ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強 作:ゴルゴム・オルタ
至らぬところがあると思いますが、心深く読んでくれると幸いです。
残された者達
月日は遡り、竜也達がオルクスの真の大迷宮を発つ数ヵ月前になる。
オルクス大迷宮での不測の事故で死者が出て三日程経った。
五体満足で何とか迷宮入り口まで帰還した勇者一行を含むクラスメイトは、意気消沈となっていた。
皆誰もが生き残るのに必死で他者に気を配る余裕が無かった。
実戦訓練初日でまさか死者が出るとは思わず、悔しさと己の不甲斐なさを隠しきれないメルドであった。
オルクス大迷宮における初の実戦訓練にて不測の事態に陥り、死者が出た事を護衛に就いていたメルド団長による報告がすぐさま王宮に上がった。
訓練とはいえ死者が出たのに驚く一同であったが、それが錬成師の南雲ハジメと天職不明の篠崎竜也と知り王国上層部は安堵するのであった。
もしこれが勇者であれば一大事だが、無能と呼ばれる者と得体の知れない者であれば大した事では無いと判断し、メルド団長への処罰は不問とされた。
それを聞いたクラスメイトの一部は憤慨しそうになるが、周囲に止められ有耶無耶になってしまった。
この事がクラスメイトの内で軋轢を生むことになるのだが、それは後に語るとする。
南雲と篠崎の二人が奈落に堕ちた光景を目の当たりにした白崎と園部はショックのあまり今でも宛がわれた自室で眠っている。
二人が奈落の底へ堕ちた当初、その光景に我を失い錯乱する二人を無理やり気絶させ、強引に地上に連れ帰ったのはメルド団長であった。
他のクラスメイトも異世界で目の当たりにした死への恐怖に戦意と覇気を失っていた。
其れもそうだ。
ある日突然、異世界に召喚され戦争へ参加する事を強制され、戦う力があっても無縁の生活を送っていた少年少女に訓練を施したとは言えど戦いのイロハも分からない人間に顔見知りの死を直ぐに受け入れられる筈も無い。
特に篠崎と南雲が殿を務め皆を逃がす際、援護で放った魔弾が誤射で二人の足元に着弾し、奈落の底へ堕とす切欠になったなど誰も想像にさえしなかった。
あの時様々な魔法の魔弾が錯綜し誰が何を撃った等分かりもしない。
もしかしたら自分の責任と思い誰もその事を口にしなかった。
否、したくなかったのだ。
寧ろ、あれは事故ではなくただ単に南雲と篠崎が出しゃばりすぎた結果であり、二人の自業自得だと現実逃避をするようになっていた。
あの危機的状況で誰より先に周囲を把握し、全員を救うべく行動していた彼等に対する評価は無く、侮蔑と軽蔑であった。それは最悪の責任転嫁であり、己が出来なかった事を為した二人への無意識の嫉妬であった。
それに追い討ちを掛けるように、訓練とはいえ死者が出たと知り、驚きと悲しみに陥るのはクラスメイトだけではなかった。
異世界召喚された唯一の『大人』である畑山愛子その人だ。
訓練中に死者が出てそれが南雲と篠崎だと知り、自室で人知れず涙を流すのであった。
彼女は自分がもっとしっかりしていれば、あの時止めていれば等と口にし後悔するのであった。二人とはクラスメイトの精神安定の為に日本の料理を提供する計画でも共に居たのだ、慚愧の念は絶えない。
一晩中泣いた翌日、畑山愛子は生徒を此れ以上危険に晒したくないと決心し、教皇と国王との協議に出るのであった。
これ以上生徒から犠牲者が出る事が無いように、皆で日本に帰れるように。
議論の結果、戦う意思を持つ者のみで訓練の再開を勝ち取るのであった。
一時期塞ぎ込んでいたとは言え、自分こそが皆を救う勇者と自負し率先して前に立ったのが天之河であった。
其れに連なるように他の生徒も立ち上がり戦意を取り戻すのであった。
一見、立ち直ったかに見えるが、それは死と言う恐怖からの現実逃避である事を誰も気づかず指摘も出来なかった。
その異常な光景に違和感と疑念を抱くも、勇者(笑)の暴走を抑止すべく立ち回る八重樫雫を除いてはだ。
クラスメイトがそんな事になっているとは知らず、宛がわれた自室で死んだように眠る園部優花はある夢を見ていた。
気が付くと、濃霧に覆われた森の中に彼女は立って居た。
見慣れない光景に戸惑いつつ、何かに呼ばれる様にゆっくりと前へ進んで行った。
ある程度進むと、縦一直線に割れた大岩に直面した。
状況が分からず、調べるためにその大岩へ触ろうとした時であった。
「大丈夫?」
振り向くと、着物姿で狐の面を被った少女が可愛らしい声で其処に立っていた。
その少女の顔には、最近手にした見覚えのある狐の面があった。
大迷宮に行く前に、幼馴染から渡された物と同じ厄除の面が目の前にあった。
謎の少女は面を外し、素顔を露にするとにっこりと此方を見て微笑んだ。
「竜也が心配?」
その名前を聞いて、胸が詰まる感覚がした。
何故この少女は竜也の名前を知っているのか。
そんな事などお構いなしに、その少女は言葉を紡ぐ。
「私は真菰。貴方は?」
「えっと・・・私は・・・園部優花」
「優花・・・・うん、良い名前だね」
その少女は名前以外自身の事を何も語らなかったが、竜也の事を教えてくれた。
両親を失っても、強く前へ進もうとして居る事。
大切な者を守るために必死に足掻いて居る事。
今でも生きる為に必死に戦っている事。
これまで知らなかった竜也の一面を教えてくれた。
暫く語ると少女は、話す事が無くなったかのように森の中へと消えていった。
色々と聞きたいことがあるが、その少女は別れ際にこう言った。
『人は心が原動力なの。だから竜也を想う心が優花の強さなんだよ』
その言葉に戸惑い立ち竦んだ。
此れまで当たり前のように傍に居てくれた幼馴染である竜也の存在を改めて実感した。
思い返すのは元居た世界での日々だ。
小さい頃から何時も私を守ってくれていた。そして、そんな彼の心を守りたかった。
困った事があれば直ぐ、手を伸ばし助けてくれた。お礼を兼ねて得意なオムライスをご馳走した。
体目当てで言い寄って来るナンパ野郎達の前に立ち塞がって、体を張って守ってくれた。
そんな彼の存在理由になりたかった。
両親が営む洋食屋での助っ人も快く引き受けてくれた。
貴方の居場所は此処にも有るんだと示したかった。
事故で家族を失って本当は誰よりも辛いのに、人前では決して涙を流さず、前へ強く進んで行こうと歩みだす姿。
そんな彼の唯一弱音を吐き出せる存在になりたかった。
クラスメイトから煙たがれ腫物扱いされても、直向きに真っすぐに行く竜也の姿を見てきた。
そんな彼を隣で支えたかった。
それは異世界に召喚されても変わらなかった。
世界の危機と知って後先考えない勇者気取りのクラスメイトと違い、誰かの為に考え行動しそれを実践する彼の強さを。
本当は誰よりも強く優しい心を持ち、勇気を持っている。
ぶっきらぼうだが、人知れず結果的に皆の事を考えて行動する。
周囲から無能や役立たずと呼ばれていた南雲を偏見無く接し、彼の持つ真の力について評価をしていた。
そんな彼に何時しか幼馴染以上の感情を抱いていた。
何時も傍にいて強くて優しい彼を見ていると胸が温かくなっていた
最早惹かれていると言っても過言ではない。
それだけ自分の中で彼の存在が大きいのを再確認した。
「私は・・・竜也の事が・・・好き?」
だが今更そう思っても、後の祭りだ。
当の本人は奈落の底へ堕ちていった。
今になって彼への感情を理解した。
自身でも気づかなかったが失ってようやくわかった。
彼、篠崎竜也の事が好きであったのを。
小説や漫画でありふれた、喪ってからその想いを認識すると言う現実。
改めてその事実に直面しつつ、この想いを諦めようと思った時であった。
『何か悩み事かい、お嬢ちゃん?』
そう背後から掛けられた声に反応して振り向くと、其処には見慣れない格好をした男性がいた。
青い髪に赤い瞳、銀色の肩当、体のラインが分かる全身タイツのような服装であるものの、如何にも鍛えられた体格で血のように赤い槍を両肩に担ぐように持って大岩に座り此方の様子を伺っていた。
見慣れぬ服装をした男性の登場に優花は戸惑っていた。
突然の出来事に頭が追い付かず混乱するのであった。
その男は、不敵に笑うと語るようにそう言った。
「もしかしてお嬢ちゃん、タツヤって名前の坊主の想い人かい?」
「えっ!・・・なんで貴方は竜也の事を知ってるの!?」
「なんで、か。あの坊主は俺の弟分だから、って答えたら納得するか?」
男は不思議そうに答え、よいせっと言うと大岩から降りゆっくりと立ち上がり、優花にこう言った。
「安心しな、坊主は死んじゃいないぜ。寧ろピンピンしてるぐらいだ」
「竜也が・・・生きている・・・」
「応、奈落に堕ちた程度でくたばるなら今まで生きていねえよ!」
呵呵と笑う男の言葉を聞いて少し安堵した。
奈落の底へ吸い込まれるように堕ちていった幼馴染兼想い人が、生きていると聞いて嬉しくて涙が零れ始めた。
もしかしたらと思い不安で一杯だったのがその一言で救われた気がしたのだ。
しかし此処である疑念が優花に過った。
何故目の前の男は竜也の現状を知っているのか?
竜也にとって男は何に対する兄貴分なのか?
そう思わずにいられず目の前の男に質問するのであった。
男は律義にもその質問に答えるのであった。
「あの坊主は、俺の師匠の下で槍と魔術を学んだ者同士でな、云わば年が離れた兄弟弟子って所だ」
「・・・・・師匠?」
「まあその辺は坊主に会った時でも聞いてみな。まさか俺に弟分が出来るとは思わなかったが、悪くないもんだな」
初対面だと言うのにこの男性からは、不思議と安心感を覚えた。
まるで竜也と一緒にいる時のような感覚だ。
いや、感じる力強さは目の前の男の方が圧倒的な迄に大きいが。
今度は、男が値踏みするかのように此方を見てくるのだった。
「しっかしまあ、弟分は女を見る目があるもんだ。お嬢ちゃん、将来絶対に良い女になるぜ」
「っ!!!!!」
「まあまあ、そんなに睨むなって。寧ろお嬢ちゃんの事を褒めてんだよ。」
「・・・・・・・・」
「美人で気が強くてオマケに健気と来たもんだ。坊主も幸せ者だぜ、俺は良い女と縁が無かったもんだから羨ましいくらいだ」
男は頭を掻きながらそう呟くのであった。
そろそろ話のネタが切れたなと言い、男は帰り支度を始めた。
目の前の男からまだ聞かねばならないこともあるが、最後に男はこう言うのであった。
「お嬢ちゃん、あの坊主の事が好きかい?」
「・・・・・・・はい!!私は・・・竜也の事が誰よりも大好きです!!!!」
これに関しては迷わず言えたのだった。
竜也の事が好きだと言う想いは自分が一番であると自負しているからだ。
それに気が付いたのはついさっきだが、自信をもって答える事が出来た。
「なら俺から言う事は何もねえよ。坊主を想うお嬢ちゃんの心は絶対に忘れんじゃねえぞ。お嬢ちゃんが坊主を信じないで誰が坊主を信じるんだ?」
「私は、絶対に何があっても誰が何と言っても、竜也が生きているのを信じ続けます!!!」
「ほう・・・よくぞ言ったぜお嬢ちゃん!!腕前は兎も角、度胸じゃ誰にも負けてねえ!!それでこそ坊主の女ってもんさね」
竜也の女と言われ思わず顔を赤くしてしまう。
まだそんな関係ではないが、何時の日かそうなると考えると思わず嬉しくなってしまう。
別れ際に、彼女は男の名前を聞くことにした。
「あの・・・貴方のお名前を聞いてもいいですか?」
「あん?俺の名前ねぇ・・・大した名前じゃねえが気楽に『ランサー』とでも呼んでくれや」
「ラン・・・サー?」
「応よ!他にもクランの猛犬だのアルスターの猟犬、光の御子なんてあるが、俺はランサーって呼ばれるのがしっくりくるんでな、まあそう呼んでくれや」
「ランサーさん・・・その・・・ありがとうございます!!」
「ははっ良いって事よ!!健気なお嬢ちゃんに免じて、ちょいと一肌脱いだだけってもんさね。しっかりやんなよお嬢ちゃん」
ランサーと名乗るその男性は、片目を瞑りそう笑うと、霧の中に消えていき同時に周囲の風景が光に包まれるのであった。
「今のは・・・夢?」
目を覚ますと其処は宛がわれた部屋の天井が目に映った。
身体をベットから起こす優花。
部屋にある窓を見ると時刻は深夜であるのが分かった。
体は思ったより重くなく、寧ろ軽く感じた。
ベットから出て床に立つと、部屋を出てある場所へ向かった。
其処は、幼馴染である竜也に宛がわれた部屋であった。
幸い、部屋に鍵は掛かっておらず室内に入る事が出来た。
部屋の壁掛けには、この世界に来た時に来ていた学校の制服が掛けられており、それ以外は特に私物は無くベットと椅子がある机ぐらいだ。
この部屋に来ても彼がいないのは分かっていたが、少しでも温もりを感じたくてやって来たのだ。
結局余計に虚しく感じてしまい元居た部屋に戻ろうとした時であった。
ドアを開けると同時に、見知った顔の少女が其処にいた。
「園部さん?貴方・・・もう動けるの!?」
「八重樫・・・さん?」
其処にはつい最近話すようになったクラスメイトの八重樫雫が立っていた。
部屋を出ようと思ったが、少し話したいことがあったのもあり、竜也の部屋で二人きりとなり話をする事にした。
南雲と竜也が奈落に堕ちて3日程経過し、その間様々な事があったのを優花は八重樫から聞くのであった。
二人は正式に死亡扱いとなり、その事が原因でクラスメイトが塞ぎ込みがちになった。
優花同様にオルクス大迷宮での事故のショックから回復せず白崎が未だに目を覚まさない事。
天之河を含む一部の生徒は訓練を再開し始めた事。
それを聞いた優花はそうなんだと弱弱しく返事をした。
そんな様子を見た八重樫は何とも言えない表情になった。
だが、優花から思わぬことを聞くのであった。
「ねえ、八重樫さん。貴方から見た竜也ってどう思えるの?」
「私から見た・・・篠崎君?」
優花にそう尋ねられた八重樫は返答に困った、つい最近漸く彼との接点が出来たばかりで此れまで付き合いは無かったが、八重樫雫から見ても篠崎竜也と言う少年はなぜか印象に残る人物になっていた。
普段無口で優花以外と喋らず他人と関りを持たない彼だが、この異世界に召喚されて一度話してみると、彼の人物像が判明した。
人を寄せ付けない雰囲気を出すが、南雲の天職への理解と活用方法、他者への思いやりと手を差し伸べる優しさ、他のクラスメイトと比べ群を抜く観察力と想像力、優花と同様に料理上手な一面もあり、此れまで抱いていた彼への人物像は無くなり親しみさえ覚えた。
それだけではない。
戦闘訓練では他の生徒と比べ、群を抜いていた。
彼は帰宅部であり運動やスポーツなどはやっていない筈なのに、剣道部である自分や幼馴染である天之河よりも本物の武器を持った戦いの心得だけでなく、武器の扱いに関しても明らかに手馴れていた。まるで武術の心得が有るかのように。
南雲に専用の刀を錬成して貰う過程で何度か手合わせをしたことがあった。
普段無表情な彼と違い武器を持って構えた瞬間、今まで感じた事の無い威圧感を感じた。
明らかに武器を持って戦う事に慣れ、戦う覚悟を決めた本物の戦士の気迫そのものであった。
剣術三倍段、実家が剣道場を営む八重樫には慣れ親しんだ言葉だ。
槍に対し剣と言う武器の差もあるが、それでも彼と戦って一度も勝つ事はできなかった。
八重樫雫と言う少女剣士に、篠崎竜也を上回る技量が無いことの証左だ。
何度も負け判定を貰おうとも、必死で食らいつき一矢報いろうと渾身の力で刀を振りかざした瞬間信じられない光景を目の当たりにした。
真剣の刀を白羽取りしたのだ、しかも片手で中指と人差し指だけでだ。
本来なら両手の掌で行うはずの神業を片手の指だけでやってのけたのだ。
同時に理解した。
自分と彼の力量差に横たわる溝、太刀筋が完全に見切られる程に開く雲泥の差。
刀の耐久力と現状の使い勝手のテストも兼ねた模擬戦を終え、彼と改めて話す機会があった。
そこで彼から自分に対しての思わぬ意見が出た。
「八重樫には悪いが、剣道ははっきり言って実戦ではあまり役に立たない」
それを聞いて少なからずショックを受けた。
此れまで培ってきた経験や鍛錬を否定されたみたいで在り、驚きを隠せなかった。
理由を聞いたら彼はこう答えた。
確かに剣道でやってきた経験や場数は対人戦では多少有効だが、これから戦う魔物等と言った相手には全く役に立たない。
何故かと言えば至って簡単で、剣道は魔物との戦いを全く想定していないからだ。それを言うなら基本的に剣術・武術と言う物は対人を想定しているのだが。
良くて剣道は剣を持った戦いの基礎や心構えを得る物であると彼は答えた。
武道と言う物は基本的に心構えに依っている為、確かにその通りである。
剣で戦う基礎として『剣道』を土台に、これからは基礎を媒体に応用で『剣術』を取り入れていけばさらに強くなれる筈だと言われた。
そもそもが八重樫流で基礎は出来ている、『竹刀』で打突するための打撃法では無く『刀剣』で切り伏せる剣戟を鍛え直す必要が有るだけだ。
幸い、八重樫は基礎も心構えもしっかりしているから問題は無い。
幼い頃より叩き込まれた八重樫流の剣術は備わってる。
必要なのは経験だけである以上、時間があれば今回みたいに模擬戦の相手になるから、これからもお互い頑張っていこうと言われた。
「それに、八重樫だけは他のクラスメイトと違って、戦いの心得を分かっているみたいだから此れから先、絶対に強くなる事だけは俺が保証する。」
彼からそう言われた私は、胸がドキリとした。
其れだけでなく、此れまで感じた事の無い温かくて心地いい感触が胸を貫いた。
付き合いは短い筈なのに、何故か長い間自分を見てくれていた感覚がしたのだ。
此れまで周囲の人達との付き合いは、幼馴染である光輝と香織、龍太郎の三人が主である。
他のクラスメイトとも友好的であるが、どの人物も私の事を一人の女の子として見てくれていたどうか怪しい物である。
何より、年上の同性からも『お姉様』などと呼ばれ『ソウルシスターズ』等と言うファンクラブが作られている時点で『八重樫 雫』と言う『少女』の内面まで見て見てくれたのは親友の香織くらいのものだろう。
だが、彼から見た私はそんな事が無いように思えた。
何故だか分からないが、彼だけは自分の事をしっかりと見てくれていた気がしたのだった。
その日以降、彼の顔を見るとなんだか胸がモヤモヤするような感覚を感じるのであった。
「・・・・私から見た篠崎君はこんな感じかな」
「そっか、八重樫さんから見た竜也はそう見えたんだね」
それを聞いていた優花は、何故か微笑ましく感じていた。
竜也はクラスの皆が言うような怖くて近寄りがたい人じゃなくて、温かくて優しい人だと確信した。
それに、一見孤独で友人がいないように見えて竜也には、ちゃんと友達や親しい人がいる。
クラスは違うが、竜也の両親が開いていた居酒屋の常連さんの一人である、東光太郎さんの息子さんである幼馴染の東大河(ひがしたいが)君。
私や竜也の幼馴染でもあり、凄く仲が良くて困った人の助けになってくれる頼りになる男の子だ。
足の速さが自慢で陸上部の風間忍(かざましのぶ)君。
学生離れの筋骨隆々でレスリング部の太田泰足(おおたやすたり)君。
他にも、竜也と同じでアルバイトをやって生計を立てる一人暮らしの朝倉陸(あさくらりく)君。
0が付く日には両親が経営する『ウィステリア』に必ずやって来る諸星零斗(もろぼしれいと)君。
私と同じカレー好きで『ウィステリア』でウェイターとして働く日々野未来(ひびのみらい)さん。
無鉄砲で型破りな性格だけど「絶対に諦めない」を信条としている飛鳥真(あすかしん)さん。
皆、あの事故で両親を失って落ち込んでいた竜也の傍で支えて励ましてくれた人たちだ。
いつもお世話になって、竜也共々助けてもらってばかりであった。
同時に、私はある事を決意するのであった。
今度は助けてもらってばかりじゃなくて、自分が誰かの助けになる番だと。
クラスでも仲の良い妙子と奈々、パーティメンバーの相川、仁村、玉井、清水。
竜也が考えて実行するには、必要不可欠だった故郷の料理の再現に貢献してくれた愛ちゃん先生。
皆とは言わないけど、竜也も身近な人を守ろうとしたように、私も身近な友達を守れる存在になりたい。
そう思えば居ても立ってもいられなかった。
何時までも俯いていられない。
竜也が守ろうとした人や物を今度は私が守るんだ。
「八重樫さん、私やるよ!!」
「やるって何をするの?」
「竜也が守りたかった人や物を守るために自分を鍛えるの!!」
「ええっ!?」
「皆は何て言うか分からないけど、竜也が帰ってくる場所と人を守るために強くなりたいの」
それを聞いた八重樫は、やや驚くも何故か安堵していた。
訓練を再開し始めたクラスメイトは、死への恐怖から現実逃避するかのように訓練に打ち込む中、目の前の彼女は目的をもって行おうとするのだ。
それを察した以上、止める事などできはしなかった。
「わかったわ。一応今夜は寝て朝から頑張りなさい」
「八重樫さん・・・・」
「私の事は雫でいいわ。そう呼んで」
「ありがとう雫。私も優花で良いから」
そう言うと優花と雫は自室に戻り休養を取る事にした。
部屋に戻りベットに戻った優花は早朝からの訓練に備え睡眠に入った。
塞ぎ込んではいた物の、無事立ち直った優花を見て微笑ましそうに机に置かれた厄徐の面は光を反射するのであった。
翌日の早朝から、優花の特訓は始まった。
まず足りていない基礎体力を得る為の演習場外周のランニング。
筋力と瞬発力を得る為の腕立てと腹筋、縄跳び。
それが終わると、神山で麓から山頂までの走って登り切り、下っていく。
言うのは簡単だが、実際やろうとすればかなりハードであり何度もくじけそうになった。
だが、膝を尽きそうになる度、竜也の事を思い出し優花は何度でも立ち上がった。
彼女の事情を知らない者からしてみれば、死んだ人間に未練を持って未だに現実も見れない人間のように映ったらしく、陰口が絶えなかったそうだ。自分自身の事はどうやら鏡を見ても理解出来ていないらしい。
そんな事などお構いなしに、優花は己の決めた信条と信念に従い鍛錬に励むのであった。
彼女の天職は投術師であり、其方の方の鍛錬も欠かさないでいたが、些か成長に伸び悩んでいた。
しかしなんと優花にとって渡りに船となる人物が現れた。
それは、王宮に仕えるメイド達の纏め役にして、その統括であるメイド長の『ベルファスト』さんであった。
艶があり絹のように柔らかく繊細な白髪、蒼く透き通った瞳、凛としていながら女性特有の柔和さで、初めてこの世界で見た時から同じ女性として憧れるスタイルの超が付く美人さんだ。
数多くいるメイドさんの中で、選りすぐりのメイド達で選定された『王族親衛メイド隊』の総括でもある。
元々彼女は金ランクの冒険者であり、その腕前と美貌を買われ王宮に仕えるメイド達のリーダーであるメイド長になったという経歴がある。
その彼女も優花と同じ投術師であり、彼女なりにレクチャーしてくれるのであった。
メイド長であり多忙の身でありながら、効率よく実践的に学んだ優花の投擲技術は飛躍的に向上したのだった。
同時に、この世界での料理も習い優花の調理技能と主婦力の向上に繋がるのは余談である。
優花は、投擲技術でなく近接戦闘時での格闘戦も独自に鍛えるのであった。
それは、まだ元居た世界での事ではあるが、竜也の知り合いである外国の女性から学んだ護身術を鍛え上げる事であった。
当時は、しつこく言い寄って来るナンパ男から身を守るために基礎のみを学んだものだが、この世界でも同様の事案がある可能性を考えた優花は、城の中にある鍛錬室にて一人黙々とサンドバックに拳を叩きこむのであった。
その光景を見た雫はこう言った。
「それは護身術じゃないわ。只のボクシングよ・・・」
優花は護身術とボクシングの区別がつかないのもあったが、身を守る手段としてひたすら鍛錬を続けるのであった。
それから月日は流れ、クラスは迷宮攻略組と残留組で別れた。
優花自身、竜也の安否も気になったが、愛ちゃん先生主導による、王都近隣の村と町の農地の調査と改善、開拓の為、城を出奔する事になったそうだ。
その護衛に神殿騎士が数名その任に就くらしいが、それを聞いた優花は居ても立っていられなかった。
どこぞの馬の骨とも知れない輩に愛ちゃんを任せておけないと思い、オルクス迷宮に潜ったパーティメンバーを誘い『愛ちゃん護衛隊』を結成したのであった。
当初メンバーは乗り気でなかったものの、「竜也と南雲の頑張りがあって今がある!!」と奮い立たせ人数を集めたのだった。
彼らも若干負い目はあったが、あの場で二人が動かなければ全員死んでいた事もあり、そう思うと何時までも塞ぎ込んではいられなかったのだ。
何より優花自身から、手伝ってくれるなら手作り料理をご馳走すると言いメンバーはやる気を出すのであった。
道中畑山先生を巡るイザコザはあったが優花をリーダーに一同は纏るのであった。
こうして、神殿騎士数名を含む『愛ちゃん護衛隊』は結成されるのであった。
「竜也、私は信じてるよ。絶対に生きてるって事。だから何時か会う日まで私も頑張るから!!」
こうして園部優花は再び立ち上がり歩みを進めるのであった。
再会の日はそう遠くないが近くも無い。
竜也と優花、二人の結んだ縁は決して途切れはしないのだから。
FGOをプレイの皆様、ガチャを引く際何かされておりますか?
ネットで調べた結果様々なジンクスがあるみたいですが、私はある事を行っています。
・風呂場で冷水で身を清める。
・触媒に麻婆豆腐をお供え物に使う。
・英霊召喚の前に詠唱を唱える。
・召喚のスイッチを押して推し鯖の名前を言いながらスマホの周りを舞う。
私はこんな感じでやってます。
その結果これまで何回か星5鯖をお迎えできました。
皆様のご意見お待ちしています。
次回予告『残念なウサギ』