い、観客から歓声と拍手が沸き起こる。英雄役の俳優が大剣を振るうたびに、子供たちは目を輝かせた。
裏でジョンは、組合員たちに向けて言う。
「劇にしてやれば、冒険者たちも“自分の働きが人々に知られる”って喜ぶだろう。顕示欲を満たしてやれば、定着も進むし、街の士気も上がる」
モモンガも感心して頷く。
「なるほど……一石二鳥ですね。冒険者を繋ぎ止め、市民にも娯楽を与える。英雄譚は人の心を掴みやすい……」
こうして、エ・ランテルはただの冒険者の町ではなく、「冒険を文化として楽しむ都市」へと変わっていった。
/*/エ・ランテル冒険者組合・劇場運営の裏側/*/
劇場に観客が詰めかけるのはもはや日常の光景となっていた。舞台に立つ俳優たちは冒険者の活躍を華やかに再現し、観客は拍手と歓声で応えた。
「漆黒のモモン様に続け!」
「次はどのパーティが舞台化されるんだ?」
そんな声が街中にあふれ、冒険者たちの顕示欲は大いに刺激された。
しかし、副作用も現れていた。
ある若手の冒険者パーティは、劇に取り上げられることを狙って無茶な依頼を請け負い、半壊状態で戻ってきた。
「……やっぱり派手な戦果を出さなきゃ目立てねぇんだよ!」
彼らは息も絶え絶えにぼやき、治療院で寝かされる羽目になった。
また別の例では、依頼を怠慢にこなした冒険者が、組合の判断で「失敗談」として劇に上演されてしまった。舞台上で無様に逃げ惑う役者を見て、観客は大笑いする。本人は真っ赤になりながら酒場に逃げ帰った。
「ちくしょう! なんで俺たちだけ笑いものにされなきゃならねぇんだ!」
そんな騒動をよそに、子供たちは劇を見て冒険者に憧れるようになった。
「ぼくも大きくなったら“黒鉄の斧”みたいに魔物をやっつけるんだ!」
「わたしは“蒼刃の矢”のお姉さんみたいになりたい!」
組合の奥で報告を聞いていたジョンは、肩を竦めながらも口元に笑みを浮かべる。
「まあ……目立ちたい奴は勝手に頑張るし、笑われたくない奴は真面目に働く。どっちに転んでも、依頼は回るってわけだ」
モモンガは書類を閉じて、静かに呟く。
「……英雄を生み出すのも、愚か者を晒すのも劇場ひとつ。なるほど、人の欲望を巧みに利用した仕組みですね」
こうしてエ・ランテルの劇場は、娯楽であると同時に「冒険者統制の舞台」として機能していった。