ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強   作:ゴルゴム・オルタ

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遅くなってすいません。
色々今後の話を考案するのに時間が掛かってしまいました。

言い忘れていましたが、前回主人公が死の淵で出会い、背中を押してくれた男のイメージCVは神奈延年さんです。


反逆者の住処

閉じていた瞼をゆっくりと開く。

其処は、見慣れぬ風景が視界に入る。

左右を見るとレースのような天幕と、後頭部には柔らかい枕の感触、身体が柔らかくも暖かい感触に包まれている。

完全に意識が覚醒してはいないが、俺は王宮にあった様な豪華な天蓋付きの高級感溢れるベッドに寝かされているのが分かった。

あの後どうなったのかさっぱり分からない。

蛇野郎を仕留めて、体から力が抜ける感覚を覚え、コハクの元に辿り着いたがそこで記憶が途絶えたままだ。

 

「どうやら・・・生きている上にあの世じゃないみたいだな」

 

上半身を起こそうとするが、体に何やら重い何かが覆いかぶさっているのが分かる。

まさかと思い、シーツをゆっくりと捲ると其処にはコハクの姿があった。

捲った先には、普段着ている筈の着物姿では無く、一糸纏わぬ裸姿で俺の体に抱き着くコハクが目に入った。

前から思っていたが、コハクは非常に美しい容姿でスタイル抜群なのは理解していた。

パッと見て着痩せするタイプかと思いきや、想像以上に重量感ある胸部装甲(意味深)が俺の胸板に押し付けられていた。

余りの事態に冷静さを失いかけたが、自分自身も裸姿のに気づき一気に意識を覚醒させた。挙げ句自慢の槍(意味深)まで覚醒しそうになって焦る。

 

「おい、コハク!!起きろ!!」

「・・・んぁ・・・竜也・・・すぅ・・・」

 

未だコハクは夢の中なのか寝言で俺の名前を呼んでいた。

起きる所か腕と足を絡ませ、俺の体をガッチリとホールドしてきた。自慢の槍(意味深)に魔力(意味深)が充填されていく。

こんなところを誰かに見られたら、完全に夜戦(意味深)案件だと誤解されてしまう。

何とかコハクの拘束を解こうとするも、更に力強く俺の体を抱きしめるてきた。このままだと真名解放(意味深)まで秒読みに入りかねない。

 

「竜也、コハクいい加減起き・・・」

 

最悪のタイミングでハジメとユエがその場にやって来たのだった。

お互い目が合い声が出なかった。三人の視線が無言で交わる

 

「大変お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ・・・・」

「ちょっまっ!!!」

 

状況を察したのか、ハジメは回れ右をして足早にその場を去っていった。

ユエは興味津々とした目線で俺達を見ていたが、ハジメに連れられてその場を去っていった。

俺は二人の誤解を解くべく、コハクの肩を掴み強引に揺すり起こすのだった。コハクの柔らかさを余計感じてしまい魔槍(意味深)の魔力(意味深)が臨界に近付く。

 

「むぅ・・・もう朝か・・・」

「ああ、いい加減起きろ!!」

 

お互い上半身だけ起こした状態で向き合うのだった。

柔らかくも重々しく揺れるコハクのバルジ(意味深)に俺の魔槍(意味深)が使え貫け穿て(意味深)と猛っている。

俺はいいが目のやり場に困る為、コハクにシーツを被せるのだった。シーツの間からチラチラと肌色が見えて余計ヤバいかも知れない、判断を誤ったかも。

 

「取り合えずお互い生きてるのは分かるが、これは一体どういった状況なんだ?」

「そうだな。それから説明するとしようか・・・」

 

意識を覚醒させたコハクが俺と向き合い、これまでの経緯を説明するのであった。

あの戦いの後、意識を失った俺とコハクは、ハジメとユエによって最深部の奥にある反逆者の住処に運び込まれた。

俺より一足先に意識を取り戻したコハクは、ハジメとユエから事情を聴き、俺をこのベッドに運び込み寝かせたのだった。

屋敷の探索は既に済ませていた為、休養を兼ねてハジメとユエは屋敷内で過ごしているそうだ。

探索中、屋敷の外に洋風の露天風呂らしきものがあったらしく、すでに堪能したとかなんとか。

俺が倒れてから今日で2日経っているらしく、その間コハクが付きっきりで俺の看病をしていたそうだ。

 

「そうか・・・そいつは色々世話になったな」

「気にするな、お互い助けられた身だこれぐらいはな」

「だとしてもだ、ありがとな・・・・コハク」

 

そう言うと、俺は無意識にコハクの頭に手を当て撫でていた。

コハクは突然の事に驚きはしてはいたが、拒絶すること無く受け入れていた。

何処か嬉しそうに頬を赤く染め満更でも無い表情だった

状況把握も済んだ俺は、素っ裸でいるわけにもいかず服を探した。

魔槍の猛り(意味深)も話を聞いているうちに大分収まったのは余談だ。

さっきから目のやり場に困る。シーツの間から見えるコハクの白い肌は別の色を映えさせるから余計に。

コハクが事前に用意していたのか、新品同然の元の服があった。

戦闘により破損どころか消失しているも同然だった事から考えて、ハジメに錬成して貰ったのかも知れない。

着替え終わるや、俺とコハクはハジメとユエに会うと世話になった礼をした後、この屋敷の主が待っていた部屋へ案内された。

 

屋敷には様々な部屋があり書籍や工房、生活するに必要な物が揃得られていた。

3階の奥の部屋には床に魔法陣が描かれ、奥には白骨化した屋敷の主がいたそうだ。

尚、遺骨は既にはじめとユエにより埋葬されこの場にはない。

魔法陣は迷宮を攻略した者への報酬として神代魔法が会得できるそうだ。

ハジメとユエは既に済ませているので、残った俺とコハクが得る番となった。

魔法陣の中央に足を踏み出した瞬間、頭の中に何かが刷り込まれる感覚が走った。

同時に、俺の目の前に眼鏡をかけた青年が薄っすらと現れた。

 

『よくぞ試練を乗り越え辿り着いた。私の名前はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ』

 

目の前の青年は穏やかな口調で話し、この世界の真の歴史と反逆者と呼ばれた『解放者』について語りだすのであった。

尚これは記録映像な為、質問する事は出来ず静かにオスカーと言う青年の話を聞くのであった。

オスカーの話を大まかにまとめると、この世界は今より遥か昔から戦争が繰り広げられていた。

それぞれの種族と国が神を祀り、神託を受け争いを続けていた。

そんな終わりの見えない戦いに終止符を打つべく立ち上がった者が『解放者』と呼ばれる集団だ。

この世界の神々は、人々を駒に遊戯感覚で戦争を促していたのだ。

そんな神々を討たんとし解放者達は戦いを挑んだ。

だが、その目論見は戦う前に破綻してしまうのだった。

神々は人々を巧みに操り、解放者達を世界を滅ぼす神敵に認定したのであった。

守るべき存在に力を振るう事が出来ず、解放者は何時しか反逆者と呼ばれ、次々と討たれていった。

最後まで残ったのは中心となった七人だけであり、最早どうする事もできないと悟り、大陸の果てに迷宮を創り潜伏したのであった。

試練を乗り越え突破した者へ力を授け、何時しか人間を神から解放する者が現れることを信じて。

 

『・・・話を聞いてくれてありがとう。君のこれからの日々に自由な意志の下にあらんことを願っている』

 

そう言うとオスカーの記録映像は消えると同時に、脳裏に何かが刷り込まれ頭がズキズキするが、神代魔法を会得する為と思い耐えるのであった。

ステータスプレートを見ると、技能に生成魔法が追加されていた。

言うなれば魔法を鉱物に付加し、特殊な性質を持った所謂アーティファクトを生成出来る魔法である。

この生成魔法は錬成師であるハジメにはうってつけの神代魔法である。

俺はと言うと、師匠に教わったルーン魔術と組み合わせれば出来る事が増えそうな感覚であったが、コハクからすれば、なんだそれはと言わんばかりの顔であった。

どうやら神代魔法にも適性や相性と言える物があるみたいだ。

 

無事神代魔法を会得した俺とコハクはハジメ達が待つ1階に戻り、今後について話し合いを始めた。

ハジメが調べた結果、先程の魔法陣から地上に通じる転移門があるのが判明した。

だが、暫くの間この屋敷に滞在することとなった。

早く地上に出たい気持ちはあるが、これから行う他の大迷宮攻略の為に可能な限り準備をしたいとハジメが申し出た。

俺としても此処最近戦いに明け暮れていたので偶にはゆっくり休みたい気持ちがあった。

コハクもそれで納得していた。

こうして解放者の住処で4人生活が始まるのであった。

 

屋敷は思ったより広く部屋も充実していた。

かなり長い年月が経っているにも拘らず清潔感があるのは、オスカーが造ったとされる自立型清掃用ゴーレムのおかげである。

他にもトイレ、厨房、寝室などがあり生活する上で必要な物が揃っていた。

屋敷の外にも生活するに必要な施設が色々とあった。

まず風呂だ。

石造りの住居に大きな円状の穴があり、その淵にはライオンのような動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座しており、その口から温水が流れていた。

外には畑があるが今は何もなくただ土があるだけで、畑の横には川が流れておりよく見れば魚の姿が見えた。

此処最近肉ばかり食べていたのもあり、違うものも食べたい感覚が頭に過った。

上を見上げると太陽のように眩しく輝く光があった。

勿論本物ではないが、円錐状の物体が天井高く浮いており僅かに温かさを感じた。

尚、夜になると月のようになり、天井にある鉱物も相まって美しい夜空のように輝くそうだ。

 

ハジメはというと、新しい武器や装備の製造と生成、失った左腕に代わる義手の装着等色々忙しくもゆったりと過ごしていた。

ユエはそんなハジメにべったり着き添い、遠目に見ても甘ったるい雰囲気を漂わせていた。

俺はと言うと自主練もしつつ調理場で本格的とはいかないが、料理の鍛錬も行っていた。

基本的に俺が料理当番となっているが、どういう訳かコハクも手伝うようになっていた。

ここ数日コハクの様子がどうもおかしい。

毎朝起きると俺のベッドの中に転がり込んで何故か一緒に寝ているのだ。

一線を越える事は今のところは無いが。

部屋はそれぞれある筈なのだが、毎日のように俺の寝床にやって来るのだ。

朝目覚める度に魔槍(意味深)が臨戦態勢に入るので辛い。

それだけではなく、俺が一人のんびりと風呂に浸かっていると、何処からともなく現れるのだ。

まるで狙ってやって来たかのように現れたコハクは、そのまま俺と風呂に浸かるのだ。湯船にタオルを浸けるのは赦されぬと惜し気もなく裸体を曝すので目のやり場に困る。

挙句に頼んでも無いのに背中まで流すという始末だ。身体にタオルを巻いても濡れて透けるので殆ど同じ隠せても居ない。

悪い気はしない、むしろ役得とも思うが、コハクの突然とも言える奇行に終始戸惑うのだった。

此方も若い男手情熱をもて余す事を理解して欲しいものだ。

 

その日の夜、俺は風呂上がりに外に設置してあるベンチに一人黄昏ていた。

頭に過る事は様々で、地上の王宮にいる優花の事、パーティメンバーの安否、元居た世界で両親が残した実家と店の状態等考えていた。

此処最近ではコハクの事でも頭を悩ませている。

最初はただの協力関係で、他人を寄せ付けない雰囲気を出し明らかに距離感を保っていたのだが、最近では遠慮が無くなったというか、此方に歩み寄る姿勢さえとっている。

ハジメやユエとも交流を深めつつあるも、俺限定でベッタリ処かガッチリホールドだ。最早捕食を狙っているのを疑うレベルで。

例えるなら、保健所に預けられた犬が引き取り手に対し不信感を抱き、牙をむき出しにして吠えていた筈が、気が付くと飼い主にベッタリな甘えん坊に豹変しているのと同じだ。オタク風に言うのなら『時間経過式ツンデレ』と言えば分かるだろうか?

コハクは人の姿になってはいるが、アイツは一応九尾の狐の獣だ。

人間嫌いが改善されたかと最初は思ったが、それとは違うらしい。完全に俺だけに懐いてくるのだ。

コハクの奇行には驚いてはいるが、俺自身悪い気は無く心地よさを感じていた。

俺だって健全な男子だ、美人と親しくされて嬉しくない筈もない。

両親が亡くなって一人で過ごす俺にとって、まるで心に空いた穴を埋めるかのように包み込む温かさは言葉では表せないものがあった。幼馴染の優花とはまた違う形で、俺の心を満たしてくれている。

 

「こんな所にいたのか竜也?夜風が無いとはいえ体調管理も大事な事だ」

「心配いらねえよ、こんな事で風邪を引くような軟な体じゃねえよ」

 

俺が物思いに更けていると、横からコハクの声がしてそう返した。

振り向くと、風呂上りで青い浴衣姿のコハクがいた。

何故浴衣かと言うと、これは俺自身の趣味で作ったものだ。

材料はあったため、ルーン魔術と生成魔法を複合し作ったのだ。

折角なのでコハクだけでなく、ユエの分も作ったら非常に大好評で気に入ってもらえた。

普段コハクが着ている着物もいいが、浴衣姿も中々似合っている。

自画自賛するわけではないが、我ながら良い物だと自負している。

そんなコハクは俺の横に座り、肩に頭をのせてきた。

風呂上がりなのかコハクから凄く良い香りが嗅覚を刺激した。呼んでもいないのに魔槍(意味深)が魔力(意味深)を巡らせ始める、落ち着け。

 

「なあ、コハク・・・」

「なんだ?」

「此処最近、やけに俺にベッタリなんだが理由を聞いてもいいか?」

「ああ、それか。構わんぞ」

 

俺は敢えて回りくどい言い回しをせず直球で聞くことにした。

するとコハクはクスリと笑い、訳を話すのであった

それは、迷宮の守護者との戦いの直後であった。

コハクは暗闇の中で嘗ての記憶を見ていた。

様々な記憶の中で、まだ元居た世界でのある出来事が鮮明に記憶から蘇った。

それはコハクがまだ幼かった頃であった。

人間達から迫害され、山奥に逃げている最中、猟師が仕掛けた罠に引っ掛かり身動きが取れなくなった事があった。

逃走中で疲労が溜まり力の回復も出来ていなかった事もあって絶体絶命の危機が訪れた。

悪いことに姉ともはぐれ誰の助けも無い状況で、ある人影が視界に入った。

人間の姿をみるや命の危機を覚悟したと思った時であった。

その人間の男は、コハクを見るとゆっくりと近寄り罠を外し、優しく傷の手当てを始めたのだった。

コハクにとって人間は自身の命を奪い嫌悪する存在であったのだが、この人間は有ろう事やコハクの危機を救ったのだ。

何故助けたのかと尋ねるとその人間の男はこう答えた。

 

「白い狐様は神様の御遣いであって、決して悪さをする獣ではない」

 

コハクはこの男は他の人間達とは違う何かがあると本能で感じ取った。

そして、助けてくれたお礼にコハクは白い狐の面を男に渡した。

これを大事に持っていれば禍から身を守る事が出来るとコハクはその男に言い、その場を去った。

長い年月を得てその事すら忘れてしまっていたが、俺との出会いを切欠に忘れていた記憶を思い出したのだった。

 

「・・・成程な、その男と俺を重ねて見ていた訳か」

「それもあるが、私の命を救ったその男と竜也はどこか似ている気がするのだ。否、同じ魂の波動すら感じるぞ」

 

その話を聞いた俺はコハクに家に伝わるある逸話を話すのであった。

俺の家は大昔から続く家系で、先祖代々欠かす事の無い行事がある。

それは、家督を譲る者がご先祖様が残し守り続けてきた白い狐の面を受け継ぐ者へ引き渡す行事だ。

俺の祖父母は小学生の時に亡なった、そして今際の際に父さんがその行事を受けたのだ。

その時、祖母から聞いた話が今でも忘れる事が無い。

『白い狐様を助けたら良い事がある』

父さんが居酒屋を開き、毎日そのお面を飾られている神棚にお供え物の酒を用意し欠かさずお祈りをするのは家の日常である。

店が閉店しこの世界に召喚されるあの日まで、毎日欠かさず俺が引き継いできた。

 

「あの時コハクに会った時、何故家にある筈のお面と同じ物があるか不思議でな、お前の話を聞いて納得したよ」

「・・・・・」

 

横を見ると驚いた顔で、瞳から涙をポロポロと零すコハクが目に映った。

どうかしたのかと尋ねると、何処か嬉しそうな声で大丈夫だと答えた。

 

「・・・あの時私を助けた男の子孫がお前で、何気なく渡したあの面が縁となり再び結びつないだのだ。こんなに嬉しい事は無い」

「ああ、まさか先祖代々から続いた事が、異世界で実を結ぶなんてな」

「ふふっ、嘗て失ったかと思った縁が時間と世界を超えて再び結び繋ぐとは、お前との出会いは私にとって運命そのものだ」

 

そう言うとコハクは俺の首に腕を回し、強く抱きしめるのであった。

俺もコハクを優しく包むように抱きしめるた。

 

「竜也・・・お前は・・・私の運命の男だ。決して二度と手放す気はないぞ」

「コハク・・・」

「知っているか竜也?強者とは互いに惹かれあう存在だ。お前がそうだ」

「・・・俺はそんな大層な奴じゃねえよ」

「謙遜するな、竜也は強さと優しさ、そして勇敢さを持った強者だ」

 

そんなに言われると何とも照れ臭いものだ。

俺自身、師匠なんかと比べたらまだまだ未熟そのものだ。

だが、目の前の彼女、コハクや仲間を守れるくらいにはなりたい。

いや、なって見せると決心するのであった。

暫くお互い抱きしめあい、暖かい温もりを感じあうのだった。

……落ち着け魔槍(意味深)お前の出番は無いから。

すると、コハクは俺に何気ない質問をしてきた。

 

「ところで竜也、ずっと気になっていた事がある」

「なんだ?」

「お前の槍と見慣れぬ魔法、戦い方は明らかに修練を重ねた者が身に着けた術だ。一体何処で学んだのだ?」

「そうだな・・・・俺自身まだまだなんだが、俺の槍と戦い方はある人から学んだものだ」

「聞けば竜也達は戦いと無縁の生活を置いていたのだろう。なのに何故お前は強者としての強さを持っている?」

 

そう、俺達は元々戦いとは無縁の生活を元の世界で送っていた。

異世界に召喚され、武器を持って戦うなんて考えもしなかった。

だからこそ俺と言う存在は異様に見えるのかもしれない。

あんまりおもしろい話じゃないぞと言い、俺は一息吐くと思い出すように語り始めるた。

 

「・・・・あれは2年前に経験したある出来事だ」

 

 

 

 

当時の俺は中学3年の冬、高校受験が終わり結果を待っていた。

合格通知が届き、両親と大喜びした。

近所に住む優花も同じ高校へ通う事が決まり、お互い幸せの真っ只中だった。

喜びの中、両親は俺にある物を渡してきた。

海外に行くパスポートと旅行のチケットだ。

合格祝いも兼ねて家族で旅行に行くのは前々から計画していたらしい。

当然俺が合格するのを見越してだ。

旅行の行き先は鮭が有名なアイルランドだ。

当時の俺は、海外の料理に興味を持っていて、好物が鮭を使った料理なのもあり両親とそんな話をしていた。

 

出発当日、空港には優花の一家が見送りに来てくれた。

優花は俺にお土産を忘れないようにと念を押してきて、俺は笑って答えた。

国際便の飛行機に搭乗し、人生初の海外旅行もあり凄くワクワクしていた。

この時までまさかあんなことが起きるなど予想だにしなかった。

機内での娯楽を楽しみ到着までの時間を過ごしながら、俺は旅行先での行動に期待を膨らませていた。

機内放送で到着1時間前を報じられた時であった。

ふと外の景色を見ようと窓に目を向けた時だった。

眩い閃光が走ったと思った瞬間、突如として機体は揺れ強い衝撃が襲った。

機体は大きく揺れ動き乗客は突然の事態にパニックになっていた。

窓を見ると機体の翼が折れ、エンジンから火が吹いていたのを見た。

次の瞬間、機体は突然爆発し、出来た穴から乗客が外へ吸い込まれるように吐き出された。

俺もその一人で、猛烈な勢いで外へ吸い出される。

両親は悲痛な顔で俺の名前を叫び手を伸ばすが、その手は空を切った。

これが両親を見た最後の姿だ。

外へ出された俺はなすすべもなく真下へ落下していった。

目下は暗い世界が広がり、天候と海は荒れており余りの事態に声が出なかった。

視線を逸らすと、火を噴きながら墜落する飛行機の姿が映った。

俺は荒れ狂う暗い海に落下し、水中に引きずり込まれるかのように沈んでいった。コンクリートに叩き付けられる様な衝撃を受けて生きていたのは、正に奇跡だろう。

高度は不明だが飛行機から投げ出され、重力加速度を加えた衝撃は人をバラバラにしても余りある。

息をしようにも足掻けば足掻くほど苦しくなり、やがて意識を失った。

 

 

「俺は・・・一体・・・・」

 

気が付くと、俺はうつ伏せで何処かの浜辺へと流されていた。

あの状況で生きていた自分に驚くが、立ち上がろうとした時だった。

体から徐々に力が失っていく感覚が襲った。

正確には目に見えない何かが俺の体を侵食し、蝕んでいいったと言える。

近くにあった岩に手をつくも、支えきれずに体のバランスを崩し尻餅を着くように倒れこんだ。

呼吸を整えようにも息が乱れるばかりだ。

 

「グルルルルルル!!!!」

 

突如として俺の前に、明らかに敵意を放つ野生動物らしき獣の群れが現れた。

獲物を追い詰め、一斉に襲い掛からんとする獣達が俺を囲い込んでいた。

嫌だ。

死にたくない。

そんな言葉が連続で頭に過っていった。

何でこんなことになった?

俺が何をした?

そう思ってはいたが、その獣の群れは俺に襲い掛かるのであった。

もう駄目だと思ったと時であった。

俺の眼と鼻の先まで迫ってきていた獣の真上から赤い閃光が放たれた。

それも一発ではなく、獣すべてに放たれた。

突然の事態に俺は思考停止していた。

放たれた閃光が槍と気づくのに時間が掛かった。

 

「ふむ、気まぐれで散歩に出てみれば、まさか我が領地に人が迷い込んで来るとはな」

 

何処からか女性の声が聞こえてきた。

周囲は薄暗く、月の光も無い場所であり、全く見えない。

だが、声の主である人らしき姿が薄っすらと見えてきた。

やがて謎の声の正体が分かった。

全身タイツのような体のラインが分かる濃ゆい紫色の服装、両肩には金色の肩当らしきものを付けており、頭部にはベールを覆い、腰には短いマントを付けていた。

肌はシミ一つ無い色白で瞳は宝石のように紅く輝いていた。

手には血の色のように紅く鮮やかに色付く鋭い槍を持っていた。

均整がとれ黄金比と言っても過言ではないプロポーションと美しさを放つ彼女の姿に、先程まで謎の獣に襲われた事すら忘れる程に、俺は声を失った。

すると彼女は鋭い目線で俺にこう言い放った。

 

「問おう。お主が我が領地に流れ着いてきた漂流者か?」

 

その日、俺は自身の生き方を決める運命とも言える存在に出逢った。

 

 




次回予告『魔境の主』

最後に出た女性ですが、イメージCVは能登麻美子さんとなってます。
気づかない方が難しいと思いますが、察しの良い人はすぐ気が付くと思いますね(笑)
次回から少し過去編2話ほど続きますがご了承ください。
それが終わり次第、本編へ移る予定です。

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