ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強   作:ゴルゴム・オルタ

21 / 34
今回も色々と詰め込みました。
後2話ぐらいやって第三章に移ろうと思います。


ライセン大迷宮と最後の試練

「やっほ~はじめまして~!みんなの大好きミレディ・ライセンだよぉ~!キラッ☆」

 

「「「「「・・・は?」」」」」

 

余りの事に思わず声を失いかけた俺達であった。

見るからにゴーレム達の主なのだが、言動があまりにも子供っぽく見た目と声が一致していない気がした。

拍子抜けとも言える状況で、俺は質問をする事にした。

 

「・・・あ~その何て言うか、アンタがミレディ・ライセン?聞いてた姿とかなり違うんだが?」

「うん、そうだよ!私が正真正銘ミレディ・ライセンだよぉ~!」

「オスカーの手記にもアンタの事が書いていたんだが、どうして人間の姿じゃなくてゴーレムなんだ?」

「あっ!もしかして君達、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

 

どうやら、『オーちゃん』と言うのはオスカーの事を指すのか、目の前のミレディを名乗るゴーレムはそう答えた。

今度はハジメがミレディに質問を行うのであった。

 

「今度は俺から聞きたいことがある。この大迷宮で得られる神代魔法はなんだ?」

「神代魔法ねぇ・・・君達は何が目的で神代魔法を求めてここに来たんだい?」

「質問に質問を返すな。どうなのか答えろ!」

「知りたかったら私を倒してからにしようか。そうしたら答えてあげてもいいよ。もし君達があのクソ野郎共を滅殺してくれるのだったらもっと詳しく教えるけどね」

 

ミレディの言う『あのクソ野郎共』とはエヒトの事を言うのかその部分だけ怒気が含んだ低いトーンで話すのであった。

どうやら此処の守護者はミレディ自身が行うのか、既に戦闘態勢に入っていた。

 

「神殺しとやらには興味が無い。俺達はエヒトに無理やりこの世界に連れてこられた。目的は故郷に帰る事だけだ。他の神代魔法もその為の手段だ」

「へえ、別の世界からねぇ~。だったら私を倒せないとその目的は叶わないよ!!」

 

先制攻撃のつもりか、ミレディ・ゴーレムはその巨体から為す物理攻撃の拳を振りかざしてきた。

俺達は分散しそれを避けると、各々攻撃を開始するのであった。

相変わらず魔力の分散が激しく思うように魔力が練れないが、物理攻撃の身で対処するしかない。

 

「ハジメ、ユエは後方から可能な限り援護。俺とコハク、シアで奴にダメージを当てていく!」

「わかった!見た所かなり頑丈そうだが、やれんのか?」

「へっこれくらい何てことはなねぇ、寧ろ上等だ!!」

 

俺はハジメに指示を出しそう返すと、槍を手に駆けだすのであった。

案の定、それを妨害するかのように手下のゴーレムが妨害しようと立ち塞がって来る。

だが、そんな妨害もハジメの『宝物庫』から取り出されたあるアーティファクトの前では無に帰すのであった。

ハジメが取り出した武器、それは所謂ガトリング砲だ。

その名を『メツェライ』と言い、毎分一万二千発の弾丸を放つ強力な武器だ。

放たれる弾丸の数々に手下のゴーレム達は跡形も無くスクラップにされていく。

俺とコハクは近寄ってくるゴーレムだけを斬り払いながら進み、ミレディ・ゴーレムに肉薄するのだった。

 

「へぇ、結構やるじゃん!だけどそう簡単に私は倒せないよ!」

「寝言は寝てから言え木偶人形・・・」

 

コハクの持つ刀が煌めいたかと思ったら、高く頭上に跳躍し縦一閃に刀を振りかざした。

ミレディ・ゴーレムはその攻撃を防ごうとする為、片腕を動かそうとするがその一瞬のスキを俺は見逃さなかった。

一気に懐にまで接近し、相手の胴体を足場にして心臓部分に槍を突き刺すのであった。

思いの外頑丈であったが、その巨体を守る鎧には確かに罅が入った。

 

「うりゃああああああ!!!」

 

相手に反撃の隙も与えないように、シアが追撃の一撃を破損部位にドリュッケンを叩きこむ。

魔力の分散で広範囲の攻撃が出来ない以上、一点集中の攻撃で相手の心臓部の身を狙って攻撃する。

この大迷宮での攻撃方法を俺達は事前に考え行う事にした。

 

「こぉののの!」

 

ミレディ・ゴーレムも反撃するべく拳を振りかざすだけでなく、空中からブロックを落下させたりして俺達と距離を取ろうとする。

俺はその攻撃を避けつつも相手に接近し、右腕の関節部分のみに狙いを定め部位破壊を行う。

 

「まさか!関節を狙うなんて!」

「相手がデカ物なら狙って当然だろが!!」

「私を忘れては困る・・・・」

 

俺に気を取られていたのか、別方向から接近してきたコハクが懐まで入り込み、反対側である左腕を肩から切り裂いた。

鎧と鎧の繋ぎ目である僅かな隙間を狙った斬撃だ。

身を守る手段を失ったミレディ・ゴーレムは最早ダルマも同然であった。

 

「どりゃああああああ!!」

 

今度はシアが頭上から攻撃を加え、ミレディ・ゴーレムの脳天にドリュッケンを叩き込むのであった。

怒涛の連続攻撃に、態勢を崩したミレディ・ゴーレムは尻餅をつくのであった。

起き上がろうとするもそれは出来なかった。

 

「嘘!?なんで!?」

 

それは氷であった。

正確にはユエが発動した上位魔法『凍柩』であった。

氷系統の魔法は、水系統の魔法の上級魔法であり、この領域で中級以上は使えないのだが、それは通常の魔法使いであればの話だ。

魔法に関しては天才とも言えるユエにのみ為せる業である。

とは言え魔力の分散もあり、一時的のみ拘束は可能であった。

 

「コイツを喰らいやがれ!!」

 

無防備な姿を晒したミレディ・ゴーレムに接近するのは、大筒型の形状で漆黒の杭が装填された武器を左腕に装備したハジメであった。

その武器もまたハジメが錬成したアーティファクトである。

ハジメの持つ技能の一つである『圧縮錬成』により、四トン分の質量を直径二十センチ長さ一・二メートルの杭に圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした杭打機『パイルバンカー』である。

パイルバンカーにハジメが魔力を注ぎ込むと、大筒が紅い閃光を放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始め、「キィイイイイイ!!!」と高速回転が奏でる旋律が響きわたる。

その光景に表情を引き攣らせているミレディ・ゴーレムなどお構いなしに、心臓部分と思わしき罅の入った箇所目掛けて大筒の上方に設置した大量の圧縮燃焼粉と電磁加速した杭を叩き込むのであった。

 

「存分に食らって逝けや!!」

 

そんな言葉と共に、ミレディ・ゴーレムの核に漆黒の杭が打ち放たれた。

体を守る甲冑は砕かれ、心臓部には水晶型の格が露見すると、放たれた杭は核に目掛けて打ち出された。

ミレディ・ゴーレムは核に漆黒の杭が打ち放たれた核を撃ち抜かれて倒れた。

だか、その目論見は大きく外れた。

核を守る最後の守りとも言える漆黒の装甲があり、それには傷一つ付いていなかったからだ。

 

「・・・・アザンチウムか」

「正~解!オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~」

 

ミレディ・ゴーレムが核を狙われても大した抵抗をしなかったのにはこれが原因でもあった。

パイルバンカーと同じ世界最高硬度を誇る鉱石で出来た装甲であり、魔力が分散されるこの大迷宮だと、本来の威力が出し切れず相殺されたのだ。

 

「さってと、両腕再構成するついでに程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」

 

まずい。

今の一撃でハジメは限界を突破したのか片膝を尽きかけている。

ユエも息切れが激しいのか戦闘続行は困難だ。

コハクはユエよりましだが、時間の問題だ。

ここに来て振出しに戻れば、水の泡だ。

ミレディ・ゴーレムを倒す機会は今を持って他ならない。

腕が再構成している瞬間こそ好機なのだ。

 

「・・・・一か八かだ!!」

 

俺は体の魔力を槍に集中させると、真名解放を発動させ正真正銘、最後の攻撃に出た。

腕だけでなく鎧の再構成をしている無防備なミレディ・ゴーレムの核に目掛けて俺は槍を突き刺すのであった。

 

「その心臓、貰い受ける!!」

「無駄だよ。アザンチウムの装甲を砕けるわけないよ」

「上等だやってみろよ!刺し穿て、死棘の槍!!ゲイ・ボルク!!!!」

 

前へ突き出すように放たれた呪いの朱槍は、心臓部分へ目掛け突き進んだ。

ミレディ・ゴーレムは防ぐ素振りも見せず、唯それを受け止めていた。

 

「幾ら君が頑張ろうとも、アザンチウムの装甲で出来た盾は貫けないよ」

「はっ!そいつはどうだかな?」

 

呪いの朱槍と呼ばれるゲイ・ボルクと、アザンチウムの盾とのぶつかり合いは激しさを増していた。

俺達が元居た世界には『矛盾』と言う言葉がある。

最強の矛と最強の盾がぶつかり合えばどうなるかという逸話だ。

結果は台無しで、お互いに壊れ話が成立しないと言うものだ。

だが、俺は師匠の元で修行してから常々こう思った。

元が同じであれば扱う奴の技量次第では無いかと。

剣であれ槍であれ、銃であれ弓であれ、どれも人間が扱う事を前提に設計されている。

元の世界であれ異世界であろうとその理は同じだ。

いかに最強の武器や防具が有ろうと、取り扱う人間がド素人であれば、宝の持ち腐れだ。

 

「(俺はまだゲイ・ボルクを完全に使いこなせてはいない・・・だからどうした!!)」

 

俺は放ち続ける槍を更に強く握り魔力を込めた。

 

「(だったら使いこなせるように、強くなればいいだけだろうが!!師匠や兄貴のように!!)」

 

膠着状態が続くかのように思えたが、徐々にゲイ・ボルクが押し始めてきた。

最強の盾とも言えるアザンチウムの装甲に罅が入り砕かれる一歩手前である。

 

「まさか!?そんな・・・・!」

「ぶち抜けぇぇぇぇぇ!!!!」

 

しかし、あと一押しと言ったところで、再び拮抗状態に戻るのであった。

此れまでかと思った瞬間、後ろから声が聞こえた。

 

「此処は任せてください、竜也さん!!」

「シア!?」

 

俺は咄嗟にシアが何をやろうとするのかを理解し、槍を手放すと同時に立ち位置を交代した。

入れ替わるようにシアが、野球選手がバットを大きく振りかぶるかのよう、ドリュッケンでゲイ・ボルクの柄の底である石突(いしつき)に叩き込むのであった。

 

「うおりゃあああああああああ!!!!!」

 

俺の魔力とゲイ・ボルク、シアの高い身体能力が重なりその威力は想像を絶する威力だ。

拮抗していた物は無と解し、アザンチウムの盾は砕かれ、呪いの朱槍ゲイ・ボルクはミレディ・ゴーレムの心臓部分である核を貫き、文字通り刺し穿つのであった。

 

「きゃあああああああ!!!!」

 

ミレディ・ゴーレムの断末魔の叫び声が迷宮に響き渡る。

ほどなくして、力が抜けるように瞳から光が消え、仰向けになって倒れるのであった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・やったぞ!!」

「大丈夫ですか竜也さん!?しっかりしてください!」

「ああ、それとシア。最後の一撃はよかったぞ。」

 

俺はシアに支えられながらも、何とか立った。

ハジメとユエ、コハクも歩きながら近づいて来た。

 

「勝った・・・んだよな俺達・・・」

「ああ、オルクスと違って満身創痍ではないが何とか勝った」

「・・・・竜也とコハク、特にシアが居なかったら詰んでいたな」

「そうでもないさ。お互いに足りない所を補うのが仲間ってもんだろ」

 

ハジメと俺は確認しながらそう言い、互いに健闘を称えあうのであった。

確かにこの大迷宮は魔法が使えない事を考えれば厄介な所である。

最後の一撃はシアに持っていかれたが、結果オーライだ。

今回の攻略でMVPがあるとすればそれはシアだろうな。

彼女の身体能力の高さが無ければ、最深部どころか攻略だって出来ないほどだ。

俺はシアにお礼を言うべく、声を掛ける事にした。

 

「シア、さっきはありがとな。おかげで助かった」

「竜也さん・・・」

「騒がしい奴と思っていたが、中々見所がある奴だ。よく頑張ったなシア」

「コハクさん・・・」

 

俺だけでなくコハクも健闘を称えるべく声を掛けて肩に手を置いた。

するとユエがシアを屈ませると頭に手を置き、乱れた髪を直すように、ゆっくり丁寧に撫でるのであった。

 

「シア・・・よく頑張りました。」

「ユ、ユエさぁ~ん」

「ハジメは撫でないから代わりに・・・」

 

すると、ハジメもやや照れながらも感心した目でシアを見るとこう言った。

 

「まあ・・・なんだ。よくやったなシア。最後の一撃は中々だったぞ。」

「ハジメさん・・・」

「お前の事、少しどころか結構見直したぞ」

「ありがとうございます、ハジメさん。あっでも、いっその事惚れ直したでもいいですよ」

「直すも何も元から惚れてもねぇよ」

 

疲れた表情をしてはいるが、ハジメとユエ、俺とコハクの称賛にはにかむシア。

最初の内は第一印象が残念なウサギであった。

だが、ハジメやユエ、俺とコハクに付いて行きたい一心で弱音を吐かず、恐怖も不安も動揺も押しのけて強くなり、大迷宮の深部に到達どころか攻略にまで貢献するなどであった頃には想像だってしなかった。

シアにはシアで強くなる理由があり、それが今日身を結ぶことになった。

これもシアがハジメを想う強さが原動力となった結果である。

シアの頑張りと根性につい絆されてしまうのは仕方ないことだろうか、ハジメのシアを見つめる眼差しが柔らかいものになる。

漸くシアも只の付き人から俺達の仲間となる事が出来たと俺は確信した。

此処を出たらシアに美味しい物でも作ってやろうかと思った時であった。

 

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、ちょっといいかなぁ~?」

 

振り返ると倒した筈のミレディ・ゴーレムに再び目の光が戻っていた。

まだ死んでいなかったのか!?と思った俺とコハクは再び武器を手にし、核のある場所に破壊しようと考えた。

 

「待って、待って!大丈夫だってぇ~。試練はクリア!残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~!」

 

どうやらまだ完全に死んだわけでは無かったらしい。

取り合えず話とやらを聞くことにした。

 

「で? 何の話だ?『クソ野郎共』を殺してくれっていう話なら聞く気ないぞ?」

「言わないよ。言う必要もないからね。話と言うより忠告かな。必ず私達全員の神代魔法を手に入れる事と・・・君の望みのために必要だから・・・」

「どういう事だ?」

 

何となく苦笑いめいた雰囲気を出すミレディ・ゴーレム

 

「あのクソ野郎共って・・・ホントに嫌なヤツらで・・・嫌らしいことばっかりしてくるから・・・少しでも慣れて欲しいんだ」

「あんまり慣れたくないけどな」

「おい。神殺しなんざ興味ないって言っただろうが。勝手に戦うこと前提で話すな」

 

俺はぽつりそう呟くのであった。

逆になれた奴の頭の神経を疑いたいが。

そう思っているとミレディ・ゴーレムは話を続ける。

 

「戦うよ。君が君である限り。君が・・・君達こそが神殺しを為す」

「・・・・意味は分からないことも無いが、俺の道を阻むなら殺るかもしれないが・・・」

「わかった。その頼み俺達が引き受けた」

「竜也!?」

 

俺は、ミレディ・ゴーレムからの頼みを引き受ける事にした。

すぐさまハジメから反論の声を聞くが俺はこう返した。

 

「俺達をこの世界に呼び寄せたのはエヒト自身だ。何時か必ず何処かで妨害してくるに違いない」

「そりゃあそうだが・・・」

「仮に元居た世界に帰る手段が見つかって、実行しようとすればエヒトの野郎は必ずやって来る。戻ったとしてもまた呼び込まれたら面倒だろうが」

「・・・・まあ、それもそうか・・・」

「まあ、とりあえずは残りの神代魔法と大迷宮の攻略が最優先だ。」

「・・・わかった。ただ、こう言った大事な話は相談くらいしてくれ」

「その辺はすまない。」

 

ハジメを何とか納得させつつも、話をまとめるのであった。

それを見ていたミレディ・ゴーレムは微笑ましく見ながら燐光のような青白い光に包まれていた。

死した魂が天へと召されていくようで、とても神秘的な光景だ。

 

「そろそろ時間みたいだね。最後にこれだけは言っとくね」

「なんだ?遺言かなにかか」

「君は・・・君達の思った通りに生きればいい。君達の選択が・・・この世界にとっての最良となるのだから。君達のこれからが・・・自由な意志の下に・・・あらんことを・・・」

 

オスカーが残した同じ言葉を俺達に贈り、ミレディ・ゴーレムは今度こそ瞳から光を消すのであった。

すると同時に、壁の一角が光を放っていて、浮遊ブロックが近づいてることに気がついた。

まさかと思った俺とハジメは警戒しつつも近くに寄るのであった。

恐らく、ミレディ・ライセンの住処まで乗せてくれるようだ。

試練にはクリアしたが攻略の証や神代魔法を会得していないからだ。

俺隊はその浮遊ブロックに乗ると、導かれるまま案内された。

進んだ先には、オスカーの住処へと続く扉に刻まれていた、七つの文様と同じものが描かれた壁が見えてきた。

すると、壁が横にスライドし奥へと誘うように進み、浮遊ブロックは壁の向こう側へと進んでいった。

 

「やっほー、さっきぶり!本体のミレディちゃんだよ~!」

「「「・・・・・・」」」

「はぁ・・・・やっぱりか・・・・」

「こんなこったろうと思ったよ・・・・」

 

其処には小型ではあるがミレディ・ゴーレムがいた。

それもそうだ。

浮遊ブロックが近づいてる時点で予想していた事だ。

もし、あの場でミレディが死んでいればどうやってこれから来るかもしれない迷宮の挑戦者に対応するのだろう。

あの巨大なゴーレムですら本体が居なければ操作できる筈も無いからだ。

一度のクリアで最終試練がなくなってしまう等という事は有り得ない。

俺とハジメは、ミレディ・ゴーレムを破壊してもミレディ自身は消滅しないと予想し、浮遊ブロックが乗せて案内するように動き出した時点で確信に変わっていた。

したくは無かったがそれが確信に変わり、今それが目の前にある事に遠からず、呆れていた。

ユエ達三人は、まんまと一杯食わされた顔をし肩を震わせワナワナしていた。

黙り込んで顔を俯かせるユエ達に、おちょくるようにミレディが非常に軽い感じで話しかける。

 

「あれぇ?どうしたのぉ~?あぁ、もしかして消えちゃったと思った?だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね!」

「「「・・・・」」」

 

その時のユエ達三人の顔は凄い笑顔であった。

今まで見た事の無いほどの笑顔であったと言えよう。

ただし、目は笑っていなかったが。

それどころかどこぞの少年漫画よろしく『ゴゴゴゴゴ!!』と言う擬音をバックにミレディに迫っていた。

揺れながら迫ってくるユエ達を前に、ミレディも事態を理解したようだ。

やり過ぎたのだと。

 

「待って!ちょっと待って!落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

「「「死ぬがいい・・・」」」

 

こうして三人によるミレディに対するお話(物理)という制裁が加えられるのであった。

暫くの間、ドタバタ、ドカンッバキッ、ゴキッメキッ、らめぇ~壊れちゃう~等の悲鳴やら破壊音が聞こえてくるが俺はそれを無視した。

いっその事俺も参加して、ミレディの尻にゲイ・ボルクを刺してやろうと思ったぐらいだ。

ハジメはと言うとそんな光景を無視し部屋を物色していた。

何やら本棚には神代の時代と思わしき本があり、調べていくと他の大迷宮と思わしき情報が記載されている本を見つけた。

オスカーの住処にもそれらしいものがあったのだが、名前だけで詳しい場所までは書いていなかった。

正確には経年の劣化で失伝していたのもあり、比較的状態の良い本が残っていた事に驚くも、大迷宮の位置を記した場所を確認していく。

 

・砂漠の中央にある大火山、『忍耐の試練 グリューエン大火山』

・西の海の沖合周辺にある、『狂気の試練 メルジーネ海底遺跡』

・教会総本山にある、『意志の試練 神山』

・東の樹海にある大樹ウーア・アルトの『絆の試練 ハルツィナ樹海』

・ガーランド魔王国のシュネー雪原にある、『精神の試練 氷雪洞窟』

 

調べ終わった頃にはボロックソにされたミレディの姿がいた。

正直言ってスクラップ寸前と言ってもいいのだろうか、辛うじて原形が保っているのであった。

ハジメも調べ物が終わったのか、ミレディの首根っこを捕まえて報酬を要求するのであった。

 

「ホントに死にたくなかったら、さっさとお前の神代魔法をよこせ」

「はい、すぐに渡します・・・」

 

ユエ達の制裁が余程聞いたのか割と素直に答えるのであった。

オルクスにもあった魔法陣に立つと、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。

シアは初体験なのか体を跳ね上げていた。

数秒で刻み込みは終了し、ミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れるのであった。

ステータスプレートを確認すると技能に『重力魔法』新たに記載されていた。

 

「やはりとは思ったが重力操作の魔法か」

「ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね・・・と言いたいけど君達男子二人とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするくらい」

「やかましいわ!一々気にしてる事を言わんでいい!」

「ある程度予測はしていたがまさかとはな」

「まあ、体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。金髪ちゃんと白狐ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

どうやらユエだけでなくコハクにも重力魔法の適正はあるらしい。

適性あるなしはオルクスでも経験済みな為、気にしてはいないが。

気が付くと、ミレディの体はすっかり元の戻っていた。

戦闘中も再生したことを考えると、そう言った類の神代魔法なのだろうか?

 

「それと、さっさと攻略の証を渡せ!持っている便利そうなアーティファクトと感応石みたいな珍しい鉱物類もだ!」

「君、そのセリフ完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?」

「まあ待てハジメやり過ぎは良くないぞ。」

「おおそっちの君は平和的だね!」

「全部とは言わないが持てる分だけ持っていこうぜハジメ」

「ちょっとおおおおお!!!!」

 

部屋に再びミレディの悲鳴が木霊する。

結果、大量の鉱石類を保管している隠し部屋から頂戴する事にした。

壊れたゴーレム達の修繕分にも残してくれと懇願され、渋々その願いを聞くことにした。

ミレディ自身が使うアーティファクトは修繕の為に譲ってもらえなかったが、鉱石でも特にゴーレム達を操っていた『感応石』は結構重要であった。

今後ハジメが錬成する際に作るアーティファクトに組み込む予定だそうだ。

 

「いやあ結構いい物あるじゃねえか、さてどんな武器作るかな」

「じゃあ、もうやる事済んだかな?」

「まあ、そうだな」

 

するとミレディは部屋の隅に行き、天井からぶら下がっている紐を引っ張るとこう言った。

 

「それじゃあとっとと出て行ってね!」

「は?」

 

そう言うのも束の間、足元に巨大な穴が開き「ガコン!!」と言う音と同時に四方の壁から途轍もない勢いで水が轟音と共に流れ込んできた。

 

「嫌なものは、水に流すに限るね!それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「テメェ!!!!」

 

俺達は成す術も無く流れ込む渦巻く大量の水と共に外へ投げ出されるのであった。

正確には水と共に吸い込まれ外へ吐き出されると言った感じだろうか。

流されていくと、激流で満たされた地下トンネルのような場所で、他の川や湖とも繋がっている地下水脈なのがわかった。

すると、縦穴らしきものが見えて、俺達はその穴に吸い込まれるように水面へ吐き出された。

水面に上がると、其処は何処かの森の中にある泉のような場所で、周囲を見ると既に夜であり、星空が視界に広がっていた。

 

「ゲッホ、ガッホ!!・・・・死ぬかと思った。皆無事か?」

「ケホッケホッ・・・何とか無事」

「水攻めとは・・・やってくれるな」

「ゴッホ、ゴッホ・・・生きてるよ・・・」

 

ハジメがメンバーの安否を確認している最中、ユエ、コハク、俺の順で返していく。

その中で返事をしないのがいた。

それはシアであった。

水面をうつ伏せで浮かんでおり完全に意識を失っていた。

急いでシアを岸に挙げ、救命処置をとる。

シアを仰向けに寝かせ安否を確認していると、顔面蒼白で白目をむき呼吸と心臓が停止していた。

容態を見て心肺蘇生を行う為、ハジメは人工呼吸と心臓マッサージを行った。

何度目かの人工呼吸のあと、遂にシアが水を吐き出し意識を回復させた。

水が気管を塞がないように顔を横に向けてやると、シアも状況を理解したのか分からないが、ハジメの声に答えるのであった。

 

「無事かシア?ったくこんなことで死にかけてどうすんだよ」

「ケホッケホッ・・・ハジメ・・さん?」

「おう、ハジメさんだ。見直したと思ったらお前はホントにっん?」

 

呆れた表情を見せつつも、どこかホッとした様子を見せるハジメを見ていたシアは、突如抱き着きそのままキスをした。

両手でハジメの頭を抱え込み、両足を腰に回して完全に体を固定する体勢を取ったシアは、しっかりホールドすると一心不乱にハジメにキスをし続けるのであった。

俺やコハクはまだしも、ユエが止めに入るかと思ったらそうでは無かった。

寧ろシアの気が済むまでやらせている状況だ。

吸い付いてくるシアを、ハジメは体ごと持ち上げると、尻を鷲掴みにして激しく揉むやシアを引き剥がそうとする。

突然尻を揉まれたことに驚いたシアは一瞬、ハジメと離れるのであった。

緩んだ隙を逃さず、漸くシアを話す事に成功するハジメであった。

ハジメとキスをしたことに顔を赤くするシアであった。

 

「うへへ、ついにハジメさんとキスしちゃいました!まさかハジメさんからしてくるなんて!」

「もう一回溺れてこい、このっエロウサギ!!」

「うきゃあああああああ!!!!!」

 

流石にキレたハジメはシアを再び泉へ放り込むのであった。

最後は何とも締まりのない形ではあったが、こうして二つ目の大迷宮攻略と神代魔法会得を完了するのであった。




次回予告『愛ちゃん護衛隊』

次回は優花サイドの話となります。
久しぶりの優花ちゃんターンとなりますので推しの皆様お楽しみにしてください。
期待に応えられるように私も頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。