ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強   作:ゴルゴム・オルタ

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遅くなって申し訳ありません。
思うようにモチベーションが上がらず苦戦いたしました。



第三章
冒険者ギルド フューレン支部


ブルックの町を出た俺達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。

道程はあと半分であり、ここまで特に何事もなく順調に進み、日の出前に出発し、明るい内に移動を行い、日が沈む前に野営の準備に入ると言う行程を繰り返していた。

俺達は、隊の後方を預かっているのだが実にのどかなものである。

道中、魔物や野盗の襲撃も懸念していたのだが此処まで何もないと結構退屈であったりする。

とは言え何もせずに景色を眺めていくのもつまらないが、楽しみとも言える物がある。

それは食事だ。

朝昼夜の一日三食は基本的に食べるのだが、その内容である。

この世界での冒険者達も任務中は干し肉やカンパンのような携帯食と言った酷く簡易な食事で済ませるそうだ。

理由としては、ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるそうだ。

俺達の場合は『宝物庫』から取り出した食器と材料を使い料理を始め調理を行う。

携帯食は直ぐに食べれるという利点はあるが、それだけでは栄養バランスが崩れる為若干手間は掛かるが、しっかりと食事を摂るのが俺達のモットーだ。

何よりも、この世界に来てからちゃんとした料理で無いと食が進まないぐらいだ。

実際の所、ハジメがそうである。

元居た世界では、カ〇リーメイトやウ〇ダリーゼリー等で昼食を済ませていたのか、この世界に来て俺とシアの料理を食べた事によって、完全に舌が肥えてしまっていた。

奈落の底での悲惨な食生活を経験した身であれば、改めて食の大切さと有難みを感じ経験した以上、中途半端な食事や調理はしないと心に決める俺とハジメであった。

携帯食に興味が無いわけではないが、曲がりにも元居酒屋の息子としては、「そんなものを食べる位なら俺が調理した料理を食わせてやる!」という料理人魂と言ってもいい闘気が体から湧くのであった。

結果、此れまで通り道中の食事は俺とシアの共同で行うのであった。

俺達が作った豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べていれば当然、いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、周囲から視線が集まるのは当然である。

俺達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、周囲を警戒していた筈の冒険者達が匂いにつられてやってきたのか、ゾロゾロ集まってきて涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になっていた。

流石に居心地が悪くなったのかシアがお裾分けを提案した結果、満場一致で合意し共に食事をする事になったのである。

それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるようになり、ことある毎にシアとユエ、コハクを軽く口説くようになったのである。

その口説き様と言ったら呆れたものであった。

 

「亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「シアちゃんは俺の嫁!」

「ユエちゃん、今度俺と食事に!」

「コハクさん・・・・ハァハァ」

 

揃いも揃って変態しかいなかった。

俺自身遭遇したことは無かったが、ブルックの町の住民も「ユエちゃんの下僕になり隊」や「シアちゃんの奴隷になり隊」と言った連中がいたのが、冒険者たちも似たり寄ったりであった。

大人げなくぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達に俺とハジメは無言で『威圧』を発動する。

それを見た冒険者達は、体の芯まで冷え青ざめた表情でガクブルし始める。

 

「腹の中のもん、ぶちまけたいヤツは誰だ?」

「人の女を口説くとはいい度胸してんじゃねぇか?」

「「「「「すんませんっしたー!!!!」」」」」

 

そんな事がありつつも一同はフューレンへ向け足を進めるのであった。

 

話は数日前に遡る。

ブルックの町を出たその日の夜、商隊の護衛と言う仕事を始めた最初の夜の事であった。

俺は夢の中よく会う人物と久しぶりに会った。

 

「よう、坊主。元気にしていたか?」

「兄・・貴?どうしたんだよその恰好」

 

夢の中で見る風景は、相変わらず殺風景で何もない空間であった。

変わっているとしたら目の前にいる人物の服装だ。

何時もの青い全身タイツのような物ではなく、薄い水色でドルイドのような恰好で普段持っている紅い槍は魔法使いが持つような杖になっていた。

槍兵からドルイドへ転職したのかと思い、随分と変わったイメチェン?なのか分からないがとりあえず話をする事にした。

 

「この格好が気になるか?まあ・・・色々あったんだよ」

「そういや思ったんだけど、何時もの槍じゃなくてなんで杖を持ってるんだ?」

「ああ・・・それな。前に師匠の事を鬼婆なんて言った事をスカサハの奴がかなり根に持っていてな、その罰だとかででこうなっちまったんだよ」

「それはなんというか・・・ご愁傷様です」

 

兄貴の話によると、師匠曰く「師への敬意が払えん馬鹿弟子に槍など無用!杖でも握っておれ!」と言う。

師匠の機嫌が戻るまでの間、槍を没収させられたのだった。

まあ、なんというか師匠の事を鬼婆とかいう兄貴が全面的に悪いのだが、今回ばかりは反省しているようであった。

すると俺の槍を見た瞬間、杖と交換しないかと言われたが即答で断った。

当の本人である兄貴は「ハッハッハ!そりゃ自分の獲物を他人にやる奴は居ねえよな」と言い豪快に笑っていた。

そろそろ俺の前に現れた理由を聞くことにした。

只の世間話をするためにやってきたのではないと思ったからだ。

話を切り出したのは兄貴であった。

 

「坊主への要件はいくつかあってな、此れはスカサハからの頼みで先ずは坊主の使うルーン魔術についてだ。」

「俺の使うルーン魔術?」

「ああ。基本的な事はスカサハから教わったんだろうが、此処からはそれの応用と発展でな。暫く俺から坊主に色々と教えようと思ってな。」

 

要するに次の段階へのステップアップという事なのだろうか?

これまで使ったルーン魔術はどれも基本的な物であり、俺自身の身体能力の向上や補助、索敵や解毒と簡単な回復ぐらいに使っていた。

攻撃でも「アンサズ」のルーンを使用するぐらいであった。

魔術で攻撃するよりも槍を使った方が早いからなのもある。

兄貴が俺に教えるのはその応用発展版だそうだ。

要は魔術を使った必殺技みたいなものなのかと聞くと、まあそんなものだと答えた。

基本的には槍で戦う事に変わりはないのだが、戦術の幅が広がると考えれば損は無い。

そう思った俺は兄貴から教えを受ける事に決め、承諾するのであった。

 

二つ目の要件は、忠告であった。

それは、俺の槍の事である。

これまでの戦いで多くの魔物を葬ってきて生き血を吸ってきたのだが、それが人間の生き血であれば槍は更に鋭くなり形状を変化させていくそうだ。

普段から何気なく使ってきたのだが、戦えば戦って行くに連れてゲイ・ボルクが赤く輝いていくのを感じた。

まるで、もっと血を吸わせろと言わんばかりにだ。

 

「俺もあまり人の事を言えた身じゃねえが、坊主は何があっても生きる事と戦う意味を絶対に無くすなよ」

「兄貴・・・・」

「・・・俺自身、戦いに明け暮れた日々も存外悪くなかったが、その過程で色々と失うものもあってな。折角出来た弟弟子の坊主にだけは、俺みたいにはなって欲しくねえんだよ」

「それは・・・・・」

「エメル、フェルディア、アイフェ、ウアタハ、コンラ・・・俺としては二度目の生なんぞに興味はねえし、無念はあっても未練はねえよ。だから坊主、お前はお前の守りたい奴を全力で守ればいい。それだけの事だ。」

「わかった。肝に銘じておくよ」

「ならいいさ。果たせなかった未練に固執しても、この世に固執して欲の皮がつっぱった怨霊みたいにはなりたくねえしな。まあ、坊主に肩入れするのはスカサハだけじゃなく俺もそうさ。最も俺は俺の信条に肩入れしているだけだがな」

 

俺が、戦いの狂気で理性を失い狂戦士にならない為の兄貴なりの忠告なのだと感じた。

生前、アイルランド全土にその名を轟かせた国一番の戦士でもあるから言葉に重みを感じるのであった。

 

三つ目の要件は警告であった。

それは、教会の神父や修道女は信じるなとの事であった。

この世界に来て最初にあった教皇もそうだが、王国の場内で偶に見かけた銀髪の修道女からは何か異質なものを感じたことがある。

これは兄貴の経験ではあるが、ある神父に呪いを掛けられ自身の自由を奪われた挙句、碌な目にあった事が無いそうだ。

なんでも、戦いの健闘を褒美にマーボーなんとかという死ぬほど辛い食べ物を10皿、1分で完食してくるがいいと言われたことがあるとか。

兄貴曰く教会の神父はとことん性根の腐った奴と言う認識であり、気を付けろと言われた。

修道女の方も似たり寄ったりで、文句を言えば分厚い紙で頬を殴るわ、口の中にそれを叩き込まれ赤い布で簀巻きにされたり等で散々だったそうだ。

 

「最後に付け加えてもう一つあってな、弓以外の武器を使う弓兵には注意しろ」

「弓以外の武器を使う弓兵?なんだそりゃ、弓を使わない弓兵でもいるのかよ兄貴」

「ああ、それがどういう訳かいるんだよ。弓兵のくせに剣士の真似事で接近戦を挑んで来るだけじゃなく、どっからか出した剣を矢の代わりに放ってくるだよ。」

「・・・それもう、弓兵の皮被った別の何かだよな」

「ああ、真面目に弓を使う弓兵に謝りやがれってんだ」

 

兄貴曰く、その弓兵とは奇妙な縁というか腐れ縁らしく、何処の戦場に行ってもその弓兵の顔があるそうで、いい加減運命とか感じちまう等と言い非常に嫌な顔をしていた。

その弓兵の特徴は、浅黒い肌に赤い外套を纏った白髪の男だそうだ。

浅黒い肌に白髪の男と聞き、俺は、元居た世界での事を思い出す。

そういえば、近所の商店街にある食事処を営む若い青年男性を思い浮かべた。

優花の料理の師匠と言っても過言でなく、和食だけでなく洋食や様々な料理の知識と経験が豊富である不思議な人である。

聞けば、学生時代は調理実習三年間無敗記録を持ち、卒業後には海外へ料理人としての修業に赴き世界中の一流ホテルのシェフとメル友になること百余名と豪語していた。

料理の腕前も、文字通り超一流で未だにあの領域に達する事が出来ず日々料理の鍛錬をする優花であった。

確かそのお店の名前は『味処えみ屋』と言う名前だったのを思い出す。

 

若干話は逸れたが、兄貴からの言伝は終わるのであった。

話が終わると、当初の予定通り魔術の鍛錬を始める事になった。

 

「俺が坊主に伝授するのは二つある。使いこなせるかどうかは坊主次第だ」

「それは一体なんだよ兄貴」

「『灼き尽くす炎の檻』と『大神刻印』だ。今の坊主だと、前者は出来ても後者には届くかどうか怪しいもんさね。まあ、スカサハも坊主の事は結構気に入ってるみたいだしな、今後の頑張り次第ではもしかするとって所だ」

「俺はまだ兄貴や師匠に比べたらまだまださ。昔や今の自分より強くなってやるよ!!」

「応さ!よくぞ言った。それでこそ俺の弟弟子だ!それじゃあボチボチ気合い入れていくぞ!」

 

こうして夢の中ではあるが、俺は兄貴から魔術の鍛錬を受ける事になった。

それは、フューレンに着くまでの間みっちりとしごかれることになるのであった。

 

 

 

「・・・・にしてもこの技能は一体何なんだ?」

 

昼間、俺は明るい内にある事を行っていた。

それは、自身のステータスプレートの確認である。

懐からステータスプレートを出すと、その数値と技能に疑問を浮かべるのである、

 

===============================

篠崎竜也 17歳 男 レベル:???

 

天職 アルスターの戦士

 

筋力:12000

 

体力:15000

 

耐性:11000

 

敏捷:18000

 

魔力:15000

 

魔耐:15000

 

技能:言語理解・魔力放出・宝具真名解放・戦闘続行・ルーン魔術・獣殺し・矢避けの加護・聖約〈ゲッシュ〉・仕切り直し・胃酸強化・食品鑑定・食品管理・調味料生成・栄養調理・料理作成・魔力分解・九尾の加護・生成魔法・重力魔法

===============================

 

自分でも言うのは変なのは分かっているが、一見化け物染みたステータスではあるが、以前より気になっていることがあった。

それは、技能にある『食品鑑定』『食品管理』『調味料生成』『栄養調理』『料理作成』である。

まだこの世界に来て間もない頃、習得したものだ。

もし俺や優花の天職が『料理人』であったのならばその技能があるのは頷ける。

同じ技能を習得できた優花も同様だ。

本来、技能は派生しても新たに増える事は有り得ない代物だ。

多くの技能を会得しているハジメに至っては、魔物の身体の一部をその身に取り込んだ事による裏技であり、俺はそういった事はしていないのにもだ

其れなのにも関わらず何故この技能が習得できたのは疑問だ。

特に、俺の天職は『アルスターの戦士』と言うこの世界には存在しえないものだ。

ある意味俺自身がこの世界ではイレギュラーな存在と言っても過言ではない。

この世界に来て四ヶ月も経つが、いまだに疑問である。

あり得ないかもしれないが、ある仮説を考えた。

それは、もしかするとこの世界の理でもエヒトとも違う、別の異次元とも言える第三者による存在からの介入でそれが可能になったのではないかと言うものだ。

だとしたら一体何の為、何の利益があってそう言う事になるのかという結論に至り、ますます謎が深まる一方だ。

幸い、不便と言うものは無く元の世界に帰還する為の旅に必要な技能であるのには変わらない。

其れに付け加えて疑問に思う技能があるのであった。

 

それは、あの夜オスカーの隠れ家でコハクを家族として迎え入れ、契りを結んだあとに加えられた技能である『九尾の加護』だ。

これはコハクに話してみた所、生涯を共に歩む伴侶と言える存在にこそ得られる加護であり、所謂俺専用の技能だそうだ。

内容と効果は、俺がコハクを愛し続ける事によって身体能力を含む全ステータスの向上と言う恩恵を得られると言うものだ。

基本ステータスの数値に+2500されると言った代物だ。

尚、これにコハクのお姉さんも加わる事が出来れば、更に上昇するとの事であり自分でも言ってチートである。

コハク自身も、俺から愛される事によって魔力の回復だけでなく、身体能力の向上を得られると言った効果があるそうだ。

言うなれば相思相愛と言う愛の力で、ステータス向上が出来る特殊な技能であるのが分かった。

ハジメの方も似たような技能があり『血盟契約』と言うユエとの契りを結んだ際に得られた技能があるそうだ。

 

「・・・・まあ、細かい事を考えても仕方ないか」

 

俺はそう思うとステータスプレートを懐に仕舞い、周囲の警戒を続けるのであった。

フューレンへの道程があと一日に迫った頃、のどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

魔物の襲撃である。

 

「敵襲です!森の中から来ます!」

 

シアのウサミミで危険を察知したのか、冒険者達の間に一気に緊張が走る。

大陸一の商業都市へのルートなので、道中の安全はそれなりに確保されている。

現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではないのだが、魔物に遭遇しても精々二十体か四十体である。

だが、今回遭遇する魔物は数も問題であるが逸れ以上に厄介な存在がいる。

群れの頭である魔物の大きさである。

その魔物の見た目はオオカミを連想する姿なのだが、通常の個体の倍の大きさをしていた。

大きさはオルクスにいたベヒモスぐらいはある狼の魔物だ。

この世界では、極稀に変異種と呼ばれる魔物がいる。

通常の魔物は群れで行動するのが常識ではあるが、時折ではあるが突然変異種とも言える個体が出てくる。

冒険者の中でも遭遇する確率は極めて低く、存在は知っても出会う事等無いほどである。

それが今、手下とも言える魔物を連れて現れたのだ。

群れの頭とも言えるその魔物の放つ存在感と威圧に冒険者達は委縮するのである。

不思議な事に、距離100メートル手前で停止すると此方の様子を伺う素振りをするのであった。

中には、引き返そうと言う意見もあったが、完全に魔物達に捕捉され逃げる事も出来ない。

狼狽える冒険者と商隊の長であるモットー・ユンケルを前に、静かに魔物達の前へ出る人物がいた。

コハクだ。

他の冒険者達は「無謀だ!」「喰い殺されるぞ」と言うがそれを無視していく。

するとコハクは、此方に背を向けたまま顔を向けると不敵にもこう言うのであった。

 

「別に、私一人であの魔物を倒してしまっても構わんだろう?」

 

コハクは何処からか刀を出すと、普段とは違う構えを取った。

鞘から刀を出すと地面に水平にし、居合でもするように構えた瞬間、魔物の頭へ目掛けて疾走するのであった。

取り巻きの魔物達へ頭である巨大狼の魔物が手を出すなと言わんばかりに威圧し、接近してくるコハクと対峙するのであった。

コハクの事を敵と認識したのか、凄まじい速さで大地を駆けるのであった。

俺はその様子を馬車の屋根の上から見る事にした。

コハクを止めるなり加勢する事も考えたが、敢えて俺はコハクのやりたいようにさせるのであった。

いざとなれば何時でもコハクを助太刀できるように戦闘態勢を整える俺とハジメ、ユエとシアであったがコハクの戦いを見守る事にした。

周囲が固唾を呑む中、俺達だけは何故か安心してコハクを見守る事が出来た。

それは、これまで共に苦難を乗り越えてきた仲間への信頼の証でもあり自信でもあるからだ。

遠目ではあるが、俺には普段コハクが使っているのとは別の刀に目が行った。

鞘から抜き出した刀からは、赤い炎が纏っているように見えた。

コハクが手にしている刀は普段使う蒼い炎を纏った刀なのだが、今コハクが手にしている刀は赤く燃え盛る炎を連想するような得物であった。

普段使う刀ではなく何故それを選んだかは分からないが、様子を見守る事にした。

大型の魔物が獲物を喰らうかのように口を大きく開けた瞬間であった。

其れより速く動いたコハクが擦れ違い様に手にした刀で横に払うかのように魔物の首を撥ねるのであった。

魔物の首を撥ねる瞬間、コハクは力強い踏み込みと同時に炎を発するような勢いでの間合いを詰めてからの袈裟斬りをし、首を撥ねるのであった。

その太刀筋は満遍なく並べられた篝火の道筋をなぞるかの様に、真っ直ぐ一直線へ魔物の首を捉えたのであった。

首を撥ねられた大型の魔物は、同時に胴体を爆散させるだけでなく肉片も赤き炎によって焼き尽くされ炭になるのであった。

余りの光景に俺達を含む他の冒険者達も声を失った。

取り巻きの魔物達は大将が倒されたと分かると、蜘蛛の子を散らすように逃走していった。

刀を鞘に納めたコハクは、ゆっくりと俺達の方へと歩いてきた。

 

「終わったぞ。先へ進むべきではないか?」

「あっ・・・はい。そう・・・ですね」

 

商隊のリーダーは若干動揺しつつもそう答え、移動を再開するべく指示を出すのであった。

コハクの戦いの一部始終を見ていた冒険者達は、未だに信じられない物を見たような表情で唖然としていた。

俺達の所へ戻ってきたコハクは何事も無かったように馬車へ乗った。

 

「さっきの戦いは凄かったな」

「それ程でもない。それよりも他に言う事があるのではないか?」

「ん?ああ、良くやったなコハク。流石だ」

「ふっ。当然だ」

 

俺はコハクの健闘を称えると同時に頭を撫でてやった。

子ども扱いするなと言いつつも、満足げに尻尾を振るコハクであった。

移動中、どうしても気になった事があったのでコハクに尋ねてみるのであった。

 

「なあ、さっき使った刀は何時ものと違ったがアレはどうしたんだ?」

「ああ、これの事か」

 

コハクは大型の魔物を仕留めた際に使っていた刀を出すと、俺達に見せてくれた。

普段コハクが使う刀は、刀身が蒼い炎を纏っている獲物だが、この刀はどこか違うものを感じた。

煉獄の如く赫い刃と炎のような形の鍔、白い柄と鞘であった。

刀の刃元『悪鬼滅殺』と書かれており、明らかに俺達のいた世界の代物だとわかる。

ハジメがその刀に興味を持ったのか、錬成師の技能で鑑定して見せた所、刀の素材に猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)と言う聞いた事の無い鉱石の名前が分かった。

調べた結果、日光が蓄えられた特殊な鉱石で出来ているのが判明した。

この刀を何処で手に入れたのかを聞いてみた所、まだ日本にいた時に山奥で倒れている侍から譲り受けたそうだ。

その侍は、息絶える寸前であり助かる見込みがないほどの重傷であった。

当時のコハクにとって人間は生きようが死のうがどうでもいい存在であったのだが、その時だけは何の気紛れかその男の最後を看取ろうとした。

コハクの存在に気付いたその男はこう言ってきた。

 

「誰だか・・・分からないが、私の刀を・・・受け取ってくれ・・・」

 

そう言い終えると同時に男は息絶え、コハクはその刀を譲り受けるのだった。

人間に対して興味が無いコハクでもその男の特徴である炎を思わせる焔色の髪と眼力のある瞳は何故だか記憶に残る風貌であった。

それ以降、その刀をあまり使う機会が無かったのだが、数百年ぶりに使う事を決めたそうだ。

理由としては普段使う刀の方が使い勝手がいいので使わなかっただけであった。

もしかしたら今後使う事があるのかもしれないとだけ言い、話を終えた。

 

翌日、俺達は何事も無ったかのようにフューレンへと到着するのであった。

中立商業都市フューレン。

高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。

様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区等、様々なエリアで構成されている。

東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあるのが特徴である。

町の出入り口の門には人だかりが溜まっており、物資の運搬作業が始まっていた。

俺達は商隊のリーダーと別れ、冒険者ギルドへ向かい報酬を得る手続きをするべく話を進める事にした。

依頼達成の証印を受けた依頼書を受け取った俺達は、冒険者ギルドフューレン支部がある中央区の一角へと向かおうとした時であった。

ところが、商隊と別れてすぐ様、三人の男性職員に呼び止められた。

服装から見てギルドの職員の様である。

何だろうと思い応対すると、どうやら俺達の事を探している様子であった。

職員の一人であるドットと言う名前のメガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が話を始めた。

話を聞くと、白髪と黒髪の少年の二人組を見かけたら支部まで案内するように言われたそうだ。

まあ、どの道冒険者ギルドへ行く要件もある以上、着いていく事にした。

冒険者ギルドフューレン支部へ到着した俺達は、支部長が待つ応接室に案内された。

金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性が待っていた。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、タツヤ君、コハク君、ユエ君、シア君でいいかな?」

 

簡潔な自己紹介の後、ハジメ達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワであった。

其処で俺達は思わぬ問題に巻き込まれるとは予想だにしなかった。




次回予告『湖畔の町での再会』

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