オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 翌朝 リ・エスティーゼ王国王城・来賓控室 /*/
朝の光がステンドグラスを透かし、七彩の輝きが古びた石壁を染め上げていた。
王国の朝は穏やかだ。遠くで小鳥が囀り、城下の人々が一日の支度を始める音がかすかに届く。
――だが、その静けさの中で、レメディオス・カストディオは窓辺に立ち、眉を寄せていた。
茶色の髪を高く結い上げ、聖騎士団長としての礼装を纏う姿は、誰の目にも勇ましく、気高かった。
しかし胸の奥では、剣よりも鋭い感情が渦を巻いていた。
(……カルカ様が、遠い国の王に嫁がれるとは……)
胸に沈むのは、祝福ではなく痛み。
守り抜けなかった無力さ、そして――“誰にも渡したくなかった”という、騎士らしからぬ独占の情。
カルカ・ベサーレス。
主君にして、信仰の象徴にして、何よりも――絶望の闇を共に越えた唯一の光。
「……姉さん」
背後から静かな声。
振り返ると、妹のケラルト・カストディオが立っていた。
彼女もまた、神官の礼装に身を包みながら、その顔には穏やかな微笑を浮かべている。
「王都の空気は、悪くありませんね。人々が穏やかに暮らしている。
……陛下も、我らを丁重に迎えてくださった」
「分かっている。だが――頭では理解していても、心が追いつかんのだ」
レメディオスの拳が、無意識に震える。
「聖王国では、どれほどの屈辱を耐えても、この手でカルカ様をお守りできた。
だがここでは違う。私の剣を差し出す相手は――“聖王女”ではなく、“王妃”だ」
「それでも、護ることに変わりはありませんよ、姉さん」
ケラルトの声はやわらかく、しかし確かな力を帯びていた。
「カルカ様はようやく、“戦わずに生きられる場所”を得られたのです。
私たちの務めは、その安らぎを守ること。
――剣を抜くことではなく、抜かずに済む日々を続けさせることです」
その言葉に、レメディオスは目を伏せた。
“戦わずに済む日々”。
それは、これまで信じてきた「正義」とはあまりに遠い。
だが――昨夜、王妃となったカルカの顔を思い出す。
あの柔らかい微笑。聖王国では決して見られなかった、安らぎの表情。
――あれを護るためなら、剣を抜かずとも構わない。
胸の内に、静かな決意が灯る。
「……わかった。ならば私は、“聖王女の剣”ではなく、“王妃カルカの盾”となろう」
言葉を吐き出すように呟き、レメディオスは腰の剣に手を置いた。
その刃はまだ抜かれていない。
だが忠誠の矛先は、すでに新たな主のもとへと向けられていた。
東の窓から朝日が差し込み、鎧の金装が静かに光を返す。
それは、まるで天が彼女の新たな誓いを祝福しているかのようだった。
/*/ 聖王女の守護者、今は王妃の影となる /*/