ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強   作:ゴルゴム・オルタ

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今回も若干長くなりましたが、過去編と言うのもあり次回から若干文章が短くなるかもしれませんのでご了承ください。


炎(ほむら)

父さんと母さんの訃報を聞いて数日が経った。

事故発生から3ヵ月が経過していたのを知らされた。

俺的には半年以上かと思っていたが、そんな事などどうでも良かった。

暫く口に食べ物が喉を通らない日々が続いた。

精々、偶に水を飲む日々が続いた。

大使館の職員も俺の惨状を見兼ねて話し掛けるも、変化はなかった。

俺自身、両親の死には流石に堪えていた。

泣くにも泣けず唯、茫然としていた。

何もかもどうでもいいと思っていたそんなある日であった。

俺の元に面会を希望する人物が現れた。

なんでもアイルランド政府から派遣された事故調査委員会の調査員だとかなんとか。

いざその人物に会った時、俺は目を疑った。

何せ、その人は師匠と顔立ちが似ていたからだ。

違うとすれば髪型と服装ぐらいだ。

左目の下に黒子と、両耳に銀色の耳飾りが特徴的だ。

物静かな雰囲気で人から見ればクールビューティーな女性だ。

男性が着るようなスーツ姿で、キリっとした振舞いの姿に俺は何だか胸を掴まれる気がした。

その女性は俺と二人きりで話すことを希望して、大使館の職員に話を通すのであった。

俺との面会を希望したその女性の名前は、微妙に長かったので『ケルト女』という呼び名が頭の中で決まった。

部屋にある机を挟んで椅子に座るや質問というより尋問染みた会話が始まった。

 

「確認しますが、貴方が唯一の生存者である篠崎竜也ですか?」

「だとしたらなんだ?冷やかしなら帰れよ」

「いいえ、あの状況下で生き残った貴方の事を聞く為に来ました」

「悪いが、話す事なんて無ぇ」

 

こっちは折角生きて帰って来たのに、父さんと母さんが亡くなったと聞いて気が沈んでいる。

そっとしておいて欲しいものだ。

仮にこの女に本当の事を話したところで信じて貰える保証はない。

精々与太話程度にあしらわれるのが関の山だと思ったからだ。

すると、目の前の女は椅子から立ち上がるや俺にこう言い放った。

 

「・・・話さないのであれば、直接体に聞くまでです!!」

「は?」

 

女は、目を開くと俺に目掛けて渾身の右ストレートを俺の顔面目掛けて放ってきた。

先程とは打って変わって、闘志の籠った気を全身に纏っていた

咄嗟ではあったが、その拳を難無く左手で掴み受け止めた。

とても女性とは思えない怪力染みた腕力に驚きつつも、頭を切り替えて戦闘態勢に移行する。

 

「ほう、初見とは言え私の拳に対応しますか・・・」

「随分なご挨拶だな。アンタ、何者だ?」

「そっくりそのままお返しします!!」

 

女は一旦俺から距離を取ったかと思ったら、ボクサーのようなファイティングフォームを取り、次々と拳を放ってきた。

放たれる拳はどれも鋭く速い。

時に放たれる蹴り技も尋常じゃない。

常人なら数秒も持たず、女の拳を畳みかけられている程だ。

その女の猛攻を俺はただ受けるだけでなく、防いだり躱したりしていた。

内心、調査員でなく尋問官じゃないかと思いつつ女の攻撃を捌いていく。

狭い部屋で突然の拳による攻防が繰り広げられるが、俺もされるがままでは無く反撃するのであった。

格闘術に心得は無いがコツを掴み、目の前の女の姿の見様見真似で対応する。

コイツの放つ拳は確かに速い。

だが、師匠の投擲する槍に比べれば格段と遅い。

よく見て観察すれば対応できなくも無い。

そう思った俺はある方法を考えた。

やる事は一つ、ぶっつけ本番だが、やるしかない。

俺は敢えて正面から先手で女に拳を放った。

案の定、相手はそれを待っていたかのように、紙一重で避けカウンター技を放とうとする。

俺の放った拳を躱した女は、顎目掛けて拳を放とうとするもそれは叶わなかった。

 

「そんな・・・馬鹿な!?」

「・・・・残念だが、俺の勝ちだ」

 

勝利を確信したかのように思った女の拳は、放たれる前に自身の顔に俺の拳が目の前で止まっていた。

一体何が起きたか分からなかったようで、茫然としていたようだが逸れもそうだ。

カウンターで相手を仕留めようとしたはずが、逆にカウンターを喰らったのだから。

茫然とする女に俺はこう言った。

確かにアンタは強い、男とか女とか関係なく。

何手か拳を交わして分かったが、この女はカウンター特化のタイプのようだ。

敢えて後手に回り、相手に先手を打たせカウンターで倒すものだと分かった。

コイツはカウンター技が得意だが、カウンター技で返されるのは未経験だ。

其処に付け入る隙があったと話した。

女は暫く黙っていが、成程と言い息をつくと戦意を解いた。

口頭で言うのは簡単だが、カウンター技にカウンター技を返すのは至難である。

此れも師匠の元で特訓と修練を重ねてきたのもあるが、内心上手くいくかかどうかわからない分の悪い賭けであった。

賭けは俺の勝ちであったが。

狭い室内のもあるが、女は明らかに全力ではなかった。

大方、腕自慢か小手調べ程度であった。

最初から本気であれば負けていたのは俺であった。

 

「・・・成程、ますます貴方に興味を抱きます」

「なんだって?」

「つい数か月前まで只の一般人である貴方が、私と互角に戦えるのは明らかに異常そのものです」

「・・・それがどうかしたか?」

「貴方のその強さ。それは独学ではなく、誰かの師事で学んで得た物かと推察します」

 

なるほどな。

この女はこう言ったことに関しては勘が良いみたいだ。

見た目は凄い美人の癖に、気が短くて喧嘩っ早い女かと思っていた。

俺は、あまり多くは語る気はないがこの女にこう言った。

 

「確かにな、俺はある人から生きる術を学ぶ過程で力を得た、望んで得たわけじゃないがな」

「ある人・・・それは一体誰ですか?」

「影のランサー・・・その人はそう言ったよ」

「影の・・・ランサー?」

「俺が言えるのはそれだけだ。じゃあな」

 

俺はそう言うと体の汗を流すべく、部屋を後にした。

女は俺の後姿を見つつ静かに黙るのであった。

面会時間が過ぎたのか女はその日の内に帰っていった。

 

 

大使館での日々を満喫しつつ、職員からパスポートの再発行が出来たと聞いた。

帰りの飛行機は、大使館に在住している風鳴八紘さんの手配によってチャーター機を手配してもらった。

八紘さんの仕事上話す機会はないが、何故俺にここまで便宜を図ってくれるかを聞いた。

聞けば、弟が何時も俺の店で世話になっている礼だからだ。

名字を聞いてピンときたが、なんとこの人の弟さんである風鳴弦十郎(かざなりげんじゅうろう)さんは家の店の常連客の身内であるのが分かった。

まさかこんな形で縁が結ばれるとは思わず凄く嬉しかった。

車で移動し空港に着くや、チャーター機が待機していて弦十郎の部下である緒川慎次(おがわしんじ)さんが待っていた。

その横には、何時ぞやのケルト女がいた。

なんでも見送りに来たらしく何時ものスーツ姿でいた。

別れ際に、俺の手に自身の連絡先が書かれた紙を手渡され「また会いましょう」笑顔で言ってきた。

俺個人としては御免被るが、一応受け取るだけ取り機内に搭乗した。

だが、俺はこの時知らなかった。

それは、あのケルト女との縁は切れる所か、後に奇妙な関係になるのを知る由もなかった。

 

帰りの便の航空機は快適であった。

同時に、日本での情勢を緒川さんに教えて貰う事になった。

あの事故で俺は奇跡的に生還するも重症の末、現地で入院し怪我の回復を見て退院し無事帰国だそうだ。

この手の情報操作はお手のものらしく大して苦にならないとか。

思わず忍者かよと思ったが俺的にはかえってありがたかった。

現地の空港には、弦十郎さんと優花を含む園部家が待っていると教えて貰った。

長い空の旅を終え俺は無事、日本の地に足を踏むのであった。

空港では優花を含む園部一家と、弦十郎さんが温かく出迎えてくれた。

優花は俺が生きていた事に泣きじゃくりながら抱き着いてきた。

その光景を優花の両親が優しく見守ってくれていた。

 

だが、俺は感動の再開の場面だと言うのに何処か空しく感じていた。

両親の訃報を聞いた時から、心に大きな穴が開いた感覚があった。

手配された車に乗って俺は実家へと帰宅した。

道中、優花の両親と弦十郎さんが色々俺の事を励ましてくれたりしたが、俺は何処か上の空だった。

自宅前に着くと、其処で優花達と一旦別れた。

数か月ぶりの我が家であったが何処か寂しい感じがした。

両親の葬儀は既に終わっていたのか、和室の一角に仏壇があり遺影が掲げられていた。

それを見たのにも関わらず、俺の目からは涙が一滴も零れなかった。

あのケルト女が言った通り俺は異常なのかもしれない。

両親の死は凄く悲しいのにも関わらず涙が零れなかった。

ただ、目の前の出来事に呆然となった。

 

それから一週間が過ぎた日の事であった。

店の方に足を運び店内の掃除をしていた時であった。

出入り口から思わぬ客が訪れてきた。

 

「随分と久しぶりになるが息災か?」

「貴方は・・・大鳥(おおとり)さん!?」

 

俺の前に現れた人物、それは常連客の一人であり近所のお寺で住職を務めている大鳥ゲンさんだ。

両親の葬儀もこの人が取り仕切り、資産を預かってもらっている。

昔は格闘家としてその名を全国に轟かせていたが、今では御寺の住職となっている。

現役を退いても尚、その実力は衰えておらず寺の敷地内にある道場で鍛錬を重ねているという。

突然の訪問に驚きつつも大鳥さんはある事を口にした。

 

「少し見ない内に随分と逞しい体付きになったが、心はどうだかな」

「ッ!?」

「今のお前の心は未だ暗い闇が覆ったままだ」

「それは・・・・」

 

そう言われ下を向き俯いてしまう。

この人の言う通り俺の心は曇っており、師匠の住む影の国のように暗いままだ。

そんな俺を見兼ねたのかこの人はある事を言った。

 

「お前はこれから先一人で生きなければならない。だが今のお前にはとてもじゃないが出来るとは思えん」

「俺に・・・どうしろって言うんですか?」

「知りたくば俺に着いて来い」

 

俺は大鳥さんの後を追い外に出た。

玄関の先には大鳥さんの保有する車ジープが待っていて、それに乗って目的地に向かった。

町から出て数時間、漸く目的地に到着した。

其処は、何処かの山であった。

薄暗く年中濃ゆい霧が山頂を覆っており、空気も少し薄く感じる山であった。

車から降りると、大鳥さんは俺にこう告げた。

 

「この山で一週間過ごしてみろ。それが出来なければ一人で生きる事等などできはしない」

「なっ!?」

「出来なければあの店と家を守る事等お前には無理だ」

 

俺にそう言うと、大鳥さんは来た道を変えるかのように去っていった。

その場に残された俺だが、選ぶ選択肢も無く山の中に入った。

 

「一週間か。なんとしてでも生き残ってやるさ」

 

まず俺は周囲を探索し、食料と水の確保に向かった。

奥を進むと、滝壺があり水の中には魚が泳いでいた。

食料と水の目途は得たので寝床の確保に移った。

それが終わると、その日は何事も無く過ごしたのだった。

だが、俺は知らなかった。

この山が只の山では無い事に。

 

翌朝俺は違和感を感じ取って目が覚めた。

それは、山の空気が異常に薄い事に気が付き、一瞬慌てかけたが状況を把握し呼吸を整えた。

昼間もそうだが、この山は何か変だ。

空気が薄いだけでなく何処と無く肌寒く感じる。

まるで、影の国に似ている雰囲気を放っている。

違うとすれば、日は差すか差さないかであり、まるで幽霊か魔獣が出てきそうな山でありそれらしい気配が幾つも感じ取れた。

気を引き締めなおすと、俺は周囲の探索から始めた。

暫く歩いていくと広い所に出てきて、其処には縦に引き裂かれた大岩があった。

近くで見ると、割ったというより鋭利な刃物で切り裂かれたような痕跡があった。

 

「こいつは一体・・・・」

「どうかしたの?」

 

突然後ろから声が聞こえ驚いた。

振り向くと其処には、白い狐の面を顔の横に被り、小柄で赤い着物姿の可愛らしい印象の少女が立っていた。

その少女は俺も見て無邪気に笑っていた。

さっきまで居なかった所に突如として現れた少女に思わず警戒した。

気配を感じ取れないどころか、気配そのものが無い。

一体何なんだと思った矢先だった。

 

「こんな所に生きた人間が来るとはな」

 

再び振り返ると、岩の上に白い狐の面を被った白い羽織姿の少年が座っていた。

先程の少女と違い、腰には刀を帯びておりお面で顔は見えないが、只ならぬ気を放っていた。

すると、その少年は岩から飛び降り腰から刀を抜くと俺に向け構えた。

 

「此処はお前のような弱者が来る場所ではない。すぐに立ち去れ」

「なんだと・・・」

 

今の言葉にはカチンときた。

誰だか知らんが、出会い頭に人を弱者呼ばわりするコイツには流石に頭に来た。

俺は槍を出し構えると目の前の少年と対峙した。

勝負は一瞬にして始まった。

お面の少年は無言で俺に斬りかかってきた。

それを槍で防ぎ弾き返し距離を取ろうとしたが、そいつはお構いなしに襲ってきた。

俺も防戦一方は癪に障る為、反撃するも躱されてしまう。

相手が小柄なのもあるが、常人離れした動きと太刀捌きで俺は翻弄されていった。

 

「クソがっ!!!!」

 

必死で槍を振るうも当たるどころか躱され続け、遂に懐に奴の接近を許してしまった。

 

「如何に力が有れど、精神と心が惰弱過ぎる。そんな者は男ではない!!」

 

斬られると思った俺は距離を取ろうとするも遅く、腹に回し蹴りが叩き込まれた。

そのまま後ろにあった大岩に背中と頭を強く打ちつけられた。

 

「野郎・・・・・」

 

意識が段々と遠ざかっていく中、そいつは刀を収め森の中へ入っていった。

後は任せるぞという声を最後に、俺は意識を失った。

 

あれからどれだけ立ったのだろうか。

目を薄っすら開けると、相変わらず空気が薄いが何とか意識を回復させる。

周囲の状況を確認しようとした時であった。

 

「大丈夫?」

「なっ!?」

 

俺の後ろに現れた謎の少女が俺の顔を覗き込むように見ていた。

体を起き上がらせ立とうとするが、体に痛みが走った。

すると少女は俺の手を包むように握ってきた。

その光景に俺はただ茫然としていた。

何故だか分からないがその少女の手は暖かく感じた。

俺は少女に名前を聞く為、自分の名前を告げた。

すると少女は笑顔で真菰(まこも)と名乗ると森の方へ行き立ち去って行った。

何とも奇妙な出来事ではあったが、不思議と嫌な感じはなかった。

胸のつっかえが少し抜けたような気がした。

 

俺はそれから連日、彼女たちに会うべく大岩と寝床を行き来した。

前回は頭に血が上って冷静な判断が出来ず、怒り任せに戦ったのが敗因となり俺は負けた。

案の定、そいつは二つに裂かれた大岩の上に乗り待っていた。

真菰もその下で見守るように佇んでいた。

同じ奴に二度も負けてたまるかと思った。

呼吸と精神と整え、怒りで冷静さを失わないように心を落ち着かせた俺は再戦を決意し、奴の前に立ちはだかった。

お互い武器を構えると合図も無く戦いが始まった。

それから毎日、奴と決着を着けるべく俺は何度も挑んでいった。

初戦みたいに負けはしなかったが、どれも引き分けであり勝ちとは言えなかった。

奴の太刀捌きも凄いが、こんなにも空気の薄い場所でよくあんなに速く跳ぶように駆けるのが不思議であった。

戦いの中よく観察していくと、奇妙な呼吸をしているのに気が付いた。

其々の挙動に無駄がなく、周囲の木々を足場にして飛び跳ねては俺の死角を取ろうとする。

大きく空気を吸い込み、肺の中に送り込むとで心臓を爆発させるかのような奇妙な物だった。

見様見真似でやってみたが、結構難しい物ではあったが、やってみると意外と体に馴染んできた。

奴との戦いとは別に、真菰とは仲良くなれた。

俺の悪い癖を指摘し、正しい呼吸の方法を教えてくれたりした。

そんな中、真菰は何気ない質問を俺に問いてきた。

 

「竜也はどうして戦うの?」

 

その質問に俺は答える事が出来なかった。

そもそも俺は望んで戦いの道を歩んだ訳ではない。

死にたくない一心で生きる為に、学び身に着けた術だ。

戦う術は有っても理由が無い事に気が付いき漠然とした。

そんな俺の様子を見たのか真菰はこう言った

 

「竜也ならもう知っているはずだよ。守りたい大切な人の事を」

 

真菰はそう言うとその場を後にした。

俺はその場で座禅を組むと静かに黙想を始めた。

両親が亡くなったと聞いて俺はまるで生きた屍のようになっていた。

まるですべてを無くしたかのように。

奴との戦いで何度か言葉を交わしてきた。

お前は何の為に生き戦うのか、そんな想いの籠っていない槍では誰も守れはしないと。

何度か奴と戦って感じた物があった。

それは、ある気迫ともいえる物が刀に籠っていた。

何の為に生き、何かを守るために力を振るうのか、それを伝えてくるような気迫をだ。

 

(俺の大切な物・・・・・・守りたい者・・・・・・)

 

そう考えたらある光景が頭に広がった。

まだ父さんと母さんが生きていた頃の日常風景だ。

まず、お店に足を運んできてくれる常連になっているの人達だ。

最初の常連客である早田(はやた)さん。

7が付く日にか必ず来る諸星(もろぼし)さん。

レーシングクラブの会長の郷(ごう)さん。

近所でパン屋を経営する北斗(ほくと)さん。

ボクシングジムのトレーナーの東(ひがし)さん。

近所のお寺で住職を務めている大鳥さん。

中学校の教諭を務めている矢的(やまと)さん。

鮭大根以外注文しない冨岡(とみおか)さん。

何時も3人の女性を侍らせている宇髄(うずい)さん。

燃える炎を連想させる明朗快活な煉獄(れんごく)さん。

近所付き合いの長い、洋食屋を経営している園部一家。

他にも多くの人に支えられて、あのお店は存続していることに気が付いた。

そして何よりも、幼馴染でもある優花。

身近にいたのにも関わらず、俺はそれに全く気が付かなかった。

俺にはまだたくさんの大切な物が身近にあるのだ。

両親を失ったのは凄く悲しい。

だが、俺にはまだ沢山の大切な物があるのだ。

 

「・・・・何時までも悲しんでいられねえな!!」

 

黙想を解き、沈んでいた心に喝を入れると俺は目を開き立ち上がった。

そして、奴が待っている大岩のある所へ歩き出すのだった。

失った命と物は2度と戻りはしない。

だが、俺は何も全てを失ったわけではない。

両親が残した大切な場所、傍で支えてくれる大勢の人達、凄く身近にいて見守ってくれている大切な人が居る限り、俺は前に向かって進み戦える。

俺の心を覆っていた暗闇はもう既に無い。

有るのはただ一つ、命と心を燃やす炎(ほむら)だけだ。

そんな俺を待っていたかのように、奴は刀を抜き構えていた。

 

「・・・漸くか。思ったより早かったな」

「ああ、今度こそお前に勝ってやる」

 

お互い武器を構えると、静寂がその場を包んだ。

少しでも気を抜けばやられるのは自分だ。

奴には此れまで散々苦渋を舐めさせられてきたが、今回は違う。

俺も奴もこの場で決着をつける気迫が肌を通して分かる。

沈黙が長く続くかに見えたが、勝負は一瞬で決まった。

お互い同時に動き渾身の一撃を放った。

奴の刀は俺には届かず、先に槍の矛先が面の額を捉えていた。

 

「・・・・俺の勝ちだ」

「ああ、そのようだ」

 

奴は刀を鞘に納め、俺も槍を引き収める。

すると奴はお面を取り素顔を晒した。

面の下には宍色の髪に口元から右頬にわたって大きな傷が特徴の優しい顔立ちであった。

俺は此れまで戦ってきた相手の名前を聞くことにした

 

「俺の名は竜也だ。アンタは?」

「・・・・錆兎(さびと)だ」

「そうか、お前・・・結構どころか凄く強かったぜ錆兎」

「そういう竜也もな」

「俺の前に出てきたのは、まさか腑抜けていた俺に喝を入れる為か?」

「そうだ。鈍くて弱い未熟な奴など、そんなものは男では無いからな」

「まあ色々あったが、ありがとな錆兎」

 

そんな彼に俺は礼を言うのであった。

恐らく錆兎は、腑抜けて何もかも無くしたかのような俺を見兼ねて姿を現したのだろう。

師匠の元では生きる術を学んだが、この山では錆兎と真菰にそれ以上に大切な生きる原動力を教わった。

本当に感謝してもしきれない。

すると、真菰と錆兎が俺の前に出てきてある物を渡してきた。

それは、日頃彼らが着けている狐のお面だ。

真菰のお面はにこやかな表情で、右頬には愛らしい花柄の模様が描かれていた。

錆兎のは、対照的に力強い男の表情で、右頬に大きな傷跡のあるお面だった。

 

「竜也の大事な人に渡してあげて。きっと守ってくれるから」

「俺の面も持っていけ・・・・」

「真菰・・・錆兎・・・ありがとな」

 

そう言うと俺は、真菰と錆兎からそれぞれのお面を受け取るのだった。

このお面は、錆兎と真菰の大切な人である鱗滝(うろこだき)という名の人物が、自ら作って貰った物であり厄除の面と呼ばれ、災いを取り払うと言う意味が込められたお面だそうだ。

 

「竜也・・・男なら大切な物や人を守れるくらい強くなれ。それは生きている人間であるお前しかできない事だ」

「竜也なら大丈夫だよ。だって、竜也も炭治郎みたいに心が温かいから」

「錆兎・・・真菰・・・分かった。ありがとな二人共」

 

二人は俺にお面を渡しそう告げると濃ゆい霧が覆う山の中へ姿を消していった。

それと同時に東の空から朝日が差してくるのが見えた。

俺はお面を手にし山を下りるのであった。

丁度俺が山に入って1週間が経った日の事であった。

麓には大鳥さんが車で迎えに来ていた。

 

「俺の課した試練を乗り越えたな。よく頑張ったな」

「大鳥さん・・・」

「どうやら心の迷いと暗雲も払ったようだ」

 

普段の厳つい顔から想像できない優しい笑顔で俺を迎えてくれた。

こうして俺は、大鳥さんの課した試練を乗り越え帰路に就くのであった。

道中あの山で経験した事を話すのだった。

あの山の名は『狭霧山(さぎりやま)』と呼ばれ年中濃ゆい霧で覆われている山であり、同時に心霊スポットでも有名な場所だ。

山の中の空気は薄くまるで冥府を連想させるように暗い所で、山を訪れた人の大半が白い狐の面を被った少年少女の霊を目撃しているそうだ。

そんな山に何故俺を連れて行ったのかと言いたいが、敢えて黙っておく事にした。

俺はその話を聞いて錆兎と真菰を思い出す。

以前から不思議に思っていたが、あの二人は山に住む人間では無く幽霊じゃないかと感じた。

会った時もそうだが、明らかに人間の気配とは異なっていたからだ。

大鳥さんの話を聞いて漸く納得がいく答えが見えた。

 

「(また来るぜ、錆兎・・・真菰・・・)」

 

俺はあの山を振り返りそう思い、時間があればあの山へ再び行くことを決心した。

家の近くまで送ってもらい、大鳥さんとは其処で別れた。

家の玄関には優花が俺の帰りを待っていた。

どうやら、大鳥さんからは事情を聞いていたのかやや心配そうな顔をしていた。

俺は、ゆっくりと歩き優花には差し掛けようとした時であった。

突然、優花が俺に向かって駆け出すとそのまま抱き着いてきた。

 

「馬鹿!!心配したんだよ!!また・・いなくなったんじゃないかって!!」

「優花・・・・・心配かけて悪かった」

 

俺は素直に謝りつつ優花を優しく抱きしめた。

流石にこのままは気まずいので家の中に入る事にした。

優花は中々泣き止まなかったが、どうにか泣き止んでもらう事が出来た。

日本に帰ってきたころと変わらず家の中は静かだが、心なしか温かくなった気がした。

時計の針を見ると、既に夕方を示し夕食時なのが分かった。

俺はある事を優花に頼むことにした。

 

「なあ優花、少し気まずいんだが、その・・・頼み聞いてもらえるか?」

「なに?」

「久しぶりに優花のオムライス食いたくなってな。どうだろうか・・・」

「オムライス?」

 

散々心配かけて言うのもなんだが、無性に優花の作るオムライスが食べたくなったのである。

優花が料理上手なのは昔から分かっているのだが、オムライスは特に絶品である。

此処最近あんまり良い物を食べていなかったのもあり食欲が以前のように戻ってきたのだ。

優花は流した涙を振るい、台所へ向かうと調理を開始した。

俺は座ってていいと言われ、テーブルのある椅子に座り完成を待つことにした。

 

「はい、特製オムライスの完成っと!!」

「おお!!待ってました!!」

「熱いから気を付けてね」

「嗅覚と食欲を刺激し、暖かさと優しさを感じる香り、正しく優香特製オムライスだ!!」

「もう、大袈裟なんだから」

 

俺はスプーンを手にし、口の中にオムライスを入れるのであった。

ほんのりとしてまろやかな味わいが口の中を充実するのが分かった。

今まで優香特製オムライスは食べてきたが、歴代最高にまで美味いと言える。

其処で俺はある事に気が付いた。

目頭が熱くなって、視界が潤んでいるのだ。

こんなにも人の温かみを感じる料理を食べたのは初めてである。

俺のそんな様子に優花は心配してくれたのだが、大丈夫だと言って残りを食べるのであった。

その日、俺は両親が亡くなったと知っても尚、流す事が無かった涙を初めて流したのだった。

同時に、俺に胃袋はガッチリと優花に掴まれたのであった。

あの時食べた優花が作ったオムライスの味は、何時までも忘れることはない。

 

その後、俺は本来なら4月に入学するはずであった高校に遅れながら通学する事になった。

クラス入りした頃は既に一学期の終わり頃であり、遅れていた勉強は夏休み返上覚悟で挑むのであった。

学校側も俺に起きた事情は把握しており、詳しく追及することはなかった。

補習も兼ねて俺の担当となったのは、当時まだ新人教師になったばかりの畑山先生であった。

先生もそれなり頑張って俺の勉強を見てくれていた。

その甲斐もあり夏休み後半までには、遅れていた勉強を取り戻すまでに至った。

2学期から新たにクラスメイトとして、この学校に優花と通えるようになったのは一途に畑山先生のおかげでもある。

皆は、先生を愛ちゃんと呼ぶが俺は敬意も込めて畑山先生と呼ぶのだった。

クラスメイトには色々な奴がいたが、中々周囲とも馴染めず苦労したりした。

中には興味本位で悪意を持って接する小悪党染みた馬鹿共がいた。

鬱陶しく絡んで来ようとするが、殺気を籠った目で睨みつけてそのまま黙らせた。

結果として、優花以外の交友が無いまま学校生活を送る日々となったが、対して気にはしなかった。

 

それからと言うものの、俺は優花の両親が経営する洋食屋でアルバイトをしつつ、時間を見ては狭霧山にソロキャンプという名の山籠もりをしに何度も訪れる事にした。

山には錆兎と真菰以外にも大勢の子供たちが居て、腕試しも兼ねた手合わせも何度も行った。

大鳥さんの元で格闘術を学ぶべく鍛錬をしたり、俺の様子を見に来た弦十郎さんとアクション映画顔負けの特訓を身内である甥の少女と一緒にやったり等、それなりに楽しい日々を送っていた。

他にも色々な事があったが、俺なりに日々の生活を謳歌するのであった。

 

 

 

「・・・まあ、こんなもんだな。あんまり面白い話じゃなかっただろ」

「いや、お前の事を知る事が出来たのだ。それだけでも僥倖と言えるだろう」

 

俺は此れまでの経緯を横に座るコハクに話すのであった。

辛い事や悲しい事もあったが、それがあったからこそ今の自分があると思い、改めて横に座るパートナーに話すのであった。

異世界に召喚され、戦いに巻き込まれ、奈落の底で俺はコハクと出会った。

共に過ごすに連れ、段々と俺に中ではコハクの事が優花と同じぐらい大切な存在になっていた。

同時に、コハクと優花も異性として意識し始めるのであった。

優花は幼馴染ではあるが奈落に堕ちてから、再び離れ離れになってからより一層愛おしさを感じるようになった。

地上にいた時は、優花の事を一番大切な人と言ったが、今では最早大切処か好きな人と呼べる存在になっていた。

コハクの事もそうだ。

最初は人間嫌いで常識はあるが戦闘狂のおっかない奴だったのが、共に過ごし境遇を聞き、肩を並べて戦い抜き、今では俺にこんなにも心を開いてくれている。

九尾の狐で人の姿をしているが、結構というよりかなり俺好みのタイプだったりする。

美人で気が強いが何より他人を思いやる優しさを持ったコハクの事が何時の間にか好きになっていた。

俺の胃袋は優花が握っているが、心はコハクが握りつつあるのであった。

コハクの気持ちにも応えたいが、優花の事もあり板挟みとなって悩んでいた時であった。

何かと思いコハクの話を聞く事にした。

 

「そういえばお前の話に出た、ケルト女という人間は何者だ?」

「ああ、そう言えばアイツとも色々あったな」

 

その女は、俺が日本に帰国してから数か月後、再び会いまみえるのであった。

なんでも、あの事故の真相を突き詰めるべく、アイルランドから態々日本までやって来てまでも事の真相を確かめるべく俺の前に再び現れた。

その事でケルト女と色々いざこざがあったがそれはまた別の話として置いておく。

ただ、あの女の名前は今でもはっきりと覚えている。

 

「俺がケルト女と呼ぶアイツの名前は、『バゼット・フラガ・マクレミッツ』だ」

 

 

 




次回予告『旅立ち』

過去編第一弾は此れまでとなりますが、何時の日かまた行いますのでお楽しみに。
次回から本編に移ってきますので乞うご期待ください

追伸:ネタバレ防止のためあ敢えて伏せていましたが、主人公である篠崎竜也君の容姿はクー・フーリン(プロトタイプ)となっております。
察しの良い人はイメージCVで凡そ予想していたと思いますが、キャラ紹介時に詳しく記入しますのでお待ちください。
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