IS 短編物置   作:ネコ削ぎ

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広場点子は問いかけない

 広場点子は何でも知っている。

 大親友でこの子のことならなんでも知ってると豪語する奴よりも深く知っている。

 超一流の〇〇大学を主席で卒業して、留学経験もあるし、誰もが知っている世界でも超有名な企業に就職したエリートなんだぜ、と自慢している奴よりも知っている。

 先生は何でも知ってるね、とか言われているような奴よりも知っている。

 広場点子は世界の誰よりも多くの知識を有している。

 広場点子は誰よりも人のプライベートに詳しい。

 だからクラスメートは彼女を頼ってくる。

 くだらないことからとても大切なことまで。

 歩く情報とあだ名されるほどの広場点子は教師に嫌われていた。

 何故ならテストの答えを事前に教えてクラス全員をオール百点に導いたから。

 広場点子は何でも知っている。

 教師たちから危険人物扱いされていることも。

 知っているから気にしないでサボることがばれていることも知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 屋上への扉を開けると先客がいた。

 

「よう。待っていたぞ、サボり魔」

 

 学園最強の教師が先にサボっていた。

 織斑千冬。とにかく強くて生徒から尊敬と畏怖を集めている。

 それも広場点子は知っていた。

 広場は頭を叩かれる。千冬に頭を叩かれることも広場は知っていた。知っていたところで避けられないことも知っていた。彼女は知識ばかりで技術はまったく持っていなかったのだ。避けられないと知っているからこそ避けない。自分の力を過信して無理はしない。誰よりも己を知っている彼女の生き方だ。

 

「何の御用だい、織斑教諭」

 

「用がなければいけないのか」

 

「用件はお早めに。言いたくないのなら、オレが言ってあげようか?」

 

 広場は千冬がどうしてここにいるのか知っている。彼女は広場の教えてもらいたいことがあったから屋上に来たのだ。広場も必要とされていると知っているから屋上へとやってきたのだ。

 広場はどんな質問がくるのか知っている。この学園で起こっている全てのことを知っているのだから、千冬の言おうとしているちっぽけなことはまる分かりだった。

 

「どうして私は働いているのだろうか?」

 

 中二的な発言。千冬がそういうのは分かっていた。だから広場は用意しておいた答え、愛想笑いを浮かべた。この回答をすれば待っているのはげんこつ。分かって答えて、案の定げんこつをくらった。

 

「分かった。答えよう。織斑教諭が馬車馬の如く働くのはひとえにブラコンだからだ」

 

「もう一発どうだ?」

 

「任せる」

 

 また叩かれる。それも広場は知っていた。避けられないことも知っていた。

 千冬は溜息をつく。質問しなければよかったと思った。

 

「広場。お前から見て、一夏の周りにいる奴らをどう思う?」

 

「ごく潰しだと思われる」

 

「本人の目の前で言えるのか」

 

「言えるぞ」

 

「そうだな。お前はそういう奴だな」

 

 広場は何でも知っているからこそ遠慮がない。知らないことがあるからこそ人は不安に思ったり緊張したりするが、彼女は全てを知っているので揺れ動くことがない。感情の変化がないから人の感情を煽るようなことを平気で言えるのだ。

 それで嫌われたとしても別に広場は構わない。彼女の知識が減るわけではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 三年技術科の教室には来客が多い。

 理由は広場点子がいるクラスだからだ。みんなが彼女に聞きたいことがあってやってくる。

 広場はニヒルな笑みを浮かべて全てに答える。

 適切、適切、不適切、適切。

 広場はそういう順序で質問に対する答えを投げかける。信じる者は救われるが、思考することを止めて縋る人間は救われない。それが広場の考えだ。

 

「一夏はあたしに気があるのよね?」

 

「わたくしと一夏さんの相性をおしえてください」

 

「ボクと一夏ってお似合いだと思いませんか?」

 

「嫁はやはり私が好きだ。異論は認めん」

 

「一夏の奴め。私という幼馴染がいながら、他の女に目移りしおって。いやでも、私が危険に晒された時に助

けてくるしな。うん、きっといつも私のことを考えてくれているに違いないな」

 

 とある物怖じしない一年生たちに質問された時、広場は愛想笑いを浮かべて答えてあげた。

 

「それは君が一番理解しているんじゃないかい」

 

 答えになっていない答え。不適切。

 縋る人間は救われない。他人の言いように扱われてしまうから。芯が存在しないから。

 信じる者は救われる。他人の答えを自分なりに解釈することができるから。一本の芯がきちんと体の中に存在しているから。

 

「やっぱりね。アイツ、あたしのことよく見てるしね。ありがとね、広場先輩」

 

「ふふふ。相性が良くなければ手料理をあんなにおいしそうに食べてくれるはずがありませんものね。広場さん、また相談にのってください。ではごきげんよう」

 

「そうだよね。一夏って鈍感でにぶちんだけどボクのこといっつも気にかけてくれるんだよ。えへへ」

 

「ふふん。さすがは学園一の諜報員。分かっている」

 

「こうしてはおれんな。ありがとうございます、広場先輩」

 

 広場は笑って見送る。このような相手に無駄な助言はしない。しなくても勝手に考えて行動してくれるからだ。

 彼女たちは織斑一夏に惚れている。そして織斑一夏は誰のことも特別意識していないことも知っている。彼は自分の姉のことと何かを守るという信念でいっぱいなんだ。それ以外が入り込む余地は全くない。

 分かっているから、広場は質問されたこと以外は何も言わずにいる。

 知っていることが必ずしもいいことではないと知っているからだ。

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