星の海を渡る船   作:仁倉

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魔術師vs戦車

「まさか」

呆然とつぶやいたジョセフは慌てて機内前方に向かって走り出す。顔を見合わせた後、他の面々もややあって共に向かっていった。

追いついた先はコックピット。ジョセフが失礼、とスチュワーデスを強引に避けさせて扉を開ける。

次に続いたのは承太郎だった。これ以上の侵入者はと立ちはだかろうとした彼女たちは承太郎の美しい姿をみて思わず惚けるが、どんと押しのけられてしまう。

(ショックゥ〜…!)

「おっと。」

その後ろに続いていた花京院が2人を優しく受け止めた。

「失礼。今は緊急事態。許してやってください。」

「は、はい…!」

花京院の紳士的な対応に思わず顔を赤らめる彼女たち。

この、なんとも言えない奇妙な寸劇に、後ろにいたアヴドゥルと十輪寺は唖然とする他なかった。

(…同年代って、なんだっけ…?)

 

 

だがしかし。コックピット内はうって変わって最悪な状況を呈していた。

「なんてこった…!してやられたッ!!」

最後尾だった十輪寺がコックピットに入り見たもの……それは、全面に飛び散った血痕と、舌を抜かれ倒れ伏す機長たちの亡骸だった。あまりの凄惨さに思わず十輪寺は口を覆う。

(しまった…!機長たちを狙う手があった!)

――十輪寺の悪夢の落とし穴。当然、見ることができない最悪の未来も存在する。呆然とこの有様を見る十輪寺の前で承太郎とジョセフは冷静に状況を分析する。

「降下しているぞ…。自動操縦装置も破壊されている…!」

ジョセフは皆に向かって冷汗隠さぬまま、宣告した。

「…この機は、墜落するぞ。」

皆が息をのんだその時だった。十輪寺が自身のうなじにひたりと一滴水滴が触れたのを感じて振り返ったその時。

「ぶわばばばあはははーーーッ!!」

突然、死んだとばかり思っていた灰の塔の本体が血反吐を撒き散らしながら現れた。不気味にも高笑いするその老爺に思わず悲鳴を上げかけながら十輪寺はさっと後退する。

なに、と皆呟き構えを取るが老爺に戦う余力は残されてはいない。ただ、ジョースター一行を嘲笑う。

「わしは事故と旅の中止を暗示する「塔」のカードを持つスタンド!お前らはDIO様の所へは行けんン!!」

吹き出す血すら気に止めず、老爺は呪詛を撒き散らした。自分の命を顧みない。そのおぞましい忠誠心から来る断末魔に、皆震撼する。

「DIO様は『スタンド』を極めるお方!DIO様はそれらに君臨できる力を持ったお方なのドァ!貴様らはエジプトへは決して行けん!!」

最期の最期、倒れ伏すその時まで、灰の塔はDIOを讃えて息絶えた。

ひっ、と、一部始終を後方から見ていたスチュワーデスが息をのむ。叫びを必死にこらえた彼女たちに終始冷静だった承太郎はクイッと、操縦席に座った自身の祖父を示しながら指示を出した。

「このじじいがこの機をこれから海上に不時着させる!他の乗客に救命具つけて座席ベルトをしめさせな。」

その物言いに、どうするべきかと必死に思案していたジョセフは思わずわしが?と自分を指差す。それを無視し承太郎は言い切った。

「じじい…」

承太郎は祖父に目で訴えかける。ううむ……と、ジョセフは顔をしかめて呟いた。

「プロペラ機なら経験あるんじゃがの…」

「プロペラ…」

セスナだろうか。花京院が思わず反芻する。実際のところは飛行機の操縦経験があるだけでも感心すべきところだが、命がかかっている以上それどころではない。十輪寺も青褪めてジョセフを見る。

……皆の様子を知ってか知らずか。ジョセフは、こんな状況下だというのに、言ってはならぬことをぼやいた。

「しかし承太郎…。これでわしゃ3度目だぞ。人生で3回も飛行機で墜落するなんて、そんなヤツあるかなぁ…」

頬をかき本当に疑問、といった様子でそれをつぶやくジョセフに、皆思わず呆然と溜息をつく。

「……二度と。」

承太郎はため息まじりに言葉を漏らした。

「二度とテメーとは一緒に乗らねぇ。」

 

 

 ***

 

 

神にも祈る、とはこの状況を言うのだろう。コックピットすぐ近くの座席前で十輪寺はその時を待ち構える。

「…十輪寺、今はジョースターさんに任せるしかない。君もシートベルトを。」

かろうじてパニックにはなっていない機内の中、泣き声やつぶやき声に混じってアヴドゥルが声をかける。それに十輪寺は険しい顔をして答えた。

「…もし。もしも危なくなったときのために自分はこのままでいます。…ヤバくなったらモビーがいつでも動けるように。」

「…どういうことです?」

花京院が顔を歪めて問うのに、十輪寺はぎゅっと手を握りしめて答えた。

「彼女に皆を飲み込ませます。どれだけの人を救えるかはわからないけれど…とりあえずモビーの中に入れてしまえば安全です。」

冷汗隠さぬ十輪寺の様子にアヴドゥルは息をのんで問うた。

「十輪寺。…君のネイビー・モビー・ディックの能力は、一体?」

「…飲み込んで吐き出す。それだけです。」

目をそらして十輪寺は答える。そのまま彼女は続けた。

「…自分は波紋で衝撃に耐えることもできる。着水がうまく行かなかったその時は」

「十輪寺。」

焦りから来るその言葉を制したのは花京院だった。

「自分も勘定に入れてますか?」

「…え?」

花京院の紫の目がひたと十輪寺を見据えていた。

「自分の命を守ることも換算してください。…皆を救うことは至極大事だが、君が命を落とすリスクがあるならわたしは反対する。」

その言葉にアヴドゥルも頷いた。

「何、私たちもその時はできる限り皆を救うために動くさ。」

十輪寺は呆然と返す言葉無く立ち尽くした。それに苦笑して花京院とアヴドゥルはさあ、と肩を叩き十輪寺を席に座らせる。

「…大丈夫ですよ。ジョースターさんならどうにかするじゃあないかな。」

苦笑いを隠さず花京院は言った。

 

 

 ***

 

 

結果として、ジョースター一行を乗せた飛行機は香港沖35kmの地点で無事着水に成功した。衝撃で大勢怪我人はでたものの、不幸中の幸い犠牲者は出なかったようである。

……ジョースター一行は騒ぎに乗じてスピードワゴン財団の手を借り、一足先に空港を極秘裏に脱した。灰の塔の老爺の件などの事後処理も財団が関与するそうである。

 

 

――という内容をジョセフが公衆電話でやり取りするのをそれとなく聞きながら、十輪寺は香港の町並みに目を移す。……まさか、エジプトではなくこんなところにたどり着いてしまうとは。

(香港か…中国に来ちゃうなんてね。)

中国は波紋の生まれた広大な国。万が一のため、十輪寺は中国語もわずかに読めるようにはしている。ぼんやりとあの看板の意味は何だったか……などと考えているとアヴドゥルたちから声がかかった。見ると何やら屋台で粥を頼もうかと話していたところらしい。

「十輪寺、君もどうだい?」

「あ、私は…」

その時がちゃんと音がしてジョセフが大声をかけて皆を呼び寄せた。4人して顔を見合わせる。どうやら屋台のおいしそうなお粥は平穏を取り戻すまでおあずけらしい。

 

 

「ここがわしの行きつけの店じゃよ。」

今後の話をするために、とジョセフはある料理屋に皆を連れてきた。立派な中華式の門構えに整備された中庭。……見事に高級料亭である。

そんな料亭にそのまま入っていくジョセフ。割と気に止めていないのかそれに承太郎とアヴドゥルが自然とついていく。

「……予想通り、というか。」

「なんていうか。…お金持ちって、凄い。」

躊躇ってからそれに続いた花京院と十輪寺は、自然と最後尾になり思ったことを共有できる相手としてボソリとつぶやく。

「…花京院さんはこういうところ来たことある?」

「流石にないかな。家族と来たときはここよりグレードの低いところでした。」

「結局あなたもそこそこ金持ちか…」

そういえばエジプトくんだりまで家族旅行するんだものな、と十輪寺は思い返して溜息をついた。よくよく考えれば花京院は英語を完璧に話している。彼女の物言いに花京院は苦笑いした。

「そうなのかな。今まで同世代の家庭事情なんて気にしたことがなかったので…」

「自分ちは毎年の飛行機代くらいしか余裕ないですよ。」

席に近づいたため十輪寺は話を切り上げ承太郎の右隣に座る。花京院は一瞬目を伏せたが、すぐに承太郎の左隣の席に腰掛けた。

「…波紋でホリィが少しでも楽になると良いのだが。」

ジョセフがううむとうなりながら言う。

「根本解決にはなりませんが、苦痛はある程度は抑えられるはずなのです。」

十輪寺が悲しげに笑いかける。その言葉にうむ、と頷いてジョセフは話を切り出した。

「そう…限界が来る、50日以内にDIOを倒さねばならぬ。」

その言葉に一同はさっと身を引き締める。花京院が悔しげにあの飛行機なら今頃……とつぶやくと、皆の目が一瞬暗くなった。

だが、とジョセフは顔を上げ、皆を安心させるようにウインクして言った。

「案ずるのはまだ早い…。ジュールベルヌの小説では80日間で世界一周を旅する話がある。飛行機でなくても50日あればエジプトまで行けるさ。」

そこで、とジョセフは世界地図を取り出した。

「ルートだが、わしは海路を行くのを提案する。船をチャーターしマレーシア半島をまわってインド洋を突っ切る。」

地図を目でおって、皆ルートを確認する。

「私もそれがいいと思う。陸は国境が面倒だし足止めを食らう危険がいっぱいだ。」

アヴドゥルの補足説明に花京院と承太郎も納得する。

「お二人に従うよ。」

「同じ。」

皆が納得したか、と顔を見回せば、十輪寺だけは地図をじっくりと眺め考え込んでいる。

「…十輪寺、君は?」

アヴドゥルが尋ねると、ハッとした十輪寺は顔を上げごまかすように手を降った。

「失礼、自分も賛成です。海上で何もなければ最短でしょう。」

どこか含みのある言葉にジョセフは頷いて答えた。

「…確かに。一番の危険はDIOが差し向けてくるスタンド使いだ!いかにして、見つからずにエジプトに潜り込むか…」

ここで一旦話は終わった。ジョセフはあらゆる想定をと考え込み始め、アヴドゥルとともに地図のルートを再確認している。隣では承太郎と花京院が何やらお茶について話しているようだった。

……そんな中十輪寺はアヴドゥルの手元にある地図の、インドのある地をぼんやり見つめて考えていた。

(インドには波紋の一族の残した遺跡がある。もし時間があれば…何か戦いに役立つものがあるかもしれない。)

ぼんやり考えるがすることもない。十輪寺はすっとメニューに手を伸ばしパラパラとめくる。いまいち理解するのに時間がかかる漢語に悩んでいると、一行の席に1人、男が近づいてきた。

「すみません…私はフランスから来た旅行者なんですが、どうも漢字が難しくて…助けてほしいのですが…」

銀髪を立ち上げた独特の髪型をした男がメニューをもって申し訳なさそうに声をかけてくる。承太郎がすげなく「向こうへ行け」と返すが、ジョセフがそれを咎めた。フランス人からさっとメニューを受け取ると、ええと、とジョセフは指でおっていく。

「わしゃ何度も香港には来とるからメニューぐらいの漢字は大体わかる。」

フランス人とジョセフがやいのと話すのを見ていると、ふいに「おい」と承太郎から声をかけられ十輪寺はビクリと彼を見た。

「はい」

その明らかにびびった様子にしかめっ面を変えることなく承太郎は言った。

「おめー、メニュー読めるだろ。まともで美味いもん頼んどけ。」

「え?」

十輪寺は意外な注文にキョトンとし、同じく不思議そうな顔の花京院と目を合わせたあと、承太郎に目を戻す。やれやれだぜ、といつものセリフを言ったあと、承太郎はボソリとつぶやく。

「あのじじいが、まともなの頼めると思うか?」

「…ああ」

2人は納得し、高校生組だけで食べたいものをウェイターにこっそり伝えた。

 

 

そして来た料理は承太郎の想像のさらに上を行くものだった。

「エビとアヒルとフカのヒレ…ではなくて、貝と魚とカエルの料理に見えますが…」

「こうなると思ったぜ。俺達の分はまだか?」

はぁ、とため息をついて皆でジョセフを見やる。ジョセフは笑ってごまかした。

「ま、いいじゃないか!何を注文しても結構美味いものよ、みんなで食べようじゃないか!わしのおごりだ!」

一瞬の沈黙の後、各々とりあえず手を出し始める。……もちろん、カエルの丸焼きには誰も手を伸ばしはしない。

「他は食べられるだろうが…これは、な。」

「…安心してください、第二陣は普通の中華料理です。」

「なんじゃと?!聞き捨てならんぞ2人とも!」

承太郎のボヤキに十輪寺が普通を強調して返す。慌てつつも怒るジョセフすら、蛙には手を付けなかった。

「…おお、これは!」

だが口にした料理は味付けもしっかりとしていて美味しいものだった。……こうなってくると十輪寺としては蛙が気になってしまい仕方がない。そろそろと丸焼きに手を出す様子に「チャレンジャーだな」と頭上からボソリとつぶやきが降ってきた。

「まずくはないと思うのです。」

「ですが見た目が…」

花京院も茶々を入れてくるがそれに「足だけにします」と返して彼女はおっかなびっくり解体していく。その様子を高校生2人が食べるのも忘れてじいっと見守るのを、ジョセフとアヴドゥルは半ばあきれた心地で見やっていた。

「…何やっとるんじゃ、お前ら。」

「解体捕食ショーを見てるんだぜ。」

「…その例えやめて頂けません?」

何とか肉のみにしたところでパクり、と十輪寺はカエルを口に放り込んだ。2人が息をのみ、2人がそれに呆れる。

「……悔しいけど美味しい。」

「美味いのか。」

「悔しいですが…」

「なんじゃその悔しいとは!頼んだわしに対する当てつけか!?」

やいのやいのとテーブルが盛り上がったところだった。フランス人が舌鼓をうっていた中、一言言葉をこぼしたことで場の雰囲気がさっと一変した。

「手間ひまかけてこさえてありますなあ…ほら、この人参の形。星の形、なんか見覚えあるなぁ〜…」

『星の形』。その一言に、皆がざっとフランス人を睨んだのを見て、十輪寺は困惑する。……ジョースター家の星のアザを、十輪寺は知らない。

「首筋にこれと同じ形のアザを、もっていたな……」

その一言で一同が臨戦体制に入ったことを十輪寺は察する。それに倣うように呼吸を整え始めたその時だった。大皿に守られた粥がいきなりボコリと音を立てたかと思うと、ガボン!!と一筋の剣が突き上げられた。そのままの勢いで剣はジョセフに振り下ろされる。彼は咄嗟に義手である左手でそれを受け止めた。スタンドで叫んだアヴドゥルは、魔術師を出現させ剣に放つが。

『何ッ!』

剣は、ひとふり弧を描くと魔術師の炎を文字通り捌いた。

剣の先――いや、剣の持ち主の姿が顕になる。銀の甲冑をまとった騎士。剣先にまとわせた炎を、今度は騎士が突き放った。

アヴドゥルが防御のためにテーブルを倒してそれを防ぐ。――防いだかに見えたが、それも敵の計算内だったようだ。

……テーブルに、火時計が描かれていたのだ。

「な、何という剣さばきッ!」

思わず驚愕の声を上げる一行に、彼は名乗りを上げた。

「俺のスタンドは戦車のカードを持つ『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』!」

男はカッと目を見開いて宣言した。

「貴様ら全員を血祭りにしてやろう…。まずはモハメド・アヴドゥル!!貴様からのようだな!」

男の銀の戦車がサッと切っ先でテーブルを指し示す。

「そのテーブルに火時計を作った!火が12時を燃やすまでに貴様を殺す!!」

 

 

「全員表へ出ろ!順番に切り裂いてやる!」

 

 

 

 ***

 

 

 

ポルナレフと名乗った敵はこちらに背を向けたまま先を進んでいく。

(後ろから襲われても平気というわけか…)

その様子を見て十輪寺は思案する。相手に隙はない。先程の言動からしてよほど自信を持っているのだろう。

(それにしても…どこへ?)

一行がそう考えていた時だった。前方に奇怪なオブジェの数々が見えてくる。

――タイガーバームガーデン。

クルリとポルナレフは向き直った。

「予言してやる…アヴドゥル。貴様は貴様自身のスタンド能力で滅びるだろう。」

挑発だろうか、余裕綽々でポルナレフはそう言ってのけた。それを見てアヴドゥルはマジシャンズレッドを出現させる。

「これだけ広い場所なら思う存分スタンドを操れるもの…」

構える騎士と、揺らめく炎。相対した2名は戦闘に入った。

 

 

(どうなるんだろう…そしてあの敵の余裕は何だ?)

剣戟を躱す魔術師を見ながら十輪寺は固唾を飲んで見守る。……彼女自身はスタンドバトルの経験がない。花京院と多少やり合った程度だ。だから見て対処を練る必要があると感じていた。

(悪夢は見ていないけど…だからと言ってどうにかなる問題でもない…!)

シルバーチャリオッツの剣捌きが途端に早くなる。たまらずマジシャンズレッドが火を放つと敵はそれを巻き込んでアヴドゥルの後ろを攻撃する。するとそこには。

「ああ!」

背後の岩をくりぬいて作られたのは実に精巧なマジシャンズレッドの彫像。剣と炎によってそれを、敵はやってのけたのだ。

「野郎ッ!コケにしている…!」

ジョセフが悔しそうに歯噛みする中、相も変わらずポルナレフは不敵に笑う。

「なかなか…この庭園にマッチしとるぞ、マジシャンズレッド。」

……だが、アヴドゥルは冷静だった。手をすっと構えると魔術師が呼応するように熱を帯び始める。その様子にポルナレフも目をすがめた。

「来るな…本気で能力を出すか…。面白い、うけて立ってやる。」

それを見てジョセフがはっとしたように皆に指示を飛ばした。

「何かに隠れろ!アブドゥルのあれが来る。…とばっちりで火傷するといかん。」

(あれ?)

皆が疑問に思った瞬間だった。

 

 

「クロスファイヤーハリケーン!!」

アヴドゥルの声とともに、アンクをかたどった炎の塊が放たれた。熱気に思わず皆が手を出し身をかばう。しかしポルナレフはそれを真っ向から受け止めた。

「これしきか?この剣は炎を弾き飛ばすと……いったろーがァ!!」

その言葉は決して、決して誇張ではなかったのだ。シルバーチャリオッツが剣を振りかざす。舞う火の粉。煌めく銀の太刀筋。

銀の戦車はアヴドゥルのクロスファイヤーハリケーンをその勢いのまま魔術師へと返したのだ。炎がマジシャンズレッドもろともアヴドゥルを包む。

「ああっ!」

十輪寺は思わず声を上げた。……件の男が言っていた『予言』とはこのことなのか。

「予言通りだな…自分の炎で焼かれて死ぬのだ!!」

だがアヴドゥルは意に返さなかった。そのまま魔術師をポルナレフに差し向けたのだ。

「やれやれ…悪あがきかッ!見苦しい!」

ポルナレフが一線、放った時。……その正確な剣捌きで彼は異変に気がついた。

「妙な手ごたえッ!これは…」

言い終わらぬうちに、今度はポルナレフ自身が火に包まれていた。

「炎で目がくらんだな…」

焼かれていたはずのアヴドゥルが無傷で悠然と立ち上がるのを、十輪寺は茫然と見ていた。皆が感嘆の声を上げる。

「貴様が切ったのは人形の方だ!関節を溶かし操った…。そして改めてくらえッ!クロスファイヤーハリケーン!!」

今度こそ、怯んだ銀の戦車に炎熱が直撃した。

「占い師の私に予言で戦おうなどとは…10年早いんじゃあないかな。」

 

 

皆がポルナレフの状態を確認する中、十輪寺はただ唖然とするよりほかなかった。

(みんな…強い。)

彼女はそれを見て手をぎゅっと握りしめる。やはり自分はまだまだなのだ。保健室での承太郎といい、飛行機での花京院といい。そして今回のアヴドゥルのバトル。なぜあんなにも勇敢に立ち向かえるのだろうと十輪寺は考える。幼少のころから悪夢を現実化させないために、悪夢をコントロールできるようにと鍛錬を積んでいても、自分はその悪夢に振り回され続けるという恐怖は離れていかない。

(私も強くあらねば…)

皆がポルナレフに背を向けるのを見て追従しようとした時だった。バコン、何かが外れる音がした。

一同はさっと振り返る。――そこには宙に飛び上がったポルナレフ。

「ブラボー!おお、ブラボー!」

その体に大火傷の様子は見られない。何故、と皆が思ったのを予期してポルナレフは言った。

「ふふ…感覚の目でよく見ろ!これだッ!!」

着地したポルナレフの隣には……細身になった、甲冑の取れたシルバーチャリオッツがいた。

どういうことだ、と皆があっけにとられる。炎を放ったアヴドゥルも目を見開いている。

「…私の能力を説明せずに君を始末するのは騎士道に恥じる…。説明させていただいても?」

アヴドゥルは瞬間彼をじっと見つめた後、「畏れ入る」と頭を下げた。

「私のスタンドの防御甲冑を脱ぎ去ったのだ…。そして、甲冑を脱ぎ捨てたことによって!!」

その言葉を合図に、シルバーチャリオッツが7体に分裂した。皆が驚愕する中、ポルナレフは不敵に笑った。

「ば…ばかな!?スタンドは1人1つのはず…」

「これは残像。感覚に訴える残像だ!」

そして彼はチャリオッツに命令する。

「今度の剣捌きはどうだァー!!」

 

 

そこからは激戦だった。アヴドゥルの放ったクロスファイヤーハリケーンは悉く捌かれ、地に落ちていく。そのかわり彼の顔にはアンクの形の傷が刻まれる。7体に分裂したように見えるシルバーチャリオッツに攻撃を放ったところですべて本物ではない。

「アヴドゥル!」

ジョセフが焦りの声を上げる。アヴドゥルはよろめきながらポルナレフに言った。

「なんという正確さ…これは相当訓練されたスタンド能力!」

「訳あって10年ほど修業した。次なる攻撃で君にとどめをさす!」

その言葉にアヴドゥルが反応した。

「あくまで騎士道精神にのっとり礼を失せぬ奴…!ゆえに私も秘密を明かそう。」

「ほう…」

彼らは不敵に笑った。

「実は私のクロスファイヤーハリケーンはバリエーションがある…分裂させ放つことが可能!!」

 

 

「クロスファイヤーハリケーンスペシャル!!躱せるか!?」

その声とともに魔術師は十字架をいくつも発射したが、それでもポルナレフは余裕を崩さなかった。

「くだらん!甘い甘い甘い!!前と同様にこのパワーを貴様に!!」

万事休すかと思われたその時。――地面の中から、クロスファイヤーハリケーンが現れた。

「な、何ィ!?」

一同は驚愕する。状況を冷静に見ていたジョセフが言う。

「炎で穴を掘っていたのか…!」

「言ったろう。私の炎は何体にも分かれて飛ばせると…」

クロスファイヤーハリケーンが直撃したチャリオッツ……いや、ポルナレフは炎の中で崩れ落ちる。それを見たアヴドゥルはすっと短剣をかざして彼の前に放った。

「炎で焼かれるのは苦しかろう。その短剣で自害するといい。」

言ってアヴドゥルは背を向ける。その様に十輪寺は心音が止まらぬ思いで見守った。

(まだ…まだ背中を狙ってくるかもしれないのに!)

ポルナレフは、はたして短剣を握った。そして逡巡したのち。

「…うぬぼれていた。」

からん、と彼は剣を手放した。

「このまま潔く焼け死ぬこととしよう…それが君との戦いに敗れた君への礼儀…」

そう言って彼はがくりと気を失った。それを見たアヴドゥルは火をぱちんと消す。その様を、十輪寺は唖然と見ていた。――いや、もう1人も。

「あくまで騎士道とやらの礼を失せぬ奴!DIOからの命令をも超える誇り高き精神!!」

アヴドゥルはポルナレフに駆け寄り抱きかかえた。

「何か理由があるはず…ハッ!!」

その額には、何かうごめく肉の塊のようなものがあった。……十輪寺は知る由もなかったが、それは肉の芽だった。

「これは…JOJO!」

承太郎がスタープラチナを出す。経緯が分からない十輪寺は首をかしげるがそれに対しジョセフが言う。

「うええ~!十輪寺!見ない方がいいぞ!あの触手は気持ち悪いからなあ!」

「触手…?」

そんなやり取りをしている間に承太郎の方で動きがあり、十輪寺は目を向けた。……結果的に目を向けない方がよかったと思うわけだが。

「…あの、あれは、なんです…?」

後ろではジョセフがギャーギャーとわめいている。青ざめた顔の十輪寺に対し、答えたのは花京院だった。

「肉の芽。DIOが人を操るために脳内に埋め込んだものです。」

「…え?てことはあれ、花京院さんにも…?」

「まあそういうことです。」

硬い声で花京院はそっけなく答えた。その間にも触手はびちびち動いている。その動きにジョセフは早く抜け!とわめきたてる。十輪寺はそのグロテスクさに固まって動けなかった。

 

 

肉の芽が抜け、ジョセフが冗談を飛ばす。火傷を負っているだろうポルナレフの治療のために十輪寺が波紋を流す中、花京院は1人ポルナレフをじっと見つめていた。

(同じように肉の芽を植えつけられていたというのに、彼は最後まで卑怯なことをしなかった。)

先程の戦いを見て花京院は考えていたのだ。なんで自分はあんなにも卑怯な戦法をとってしまったのだろう。何故、どうして、と。

(…僕の心が弱かったせいだ。だからDIOに声をかけられたとき安心してしまったんだ。全て委ねてしまったんだ。)

彼は3ヶ月前のことを想起していた。反吐を吐くほどの恐怖に屈した自分自身を思い出し、人知れずこぶしを握り締める。

(僕も、強くありたい。)

彼は仲間たちを見る。高潔な意思とは彼らのことを言うのだろう。……尊敬するなら、こういう人たちがいい。

友人になるなら、こういう人たちがいい。

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