ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強   作:ゴルゴム・オルタ

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ネタ集めやら話の構成に今後の展開を考えていく内に遅くなりました。
今回で第一章が終わります

前回と比べ文字数が少ないかもしれませんがご了承ください。


第一章 最終
旅立ち


コハクに俺の過去を話した翌日、ハジメとユエが気まずそうな顔で俺に話しかけてきた。

どうやら俺の話を遠巻きに聞いてしまったらしい。

「盗み聞きする気はなかった、すまない」とハジメは言ってきたが、俺は気にする事はないと返した。

寧ろ変に気を使われるより、此れまで通りで良いと言った。

そんな事もあったが、オスカーの隠れ家での生活も概ね慣れてきた。

ハジメは、地上に出て激化が予想される戦闘に備えて必要になるであろう新兵器と移動手段としてのアーティファクトの開発を開始した。

その間俺とコハク、ユエで料理の食材となる魔物の討伐に迷宮に赴くのであった。

流石に生活する以上、食糧となる物の調達は外に出ないといけないが、その過程で意外な発見があった。

 

それは、ユエがエセアルラウネという魔物に捕らえられた階層の部屋である物を見つけた。

迷宮の最深部にある扉と大きさは違うが同じ物が其処にあった。

長年放置されていたのか、此処に来た時は蔦や木が生い茂り覆い被さっていたので全く気が付かなかった。

偶然其れを見つけた俺達は扉の中を探索する事にした。

扉を開けたら其処は、隠れ家と同じく明るい光が差し込む場所であった。

部屋の中は様々な動植物があり、植物園か何かを連想させた。

念の為に、コハクに頼み式神を飛ばしてもらい、危険な生物がいないか探ってもらった。

幸い、そのような生物は居らず安全地帯だと言うのが分かった。

更に奥を進んで行き探索を終えるとこの隠し部屋と言える謎の階層の正体が分かったのである。

此処はいわば食料となる植物を育てる栽培室だという事だ。

部屋の隅々を見れば其処には色取り取りの野菜や果物が栽培されていた。

多種多様にエリア分けして栽培されており、その種類はかなりの数に至っていた。

目に付いた木に生っていたリンゴを手で千切り食べた所、全く問題なかった。

どういった理屈で畑が保たれているかは分からないが、俺としては嬉しい発見であった。

奈落に堕ちてからの食事はどれも魔物の肉ばかりであり、とてもまともじゃない食生活を送っていた。

いい加減に肉以外の品目も食べたいと思っていたので渡りに船である。

俺とコハク、ユエの三人で手分けして野菜の収穫に取り掛かった。

こんな事の為にある物を持ってきた。

それは、オスカーが造ったアーティファクトにあった宝物庫と呼ばれる物の試作品だ。

完成品はハジメが使用する指輪サイズの物だが、これは結構大きな物で長さ300㎝幅200㎝深さ100㎝の代物だ。

言うなればRPGでお馴染みの便利なアイテムボックスだ。

普段は俺がルーン魔術で収納し必要に応じだしている。

性能としては完成品と同じで容量の物が収納できる。ただ大きさがネックになるので、小型化が現在の課題でもあった。

俺達三人は多種多様な野菜と果物を収穫し宝物庫(試作品)に収納していくのであった。

 

隣のエリアには野菜と果物以外にも調味料の原料となる物があった。

料理の基本「 さ し す せ そ 」となる砂糖、塩、酢、醤油、味噌があった。

野菜エリアの横には、水源地帯と言える場所があり小さな水溜りのような物が無数にあった。

酢と醤油は水源の湧き水のように静かに溢れていたのであった。

どんな原理であろうか、熟成や発酵の行程もそうだが保存に際し空気に触れれば酸化が進み劣化するものだが。

味噌に至っては白味噌と赤味噌があり、火山の河口から溢れる溶岩のようにブクブクと音を立ていた。

熟成の為に暗所で寝かせる必要が有るかも知れないので確認しなければ。

砂糖と塩は少し違うが、砂漠や雪原を思わせる広がる銀世界のように輝いていた。

他にも胡椒の実やパンの原料となる小麦粉が山のようにあった。

栽培エリアにも小麦や胡桃は有ったが収穫され加工されている物も存在したらしい。

久しぶりに嗅ぐ懐かしい調味料の匂いに驚きと戸惑いを隠せなかった。

あらかじめ用意してきた大き目の瓶にそれ等を入れていった。

胃酸強化スキルにモノを言わせ味見をしてみたが、問題は無いように思えた。

これで漸く本格的に料理を振るう事が出来ると思った俺は嬉しくて溜まらなかった。

そうと分かれば俺達は採集作業に取り掛かった。

 

「いやあ結構取れたもんだな。」

「それは何よりだ、今夜の食事は期待しても良いのだろうな?」

「応よ!!久しぶりに腕を振るってやるから楽しみにしてろよ」

「うん。ハジメとタツヤがいた故郷の料理、凄く楽しみ」

 

凡そ半日程の時間をかけて俺達は、収穫と採集を終え帰路に着くのであった。

食材以外にも料理に必要なオリーブを筆頭とした油や胡椒を筆頭とした香辛料の実等もあり概ね満足な成果であったと言えよう。

ただ、米の原料である稲が無いのが不満だが、暫く小麦粉で作るパンでどうにかしよう。

 

あの隠しエリアには食材や調味料以外にも生物が生息していた。

それは数時間前に遡る。

奥に行けば森と湖があるエリアがあり、其処には鳥や兎、鹿や牛等と言った草食動物が生息していた。

それもただの草食生物ではなかった。

テレビや図鑑で見るような毛の色と異なり、どれも全身の毛皮が金色なのだ。

湖がある場所には黄金の角と毛皮を纏った鹿と牛の群れがいた。

遠目で見ても分かるその輝きを放つ生物に俺は、只の個体ではないのが直感でわかった。

しかも俺が知っている鹿や牛より一回り大きいのだ。

例えるならば、某モンスターをハンティングするゲームで言う通常種と異なる希少種や亜種等の個体と言えば分かるだろう。

世間一般で知られる鹿や牛が同ゲームで長年看板モンスターとして君臨する『空の王者』の異名で有名な火竜の通常種と仮定しよう。

目の前にいる黄金の鹿と牛(近くで見たらバッファローであった)は希少種とされる『銀火竜』や亜種である『蒼火竜』、群れのリーダー格は更にその上を行く『黒炎王』と言えばいいだろうか。

幸いこちらには気が付いていない模様だ。

奇襲を仕掛けて仕留めるには良い頃合いだ。

折角だ、今夜の夕食のメインディッシュと今後の旅に食べる食材には打ってつけだ。

俺は槍を取り出すと、コハクとユエに戦闘準備をするように合図をした。

コハクに至っては概ね俺の心情を察したのか、既に準備を済ませ不敵な笑みを浮かべ刀を出し手にしていた。

 

「ユエ、俺達がいた故郷では獲物を狩りに行く際に仲間にある一言を言ってから狩りに行くんだ」

「?・・・それは何て言うの・・・?」

「それはな・・・『一狩り行こうぜ!』って言うんだ!!」

 

本当ならハジメも呼んで一緒にやりたかったのだが、今回は仕方ないから次回またやろう。

俺とコハクは背を低くして見つからない距離まで近づくと、ユエの魔法の合図を待つ。

 

「〝緋槍〟」

「ユエの魔法の着弾と同時に駆けるぞ・・・いいかコハク?」

「ああ、任せておけ。久しぶりの狩りだ。一撃で仕留める!!」

 

ユエの放つ炎を円錐状の槍の魔法は群れの中心に着弾し爆発を起こす。

突然の爆発に驚き統制を失う金色の魔物達の群れを駆け巡り、一気に接近する俺とコハク。

それぞれ狙いを定め、俺は金色の鹿をコハクは金色のバッファローに狙いを定めると、自身の獲物を振り翳し獲物の首を落とす。

一瞬の出来事ではあったが、取り逃がす事無く仕留める事が出来た。

群れは突然の襲撃に鹿と牛の群れは驚き、すぐさま森の方へ逃げ帰って行った。

あれら全てを仕留める事はない。

必要な分だけ狩り、他は別の機会に狩ればいい。

そう思いながら俺は仕留めた獲物の血抜きを行い、宝物庫(試作品)に収納するのであった。

俺自身は知らなかったが、仕留めた獲物達は地上では幻の生物とさえ言われ、現存する事が疑われる伝説の生物だと言う。

他にも金色の卵を産む鶏や鋭い牙を持つ猪を仕留めていった。

金の卵を産む鳥はそんな童話が有ったな、と元の世界への郷愁を誘った。1羽は持ち帰って新鮮な卵を産んで貰う様に出来ないだろうか?

かくして俺達は狩りを終え、オスカーの隠れ家である今の住処へ戻るのであった。

勿論、再び訪れる為にも隠れ家までにマーキングをしっかり行い、迷うことなく再び訪れる事が出来るように念入りに行った。

尚、ハジメに黄金鹿と黄金牛の話をしたら、「次は俺も絶対に行くからな!!」と目を開いて俺に迫ってきたのは余談だ。

 

拠点に戻った俺は早速調理に取り掛かった。

調理に必要な道具はハジメに作ってもらい、必要な材料と油は隠しエリアから調達済みである。

今夜の夕食は黄金鹿のメンチカツである。

本当なら鹿肉をヨーグルトに漬けて肉の臭みを取り柔らかくするのだが、それが無い為断念せざるを得ないためまたの機会にやろう。

黄金牛が乳牛として役に立つかも要確認である。

まず、肉をハジメに錬成して貰ったミンチメーカーで挽肉にしていき、玉ねぎを微塵切りにして、肉と調味料を合わせてよく混ぜる。

挽肉は滑らかな二度挽と歯応えを残す粗挽きを3対1の割合で混ぜ合わせるのがポイントだ。

粘り気が出てきたら形を作り、小麦と卵、パン粉で衣をつけて油で揚げる。パン粉はどういう訳か隠しエリアに有った、無ければ小麦粉からパンを作りミキサーで砕かねばならなかった為にメンチカツでは無くハンバーグにするところだったのは余談だ。

その間にキャベツの千切りを行い皿に盛り、狐色になるまで揚げたら揚げ皿に上げ余熱で中まで火を通したら完成だ。

そのままメンチカツを食べても良いがウスターソースとマスタードかけて食べるとよりおいしく味わえる、何故か隠しエリアには有ったので今回は食卓に出せた。通な人には塩で食べるのもオススメだ。

野菜には隠しエリアで取れたドレッシングもある為よりおいしく食べれる。

メンチカツと言えば豚ロースだが鹿肉ならではの利点もある。

それは、100g中の栄養価比較だ。

豚肉が263kcalに対し、鹿肉は半分以下の110kcalである。

たんぱく質も鹿肉が上であり、脂質に至っては豚肉の19.2gと比較しても鹿肉は1.5gである。

最も、この極限条件下では脂肪を増やさねば長時間栄養補給が叶わない時に筋肉を消費して生命を維持する事になりかねないので、バランスを取ることも大事だ。平時でアスリートやダイエットを心掛ける人には最適なメニューでは有ることは間違いない。

つまり男女問わずヘルシーで肉感がしっかりで美味しいのであるのだ。ネックとしてはやはりジビエ特有の臭みだろう、ヨーグルトが無いためハーブである程度消さなければ女性には辛いかも知れない。

本当ならもっと手を込んでじっくり作っていきたがったが、あくまで元居た世界の料理の再現であるものの、食べてくれる人に満足してもらえれば俺はそれで充分であった。

 

本当なら主食はパンではなく米がよかったが、ハジメとユエも大いに満足してくれた。パンが主食になるのならメンチカツサンドをメインに据えても良かったかも知れないが、今回は定食メニューで通させて貰った。

見た目も良いが、ナイフで切ると中から肉汁が出てより食欲を感じる。

いざ口にすると此れまで味わった事の無い食感と味に驚きと衝撃を得たのか、目を開いていた。

コハクもメンチカツは初めてではあるが、食べている表情を見れば大いに満足してもらえたのか終始笑顔であった。

当然、ハジメとユエ、コハクにもお代わりを頼まれた為、予め多く作っておいたメンチカツをそれぞれの皿に盛っていき食されていくのを見ていた。

勿論、俺の分はあらかじめ確保済みである。

後日、ハジメのリクエストでモン〇ン飯が食べたいと言うのもあり、ハジメの監修と要望に応え、見事オリジナルに近いモン〇ン飯を再現した料理が完成したのは余談である。

どうもハジメは、アニメや漫画で定番の『マンガ肉』に憧れていたのかそう言った料理を希望するのであった。

まぁ、気持ちは分かる。骨の付いた大きな肉にかぶり付くのは男の子なら一度は憧れる物だろう。

そんな食事風景を間近で見て俺はある感情を胸に感じた。

それは、元居た世界での食事はほとんど一人か優花と二人で食べてきたのだが、大人数で食べる食事と言うのも良い物だ。

もしかしたら、両親が居酒屋をやっていたのはこんな光景を見ていたかったなのかも知れない、そう思った。

何時の日か自分の家族という物が出来たら今の様な光景を見れるのだろうかと思いつつ、食卓に着き料理を口にするのであった。

そんな取り留めの無いことを考えていた俺は、隣で美味しそうに食事をするコハクを見てある事を決めた。

 

「ああ・・・いい湯だ」

 

夕食が済み後片付けを終え、一人露天風呂でゆったりと湯船に肩まで浸かりのんびりするのであった。

背中を伸ばし疲れを取っていると、後ろから気配と足音を感じた。

ハジメやユエで無いとすれば残りは只一人だ。

 

「どうせ其処にいるんだろコハク。入ってきたらどうなんだ?」

「ああ、そうさせてもらう」

 

敢えて振り返る事はせずに俺は横から湯船に入ってくるコハクを待っていた。

今更ではあるが結構慣れて来た光景だ。

もっとも魔槍(意味深)が魔力(意味深)を巡らせるのを辞めるにはまだまだ若い身体では無理だ、枯れている訳でも不能な訳でもない健康な雄なのだから。

湯船に浸かりつつも俺は今後の事を考えていた。

地上に戻り元居た世界に帰る手掛かりを見つけたその後だ。

それまでにコハクのお姉さんを見つけなければならない。

それはコハクと交わした約束の一つであり破る気などサラサラない。

問題は目的がすべて完遂された後の事だ。

コハクはその後一体どうするのだろうか?

俺はそれを確かめるべくコハクに聞いてみる事にした。

 

「なあ、俺達の旅はまだ始まってすらいないんだが」

「ん?急にどうした」

「ああいや、その何て言うか。コハクは姉さんを探す為に、俺達は元居た世界に帰る手掛かり得る為、旅に出る。これは合っているな?」

「そうだ、私はなんとしても姉さまを見つけねばならない」

「それが終わったらお前はどうするんだ」

「・・・そうだな。それについては考えもしなかったな。最もお前の傍を離れる気はないが」

「それなら俺の家に来るか?」

 

改まって思うが、俺はコハクの事が好きだ。

此処最近、一緒に暮らし過ごすようになってからその思いが膨れ上がっていた。けっしてその肉感的な肢体に惹かれた訳では無い……とも言いきれないが、それ以上に背中を預け合い共に死線を潜り抜けた間柄なのだ。

仮に元居た世界に帰れても、俺はまた一人生活へと逆戻りだ。

一人で生きていくと決めた筈なのだが、コハクと過ごすうちに家庭の暖かさを再び感じた。

人は独りでは生きていけないとはさて、誰の言葉だったか。

両親が亡くなってから家を出る時も、帰る時も誰もいない家で俺は過ごしてきた。幼馴染の優花は迎えに来てくれては居るが、彼女には彼女の生活が有る故に一緒に住んでいる訳でもない。

せめて帰りを待ち出迎えてくれる人が居れば俺はそれで満足だ。また『行ってきます』と『お帰りなさい』が交わされる生活を送りたい、両親が生きていた頃の空気を僅かでも戻したいのだ。

だからこそ俺は元居た世界に帰る事が出来る日が来たのなら、コハクとお姉さんを同じ家で住む家族として迎え入れたい。

傍から見ればとんでもない考えかもしれないが知った事か。孤独を理解しない第三者にこの感情を否定されたくは無い。

誰が何と言おうが俺は、コハクの事が好きで家族として迎え入れる。

そうコハクに伝えた。

すると、当の本人はやや驚いた表情をしていた。

九尾の狐なのに狐に摘ままれた顔で驚いていたのだった。

 

「それはつまり、お前は私に・・・嫁に来いと言っているのか?」

「まあ・・・最終的にはそうなるがダメか?」

「駄目ではないが、私は九尾の狐なんだぞ!!」

「ああ知ってるよ、だが今更それがどうした。」

「九尾の狐を嫁にする男はお前が初めてだぞ・・・」

 

頬を赤く染め照れつつも何処か嬉しそうな表情をするコハクの事が愛おしく思った。

諸説有るが、安倍晴明には狐の血が流れていると言う逸話も有るのだが、今は不粋なので無いものとする。

コハクの肩を両手で握り顔を合わせると、彼女に想いを告げるのであった。

 

「誰がなんて言おうが関係ねえ、俺はお前が事が好きだ。」

「竜也・・・・・私もお前が好きだ。」

「コハク、今日からお前は俺の家族だ」

「竜也。ああ末永くよろしく頼む」

 

俺はそのままコハクと口付けを交わすのだった。

突然の事に驚くも、そのまま身を任せお互い抱きしめ合った。

湯の熱とは違うコハクの体温と肌の柔らかさを感じる、沸き上がるこの気持ちは愛しさと呼ばれる物だろう。

気の済むまでお互いの唇を味わい終え、俺はコハクに「続きは部屋でやるぞ」と告げた。

魔槍(意味深)が『ついに出番か!』と猛り狂って(意味深)いる。

その意味を理解したのか耳をピンッと立て、顔をさらに赤く染めた。

やや視線が下に向き、俺の魔槍(意味深)がどうなって居るのかを確認して首筋まで赤くなる。

普段物静かで落ち着きのある大人の女性の雰囲気を漂わせるコハクだが、こう言った事に関しては初心なのか何とも見ていて可愛げのある表情をするものだ。

俺とコハクは体を拭き服を着ると部屋に戻るのであった。

部屋に戻って何をしたかと聞かれれば、内緒だと答えよう。

敢えて言うならば愛し合ったと答えるべきか、魔槍(意味深)の真名解放(意味深)が果たされたと言うべきか。

同時に俺は新たに聖約〈ゲッシュ〉を立てるのと決めた。

それは、〈愛する者達を守る為必ず生き残る〉だ。

例え戦いに勝っても死んでしまったらおしまいだ。

何より愛すると決めた女達を泣かせたくはないからだ。

こうして俺とコハクは異世界の奈落の底にある最深部の隠れ家で愛を交わし家族となるのであった。

 

翌日、この事をハジメとユエに話したらやや驚くもおめでとうと祝福してくれた。

優花の事はどうするのかとハジメに尋ねられたが、その事に関しては優花に会った時にしっかりと話すつもりでいる。

と言うより、優花にも俺の想いを伝える気でいる。

傍から見たら堂々と二股宣言しているも同然だが、コハクはその事に関しては一切異議を唱え無い処かむしろ背中を押してくれていた。そもそも彼女は九尾の狐で在るため、一般的な人とは倫理観が若干ズレて居る節が有る。

女を侍らせるのは強者の特権だと言い、俺の大切な者をこれからも増やしてほしいと言ってくれた。

その時やや顔を赤らめながら下腹部を撫でていたのは気にしない方向で。

俺自身ハーレム願望など微塵も無ければ、女遊びが好きな女好きでも無い。

純粋に心からコハクが好きで、家族として迎え入れたいだけだ。

もしかしたら、両親を喪ったあの時から俺は家族の枠組みと言う物に何かしらのズレが生じているのかも知れない。

優花は俺の事をどう思っているか気になるが、会ったら会ったで話をしようと思う。

コハク自身も優花の事に興味を持ったのか、色々話を聞いてきたりした。

俺の孤独を癒して居たこと、寄り添って居たことに尊敬に近い念を抱いている様に見えた。

それともう一つコハクからの頼みで、もし生きて再会が叶うのであればお姉さんも家族に加えて欲しいそうだ。

俺はコハクのお姉さんの事について知らない為、改めて聞くことになった。

 

そのお姉さんはコハクとは色々と対照的な存在であった。

まずコハクが九尾の白狐ならば、お姉さんは九尾の赤狐であり傍から見れば紅白揃って縁起がいいなと俺は思っていた。

人の姿となった時の容姿は、長く艶のある黒髪の美しい美女で、胸はコハク以上の大変ご立派な物をお持ちらしく胸元を大きく開けないと息苦しいとの事で大分扇情的な着方をしているとの事、服装はコハク同様に着物姿であり、色合いは赤と黒が基調であるそうだ。

普段は物静かな口調で思慮深く妖艶な雰囲気を漂わせる年上のお姉さんだそうだが、コハクと真逆で人間を嫌うどころか愛しているそうだ。

竜人族の里に滞在していた時も、子供や大人の男性からも親しまれており、当時の竜人族の王とその妻である二人の仲睦まじい夫婦の関係に憧れを抱いていたのである。

最も其処までは良かったが、問題はそこから先である。

その愛がとてつもなく重い物であるのだ。

敵対者には容赦のない蒼炎で焼き滅ぼすコハクとは逆に、お姉さんは赤く燃え盛る紅蓮の炎を全身に纏い愛の抱擁と言い直接抱きしめたり、無数の火球を造り出し広範囲に連続で放ったり等々である。

お姉さんの紅焔は、触れたり直撃すれば焼け焦げる所か、骨も残らず蒸発するほどの高温の炎であり、その光景を何度も目の当たりにしてきたのか、「私の愛を受け止める事が出来る殿方は何処・・・」と口にし目から理性の光が消えた幽鬼のような顔で戦場を彷徨い歩き、討伐しに来る人間達を愛の紅焔で燃やしてきたそうだ。随分と熱烈な婚活である、生きるにしろ死ぬにしろ墓場行き確定である。

大まかに説明すればこんな感じだとコハクは告げた。

その話を聞いてハジメとユエはドン引きしていた。

だが、何となくハジメは似た何かから逃げられないのではないかと俺の直感的な何かが告げてきた。

俺はコハクの話を聞いて何となくではあるがお姉さんの事が分かった。

コハクが分別の有る戦闘狂のクーデレならば、お姉さんは思慮深い妖艶なヤンデレである。

其れも只のヤンデレではない。

高純度1000%で濃縮された超重い愛のヤンデレだ。

ブラックホール並に重力が強い、一度捕まれば逃げ出せないレベルだろう。

ふざけて婚活戦士ゼクシィなどとは間違っても呼べない、骨も残らない熱烈な抱擁を受けるだろう。

この先会うかもしれないコハクのお姉さんとの会合に非常に不安を残しつつも話を終えるのであった。

 

 

オスカーの隠れ家で過ごすようになって二か月余り月日が過ぎた。

俺達は地上に出る決意をし、準備と装備を整えるのであった。

思いの他隠れ家での生活を満喫した俺達だったが、漸くこの日が来たのである。

神代魔法を会得した部屋にある魔法陣が地上と繋がっておりそこから転移するのだと言う。

 

「結構長く此処に滞在したが皆、準備は出来たな?」

「うん、ハジメと皆となら何処でだって行ける」

「こっちの生活もそれなりに良かったが、そろそろ本物の太陽を拝みたいしな」

「私には姉様を探すと言う義務がある異論はない」

 

この時、ユエとコハクの左薬指には指輪が嵌められていた。

それは神結晶で出来た指輪であり、魔力枯渇を防げる代物である。

ハジメがユエに、俺がコハクに渡す際プロポーズと誤解されたが、俺としては元居た世界に帰りその際に改めて本命を渡すので、婚約指輪とも言えるだろうか。

そんな話をしたら夜に激しい戦闘(意味深)が起ったが割合。

 

「ユエ、竜也、コハク。俺達の武器や力は地上では異端だ。教会や各国が黙っている筈がない」

「ん・・・・」

「この世界に無い兵器やアーティファクトを要求されて、戦争に強制参加も考えられる」

「だろうな・・・」

「教会や国だけでなく自称神の狂人とだって敵対するかもしれないヤバイ旅だ」

「今更だな、望む所だ!」

 

ハジメの演説染みた台詞にそれぞれが答えていく。

 

「俺がユエを、ユエが俺を守り、竜也がコハクを、コハクが竜也を守る。」

「それで俺達4人は世界最強だ。敵は全部ぶっ飛ばして世界を超えようぜ!!」

 

魔法陣が光るや、俺達はそれに吸い込まれるように包まれた。

こうして俺達はオスカーの隠れ家を去り、地上へと帰還を果たすのであった。

 

 

同時刻、ハイリヒ王国の城の中にある鍛錬室で一人、己を鍛えるべくトレーニングに勤しんでいる人物がいた。

栗毛に切れ目が特徴の少女が黙々と鍛錬を行い修練を重ねていた。

普段下ろしている髪を一つに束ね、ポニーテールと呼ばれる髪型にしている少女は、ボクシングジムにあるサンドバッグを模した砂袋に拳を叩きこんでいく。

只闇雲に打つのではなく、無駄なく正確なフォームでそしてスピーディーに叩き込んでいく。

無意識下でもこなせるように鍛練を重ねた様子がその一打一打に垣間見える。

以前の少女はごく普通の一般人と大して変わらない体格をしていた。

オルクス大迷宮で行われた実践訓練中に起きた事故とある出来事が切欠で、彼女は戦士の道を踏み出した。

彼女の幼馴染である少年が見たら、もしかしたら料理人として大切にしていた手に拳胼胝が出来ている事に少なくない悲しみの感情を持ったかもしれない。

彼女を知る者達はまるで別人のようになったみたいだと言わんばかりに彼女の体格を称えた。

いや、一人の大人はその選択を尊重しつつも自身の無力を感じていたのかも知れないが。

スレンダーではあるが、美しさと強さの両方を均等に保ちつつ鍛えられた肉体は、昔の弱く守られてばかりの存在ではなかった。

休憩をするつもりなのか軽く息を整えて、供えられたベンチに腰を掛ける。

すると彼女は天井を見上げ、拳を高くつき上げると呟くようにこう言った。

 

「竜也・・・皆は死んだって言うけど・・私は竜也が生きているのを信じて諦めないよ」

 

周囲の人間が奈落の底に堕ち死んだと言う人物の一人、篠崎竜也を名前で呼ぶ彼女こそ園部優花であった。

一時期はショックで部屋に閉じこもっていた彼女は何故あの事故から立ち上がり、戦士といての道を進むようになったかは別の話で語るとする。

そんな彼女を見守るかのように、ベンチに置かれた白い狐の面が傍らに有るのであった。




次回予告第1.5章『残された者達』
第二章の前に幕間を挟んで次に移ろうかと思います。

今回出た隠しエリアですが本作オリジナル設定で、奈落の底の生活はどうするかと思い考え、昔ジャンプで連載されていた『トリコ』を読んでひらめきました。

作中出てきた宝物庫(試作品)ですが、モンハンのアイテムボックスをイメージされれば助かります。

そして、コハクのお姉さんですが、容姿はアズールレーンの赤城でイメージCVは声優の中原麻衣さんとなってます。
今後とも皆様のご感想をお待ちしれおります。
何時もご感想を書いてくださる方々、本当にありがとうございます。

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