世の中は極めて不思議なことに満ち溢れています。事実は小説より奇なりという言葉があるように、何事も結果までの道のりは常識なんか通用しないような事態で満ち溢れていることがあります。
そうですね。たとえばですが、人生は五十からと言われているというのにその半分の時を生きるだけで終わってしまった人間が、ひょんなことから記憶を持って生まれ変わったりすることがあります。実際に外国では前世の記憶を持った子供たちが存在するらしいです。まぁ、これに関して学者は物心つく前の幼少期に聞いた物語などが影響を与えていると考えられているんですよね。まるで自分経験してきたかのように錯覚してしまうそうです。
私が話している生まれ変わりはそういうのではないですけど。
そうですね、インターネットとかであるじゃないですか。
もしも〇〇の作品に転生できたら。
私がこのキャラだったら。
こういう人物を登場させたら。
こういった感じのことです。学者が出張ってきたり、現代科学的な思考の入り込んではいけないような夢と希望と欲望の生まれ変わりです。
正直に言いますと、さっき言っていたたとえ話は私のことなんです。
25歳になって暫くして事故で亡くなり、次に気づいたら知らない人になっていたわけでして。
最初は戸惑いましたがせっかくの第2の人生ということで、煩わしいことは一切考えずに真剣に生きることにしたわけでして、遊びに勉強、人間関係を馬鹿にせずに頑張ってきました。
そのおかげで私は教育の仕事に携わるような人間へと成長していきました。
さて、さっきも言った転生ですが。どうして自分が非科学的な転生を体験したと理解できたのか誰か気になりませんか? あぁ、ならないのなら……別にいいですよ、勝手に話しますし。
どうして自分が転生だと気がついたのかといいますと、今私の居る世界が知っている世界だからです。
物語の世界と言いましょうか。そうですね、マンガとかアニメとかライトノベルとかですね。うん、その世界です。
私の居る世界はインフィニット・ストラトスの世界です。
インフィニット・ストラトス、通称IS。
分かりやすく言えば、突如現れた高性能パワードスーツを扱う学校でラブコメが展開されるラノベです。ISは女性にしか扱えないという欠陥がある代物で、学校に居る生徒や先生のほぼ全員が女性で、その中にひょんなことからISを使うことのできる男子生徒が放り込まれてイチャラブしちゃうのです。
まぁ、説明はここまでとして。私はそんなISに生まれ落ちたわけでして、せっかくだからとISに乗ってみたんですよ。
これがまた楽しくて心躍るものでした。どっぷりとISにはまってしまいました。
ISが好きすぎて、私は必死になって教員免許を取得してしまいました。そしてその熱意を以てIS学園に就職することができました。
私はIS学園の先生なんですよ。
でもね。世の中はいいことばかりじゃないわけでして。私はそれを痛感してしまいました。
いや、あの……教師が思ったよりも厳しい仕事だったとかの話ではないんですよ。厳しいですけどね、想像していたよりも厳しい仕事でダメージ受けましたよ。でもそれじゃあないんですよ。
たとえるのなら、世界的に有名な役者さんが演じていないところではどうしようもない屑人間だったことを知ってしまった時ですね。憧れや尊敬がひっくり返って失望になっちゃいますね。
それを経験してしまったわけでして。
「奏多先生!」
廊下を歩いている時に後ろから呼ばれました。
振り向けばそこには眼光鋭い女性が立っているではありませんか。
「今日も一緒にご飯どうですか?」
そう言って私を誘ってくれるのは世界的に有名な女性、世界最強の異名を持つ化け物、そして我がIS学園の名物教師にして私の後輩・織斑千冬さんです。
知っている人は知っているとんでもキャラです。IS用の武器を生身で振り回して、ISを装備した生徒を止めるような怪力な人でして。生徒に対して死ねとか平気で言えちゃう人でもあります。
そんな原作キャラが私の後輩なのです。
年齢は一緒ですよ、同い年ですよ。しかしながら大卒で就職した私とは違って、千冬さんはISの世界大会モンド・グロッソに2回出場して、その後ドイツに1年ほど滞在していたのでIS学園に来たのが遅く、私は彼女の2年先輩という立ち位置なわけです。
そして千冬さんはなんと原作とは似ても似つかない人でした。
「奏多先生。せっかくだから家に来ませんか? 今日は家でゆっくりしていってください」
「でも明日もあるからあんまり迷惑かけられませんよ」
「え…あ、すみません。そのぉ、友達とか誘ったことないんであんまりよく分からないんです。ご迷惑でしたよね」
「え? あぁ、あー。迷惑じゃないですよ。むしろ私なんかを誘ってくれて逆に感謝ですよ。ただ……ほら、ねぇ。千冬さんの迷惑になっちゃうかなー、なんて」
「いいえ、迷惑なんてことはありません。とても来てほしいです!」
「そうですか。じゃあ泊まりはともかくとして、ご飯は一緒に食べましょうか」
「はい!」
元気な返事を聞かせてくれる千冬さん。原作だと確かもっと冷たい口調の方だと思っていたんですけど、どうしては目の前の千冬さんは別人でして。
最初にあったときは確かに冷たい感じのする人だったはずなんですけど、半年経った辺りから変わってきたんですよ。それも主に私と接するときだけ。
他の先生と話すときはあの冷たい感じの口調なんですけ。私と話すときだけこれなんです。
そしてやたらと甘えてきます。ぶりっ子ってわけではないですよ。なんとなく甘いんです。おかしいですよね。昨日なま言った真耶ちゃんを文字通り殴り飛ばしていたはずなんですけどね。
それにしてもどうして私なんでしょうね。
「私……生まれて初めて優しくしてもらったんですよね」
「あの……心読まないでくれます?」
「嫌です。読みたいです。」
「……初めて優しくってどゆこと?」
「親に優しくしてもらった記憶がないんです。むしろ捨てられるっていう酷い目にあいました。それからは愚弟の為に気を張って頑張ってきたんですけど、そのせいで誰からも優しくされたことはありませんでした。奏多先生に指導してもらったときすごく優しくしてもらって、私初めて優しさが分かったんですよね」
……すごく重いんですけ。
「それに奏多先生は私の初めての友達ですしね。……最初で最後のともだちぃ」
肩が脱臼しそうなくらい重いんですよ。最後なんてホラーものです。
「え……でも、あの…いますよね、友達。確か篠ノ之束さん」
「あんなのともだちじゃない」
えー。原作だとなんだかんだ友達じゃなかったですか。
「私の友達は……親友は奏多先生だけです。それだけで十分なんです」
「あ、ああ! ところでほら、あの子どうなりました? 入って来たばかりの山田先生。どうですか、少しは慣れてきましたか?」
これ以上この話題に耐えられなくなったので路線変更をします。だってとっても恐いじゃないですか。
「や、ま…だ先生?」
えー、その反応ですか。
「ほら、副担任の山田真耶先生ですよ」
「ああ、アレですか」
アレ呼ばわりですか。頑張って千冬さんのフォローをしている真耶ちゃんをアレ呼ばわり。一体どんなヘマをしたんですか。
「上から読んでも下から読んでもヤマダマヤ。まったくふざけた自己紹介だ」
そこなんですか、怒りの火種は。完全に感性の問題じゃないですか。
「私もその自己紹介できますよ。私の名前は田中奏多です。上から読んでも下から読んでもタナカカナタですのでよろしくお願いします。ほらね」
「山田のは笑いを取りに行こうって魂胆が丸見えですから」
うまーく回避しましたね。ここで実は私も笑いを取りに行きましたよ、て言うことができるんですけど正直何を言ったところで真耶ちゃんが貶されることは回避できない気がします。
なので私はお口にチャックして歩き出します。
今日の夕飯は織斑宅でご馳走になるのですが、千冬さんは家事全般不得意なはずです。
……もしかして私は殺されてしまうのでしょうか。千冬さんが張り切って作った料理のせいで。