ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強 作:ゴルゴム・オルタ
我らの愛妻、優花ちゃんの再登場となります。
満足いただけるかどうかわかりませんが、期待の添える事が出来れば何よりです
時は、竜也達がライセン大迷宮を攻略完了した日へ再び遡る。
同じ頃、ある一団が北の山脈地帯付近にある辺境の町に到着した。
その一団とは、ハイリヒ王国より派遣された男女数名の使節団である。
使節団の目的は、王都近隣にある周辺の町村での農地改善・開拓を目的とし、各地を転々として訪れ、護衛の騎士数名を連れ『湖畔の町ウル』へやって来た。
その一団こそ、数ヵ月前にこの世界トータスを救済するべく神エヒトによってに召喚された神の使徒と呼ばれる一同とされ、ウルの町にもその話は聞き及んでいた。
町の住民の間では、神の使徒達は迷宮で力を付ける勇者一行だけでなく、近隣の町村で農地の調査と改善を行い田畑に豊穣と恵みを与える存在と知れ渡っている。
一説だと、土壌の汚染や不作に悩んでいた村では、神の使徒の力とその知恵により豊かになったとされる。
その一団の正体こそ、園部優花率いる一団、通称『愛ちゃん護衛隊』である。
なぜ彼女らが王都を離れ周辺の町村へ足を運ぶようになったかには理由がある。
それは竜也とハジメが奈落に堕ちてから一月が経った頃であった。
畑山愛子を含む園部優花と竜也やハジメとの接点のあった一部生徒らは未だ立ち直れずにいた。
突如として異世界に召喚され周囲に流されるまま戦争に参加させられ、初の実戦訓練にてクラスメイトの死を体験した彼等には辛い出来事であった。
ある日、クラスメイトの一人である園部優花が立ち直り、此れまで以上に訓練に励むようになった。
死と言う恐怖から目を逸らし現実逃避するのではなく、ただひたすら前へ向かって進み始めた彼女の姿を見た一同は、触発されたのか一人また一人と歩みを止めた足を動かすのであった。
「竜也と南雲の頑張りがあって今がある!!」
本当なら親しい人間を失って辛いはずである彼女、園部優花に発破される形で、パーティメンバー全員が復帰したのである。
彼女達は、勇者メンバーとは別行動をとる事を決意し、竜也が考案した故郷の料理再現計画に携わった人間でもある畑山愛子を引き入れ今後の方針を話し合うのであった。
畑山愛子としても教え子の落ち込む姿を見ているのも、戦いに巻き込まれていくのを見るのも見るに堪えかねない光景であった。
唯でさえ王国と教会との会議で精神をすり減らし心を痛めている彼女にとって、優花は竜也に代わる希望の光であった。
優花率いるパーティメンバーと協議を行い、愛子はある行動に出た。
それは自身の技能を最大限に活用した『周辺町村の農地改革計画』である。
文字通り、王都周辺の町村へ訪れ、土壌の汚染の回復や農地改善・開拓を目的とし、戦闘面でなく生活面での支援を行うべく立案したものである。
尚この計画の基盤を考えたのは、竜也である。
オルクス大迷宮へ行く前に竜也が考案し、愛子へ渡した資料が元になっている。
その資料には、竜也なりに情報収集したこの世界の世界情勢と、食糧事情が詳しく書かれていた。
情報源は、王都の城下町にて食品を携わる商人から聞き及んだ物であり、戦闘面よりも生活面の重要性を考えた竜也なりに考えた資料である。
如何に強力な武器や能力、ステータスがあろうと人間である以上、体を動かせば腹も空く。
それは何処の世界であろうと変わらない基本的な事だ。
人が生活する以上必要な物が3つある。
それは『空気』『食料』『水』だ。
そのどれか一つでも欠かせば生きていくことなど出来はしない。
現在、王国と同盟国であるヘルシャー帝国は魔人族との国との戦争状態にある。
戦争をする以上物資の備蓄は必要不可欠である。
当然ながらそれを維持していく資金や物資の消費は恐ろしい物となる。
それを長年維持していけば、どちらか片方か力尽くか共倒れもあり得る。
唯でさえ浪費していく資源をそれ以上の量で増産できる存在がいるとすればどうだろうか。
味方から頼もしく、敵からすれば厄介以外何でもない。
王国や教会からすれば愛子の存在は今後の戦争の継続に必要不可欠な人材以外何でもない。
そう考えた王国と教会は、愛子達一行が行う周辺町村の農地改革計画に賛同するのであった。
こうして優花率いる地方遠征を目的とした農地改革組こと『愛ちゃん護衛隊』は発足され活動を開始するのであった。
優花を含むパーティメンバーは王都以外の地へ赴けることもあり期待を膨らませていた。
同時に愛子も、王国や教会との協議の日々から解放され心に余裕を持てるようになった。
迷宮で力を付ける勇者組の生徒の安否も気にはしていたが、彼等の事はメルド団長に委ねる以外他ならなかった。
愛子自身、異世界召喚の時点で心が擦り減って気が滅入っていたのだ。
誰かに縋り助けを求める気持ちだってある。
彼女もまた一人の人間である以上、弱気になる時だってある。
そんな愛子を見兼ねたのか、護衛の騎士たちが心の支えになるべく奮起したのだ。
教会から派遣された護衛の神殿騎士達である。
彼等は、教会からの厳命もあるが自ら護衛に志願した騎士達である。
専属護衛隊隊長のデビッド、副隊長のチェイス、近衛騎士クリスとジェイドだ。
彼ら4人の騎士達は、普段から愛子の誠実さと一生懸命さ、可愛らしさの虜になってしまい、現代社会で言う愛子の信者となっていた。
彼ら曰くこう言った。
「愛子は・・・俺の全てだ」
「愛子さんに全てを捧げる覚悟がある」
「愛子ちゃんと出会えたのは運命」
「愛子に身命を賭すと誓う、一人の男として」
優花は当初、愛子が神殿騎士によるハニートラップを警戒していたのだが、予想の斜め上を行くどころか、ミイラ取りがミイラという事態になり、逆に神殿騎士を虜にしていたのだった。
愛子本人にその自覚は無いが、護衛の神殿騎士をも虜にした逆ハーレムを築き上げるのであった。
それを見た優花を含むパーティメンバーは事態を重く見て、愛子の傍を離れようとしなかったのである。
「馬の骨に愛ちゃんは渡さん!」
優花の一言を切欠に一同は団結するのであった。
こうして、異世界から召喚されたクラスメイト達は、オルクス大迷宮で実戦訓練をつむ光輝達勇者組、王都での居残り組、愛子の護衛組に生徒達は分かれていた。
丁度、竜也とハジメが奈落に堕ちた日から2ヶ月が経過した日であった。
愛子達農地改善・開拓組一行は各地を転々として、新たなる巡礼地である湖畔の町ウルへ到着するのであった。
到着時には既に夕刻であったが、町の人達からは歓迎の声が上がった。
当然ながら出迎えの宴と町長との挨拶を含めた歓迎会が開かれた。
神の使徒の中でも、農地に豊穣をもたらす愛子の存在は王国領土内に留まらず、同盟国であるヘルシャー帝国にまで響いていた。
故に、愛子は二つの国から栄誉と敬意を込めて『豊穣の女神』の二つ名が与えられるのであった。
当の本人である愛子からすれば過ぎた二つ名かもしれないが、この世界からすれば愛子の存在は現世に降臨した現人神その者である。
こうしてウルの町での些細ではあるが神の使徒を歓迎する日常が紡ぐのであった。
此処まではそうであった。
ウルの町に来てから愛子達にある異変が起こった。
それは同伴者である清水幸利の突然の失踪である。
ウルの町に来た翌朝、彼の部屋に来てみれば蛻の殻であった。
部屋には荒らされた様子もなく、周辺の町村への捜索依頼も出すも空振りに終わった。
優花や愛子も捜索に出ようとするも、ウルの町へ来た目的である周辺町村の農地改革を行うべく、仕事に追われる日々でそれだけでは無かった。
突然失踪した清水に困惑と不安を抱くパーティメンバーと愛子を励ますように、優花は設立時に交わした自身の手料理を振舞うと言う約束を果たすべく、厨房にて調理を行うのであった。
優花が得意とするのは洋食であり、ウルの町にて収穫された食材を使った料理となる。
この町では稲作が有名であり、日本の主食とも言える米が食べられる事もあり、メンバーの期待は高まるのであった。
「皆、お待たせ。私特製の『コーンとベーコンの洋風炊き込みご飯』だよ!」
「「「「「おおぉぉぉぉ!!」」」」」
「これは凄く美味しそうですね!」
大きめの皿に盛られた料理をテーブルに置かれ、それを見て感動を覚えるメンバー達と愛子。
数か月ぶりとも言える米を食べられる事を考えれば、喜びもまた人一倍であった。
優花が作った料理は米を使ってはいるが洋食に分類される。
コーンとベーコン、玉葱を具材にしてコンソメとバターで味付けし、米と一緒に炊き上げると言う簡単な料理である。
久しぶりに食べる米と言うのもありメンバーは食欲にそそられ、思春期を迎えた年頃もあり一心不乱に食していく。
愛子もまた同じく久しぶりに食す米の味に感動を覚えていた。
主食は米ではあるが、汁物と主菜に至ってはこの世界の物である。
優花達一同が食事をしている場所は、ウルの町で一番の高級宿『水妖精の宿』である。
一階はレストランとなり2階からの階層が宿泊施設となっている。
宿の隣には大陸一の大きさを誇る湖である『ウルディア湖』があり、日本の琵琶湖の四倍程ある大きさだ。
昼間の明るい時間帯には蒼く透き通った美しい湖が見える事もあり、女子メンバーの菅原妙子と宮崎奈々はその風景を非常に気に入っていた。
男子メンバーである相川昇、仁村明人、玉井淳史もまた都会では見られない自然の風景に感動を覚えていた。
ウルの町に来て数日、メンバーは農地改革を行うべく日々農作業を行っていた。
陣頭指揮を愛子が執り、優花達と町の人達で農地の改善と開拓を行っていた。
最初は慣れない農作業に悪戦苦闘していたメンバーであったが、王都を出発してから一月と言う短い期間ではあるものの、今では慣れた手つきで行えるようになるほど上達していた。
当然ながら体を動かす以上、食欲も旺盛となるので当然である。
異世界で食べられる地球の料理に近い米料理もあり、メンバーの評価は自然と高くなるのだ。
食事も終えたメンバーは就寝する時間まで談笑するのであった。
すると、妙子が優花に何気ない質問をしてきた。
「ねえ、優花。前から気になっていたけど腰に着けている其れって何?」
「そういえば何時も着けてるよねそのお面?」
メンバーからの視線が集まる中、優花は「ああ、これね」と言い、腰に着けているお面をテーブルの上に置いた。
すると優花はゆっくりとこのお面の事を話すのであった。
「これはね、竜也が私にくれた物なの」
「篠崎君が優花ッちに?」
「うん。竜也に聞いたら『厄除の面』と言ってね、災いを取り払う意味が込められたお面らしいの」
「ふ~ん。でも、よく見たら可愛いかも」
「そう言われてみるとそうだね。凄く綺麗に作られている」
「でもなんで白い狐なんだ?」
メンバーからの質問と感想に優花も話していくのであった。
「理由は分からないけど、竜也の家は昔から狐と縁があるみたいなんだけどそれもあるかな」
「でも園部は何時これを篠崎に貰ったんだ?」
「・・・初めて大迷宮に行く前日の夜にね、竜也から渡されたの」
「あっ・・・その・・・ごめん」
玉井が何気ない質問の中に大迷宮の名前が出た瞬間、優花の顔が曇るのが分かりすぐさま謝罪した。
他のメンバーも聞いてはいけない事をしてしまったような表情となるが、優花は「気にしないで」と言い話を続ける。
「このお面なんだけど、竜也が元居た世界にいた時に山でキャンプをしている時に出会った女の子から貰った物らしいの」
「山で出会った・・・女の子?」
「うん。竜也から聞いた話だと、その子から何時か大切な人が出来たら渡してあげてと言ってもらった物なの」
「へぇ、篠崎ってキャンプするんだな。てっきりインドア系かと思った」
「俺も思った。確か元居酒屋って言ってたけど何で元なんだ?」
「昔はそうだったよ。今と違って南雲に近い感じだったんだけど・・・・」
すると、優花のトーンが小さくなっていくのが分かった。
それまで静かに見守っていた愛子が心配そうに様子を伺ってくるのであった。
優花は「大丈夫だよ」と言い、話を続けた。
「園部さん、辛いならあまり無理をしてはいけませんよ?」
「愛ちゃん先生・・・ううん、私皆に話すよ。竜也の事知ってもらいたいから」
そう言うと優花は息を整えると、この場に無い幼馴染である竜也の事を語りだすのであった。
「竜也はね、高校に上がる前に・・・海外旅行へ行った時に事故で両親を亡くしたの」
「「「「「「えっ・・・」」」」」」
優花から聞かされる話に一同は静まり返るのであった。
一同は、元居た世界で何気ないニュースの中に、昔海外で起きた航空機事故の事を思い出した。
生存者は1名だけでそれ以外の乗客が全員死亡した悲惨な事件だ。
優花の話を聞いていく内に一同はまさかと思った。
その唯一の生存者がまさか竜也の事だと知り、声を失った。
竜也の存在は高校に上がってからも浮いた存在であった。
当時、一学期終了間際に遅れての入学となったクラスメイトに驚きを隠せなかった。
まるで他人を寄せ付けない異様な雰囲気を放ち、優花以外まともに会話や交流も行わない人物に、クラスメイトはまるで竜也を腫物のように扱うようになった。
事故から生還し日本に帰ってきた竜也の姿を見た優花は動揺した。
姿は多少変わったものの、雰囲気は全く別人となっていた。
以前の大人しい雰囲気から、獰猛な猟犬染みた気配を漂わせていた。
「あの時見た竜也は少し怖かった。本当に竜也なのか少し自信が持てなくなったの」
「あいつ、そんな事があったんだな」
「道理でおっかない雰囲気出してたのってそれが原因か?」
「確かに昔と比べて変わった所もあったけど、でもね、竜也の良い所は全く変わらなかったよ」
帰ってきた当初、正直目も当てられないほど落ち込んでおり、近所のお寺で住職をしている人に連れられて何処かへと言ってしまった。
一週間後、帰ってきた竜也は何処か憑き物が取れたかのような清々しい表情であった。
その時作った料理を食べながら竜也は泣いていた。
長い付き合いの中で、泣く姿を初めて見た。
竜也の実家である居酒屋が事実上閉店するも、それから優花の実家でアルバイトをするようになった。
以前は、稀に手伝う助っ人であったが、あの事件以降実家である洋食店の手伝いを積極的に行う事となった。
それ以外も、商店街での手伝いや仕事などを行い、事故がショックで塞ぎ込むかと思われたが、再び立ち上がる事が出来たのだった。
何故竜也は再び立ち上がる事が出来たかと言うと、それは竜也が誰よりも強く優しい心と何事にも恐れず立ち向かう勇気を持っているからだ。
あの事故で家族を失って本当は誰よりも辛いのに、人前では決して涙を流さず、前へ強く進んで行こうと歩みだす竜也の姿に優花は何時しか惹かれていた。
変わった事と言えば、竜也の趣味と日常生活が変化したことだ。
以前はインドア系の趣味だったのが、野外キャンプと言ったアウトドア系になった事だ。
長期休暇には必ず地方の山へ行き、キャンプ以外にも地方で農業を営む農家の手伝いをやったり等して、そこで採れた野菜だけでなく、猪や鹿の肉をお土産に優花の両親に渡してくれた。
聞けば猟師の手伝いをして働いた報酬にもらったそうだ。
体格も変化し以前のような草食系男子から体育会系もビックリな屈強な肉食系男子となっていた。
竜也の事は、事故で大怪我を負って入院していたと聞いていたが、そうは思えない竜也の変化に戸惑ったりした。
学校生活では、授業は普通に出て成績も其れなりに良く、特に問題は無かった。
だが、部活動などには全く興味を持とうとしなかった。
ある時、剣道部に所属している天之河から勧誘を受けるも、竜也は何処吹く風の如くスルーし無視をした。
やんわり断ればまだよかったが、竜也の態度に腹を立てたのか決闘を申し込むのであった。
ストッパー役でもありクラスの纏め役でもあった八重樫が止めようとするも、聞き分けが無い子供のように癇癪を起こした天之河は駄々をこね始めた。
結局、道場にて決闘が始まるのであった。
傍から見れば経験者である天之河と未経験である竜也とでは勝負になる筈も無く、決闘と言う名のリンチが行われるのは目に見えていた。
当の本人である竜也は防具を身に付けないどころか、普段の制服姿のまま竹刀を持って構えをすら取っていなかった。
見るからにやる気のない竜也の姿に、天之河だけでなく他の剣道部員や師範も頭に来ていたのか怒気を募らせていた。
道場にて決闘が行われていると聞いた天之河ファンクラブも、竜也に対してあからさまなブーイングと言う野次を飛ばしていた。
周囲の事等知ったものかと言わんばかりに決闘と言うリンチは行われた。
優花もその騒ぎを八重樫から聞いて駆けつけていた。
竜也の事が心配で来てみれば、道場は多数のギャラリーが居て異様な空気に包まれていた。
ギャラリー達は皆、天之河を応援しており竜也は完全に敵役であった。
一見、天之河が正義の味方で、竜也が悪役に見えていたが、優花からすれば処刑人と罪人にしか見えなかった。
だが、いざ始まってみると思わぬ結果に周囲は静まり返った。
なんと、天之河の瞬殺であった。
試合が始まったかと思ったら、天之河が壁に強く叩きつけられていたのだ。
余りの一瞬の出来事に周囲も何があったのか把握できなかった。
竜也はと言うと拍子抜けとも言える表情で竹刀を片手で持ち下ろしていた。
天之河はと言うと完全に気絶し意識を失い、同級生に介抱されていた。
ふと竜也はポツリこう呟いた。
「所詮は遊びだ」
審判役であった師範も唖然としたが、その一言に頭に来たのか次の対戦相手を竜也にぶつける事にした。
それは2年や3年の上級生であり、その様子は明らかに憤っていた。
無理も無い。
初戦から面子を潰されたも同然であったのだ。
この時まだ普段の冷静さを保っていればまだ少しは違った結果になっていたのかもしれない。
竜也はと言うと臆する素振りをする様子も無く、竹刀片手で握ったまま肩に置き、彼等を挑発する事を言った。
「ノロマ共を一々相手にするのも面倒だ。纏めて掛かって来いよ」
その一言に完全に剣道部一同はキレた。
上級生一同と師範を含めた総勢20人だ。
剣道部の怒りの猛攻が竜也に襲い掛かるのであった。
本来なら師範が止めなければいけない筈なのだが、そんな事は完全に頭から消えていた。
竜也はと言うと、激しい動きをしているのにも関わらず、呼吸一つ乱さず竹刀を片手に次々と剣道部部員を道場の床に沈めていくのだった。
相手の首を横薙ぎに払い、ある時は喉元を目掛けて直突で仕留めていく。
それを見ていたギャラリーは完全に意気消沈していた。
特撮のヒーローが悪を退治する風景でも見る感覚で見ていたと思ったら、魔王(正確には魔槍兵だが)に蹂躙される勇者の構造であった。
剣道未経験者であるはずの竜也が、大勢の経験者を竹刀一本で蹴散らしていく異様な光景に周囲も困惑していた。
その光景に優花と八重樫は唖然としていた。
最も一番動揺していたのは剣道部の師範であった。
素人であるはずの竜也に経験者達が一方的に倒され、蹂躙されていくなど悪夢以外何でもない。
当の竜也は完全に無傷であり余力があった。
最後の一人となった師範は完全に闘気を失っていた。
竹刀を払いゆらりと近づいて来る竜也に得体のしれない恐怖を感じていた。
すると竜也は竹刀を両手で握ると、師範の脳天目掛けて振り下ろそうとするのであった。
自身の頭に竹刀が打たれるかと思った師範は、完全に戦意を失い尻餅をついていた。
だが、竹刀は頭に当たるどころか寸止めで止まった。
すると竜也はこう言った。
「これに懲りたら二度と俺に関わるな」
低いトーンで静かにそう言い放つ、と竜也は竹刀を合った場所へと戻し道場を出ると、荷物を持って学校を後にした。
一部始終を見ていた優花は竜也の後を追うべくその場を去っていた。
竜也を追うものは誰も居なかった。
剣道部の師範だけでなく部員一同も意気消沈していた。
ギャラリーもまた同様で、ヒーローが活躍するどころか無残にも惨敗する光景を見せられ言葉が出なかった。
この出来事がトラウマになったのか、暫く剣道部は活動を自粛せざるを得なかった。
学校でもこの問題は挙げられたが、剣道部の師範が全責任を負う事になり竜也への追及は無かった。
同時に、竜也はクラス内だけでなく学校でも孤立していく事となる。
周囲が竜也を腫物扱いする中で、優花だけは傍に寄り添うのであった。
単に幼馴染というだけでなく、生涯孤独となった竜也の心を守り温めたかったからだ。
昔と比べて別人みたいに変わった所もあるが、変わらない所もあるのだと優花は信じていた
「・・・剣道部の一件が原因で竜也が皆から孤立しているけど、私は絶対に竜也の事見捨てたりなんかしないよ」
「優花ッち・・・」
「竜也が皆の言うような人だったら、異世界に召喚されて故郷の料理を再現するために計画立てたり、オルクスで南雲と一緒に皆を助ける為に行動できる人じゃないよ」
「そう・・だよな。俺達、あいつ等に助けられたんだよな」
「篠崎が作った肉じゃが・・・すげえ美味かったよな!」
「最初見た時は怖かったけど、篠崎君って・・・結構優しい人なんだね」
「園部限定で超甘々だと思うのは俺だけか?」
「先生は篠崎君の事を信じていますよ。彼は本当に優しい心の持ち主なんですから」
「もし優花ッちが言うように篠崎君が生きていたら、その時は皆でちゃんとお礼を言わないとね」
優花から聞かされた竜也の話を聞いた一同は完全に静まり返っていたが、改めて竜也の印象が変わった気がするのであった。
剣道部の一件は概ね聞いてはいたが、事の詳細に関しては皆真実を知らなかった。
どれも竜也が剣道部全員を袋叩きにした等、明らかに事実を捻じ曲げた風評被害染みた物ばかりだった。
実際は、戦いを仕掛けたのは天之河と剣道部であり、竜也は挑まれただけであった。
剣道部も頭の沸点が低いのか、心の鍛錬が足りていないのか、素人相手にムキになり過ぎである。
事が大きくなったのは天之河がムキになった挙句、癇癪を起こしたのが原因だと言うのは一目瞭然である。
あの一件以降、竜也と天之河はお互いに顔を合わせる所か目を合わせることも無かった。
それは他のクラスメイトも同様である。
「・・・・そういや皆覚えているか?」
「何がだ?」
「オルクス大迷宮でトラップに掛かって魔物に襲われたことがあったよな」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「真っ先に退路を確保するのに動けた篠崎って一体何者なんだ?」
突然、話を変えるべく玉井の一言に相川が答える。
一同もその事に疑問を浮かべる。
「確か退路にいたガイコツ兵は100体位いた筈なのに、篠崎の奴が一瞬で片づけたんだよな」
「あの時の篠崎君は、本当に凄かったね・・・」
「うん、そうだよね。あの時の皆、一体どうすればいいのか分からなかったのにね」
「篠崎が凄ェ奴なのは分かったけど、一体何処であんな強さを身に着けたんだ?」
オルクス大迷宮にてクラスメイトが恐慌状態にもかかわらず、冷静に行動が出来ていた竜也を思い出した。
仁村、菅原、宮崎、相川の順で竜也の謎に疑問を抱く。
優花もその一人だ。
剣道部の一件以降、その事を竜也に聞いてみたのだが意外な答えが返ってきた。
「朝起きて、飯食って、週刊ジャ〇プ読んで寝る。男の鍛錬はそれで十分だと常連さんに教わった」
嘘なのかホントなのかよく分からない珍回答に優花は困惑した。
それを竜也に教えた常連さんは優花も知っており、アクション映画をこよなく愛する『風鳴』と言う名字の警察官だ。
その事をもう少し詳しく聞く為、優花は竜也に質問をしていくとこう帰ってきた。
「剣や刀を使った戦いはあまり得意じゃないからやりにくかった。錆兎と真菰の見様見真似でやってみただけだ。やっぱり剣より槍の方がしっくりくるんだよな」
「・・・錆兎と真菰?」
「山でキャンプした時に知り合ってな。凄く強くってな、それに比べたら剣道部の連中なんて鈍臭いったらありゃしねえよ」
つまり竜也は扱い慣れていない所か扱い辛い武器を使って彼ら剣道部員に圧勝したのだ。
その事を思い出した優花は一同にそう伝えると、若干引きつつも驚いていた。
圧倒的不利な状況にもかかわらず諦める事無く戦い、勝利を収める竜也に愛子も一同も困惑した。
その事で、優花はある事に気が付いた。
竜也に渡された厄除の面の持ち主の事だ。
あれ以降、時折夢の中で真菰と言う名の少女と出会うのだ。
真菰もまた竜也から渡された面と同じ物を持っていた。
つまり、竜也は真菰と面識があってお面を渡され、今私の手にあるという事だ。
一体竜也は何処でどうやって真菰と会ったのか分からないのである。
ふと、お面を見ていた愛子がある事を思い出したかのように話し始めるのであった。
「園部さん、このお面・・・何処かで見たことがあります」
「えっ!?愛ちゃん先生知ってるの!?」
「はい、小さい頃に御婆ちゃんから聞いた事がある話です」
愛子曰く、そのお面とよく似た物を作る職人が親戚にいるのだとか。
白い狐の面だけでなく、赤い天狗の面まで多数作っているとか。
その職人の名字は『鱗滝』と言い、大正時代から現代にまで掛けてある山の管理人をしているのだとか。
その山の名前は『狭霧山』といい、年中濃ゆい霧に山頂が覆われているだけでなく、山の中の空気も薄くハイキングや登山、キャンプには向かないそうだ。
地元では昔からその山には子供の幽霊が出ると言う心霊スポットとしても有名であるそうだ。
山に入った人に話によれば、袴姿から着物姿の少年少女の霊の例が複数目撃されており、白い狐のお面を顔に被っていたそうだ。
愛子からその話を聞いた優花達生徒一同は言葉を失った。
「ねえ優花ッち、そのお面・・・もしかして」
「それ以上言わないで奈々。私が一番驚いているから」
つまり竜也が優花に渡したお面の持ち主は山に出没する子供の幽霊から貰ったという事である。
テーブルに置かれているお面を優花は凝視するのであった。
お面はと言うと普段と変わらずにこやかな表情で優花達を見ているように見えた。
結局、その日は此れにてお開きとなった。
翌日も仕事がある為か皆それぞれの宛がわれた部屋に向かい就寝する事にした。
優花は、お面をベッドの横にある戸棚の上に置くと就寝するべく布団の中にもぐりこんだ。
夢の中に出てくる真菰の正体を知ったが、優花は嬉しくもあった。
竜也が山であった子供が真菰だと言うのなら、夢の中であった時には竜也の心を救ってくれたお礼をいう事を決意するのであった。
優花もまた夢の中ではあるものの、真菰にある事を教わっている最中である。
それは、王宮にいた頃から始めており鍛え上げた体とそれに伴い増強させた肺活量により、一度に大量の酸素を血中に取り込み、血管や筋肉を強化・熱化させる事により、瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸術である。
まだまだ会得には程遠いかもしれないが、真菰曰く「死ぬほど鍛えないといけない」との事だ。
真菰に教わりつつある呼吸の名を『全集中の呼吸』と言う。
ベッドに横になり体を休めつつも、睡眠時を含んだ時間でさえ活用し、四六時中全集中の呼吸を維持し続ける鍛錬を行うのであった。
そんな彼女を覗き込み見守るような表情で見ている存在がいた。
赤い着物姿に黒い髪の謎めいた雰囲気を漂わせる可愛らしい少女がいた。
「もうすぐ竜也と会えるよ優花」
こうして優花率いる愛ちゃん護衛隊のウルの町での一日が終わるのであった
次回予告『ブルックにて再び』
周囲の人間から見た竜也と竜也から見た周囲の人間の印象を大雑把に語れば以下のようになります。
周囲から見た竜也
・触れ得ざる者、怒らせるとヤバい奴。
優花から見た竜也
・物静かだけど誰よりも強く優しい心と勇気を持った人。
・何時も傍にいて守ってくれるだけでなく、誰かの為に考え行動できる人。
・幼馴染だけでなく、人としても異性として好きな人
八重樫から見た竜也
・いざと言うときに行動でき、周りをよく見て動ける人。
パーティメンバーから見た竜也
・おっかない雰囲気をしているけど凄く頼りになる人
・優花同様に料理上手な人。
・本当の意味で困っている人を助ける事が出来る人
・謎めいた雰囲気を持つけど根は良い人
愛子から見た竜也
・生徒の中でも一番信頼している優しい心を持った生徒。
竜也から見た剣道部一同
・錆兎と真菰に比べたら鈍くて弱くて未熟すぎる。
・師範に至っては、スカサハ師匠の足下にすら及ばない
竜也から見た優花
・何が何でも守り抜き、必ず両親の元へ帰らせる人。
・クラスメイトの中でも一番大切な人。
・何時か必ず想いを告げるべき異性として好きな人。
竜也から見た八重樫
・優花以外のクラスメイトの中で一番信頼できる人
竜也から見たパーティメンバー
・優花の次に守るべき人達。
・故郷の料理を作ると約束した人達。
竜也から見た愛子
・周りが愛ちゃんと呼ぶ中でも、敬意をもって接するべき人