IS 短編物置   作:ネコ削ぎ

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ボロ雑巾でした。


デボラの恋愛模様

 教室にてボクは恋をしていることを再確認する。

 それは近所の格好いいお兄さんだったり、同じ幼稚園の男の子だったり、学校の先生だったりと。とにかくどこかしらで恋をする。

 また、恋をする相手も人それぞれだ。異性だったり同性だったり異種族だったりと、本当に対象も様々。

 ボクは自分で言うのもなんだけど可愛い女の子だ。それも少女とカテゴライズされるような年頃の。まさしく可愛いが似合う年代の女の子。見た目も可愛い系のものが似合う高校生だ。

 そんなボクは小学校高学年の時に初めて恋をした。俗に言う初恋。

 あれは運命の出会いだったかもしれない。いや、運命の出会いに違いない。

 初恋は実らないなんて迷信がある。それは恋に恋する乙女時代の気の迷いで、その人そのものを想っているわけではないから実ることなんてない。恋心に憧れて脳が錯覚を起こしているだけだ。

 本当の恋は二回目から始まる。そう豪語して初恋を甘酸っぱい想い出にしてしまう人がいるけど。ボクはそうは思わない。

 初恋だから実らないが当たり前だなんて、そんなはずはない。実る初恋があってもいい。全世界の初恋が実らないものだとしても、私の初恋だけは実ると断言する。いいや、実らせると宣言する。

 友達に初恋成就させる宣言をしたら笑われた。いちいち宣言しなくてもどうせ実らないだから諦めなよ、ってね。友達って所詮は他人だから残酷だよ。

 でもボクは諦めない。諦めたらそこで人生終了だって、偉いのか偉くないのか分からない教員が言ってた。だから諦めずに人生ゲーム+脳内シミュレーションをしながら初恋に精を出す。人生ゲームの達人は人生の達人だってゲーム廃人が言ってたらしいから、ゲームだなんだと馬鹿にできない。

 多くの先人たちの言葉を背中に受けながらボクは全力で初恋します。

「って、思ってたんだけどな。これは予想外だよ」

「どうしたの、デボラ?」

 思わず出てしまった独り言に反応した友達になんでもないよと返す。そうすれば「あ、そう」と笑って他の友達との会話に花を咲かせる。もうちょっとだけ気にかけて欲しかったな。でもま、ちょっとだけでも声をかけてくれたんだからいい友達だよ。

 全力で行くためには行動あるのみだ。こうしてはいられない。

 おそらく同じように初恋をしている友達に別れを告げて、ボクは教室から出ていく。 

 

 

 

 デボラ・パラボラレラ。

 今世でのボクの名前。名前の通り外国人。

 前世のボクは日本人だったから、十七年経ってもいまだに違和感が付きまとっている。

 前世でのボクの名前は上原仕(かんばらし)幸子(ハピネス)。完全なドキュンネーム。これじゃあ外国人と何ら変わらない名前だ。真っ当な両親なら絶対に名付けない名前だよ。つまりボクの前世の両親は真っ当じゃなかったってことだ。

 真っ当じゃない両親の元に生まれたボクの生き方は、これまた真っ当なものじゃない生き方だった。

 どれくらい真っ当じゃないかというと箱入り娘だ。

 物心ついてから自分の意思で家の外に出たことのない箱入り娘で、家の外に出た回数は数えることができちゃう。幼稚園も小学校も通えたのは初日だけで、そのあとはずーっと家の中で過ごしていた。

 身体が弱くてベッドから離れることができない。だから学校に行きたくても行くことができない。それだけじゃなくちょっと外に出ることもかなわない身体だった。

 両親はそんなボクが不憫で仕方なくて一つの行動に出たんだ。

 それはね、外の世界から誰も訪ねて来ないように両親以外は面会謝絶にすること。人が来なければ外を知ることもなく憧れることもない。外に出たいと愚図ることもない。

 娘のためを想っての行動とは言えね、少しだけおかしな人たち。それがボクの両親だった。

 表向きはね。

 両親の本当の姿はそんな変なおかしさじゃない。

 本当の姿はただの育児放棄と虐待を行う最低な両親だった。

 両親は何か気に入らないことがあると、ボクを蹴ったり殴ったりご飯を減らしたりしてきた。痛かったしひもじい思いもした。

 虐待を受けていたのなら誰かに助けを訴えればいい。普通の人ならそう言うだろうけどね。残念なことにボクは普通じゃなかった。

 おかしな両親から生まれたボクには常識がなかったんだ。だってね、小さいころからの育児放棄と虐待に晒されてきただけのボクは嫌なことだけどそれだけが当たり前の世界だった。他のことなんて全く知らなかったし、外に出るという考えも思いつかない。両親によって必要最低限の時以外はずーっと家の中の一室に閉じ込められていたんだ。

 両親はボクを病弱と偽って家の中に閉じ込めて真実を隠していた。

 彼らはちょっと愛情表現がおかしいだけで、娘のことを考えている優しい両親だって嘘ついていた。

 でもね、嘘は暴かれるもの。それも予想外の形で。

 小学五年生のころだった。ボクの世界が広がったのは。

 ボクを外に連れ出してくれたのは一人の非常識だ。両親と同じで、僕と同じで、社会からしてみれば非常識と認識されるような男の人だった。

 ボクが両親に暴力を振るっていた時に男の人は現れ、瞬く間に両親を殺してしまった。サッとナイフを振ると血がぷしゅーってね。体中にかかってきて服も髪もびちゃびちゃになった。

 ああ、きっとボクもぷしゃーって血が飛び出すんだ、と思っていたんだけど男の人は両親を殺して満足したのか、それともボクを哀れんだのか、ボクのことをチラリと見ただけでいなくなった。

 その時にボクは恋に落ちた。当時はそれが恋なんて理解できなかったけど、外の世界に保護されて、そこでできた友達に教えてもらって初めて分かったんだ。

 ああ、恋だ。ハッピーライフだ。ボクはあの人殺しに恋をしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  教室を出て全力で歩いていると前方から織斑くんがやってきた。両隣に篠ノ之さんとオルコットさんがいる。とても仲良さそうに歩いている。

 織斑くんはそれぞれと仲良さそうで、篠ノ之さんは織斑くんとだけ仲良さそうで、オルコットさんも織斑くんとだけ仲良さそうに見える。同級生の欲目じゃないと思う。

 うん。きっと見えるだけだ。実際は三人ともとても仲が良いに違いない。とっても深いアイコンタクトと、仲が良いからこそ遠慮なく言える罵り合いこそが仲の良い証拠だ。恋は盲目と言うけれど、ボクの目は晴天のようにクッキリと物事が見えているから本当に間違いはない。

 同じ学年のお隣さんクラスの関係に間違いは本当にないと断言するよ。同級生パワー。

 間違いはないんだけど……なんとボクの友達が織斑くんのことを好きだから仲良いよね、なんてことは素直に言えない。いいや、言ってもいいんだけどね。

「というわけで今日も仲良いよね」

 片手をビシッと上げて声をかける。全力全開での声だから気がつかれないことはない。

「どうだ、セシリア。私と一夏が一緒だと仲良く見えるのだぞ」

「はぁ。何を勘違いしているのですか。アレはわたくしと一夏さんを見て言ったのですよ」

 ほら仲良し。ああやって言葉を交わして互いを高め合ってる。仲が悪かったら言葉を交わすことはないのだから。

 ニコリと笑って三人とも仲良いよ、と言っておいた。お世辞じゃなくて事実。私の目が腐っていたとしても真実だから。

「箒さんとも仲が良い? それは何の冗談ですの」

「私がこんな猫被りと仲良いと言うのは不本意だ」

 全否定された、それも両方から。

「いやいや仲良いだろ」

 でもね、織斑くんがボクの味方をしてくれた。とっても嬉しい。鈍感なくせにね。

「そうそう。織斑くんの言う通りさ。ちょおっと離れて見てみれば、とっても仲良く見えるよ。うん、はっぴーだね」

「デボラさん。ハッピーじゃありませんわ」

「そうだ、パラボラレラ先輩。私もこんなのと同じに思われるのは不愉快です」

「うっふっふぅ。照れ照れ隠しだね。素直でよろしい」

「いえ、照れ隠しではありませんが」

「えぇえぇ、分かってるよ。客観的に見てるかどうかの違いだって。だって二人は織斑くんにこいして……むぐぬ!?」

 恋してるんだから、と言おうとしたら篠ノ之さんの手のひらが私の口を塞いだ。突然のことなんで首がグキッてなった。コヤツ、武道の心得があるな。

「パラボラレラ先輩。世の中には言って良いことと悪いことがあるんです。そして空気を読むということをしてください」

 憤怒の表情を浮かべた篠ノ之さんに注意される。ボクの方が年上なのにこの扱い。

「解放して差し上げたらいかがです、箒さん。デボラさんも悪気があって言ったわけではありませんから」

 オルコットさんがほほ笑む。

「それにこの程度で怒るなどと、そんな短気では似つかわしくありませんわ。誰にとは言いませんけど」

「ふん。遠回しに言えば美しいとでも思っているのか?」

「ズケズケと仰るよりは優しいと思いますよ」

 何だと、と握りこぶしを作る篠ノ之さん。ボクの口は塞がれたまま。

 篠ノ之さんの戦闘態勢を見たオルコットさんはじりじりと後ずさる。顔はできるだけ余裕さを表現しているけど行動には余裕がない。口を塞がれたままのボクも余裕がない。だって息苦しいんだもん。

 しっかりと肺に空気を取り込みたいボクは全力全開で手のひらを引っぺがす。すみません忘れてました、と謝られた時は自分の空気感に泣きそうになった。最近は泣けば何でも許されると思っている人ばっかだ。生憎、ボクは困ったら泣くという手段を封印しているから罵り放題だ。罵り過ぎると、いざと言う時に使えなくなるからほどほどにね。

 深呼吸を三回。体中に酸素が循環していくようなそうでないような感覚になる。

 ボクが深呼吸をしている間に、篠ノ之さんがオルコットさんを追いかけ回していた。さすが代表候補生なオルコットさん。お嬢様お嬢様しているけど足が速いし息切れも起こしてない。きっと後数分は逃げ続けることができるかもしれない。うん、数分の命を大事に過ごしてもらいたいね。

 ボクもボクの恋の為に行動を再開しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之さんたちと別れてすぐに、ボクは目的地にたどり着いた。

 用務員室。ボクの恋のお相手がいる場所。

 ノックもせずに思いっきりドアを開ける。けたたましい音が響いたが関係ない。だって愛だの恋だのの間には障害なんて意味ないんだから。いやいや意味あるなきゃ困る。障害は恋を燃え上がらせるための燃料なのだ。

「おっはよー」

 部屋に入って挨拶をする。

 相変わらず物置みたいに光の入ってこない部屋の片隅からぬっと人影が姿を見せる。

「よむー。おはよう」

 ボクの恋人の名前はよむー。愛称だ。

 よむーは暗がりの中からゆっくりゆっくりやってくる。ちょっと頼りない顔が特徴の普通の大人の男性だ。見た目は完全に草食系男子。

「静かにドアを開けられないか」

「ムリ。全力全開で生きてますから」

「ムリ言うな。全力全開で努力しろ」

 なるほど。さすがよむーだ。ボクの一歩も二歩も先を行く考え方を持っている。だから恋してます。

「で、何の用事だ」

「遊びに来ました」

「教室という名前の牢獄に帰れ。もうすぐ授業だろうが。また留年しちまうぞ」

 留年という言葉におもわずボクは身体をくねらせて反応する。よむーが気持ち悪いぞ、と呟くが気にしない。恋は盲目。都合の悪いモノは見ないに限るよ。そうして見たいことだけ見て悪い男にひっかかっちゃうんだ。恋って恐ろしい。

 でもそれでいいかも。だってボクは人殺しという悪い男に引っかかっちゃうことができたんだから。

 気持ちがハッピーになってよむーに飛びつく。ああ、金臭い。そんな気がする。

「おまえは……女子が気安く飛びつくんじゃない。そういうのはブランドモノだけにしておけよ」

「よむーブランド」

「需要ねぇな」

「自己嫌悪はやめて」

「主観的にも客観的にも需要ないから、自己嫌悪にはなり得ない」

 うっふっふぅ。それでこそよむーだ。貴方の心がボクに向いてくれるまで、また向いてからも恋して愛してあげるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生を望んだことは一度もなかった。だって転生なんて言葉を知らなかったから。

 でもある時ボクは転生という言葉を知ることになった。

 光の玉みたいなものがゆらりゆらりと現れて、ボクに転生話を持ちかけてきたんだ。人間以外の生物(?)に話しかけられたのはこれが初めてできっと最後だと思う。

 ボクは転生が分からないと言うと、光の玉はざっくりとした説明をしてくれた。簡潔に言うと生まれ変わるとのこと。

 生まれ変わる。それってどういうことだろう。生まれ変わると何が変わるんだろう。

 全てが綺麗さっぱりになるのかな。心も体も真っ白になって本当に一からやり直すのかな。

 記憶もなくなって過去の出来事も全てがパッと消えて、転生した事実すらも忘れて生まれ変わって幸せになれるのかな。

 転生したからとしても幸せになれるのかな。だってまた同じような両親の元に生まれて、同じような境遇を味わう可能性があるかもしれないんだ。転生=幸せには結び付かない。

 幸子(ハピネス)なんてまさしく冗談としか思えないような生き方をしていたボクは、来世に対してハッピーを想像することはできない。

 だって、転生先には恋したあの人殺しさんがいないんだ。恋を諦めてどうしてハッピーが想像できるんだよ。

 そこでふと思った。

 とても自分勝手なことだけど、どうしようもないほど利己的だけど、あの人をボクと同じように転生させればハッピーになれると思った。

 同じところに転生すればボクの恋は断たれることはない。

 うんうん。とてもいい考えだ。これ以外に道はない。

 世間一般からしてみればボクは両親を惨殺された可哀想な女の子。あの人は女の子の両親を殺害した残忍な殺人犯。恋が成就することなんて奇跡が起きなきゃムリだ。

 でもその奇跡の糸が目の前に垂れ下ってる。これを取らずにどうするんだよ。

 ボクは転生を承諾した。幾つかの条件を提示して。

 その結果、ボクはインフィニット・ストラトスという兵器が闊歩する世界に生まれ落ちた。

 両親は前世のものと違って優しくて、初めて両親の愛情を受けて育った。前世の価値観が残っているからかそれが愛情だってことは理解できたが、それが嬉しいとか楽しい幸せだとかの感情の変化を促すことはなかった。もう肉親の愛情を身体の中に取り入れる器官が壊れて動かなくなってしまったんだろう。

 でも構わない。だってあの殺人犯を想うだけで胸がドキドキしてきて、そこに愛情があると感じることができるからだ。肉親への愛がなくても他人への愛があるんだから、それだけでボクの心は満たされる。

 あの血にまみれた人を想いながら日本のIS学園に入学して、授業そっちのけであの人を探し回った。そうして留年までしてようやく見つけ出した。

 それがよむー。就職難の煽りを受けてようやくIS学園の事務員に採用された冴えない男性で、悪い人ではないが格好よくはないと、どうにも中くらいの評価がよく似合う。あの血液が沸騰しそうなほどに非社会的な行いをするあの人とは似ても似つかない平穏な人だった。

 でもね、ボクはビビッと来たんだ。なんとなく廊下ですれ違った時に、不意に匂ったあの金臭さ。前世で、血だまりの中であの人の後ろ姿に見惚れていた時の血の臭いと同じものを感じて、全てを悟った。非社会人は超社会人という皮を被って生きていたのだと。微かな血の臭いでも僕には隠せない。

 人殺しのよむーが好き。でもボクにはよむーを守る力がなかった。だから転生するときに女性が強くなれる世界を頼んだんだ。ボクがよむーの異常さを守るって。

 そう誓ったはずなのに、ある日よむーは捕まった。

 全てバレちゃったんだ。この世界で細々と人殺しを行っていたことを。

 IS学園に警察が来てよむーを連行した。

 よむーはにへらっと笑顔を浮かべて大人しく連行されていった。その姿はまさしくボクの愛した異常な殺人者の顔だった。

 ボクがよむーを守る。守るための力はIS学園にある。

 IS。女性にしか扱えない最強の兵器。これを使えばよむーを助けられる。

 よむーが警察に連行されてからボクは動き出した。

 打鉄を強奪して学園を飛び出したんだけど、織斑くんたちが追いかけてきた。それはもうビュッとやってきてボクの行動が悪いことだと必死に説得してきた。攻撃をするではなく対話での投降を行う姿に織斑くんは優しい子なんだな、と思った。思っただけでそれに感極まって泣きながら謝ることはまったくない。だって、悪いことしてないしね。ボクはボクの恋心に忠実に生きているだけなんだから。

「ごめんね、織斑くん。退く気はないんだよ」

「……デボラさん」

 それが最後通告後の会話。後は暴力のぶつかり合いで、必死に頑張ったけど量産機じゃどうしようもできなくてボクは敗北した。

 負けて捕まったボクは国に強制送還され、罪人として刑務所生活を送ることになった。

 辛くはなかったよ。だって小さいころから閉じ込められることには慣れているからね。遥か遠くの日本の刑務所にいるよむーと同じ状況下に居られているのだと考えると、ちょっとだけ優越感がある。

 でもやっぱりよむーに会いたいな。せっかくこれからボクを愛してくれるようにアピールしていくはずだったのに、人生ってままならない。

「じゃあ、私たちと一緒に人生を謳歌してみないかしら?」

「良いよね、それ。人生を謳歌してこそハッピーだもんね」

 亡国機業の手を取って宣言する。これから一年以内によむーと相思相愛の中になることを。そのために悪に染まって人の嫌がることをしようと。

 だって恋は盲目で善悪の区別なんてつけられないんだからね。

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