オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 同日午后 リ・エスティーゼ王国・王城神殿棟 /*/
柔らかな光が石造りの回廊を満たしていた。
王城の一角にある小聖堂――聖王国の白き大聖堂に比べればずっと質素だが、飾られたステンドグラスには確かな敬虔さが宿っている。
ケラルト・カストディオは、聖典を抱えたまま、静かに祈りを終えた。
祭壇の前で十数秒、沈黙。
そして、目を開いたときには、数人の神官が控えていた。
「……お祈りが長いのですね、カストディオ殿」
声をかけたのは、王国神殿を統べる大司祭――レオナール・フェイン。
年老いた学者然とした男で、温厚な目の奥に、鋭い理知の光を宿している。
「はい。聖王国では、祈りは己の内省でもあり、罪の告白でもありましたので」
「なるほど。こちらでは、祈りとは“願い”であって“罰”ではありません。
……信仰というより、共に在るという形ですね」
レオナールの言葉は穏やかだが、どこか探るようでもあった。
ケラルトは微笑みを保ちながら応じる。
「そういう信仰も、悪くはありません。私たちは“罪と贖い”を説くあまり、人を縛りすぎていたのかもしれませんから」
その答えに、大司祭は目を細めた。
「あなたは、ずいぶん冷静だ。……聖王国の方々は、我々の信仰を“異端”と呼ばれるのではないかと、内心怯えておりましたよ」
「姉は、きっとそう言うでしょうね」
ケラルトは小さく苦笑した。
だがその声音には、あたたかなものが混じっていた。
「ですが私は思うのです。神の御心は、一つの形に縛られはしない。
――カルカ様がこの地に来られたのも、定めの導きでしょう。
ならば私たちは、定めを拒むのではなく、どう受け入れるかを学ばねばなりません」
「……なるほど」
レオナールは深く頷いた。
「聖王国の狂信を知る者」としての先入観が、少しずつ溶けていくのを自覚する。
「王妃殿下の御心の支えとして、あなたのような方がいるのは心強い。
王妃殿下は、この国において、どのような信仰をお持ちになるおつもりですか?」
その問いに、ケラルトは少し考えてから、静かに答えた。
「きっと、祈りを“形ではなく心に置く”でしょう。
……彼女はもう、象徴であることに疲れています。
これからは、“祈られる側”ではなく、“祈る人”として生きることを、望まれるはずです」
その言葉に、神官たちは一瞬、息を呑んだ。
王妃としてではなく、一人の信徒として。
かつて“聖王女”と呼ばれた存在が、そのように在るというのは、あまりにも新鮮な響きだった。
「……それが本当に叶うのなら、王国にとっても福音ですな」
「ええ。どうか、その日が長く続きますように」
ケラルトは祈るように頭を垂れた。
そしてその背後で、ステンドグラス越しの光が、聖典の金文字を照らす。
――それはまるで、彼女の誓いを祝福するようだった。
剣を振るう姉が“盾”として仕えるなら、
自分は、“祈り”でその盾を支える者になる。
カルカ様の笑顔が、二度と曇らぬように。
/*/ 信仰を紡ぐ者、剣と盾のあいだに祈りを /*/