オーバーロード~狼(以下略)~その他まとめ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 竜王国奥地・ビーストマン領域/沈黙都市/*/
漆黒のモモンは、灰色の霧に包まれた荒れ果てた平原を歩いていた。前方にかすかに見えるのは、ビーストマンのかつての都市の廃墟――沈黙都市である。
この都市は、数十年前に三体のソウルイーターが出現したことで、十万に迫る人口のほぼ全てを失い、今や生きた者は誰もいないという。遺棄された建物は崩れ、瓦礫の間からは黒い霧が立ち上る。
「……ここが、沈黙都市か」
モモンは低くつぶやき、黒いマントを翻しながら街の中心へ進む。霧の中で、かつて人々の生活があった痕跡は不自然に歪み、まるで都市そのものが生き物のようにうねるように見えた。
一歩踏み込むたびに、地面のひび割れから冷たい風が吹き、死者の呻きのような音が遠くから届く。
「死の螺旋――発生していないか……」
モモンは観測魔法を展開し、アンデッドの兆候を探る。だが、廃墟を包む異常な魔力により、魔法の光は時折歪み、赤黒い影が投影の端で蠢く。
瓦礫の向こうに、骸骨や腐敗した亡骸が無秩序に転がる。生気を持たないはずの死体の中に、わずかに意思を持ったかのような光が瞬く瞬間がある。モモンの鋭い目がそれを捉えると、微かに背筋が凍る。
「……知能を持ったアンデッドか……?」
思わずつぶやく。都市全体に漂う死の螺旋は、単なる残骸ではなく、漆黒の魔力を帯びた存在を生み出す可能性を秘めていた。
モモンは慎重に進みながら、死体の間を調査する。崩れかけた塔の上からは、赤黒い霧がまるで視線を送るかのように漂う。遠くで、かすかに低いうめき声が響くが、音源は定かでない。都市そのものが生き、侵入者を試しているかのようだった。
「ここは……生きて帰れる者はいない」
モモンは冷たくつぶやき、鋭い爪先で瓦礫を蹴りながら前進する。
遠くの影が突然、まとわりつくように伸び、死の螺旋の中心に潜む存在の気配を示す。モモンは身構え、あらゆる魔力の感知を最大にする。
都市は静まり返っているのではない――沈黙の奥で、かつての死者の魂の断片が螺旋状に絡み合い、知性あるアンデッドを生み出す可能性を秘めている。
漆黒のモモンが、この恐るべき都市で何を見出すのか。闇の中で、全てはまだ予測不可能だった。
/*/ 竜王国奥地・ビーストマン領域/沈黙都市/*/
漆黒のモモンは、黒い霧に覆われた沈黙都市の中心部へと進む。瓦礫と廃墟の迷路が続く中、かつて十万を超える人口を誇った都市の痕跡は、不気味な静寂に包まれていた。
「……あれが、三体のソウルイーターか」
モモンの目の前に、崩れかけた広場の中央で、異形の存在が立ちはだかる。三体のソウルイーター――かつて都市を壊滅させた黒き化身たちだ。黒煙のように漂う体躯から、かすかに死の魔力が渦巻く。
モモンは一切の動揺を見せず、静かに彼らを観察する。その感覚は鋭く、あらゆる死と魔力の波動を読み取る。ソウルイーターたちは都市の中央に鎮座するように並び、今なお漆黒の力を帯びて存在していた。
しかし、視界の端――瓦礫と崩壊した建物の影から、何者かが潜む気配を察知する。ソウルイーターとは異質の魔力。知性を持つ存在の気配であり、容易には相手の正体を掴めない。
「……これは、手の内を晒す愚を犯すべきではない」
モモンは低くつぶやき、距離を取りながら周囲を警戒する。都市の闇の中で、何かが息を潜め、彼の動きを窺っている気配は確かに存在した。
一歩踏み出すたび、瓦礫の影がねじれるように動き、遠くからかすかなうめき声が響く。死者の魔力は未だ都市に残り、モモンの感覚を試すかのように螺旋状の波動を広げる。
「……よし、撤退する」
モモンは冷静に判断する。三体のソウルイーターは確認できたが、未知の存在に対して不用意に踏み込むことは、自らの手の内を明かす愚となる。
都市の暗闇に背を向け、モモンは漆黒の翼を広げて飛び去る。瓦礫の間に潜む影の気配は、まるで逃げ去る者を嘲るかのように追随するが、モモンは一切振り返らず、沈黙都市の深奥に潜む謎を次回の調査に残したまま去った。
漆黒の都市は、今日も変わらぬ不気味な呼吸を続けている。