見習いに本丸を乗っ取られてしまったので、物凄く優しいブラック本丸でのんびり過ごしたいと思います。 作:阿羅々木
一ノ一 白と黒は表裏一体
本丸から追い出され、ブラック本丸へと辿り着いた私は、衝撃を受けていました。……色々な意味で。
「???」
なんと、このブラック本丸の二振りが、直々にお出迎えをしてくれたのです。
「あなたがあたらしいあるじさまですね!はじめまして!ぼくは今剣です!」
「主。大広間まで案内するぞ。皆が待っているからな」
一体、これのどこがブラックなんでしょう?
今剣に手を引かれ、後ろにはほんわかした三日月が。
「みなさん!あたらしいあるじさまをつれてきましたよ!」
今剣が大広間の襖を開け放って、明るい声でそう言いました。
「お、おぉ……沢山……」
もしかしなくてもこれは、ほぼ全振り揃っているのでは……?私の以前の本丸にいなかった刀剣男士もいますし……。
「主や、自己紹介を頼めるか?」
そんなことを考えていたら、三日月が私に笑いかけました。
「……あ!は、はい。えっと、初めまして。本日より、この本丸の審神者になりました、狐宵と申します」
私は正座して、頭を下げました。
「過去に一度、審神者を経験しています。その……訳あって、本丸から追い出されてしまいました」
そう言って苦笑いしてみれば、今剣が心配そうな顔をして、私の前に歩いて来ました。
「あるじさま、かなしいですか?でも、あんしんしてください!ぼくたちは、あるじさまをおいだしたりしません!」
今剣はそう言って、私の手をそっと握りました。
「今剣……」
良く見ると、今剣だけは極……なぜでしょう?
「じゃあ、さっそくほんまるをあんないしますね!ほらほらあるじさま!たってください!」
「わ、わわっ!!」
今剣が私の手を引いて、突然走り出しました。
「あっはっは。元気だな」
三日月の笑い声を背に受けながら、私は今剣と共に走って大広間を離れて行きました。
「はっ……はっ……」
しばらく走って、今剣はある部屋の前に来ると、ぴたりと走るのをやめました。
今剣が、その部屋の襖を開けたと思ったら――。
「い、今剣……?っわ……!?」
今剣は、私をその部屋の中へ突き飛ばしたのです。
「……ねぇ、あるじさま」
自分も部屋へ入って、ゆっくり襖を閉じた今剣。
見上げてみれば、その瞳に、光は宿っていませんでした。
「っ……今、剣」
首筋に感じた冷たい感触と、目の前にある今剣の顔。
今動けば、間違いなく私は殺される。
それが分かっていたから、私は動かずに彼の名前を呼びました。
「あなたもどうせ、ぼくはほんとうのれきしにそんざいしないからって、いじわるをするんでしょう?」
「……な、にを、言って」
「しつもんにこたえてください」
今剣の持つ短刀が、私の首を少し傷つけました。
「っ……」
生ぬるい血が伝う感触に、思わず体が震えました。
「わ、たしは……」
けれど、ここで屈してはならない。
正しい行動なのか?そんなことは知りません。
私はそっと手を伸ばし、首筋の短刀を掴みました。
「!?」
その行動に驚いて、今剣の力が少し緩んだ隙に、私は今剣を抱き締めました。
「っ……!!」
「今剣。あなたが、源義経公の守り刀であったことを誇りに思っていたことも、自分は実在しないと知って絶望したことも、全て分かっています」
そう言えば、今剣の小さな体は僅かに震えて。
「あなたに、なにがわかるんですか……!!ほんとうは、ぼくのことなんて、なにもしらないくせに……!!」
今剣の泣きそうな声に、胸が締めつけられるように痛くなりました。
「……分かりますよ。私も、そうでしたから」
「え……」
「……私の依代は、本来、
私のあるべき場所は、この世界のはずでした。
けれど、“あの一族”の末裔が、なにかの不具合でこの世界に来た時、私を持ち帰ってしまったから。
“私”と言う存在が、
「ごめんなさい……ぼく、じぶんのことで、いっぱいいっぱいで……」
「良いんですよ、今剣。私のことは気にしないでください。それより、もう泣くのはやめましょう?私が好きな今剣は、元気いっぱいで、にこにこ笑ってくれる今剣です」
「……!はい、そうですね!ぼく、もうなきません!」
今剣を離してそう言えば、彼はまた、明るい笑顔を見せてくれました。
「ほら、本丸を案内してくれるんでしょう?早く行きませんか?」
「あっ!そうでした!」
私はまた、今剣の手を繋いで歩き出しました。
白と黒は表裏一体。
この本丸は、まさにそれを体現しているのかもしれないと、この時私は感じたのでした――。