オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ   作:ぶーく・ぶくぶく

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黒い玄武岩都市

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者組合・新規発見報告/*/

 

 

霧が厚く立ち込める峡谷の奥、冒険者パーティは足を踏み入れた。地図には存在しない未知の領域――そこに、黒い玄武岩の都市は忽然と姿を現した。

 

「……これは……一体……」

隊長の声は震え、仲間たちも無言でその異様な光景を見つめる。

 

都市の建物は規則正しいはずなのに、どこか歪み、視界の端で形が狂う。塔は天を突く高さでそびえ立つが、角度が不自然で、見上げると脳が理解を拒むような錯覚を覚える。道や広場の配置も、非ユークリッド幾何学を思わせ、歩を進めるごとに道がねじれ、同じ場所に戻ってしまうような感覚に襲われる。

 

壁面に刻まれた紋様は生き物の視線のように動くように見え、視線を逸らすと、影がゆらゆらと不自然に伸びたり縮んだりする。空気は重く、耳を澄ますと微かに遠くからうめき声のような低音が響き、距離感を狂わせる。

 

「……ここに生き物が……?」

魔法使いの声が漏れる。壁や建物の影、裂け目の奥に長く細い、這うような影が見え隠れする。しかし、そこに形を確定できるものはなく、正体は決して把握できない。

 

隊長は慎重に魔法感知の結界を展開するが、都市全体がまるで意志を持つかのように結界の感知をずらし、場所を混乱させる。

都市はただそこに「存在している」だけなのに、理解不能な秩序と狂気が同時に押し寄せる。

 

冒険者たちは記録用の魔法文書を開き、都市の構造、魔法陣、異常現象を記録しようとする。だがページに書き込むたび、文様がねじれ、文字が歪む。まるで都市そのものが、記録の試みを拒んでいるかのようだ。

 

黒い玄武岩の都市――それは、古の存在の残滓を留め、人知を超えた何かが蠢く場所。

その存在は名前を持たず、姿も明確ではない。だが確かに、ここに、かつて人知を超えた知性が息づいていたことを示している。

 

こうして、未知なる黒い都市の発見はエ・ランテル冒険者組合に記録されるが、都市の奥底に潜む秘密は、人間の理解の及ぶ範囲をはるかに超えている。

その存在は、冒険者たちの夢にも影のように忍び込み、脳の片隅に説明不能な不安と恐怖を植え付けていった。

 

 

/*/ エ・ランテル冒険者組合・幹部会議室/*/

 

 

黒い玄武岩の都市の発見から数日後、組合幹部たちは重苦しい空気の中で集まっていた。

 

「……あの都市、普通の人間に調査させるなど危険すぎます」

幹部の一人が震える声で口を開く。

「観測報告だけでも、空間の歪み、影の異常、壁に潜む不定形の生物の存在……正体不明の現象が多すぎる」

 

別の幹部が資料を広げ、黒い都市の記録を指し示す。

「魔法感知の結果、都市全体が意志を持っているかのように結界を避け、構造を歪ませています。探索者が内部に踏み込めば、戻れない可能性すらあります」

 

組合長は眉をひそめ、書類を手に静かに言った。

「……ああ、これは間違いないな。人間に渡す調査など論外だ」

 

幹部たちはうなずき、会議室には静寂が広がる。窓の外に広がるエ・ランテルの街並みとは対照的に、議題は暗澹とした沈黙に包まれていた。

 

「決定します」

組合長は低く、重々しい声で宣言した。

「黒い玄武岩の都市は禁止区域とする。組合所属の冒険者でも、許可なく立ち入ることを禁ずる」

 

「市民や商人が興味本位で近づくことも許されません」

別の幹部が付け加える。

「記録と報告は、組合本部の魔法感知装置と遠隔魔法によってのみ行います。直接の探索は禁止です」

 

幹部たちは、魔法による観測装置や幻視の結界の準備を進めながら、都市の不可解な形状や異常現象を遠くから監視する体制を整える。

誰も都市の内部に足を踏み入れることは許されない。そこは、人間の理解を超えた、恐怖と未知の存在が棲む領域なのだから。

 

都市の暗い影は、組合の決定を知るかのように、夜の霧の中でさらに濃く、奇妙にねじれた姿を見せる。

だが、誰も近づくことはできない――冒険者組合が定めた「絶対の禁忌区域」として、都市は静かに息づき続けた。

 

 

/*/ 黒い玄武岩の都市周辺・野営監視地点/*/

 

 

冒険者たちは都市から十分に距離を取った丘陵地にテントを張り、野営しながら遠隔魔法で都市の監視を続けていた。

夜風が吹き抜け、焚き火の炎が揺れる中、魔法陣を敷いた円形の観測陣から、黒い玄武岩の都市が淡く浮かび上がる。

 

「……あれが、あの都市か」

一人の冒険者がつぶやく。遠隔魔法で投影された映像は、昼間よりも不気味さを増していた。塔や壁の角度が歪み、都市全体が微かに膨張と収縮を繰り返しているように見える。

 

「見えるか……? 壁の間から影が……」

別の冒険者の声が震える。投影映像の中で、半透明の影がゆっくりと伸び、まるで観測陣の方へ迫ってくるように見えた。

 

魔法技師が青ざめ、指先で魔法陣を修正する。

「結界が揺れて……魔法の流れが乱れています!」

 

焚き火の光と魔法の光が交錯し、映像の都市はねじれるように変化する。塔や壁の間から、影の生物がよじ登るのが見え、奇妙なうめき声のような音が遠くから響く。

 

「都市自体が……動いている……!」

誰かが声を上げる。焚き火の揺らめきと影の動きが相まって、錯覚かもしれない恐怖が野営地全体を覆った。

 

魔法技師が必死に呪文を唱えるが、都市から伸びる影に干渉されるように観測魔法の光は瞬き、時折途切れかける。黒い窓からは赤い光が漏れ、遠隔視界の中で都市は迷路のように変化を続けた。

 

「撤退だ……全員、距離を保て!」

テオ・ラケシルの低く冷たい声が夜の静寂に響く。

「この都市は……自らの意思で干渉してきている。近づけばどうなるか……分からん!」

 

冒険者たちは焚き火から離れ、魔法陣の範囲を広げながら安全距離を確保する。遠隔投影は瞬間的に乱れ、黒い影の波が視界の端で波打つ。

 

野営地には静寂が戻ったが、誰も安心できなかった。都市からの影響は、遠隔監視でもこれほどまでに迫る――

もし人間が近づけば、想像を絶する危険が待ち受けているのは間違いなかった。

 

テオ・ラケシルは焚き火の炎を見つめつつ、都市の方向を静かに凝視する。

「……これ以上は危険だ。禁止区域の指定を強化し、遠隔監視を続けるしかない」

 

冒険者たちはうなずき、慎重に夜の野営監視を継続した。

黒い玄武岩の都市は、遠く離れたこの場所からでも、暗黒の生命を宿したまま、静かに息づいているように見えた。

 

 

 

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