ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強 作:ゴルゴム・オルタ
GWを堪能してかなりゆっくりと過ごしていました。
休憩を終えた俺達は探索と捜索を再開するのであった。
山道を進んで行くと、コハクの式神で捜索した遺留品らしきものを発見した。
現場に到着し注意深く周囲を見渡せば、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱しており、近くの木の皮が禿げているのが見えた。
遺留品と思わしき物を優花達が回収する中で先へ進んで行くと、何者かと争ったと思われる痕跡があった。
半ばで立ち折れた木や枝や踏みしめられた草木、折れた剣や血が飛び散った痕があった。
恐らく此処で何かあったかは想像に容易い。
古びた様子はないのでごく最近、ウィル一行の物であると推測し、散見される中で身元特定に繋がりそうな遺品だけは回収していく。
どれくらいの時間を探索し、時刻は既に日はだいぶ傾き始めた頃合いとなり、野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた頃であった。
式神を使って探索をしていたコハクとハジメに新たな痕跡を発見したと言う報告が耳に入った。
そこは大きな川で、水量が多く流れもそれなりに激しいが、その先には上流に小さい滝が見えた。
その川は途中で大きく抉れており、周囲の木々や地面が焦げる程に抉れた部分が直線的であるのが印象的だ。
川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大型生物が残した大きな足跡があった。
足跡を調べブルタールと呼ばれる魔物かと推測するが、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずである。
余談ではあるが、ブルタールとはこの世界におけるオークやオーガの事であり知能は低いが、群れで行動するのが特徴だ。
だとすればそれよりも強力な魔物がこの場所にいた事になるのだが、それが何なのか分からずじまいであった。
コハクと共に探索を行っていたハジメの技能である『気配感知』に反応が出た。
「これは・・・あの滝壺の奥に反応がある。大きさからして人間か?」
「生存者がいるって事か?」
「人数は・・・一人って所だな」
ハジメが発見した反応の先には川の上流にある小さな滝からであった。
更に詳しく見ていくと、滝の裏側には空洞になっていて、其処から反応があったとハジメは言った。
生存者がいたという事に驚く優花達も一様に驚いている中、反応のあった滝まで辿り着きハジメがユエに声を掛け魔法を発動させる。
「『波城』・・・『風壁』!!」
ユエが発動した魔法により滝と滝壺の水が真っ二つに割れ、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われるのであった。
水系魔法と風系魔法という二つの属性の魔法を詠唱や魔法陣も無しに発動させると言うとんでもない事を平気で行うユエに、優花達は声を失い本日何度目か分からない驚愕を感じるのであった。
案の定、空洞となっていた滝の裏側にある洞窟らしき場所へ踏みこみ探索を行うのであった。
足場には水溜りがある為か滑らないように気を付けながら慎重に進んでいくと、一番奥の空間に倒れている男性らしき人物を発見した。
傍に寄って確認すると、青ざめて死人のような顔色をした二十歳くらいの青年であり、端正で育ちが良さそうな顔立ちをしていた。
幸い、大きな怪我も無く眠っているようであった。
その様子を見たハジメは、やや強引ではあるが男の肩を揺さぶり起こすのであった。
「起きろ。お前は、ウィル・クデタか?」
「えっ・・・あ、はい。あなた達は一体・・・」
「俺は南雲ハジメだ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。」
「イルワさんが!?あの、ありがとう・・・ございます!!」
簡潔に自己紹介をし、イルワの名前を出すとその男はそう答えお礼を言ってきた。
どうやら俺達が探している人物であるウィル・クデタ本人に間違いなさそうであった。
それから、各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞くことにした。
その話の内容はこうである。
ウィル達は五日前、山道に入り十数体のブルタールの群れと遭遇し撤退をするも、ブルタールの群れに囲まれ仲間二人が犠牲となった。
必死で逃げ追い立てられながらも大きな川に出た所で新たな魔物に遭遇した。
その魔物の姿は巨大な漆黒の竜であり、後方からはブルタールの群れが迫ってきており逃げ場を失った。
竜の口から放たれるブレスから難を逃れるために滝壺に落ち、運良く見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していた。
洞窟内で飢えを凌いで隠れ続け、今日まで生き延びる事が出来たと言う。
話をしている内にウィルの目から涙が決壊した堤防から溢れる水の様に零れ落ちていくのであった。
「私は・・・最低な人間だ。仲間を見捨てて・・・自分だけ生き延びて・・・何の役にも立たなかったと言うのに・・・生き残った事に・・・喜んでいる自分がいる」
息がつまり苦しそうな声ですべてを話したウィルを悲痛そうな表情で見る優花達。
言葉一つ一つに後悔と苦悶がヒシヒシと伝わってくるのが分かる。
そんな様子を見兼ねた俺はウィルの胸倉を掴み上げた。
「生き残って・・・生きたいと願って何が悪い!!お前のその願望は人間として至って正常で間違ってなんかいやしない!!」
「だけど・・・私は・・・」
「死んでいった奴らの事を少しでも思うんなら・・・お前は生き続けろ!!死なせたことに後悔をしているんだったら、生きて続けて贖罪をしやがれ!!」
「生き・・・続ける」
「そうだ。泥水啜ろうが、雨風汗まみれになろうとも生き続けろ!!少なくとも・・・お前には帰りを待つ人達がいるんだろう」
「それは・・・・」
「お前の生存と帰りを待っている人や家族がいるんなら、そいつ等の為にも生きて帰るのがお前の役割だ」
そう言うと俺はウィルを離すと自分に向かって「何やってんだよ俺は」と呟くのであった。
説教染みたことを他人に言うのは柄じゃないのだが、何となく言わないといけない気がした。
俺が居なくてもハジメが似たようなことを言うような気がするが、特にハジメからはウィルに対し何もなかった。
洞窟内を何とも言えない空気が漂ったが、一行は急いで下山をする事に決めた。
先生たちの目的である清水の姿は何処にもなかったが、ウィルが生存していただけでも儲けものである。
ブルタールの群れや漆黒の竜の存在が気になるが、万が一に遭遇した場合、優花達や畑山先生を守りながらの戦いになってしまう。
そうなる前に急いでこの山から撤退をする事にした。
だが、そうは事は上手く運ばないのが世の常である。
滝壺の洞窟から出た俺達を待っていた者がいた。
正確には人ではなく魔物であるが。
漆黒の鱗で全身を覆い、低い唸り声で「グゥルルルル」と上げ、翼を大きく広げた金色の瞳をした黒
所謂、ファンタジー系RPGではお馴染みのドラゴンである。
漆黒の鱗からは薄らと輝いて見え魔力を纏っていると同時に、我こそは空の王者であると言わんばかりに強さと威厳、美しさを感じさせる光を放っていた。
金の瞳が、空中より俺達を睥睨し目線があった優花達は完全に硬直し、ウィルに至っては頭を手で覆い委縮するのであった。
目の前の黒竜から感じる魔力や威圧感は、凄まじく奈落の魔物で例えるならば、オルクスの最深部にいたヒュドラには遠く及ばないかもしれないが、九十層クラスの魔物と同等の力を持っていると感じた。
そう考えればベヒモスなどチワワのような愛玩動物にすら思える。
その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けると同時に、頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けると、「キュゥワァアアア」と音を立ててそこに魔力を集束し始めた。
それを見たハジメと俺が「退避しろ!」とユエ達や優花達へ指示を出す。
ユエやシア、コハクはすぐさま行動に映れたが、優花達はそうはいかなかった。
実戦経験の少なさと竜と言う存在に威圧されすぐには動けなかった。
「チッィ!!」
ハジメは優花達やウィルの前に行くと、黒竜の間に割り込むと同時に宝物庫からあるアーティファクトを取り出した。
二メートル程の柩型の大盾を左腕を突き出して接続し、魔力を流して大盾の下部から杭を出すと地面に叩き付けるように突き刺した。
直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれ、轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らし大盾の周囲の地面を融解させていく。
ハジメが必死にブレスの圧力に抗うものの、完全に押されているのが見えた。
俺はハジメの後ろに着くと、背中を支えるように盾を握りその場に踏ん張った。
「クソがあぁぁぁぁ!!」
「ぐぅおぉおおお!!」
固定のために地面に差し込んだ杭がブレスの圧力に押し負けそうになるも、大盾の表面を徐々に融解させていく。
ブレスの威力はすさまじく、周囲にあった川の水は熱波で蒸発し、川原の土や石は衝撃で吹き飛びひどい有様である。
このままでは何時しか押し呑まれるかと思ったときであった。
「『禍天』っ!!」
「うらああああああああああ!!!」
黒龍の左右に分かれたユエとシアの攻撃でブレスの威力が弱まった。
ブレスによる攻撃は確かに強力ではあるがその分、攻撃中は無防備になる為そこを狙ったのである。
ユエの放つ重力魔法から作り出された渦巻く重力球を黒竜の背中に叩き付け動きを封じ、動けなくなった所にドリュッケンを持ったシアが頭部に叩き付けると言う作戦だ。
シアの必殺とも言える一撃が決まり、その衝撃で轟音と共に地面が放射状に弾け飛び、爆撃でも受けたようにクレーターが出来上がるのだ。
これで倒れてくれればよかったのだが、そうはいかなかった。
「グルァアアアアア!!!!!」
黒竜の咆哮と共に起き上がり、ユエ目掛けて火炎弾が豪速で迫った。
咄嗟に回避しようにも数発喰らったユエは地面に倒れこむ。
重力魔法の拘束が解け、先程のお返しと言わんばかりに体を横に高速で一回転させ、シアに長い尾を叩きつけたのだ。
間一髪、シアはドリュッケンを盾にして衝撃を防ぐも、木々の向こう側へと吹き飛ばされていくのであった。
「っ野郎!!」
すぐさまハジメがドンナー・シュラークを抜きざまに発砲するも、竜の鎧は予想以上に固く何事も無いように弾き返す。
俺も攻勢に入ろうとするも黒龍の攻撃が激しく迂闊に近寄る事すらできない。
どうするか手をこまねいていた時であった。
黒竜の頭部に目掛けて蒼い炎を纏った式神が放たれ爆発した。
その攻撃に怯んだのか体制を若干崩しつつも攻撃のあった方へと目を向ける黒竜であった。
ユエを介抱し優花達の守りに徹していたコハクの攻撃であった。
すると、回復したユエに優花達の守りを任せたコハクは、ゆっくりと黒竜へ向け歩きだした。
「・・・まさか此処でお前と会うとは思わなかったぞ」
口振りからしてコハクはこの黒竜の事を知っているように思えた。
するとコハクは、俺とハジメに対しこう言い放った。
「コイツの相手は私がしよう。お前たちは下がっていろ」
「おいおい、無茶言うなよ。コハク一人でどうにかできる相手じゃないだろうが!!」
「心配は無用だ。この竜には聞きたい事があるのでな。殺しはせん」
「生け捕ろうってのかよ?そんな余裕なんてないぞ」
「まあ見ていろ。丁度良い機会だ、私と言う存在が何たるか其処で見ていろ」
コハクが不敵の笑みを浮かべるとそう言い、俺とハジメは渋々ながら後退するのであった。
念の為いつでも援護が出来る位置に立ち様子を見る事にした。
すると黒竜は何故かコハクに攻撃をするどころか、翼をはためかせながら上空で滞空するのであった。
俺はその光景を見て黒竜もまたコハクの存在に警戒しているようにも見えた。
一触即発とも言える空気を漂わせる中、俺はある事を思い出した。
それは、まだコハクと出会った頃に聞いた話である。
コハクは500年前にお姉さんと共に『竜人族』と言う種族と縁があり、色々と世話になったと言う話だ。
俺はその話を思い出し、コハクが何をしようとするのか察する事が出来た。
「(・・・コハクはこの黒竜の事を知っているのか?)」
そう思っていると、黒竜と対峙したコハクは振袖から白い狐のお面を取り出すと、指先から出す蒼炎でお面を燃やすのであった。
それと同時に、辺り一面が桜吹雪で覆われるのであった。
それは黒竜だけでなく、ユエや優花達のいる所まで覆われる程である。
思わず左手で視界を防ぐように覆い目を閉じるのであったが、目を開いた瞬間、驚くべき光景が目に映った。
桜吹雪が収まったかと思ったら、其処には巨大な白い獣の姿が大地に立っていた。
体長は十メートル程あり、雪のように白く美しい毛並みと九本の尾、力と強さを象徴するかのように目元には赤い隈取をした巨大な狐の獣がいた。
その姿こそ、九尾の白狐たるコハクの真の姿だ。
「ワオォォォォォォンンンン!!!!」
九尾の白狐と化したコハクは、狼か犬が雄叫びでもあげるかのような声と共に空に舞う黒竜に対し咆哮するのであった。
コハクと出逢った当初に見た姿に俺は再び感動を覚えた。
その姿を見たハジメ達は声を失ったかのように驚愕していた。
コハクの事はハジメ達には話していたのだが、いざ直面すると驚くのも無理はない。
最も一番驚いているのは、優花達や畑山先生であった。
横目で優花達を見ていると、故郷の日本では存在自体が伝説として語り告げられ、剣と魔法のファンタジーな異世界に存在するはずの無い九尾の狐の姿に心底驚くと同時に、巨大な白い狐の獣となったコハクを見て驚くどころかガクガクと震えだし恐怖に満ちた表情をしているウィルの姿が俺の目には映った。
無理も無い。
この世界では九尾の白狐の事は『厄災の獣』として知れ渡っているのだ。
そう思いながら、今はコハクの戦いを見守る事にした。
白い九尾の狐は空に滞空する黒竜を蒼く澄んだ瞳で睨み、漆黒の竜もまた大地に力強く立つ白狐を金色の瞳で見据えるのであった。
片や、日本三大妖怪の一角にも連なり、その名を轟かせる九尾の狐。
片やファンタジー系RPGではお馴染みでもあり定番とも言えるドラゴン。
今まさに異色の対決が始まろうとしていた。
睨み合う二匹の獣であったが、攻撃は概ね同時であった。
黒竜は先程俺達へ目掛けて放ったブレスを吐こうとするのに対し、白狐もまた口から収束された蒼炎を放った。
互いの炎がぶつかり合い空中で大爆発を起こし、その爆風が俺達へと襲った。
強大な力と力のぶつかり合いに吹き飛ばされそうになるも、何とか踏みとどまる事が出来た。
土煙で辺り一面大手何も見えないように思えたが、その中を態勢を低くした白狐が黒竜の喉元目掛けて飛びつくのである。
呻き声か泣き声か分からない雄叫びを上げる黒竜の喉元に、白狐の牙が食い込むのである。
背中から大地に叩き付けられ、白狐に押し倒される形でマウントを取られる黒竜。
だがしかし、曲がりにも竜である以上、やられっぱなしと言うわけではない。
逆にマウントを取り返そうと負けずに大地を転がりあい、相手の首を取ろうと反撃を行う。
その様子はまるで、ゴ〇ラ映画に登場する怪獣同士の激しい戦いか縄張り争いかにも見える。
二匹の獣同士で行われる戦いの余波で、周囲の木々や川辺の石が弾け飛び、大地に戦いの爪痕を深く残すのである。
白狐もまた黒竜の喉元に嚙みついたまま放そうとしない。
漸く放したかと思ったら、前足を黒竜の頭目掛けて叩き付けるかのように殴り始めるのであった。
宛ら、浮気と不倫がバレた夫に怒りのビンタを喰らわせる妻の様である。
黒竜もまた、距離を取ろうと長い前足で腹を蹴ろうとするも、それを察知した白狐が寸での所でバックステップするかのように回避し、黒竜の前足が空を蹴るのであった。
これと言って無傷に近い白狐に対し、満身創痍手前となっている黒竜である。
黒竜の翼は折れ最早飛ぶことすら叶わず、ハジメのドンナー・シュラークですら傷が付かなかった強固な鎧は砕け罅が入り、大地に膝をついた。
そんな事などお構いなしに白狐は止めを刺す体制に移った。
九本の尻尾の先端に蒼く燃える炎が鬼火の様に灯り始め、目元にも蒼炎を滾らせ始めた。
「ワオォォォォォォン!!!!」
雄叫びと同時に、九本の尾から黒竜へ目掛けて無数とも言える火球を放つのであった。
回避することすらままならぬ黒竜は次々とその身に蒼炎の火球を浴びせられるのであった。
「グゥガァアアアア!!!」
白狐が放つ蒼い火球の弾幕とも言える絨毯爆撃の直撃を浴びせられた黒竜は雄叫びと共に大地に平伏せるのであった。
相手が倒れ意識が失ったのを確認した白狐は、黒竜の首元を咥えると仕留めた獲物を飼い主の元へ持ち帰ろうとする猟犬の如く俺達の目の前へ引き摺って来るのであった。
あれだけの攻撃を受けても黒龍は奇跡的にも生きていた。
すると、白狐が突如として再び桜吹雪に包まれるのであった。
桜吹雪が収まると、其処には普段から見慣れた姿をしたコハクの姿があった。
俺はコハクの活躍を労うべく声を掛ける事にした。
「お疲れコハク。さっきのは凄かったな」
「それ程でもない。まあ久しぶりにあの姿になって戦うのは悪くない物だ」
「だとしてもだ。普段のコハクも良いが白狐の姿もカッコ良かったぞ」
「そうか・・・・竜也がそう言うなら、獣化した甲斐があったと言うものだ」
俺から称賛の声を受け何処と無く嬉しそうな表情を取るコハクであった。
コハクの戦い振りを見ていたハジメ達からも同じような言葉を掛けられるのであった。
「・・・竜也から話を聞いてはいたが、改めて九尾の狐って凄いもんだな」
「コハク凄く強かった・・・」
「突然コハクさんが大きな狐さんに変身したのは驚きましたけど、凄く綺麗ですごかったです!」
「むぅ・・・その・・・あまり褒めるな。照れくさいだろうが・・・」
ユエやシアからの思わぬ称賛に思わず頬を赤くして照れ隠しをするコハクであった。
そんなやり取りをしていると、一部始終を見ていた優花達や畑山先生が恐る恐ると言った感じで寄って来るのであった。
「(まあ、あんな戦いを見たんだ。無理も無いか)」
優花達と畑山先生は戦いの最中、蚊帳の外とも言える状態ではあったのだが、大方どういうことなのか質問をするためなのは予想が付く。
ウィルに至ってはコハクの姿を見て完全に怯えている仕草であった。
取り合えず未だ意識を失って眠っている黒竜を尻目にコハクの事を説明するのであった。
納得してもらえるかどうかは分からないが、話せる範囲内で話す事にするのであった。
「篠崎君・・・その、コハクさんは一体何者なんですか?先程の大きな狐の姿と言いアレは一体・・・・」
「・・・コハクは見ての通り、この世界の住民でも無ければ亜人族でも無い。強いて言うならば九尾の白狐で、俺達がこの世界に来る500年前の日本からエヒトによって無理やり連れてこられた存在だ」
「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」
そこからは、コハクに関する事を話しはじめた。
コハクは元々古き時代より日本に住む九尾の狐であり、年齢は不明だが平安時代から生きていることを考えれば1000年近く又はそれ以上生きている存在である。
九尾の狐である玉藻の前の仲間と誤認され人間達によって迫害と差別を受け住む場所を追われるだけでなく命も狙われていた。
先程巨大化した狐の姿が本来の姿なのだが、人の姿の方が勝手が良いのと魔力の消費が少ないからだそうだ。
唯一の身内である姉のセキと共に人目を離れた山奥で平穏に暮らしていたのだが、突如としてこの世界トータスへと召喚される。
召喚された矢先、この世界の人間達から世界を侵略してきた敵と認知され、『厄災の獣』と呼ばれるようになりこの世界の人間族からも迫害と偏見を受けるのであった。
幸い、コハク達の事を受け入れてくれたある種族によって保護され安住の地を得るも、その種族が人間族によって神敵と認定され再び住処を失う。
世話になったその種族へ恩を返すべく、戦うも謎の存在によって体の自由を奪われ奈落の底へと堕とされる。
それから500年が経ち、オルクスでの実践訓練で奈落に堕ちた俺と出会い、長きに渡る呪縛を俺が解き行動を共にするようになった。
「・・・・とまあ、こんな感じだな」
大まかではあるが優花達や畑山先生に分かりやすくコハクの事を伝えるのであった。
当の本人?獣であるコハクに至っては、青色の式神を使い黒竜の頭部に何やら行っているようであった。
説明を終え静まり返る一同に踵を変え、俺は一旦コハクの元へと向かった。
何をしているのかを尋ねると、この黒竜を調べてわかった事があるそうだ。
なんでも、この黒竜には洗脳や暗示と言った闇系統の魔法が多用されており、解除するには時間が掛かるそうだ。
どうした物かと考えていると、ハジメが俺に良い考えがあると言い宝物庫からある物を出すのであった。
ハジメが取り出したのは、パイルバンカー用の杭であった。
技能の一つである『豪腕』を使い左手で掴むと、肩に担いで黒竜の尻尾の付け根の前に陣取るとこう言った。
「知ってるか?『竜の尻を蹴り飛ばす』って諺を」
この時俺は、黒竜の尻にケツバットでもするのかと思っていたのだが、予想は斜め上を行くのであった。
ハジメは、槍投げの選手のような構えを取るのであった。
この時その場にいた全員がハジメがしようとする事を察した。
それに気が付いた俺とコハクが止めようとするも遅かった。
ハジメが手にしたパイルバンカーの杭は勢い良く黒竜の尻の部分に突き刺さるのであった。
言いたくはないが、ケツバットもといケツパイルである。
ズブリと音を立てて勢いよく突き刺さったその瞬間、黒竜がくわっと目を開けた。
『ファッ!?アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!』
黒竜は女の声で悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。
不幸中の幸いか、尻に刺さった杭は先端部分で済んでおり奥までは至っていない。
『お尻がぁ~!!妾のお尻がぁ~!!ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~!!!!』
黒竜の発したと思われる悲しげで、切なげな悲鳴に驚きつつも刺した張本人であるハジメはドン引き状態であった。
いち早く正気を取り戻したコハクがハジメに早く杭を抜けと怒鳴る。
恐る恐るではあるが、突き刺した杭をゆっくりと引き抜くハジメであった。
その光景を見ていた一同、主に女性陣は自分の尻を抑えると青ざめて完全に硬直していた。
杭を完全に抜き取るのを確認したコハクは、黒竜の前に立ち話し掛けるのであった。
「はあ・・・・・奇妙な形で再会となったが・・・随分と久しいな『ティオ』」
『その声とその姿・・・お主が何故此処に!?』
やはり俺の予想していた通りコハクとこの黒竜は何かしやら繋がりがあるようだ。
「取り合えずまずはお前の『竜化』を解いてはどうだ?話はそれからだ。」
『うむ・・・そうするのじゃ』
その黒竜は直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさを小さくしていき人位の大きさになると魔力を霧散した。
「ふぅ・・・まだお尻に違和感があるが、危うく新世界の扉が開くところじゃった・・・・」
黒き魔力が晴れたその場には二十代前半の女性が両足を崩し、片手でお尻を摩るように座り込んでいた。
身長は170センチほどあり、腰まである長く艶やかな黒髪と薄らと紅く染まった頬、乱れて肩口まで垂れ下がった衣服で、そこから覗くように自己主張の激しい大変ご立派な胸部装甲の持ち主であり、コハク同様に胸元が大きく開いた着物姿の艶かしい美女であった。
これが俺にとってこの世界に来て初めて見る『竜人族』と呼ばれる種族との最初の出会いであった。
次回予告『竜人族 ティオ・クラルス』
今回のバトルシーンでコハクが巨大な白狐になるシーンですが、アズールレーンのアニメ第一話であった場面の再現です。
詳しく知りたい方はアズールレーンTHE ANIMATIONをご視聴ください。