ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強 作:ゴルゴム・オルタ
この世界では500年前に絶滅されたとされる伝説の種族である『竜人族』との会合を果たした俺達は目の前にいる黒竜の姿から黒髪の女性へと変身した彼女と話をするのであった。
「色々と面倒を掛けて本当に申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス、竜人族クラルス族の一人じゃ」
ティオ・クラルスと名乗る彼女はそう簡単に自己紹介をした。
コハクによるとは大昔にであった種族として縁があり、竜人族の代名詞たる固有魔法『竜化』で竜へと変身すると俺は聞いている。
竜に変身する事が出来ると聞いて俺は、天使と竜の輪舞するアニメを思い出していた。
ティオと面識があるようなので色々と事情聴取をするがてら話をする事にした。
最初に話を切り出し始めたのはハジメであった。
「500年も大昔に滅んだはずの竜人族が何故こんな所にいる?一介の冒険者なんぞ襲っていた理由も聞かせてもらおうか」
「うむ、それに関しては申し訳ない。だが、お主等を襲ったのは妾の本意ではない。あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられ、操られておったのじゃ」
「操られていた?どういうことだ?」
「順番に話す。それでよいか?」
ティオはこれまで自身に起こった事と、一部始終話し始めるのであった。
彼女はある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出してこの地へとやってきた。
その目的とは異世界からの来訪者の調査である。
竜人族に魔力感知に優れた者がいて、数ヶ月前に大魔力の放出と共に複数の何かがこの世界にやって来たことを感知した。
2年前にも小規模ではあるが似たようなことを探知したのだが、その時は放任する事になったらしい。
今回の未知の来訪者が何者であるのかを探る為に一族で話し合いをした所、ティオが調査へと志願するのであった。
その調査の目的で集落から出てきたティオは山脈を越えた後、人の姿へとなり身分を秘匿して情報収集に励む予定であった。
だがここでティオに不幸が降りかかった。
人里から離れた山脈で竜の姿のまま眠っていたところ、一人の黒いローブ姿の男が現れた。
「非常に恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいじゃろう。」
その謎の男によってティオはほぼ丸1日かけて間断なく魔法を行使された。
丸1日かけてまで闇系統の魔法をかける謎の男が凄いのか、屈したとはいえ耐えきったティオが凄いのかよく分からない。
魔物を操ると言えば魔人族を考えるのだが、それはティオによって否定された。
その黒いローブの男は、黒髪黒目の人間族でまだ少年くらいの年齢だそうだ。
謎の男の闇系統魔法である洗脳を受けたティオは、魔物の洗脳を手伝わされていたそうだ。
理由は不明だが、その男は「自分こそが勇者にふさわしい」等と言い、随分と勇者に対して妬みがあるようにも見えた。
畑山先生は、脳裏にある人物が浮かんだのか困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をしていた。
その男は、魔物を集めて大軍団を作り上げている最中らしく、目撃者は消せという命令を受けていた。
運が悪いのか間が悪かったのか、調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、襲ったとの事である。
そして俺達と出会い、九尾の狐と化したコハクによってボコられた挙句意識を失い、ハジメのケツパイルという尻に名状し難い衝撃と刺激が決め手になり、によって正気を取り戻し今に至るそうだ。
「・・・・ふざけるな」
事情を説明し終えたティオに、先程から黙っていたウィルが激情を必死に押し殺したような震える声を発する。
「・・・・操られていたから?皆を殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!今の話だって、本当かどうかなんて・・・死にたくないがためにでっちあげたはなしなんだろう!!」
「今話したのはすべて真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」
「だからって!!」
尚も言い募ろうとするウィルにユエとコハクが口を挟むのであった。
「・・・・きっと、嘘じゃない。」
「なっ・・・何を根拠に?」
「私は吸血鬼族の王族の生き残り。高潔で清廉な竜人族のあり方は王族の見本として三百年前に聞かされた」
「ティオは亡き竜人族の長であるハルガ殿と妻であるオルナ殿の娘だ。少なくともこの世界において人間族よりも遥かに信頼における種族だ。」
「・・・・・・」
「何よりも、嘘つきがどんな目をしているのかは私はよく知っている」
「お前達人間族の醜い所は、今まで飽きる程見てきたからな」
そう言われたウィルは言葉を詰まらせた意気消沈した。
とは言え恨み辛みが消えたわけではなく、今此処で確実に殺すべきだと強く主張するのであった。
それを見たティオは臆することなくこう言い放った。
「操られていたとはいえ罪なき人の命を奪ったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受ける覚悟だ。だが、今しばらく猶予をくれまいか?」
どういう事だと俺が聞くとティオはこう答えた。
自身を洗脳し操った者は魔物の大軍勢を作り、町を襲う気であると語った。
魔物の大軍勢が町を襲うと聞いて優花達が騒ぎ始めた。
竜人族は大陸の運命に干渉しないと言う掟があるのだが、今回の件はティオにも責任があるらしく、その男が齎す危険な脅威を放置する事など出来る筈も無く、この場は見逃してくれと懇願してくるのであった。
その話を聞いたハジメとコハクは早速、魔物の軍勢がいるとされる位置へ式神を飛ばし探索を行うのであった。
ティオが見た限りでは凡そ五千位と聞き一同は驚愕するのである。
探索をする中で、ハジメがコハクの式神から送られてきた映像を見て、小さく呟くのであった。
「おいおい、マジか。五千どころか桁が一つ追加される規模だぞ。」
方角は間違いなくウルの町がある方向で、二日どころか一日あれば町に到達する距離まで迫っている。
事態の深刻さに畑山先生は混乱しつつも、するべきことを整理するのであった。
戦闘経験がほとんどない優花達、駆け出しのウィル、魔力が枯渇し動けないティオを抱えたままでは此方が完全に不利だ。
探索を終えたハジメはすぐさま撤収準備に取り掛かるのであった。
皆が動揺している中、ウィルが呟くように尋ねた。
「あの・・・コハク殿なら何とか出来き・・・ひっ!!」
言葉を遮る形でウィルの喉元へコハクが刀を抜刀し、鋭く突き付けるのであった。
その瞳は氷の様に冷ややかで見る者全てを凍り付かせんとばかりに鋭い眼差しであった。
普段の青く澄んだ瞳に若干どころか静かに怒りが籠った目でウィルを見下ろしていた。
コハクの気迫と怒気に押されたのかウィルは完全に腰を抜かし尻餅をついていた。
「小僧・・・貴様、人間の分際で九尾の狐たるこの私を利用する魂胆か?」
「えっと・・・あの・・・コハク殿ならなんとか・・・・」
「黙れ。貴様如きが私に口を挟むなど甚だ図々しい。身の程を弁えろ」
「ひいぃぃぃぃぃ!!!!」
コハクは鋭く低いトーンの口調でウィルに言い放つと黙らせるのであった。
これには無理も無いと俺は思った。
散々厄介者扱いし命を奪おうとしてきた人間達から、力があると言う理由だけで戦わせられる等、コハクからすれば我慢ならないからだ。
本当だったらこの場でウィルの首が跳ね飛ばされても文句は言えないのだが、保護対象であるため手を出さない辺りコハクが理性的なのは明白だ。
すると今度は畑山先生がコハクに懇願し始めるのであった。
「あのコハクさん、少しよろしいでしょうか?」
「なんだ小動物。お前もこの男のように私を利用する考えか?」
「小動物!?・・・いいえ、違います。貴方にお願いをしたいんです」
「ほう・・・願いとは言うがお前は何を対価に支払うつもりだ?血肉か?それとも魂魄か?」
「それは・・・・・」
「貴様の魂魄を私へ差し出すのであれば考えてやらんことも無いぞ。何せ人間の魂魄は魔物と比べて大変美味であるからな。久方振りに喰ろうてやりたい気分だ」
畑山先生を見下ろすように視線を向け、そう言うとコハクはくっくっくっと不敵に笑い始めるのであった。
その光景に怯える優花達と畑山先生ではあるが、様子を見ていたティオが助け舟を出すのであった。
「コホンッ。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ先生殿よ。妾も魔力が枯渇しているが一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの。どうじゃろうかのうコハク殿よ?」
「・・・・・・・ふん」
コハクは怒気を鎮めたのか、普段の物静かな雰囲気へと戻り刀を収めると、優花達に背を向け踵を返し、ティオの元へと歩き始めた。
未だ動けないティオの元へ行くと、片膝をついて目線を合わせると自身の振袖に手を入れた。
怪訝な顔で見るティオに対し、コハクはある物を出すのであった。
コハクの手にしているのは、艶のある漆黒の鞘に金色の竜の模様が描かれた鞘に収まった小太刀と、紅く華やかで美しい花をモチーフにした簪が手に握られていた。
それを見たティオは目を開け驚愕するのであった。
「何故・・・お主がそれを!!」
「これは、500年前の戦いの際、亡きハルガ殿とオルナ殿から私に託された唯一の遺品だ」
「父上殿と母上殿の・・・・」
コハクの話によるとこうである。
その小太刀と簪は、当時の竜人族の王であったティオの両親である、ハルガ・クラルス王と妻のオルナ・クラルス殿からコハクに託された遺品であると言う。
竜人族が神敵と人間族から認定された500年前、異世界から連れてこられるばかりか、異種族でありながらも自身らを迎え受け入れてくれたハルガ殿とオルナ殿に恩を返すべく、人間族との戦いに加勢しようとしたコハク達であった。
だが、その申し出は却下され代わりにこの小太刀と簪を託されたのであった。
コハク達に託されたハルガ王の最後の願いは、それを娘であるティオへ届けて欲しいとの事であった。
そして、ティオを含む残った竜人族を隠れ里へ避難させるべく、殿を頼まれるコハク達であった。
本来であれば世話になった者への恩を返すべく共に戦う覚悟をしていたコハク達であったが、国王直々の願いを無碍にするわけにもいかず、承諾するのであった。
ティオ達を安全な場所へと逃がした後、隠れ里へ合流する予定であったが、謎の存在によってそれが叶う事は出来なかった。
そして500年の月日が流れ、漸くそれが叶う時が来た。
「ハルガ殿とオルナ殿は、竜人族を治める王族として最後まで戦われた。」
「父上殿・・・・母上殿・・・・」
両親の遺品を手にしたティオはそれを胸に強く抱きしめるのであった
「竜人族の王に相応しく高潔で清廉、勇敢な最期であった。」
「シロ殿よ。・・・・・・心よりの感謝を」
「礼を言うのは私の方だ。私達のような存在を迎え入れてくれたハルガ殿とオルナ殿には感謝してもしきれん。それと、今の私の名前はシロではなくコハクだ」
「そうであったのか?それはそうと先程から気になってはおったが、シロ・・・ではなく、コハク殿の傍に居るにいるその少年は一体?」
ティオの目線の先が俺であるのが分かると、簡単に自己紹介を済ませるのであった。
「俺の名前は篠崎竜也。コハクの家族だ」
「竜也は私を家族として迎え入れてだけでなく、コハクと言う名前まで授けてくれた男だ」
「なんと!?コハク殿よ。雰囲気を察する所、よもやその少年はコハク殿の伴侶では・・・・」
「ああそうだ。詳しくは後で話すが、竜也が私の『夫』だ」
コハクの言う『夫』と言う部分がやけに強く強調して、視線の先にいる優花に目掛けて言っている気がするのは気のせいか?
『夫』と言う単語を強く主張しドヤ顔をするコハクと、悔し気にぐぬぬと憤る優花が俺の目に映った。
このまま話が進めば修羅場が待っているような気がするため話をいったん切り上げる事になった。
ハジメが畑山先生を説得し、魔物の対策を練る為に一旦ウルの町へ帰還する事を告げた。
ウルの町までの帰り道、動けないティオを誰が背負って運ぶのかが問題になった。
男子陣の相川と仁村が火花を散らす中、玉井が呆れ果てそれを見ていた女子陣が冷ややかな目で見ているのである。
結局の所、ティオの希望でハジメが運ぶことになった。
洗脳を解くとは言え、女性の尻に太くて硬い杭を打ち込んだ事に対する罪悪感もあり渋々と言った感じでティオを背負い下山するハジメであった。
車とバイクで移動できる所まで来た俺達は、シュタイフとブリーゼを出し急ぎウルの町に戻るのであった。
帰り道同様、俺と優花はバイクではあるが行きと比べ猛スピードとも言っても過言ではない速度で疾走させていた。
事態は一刻を争う状況であり、シュタイフとブリーゼの整地機能が追いつかない程にまで不整地を爆走させるのである。
ウルの町に到着した頃には明朝とも言える時間帯であった。
ハジメが運転するブリーゼの爆走振りに完全にグロッキーとなり青い顔になるクラスメイトと畑山先生であった。
少し休憩を挟み何とか動ける状態になった所で、町長のいる役場へ足を運ぶのであった。
緊急会議として町の役場に集まった町長を含むギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達は畑山先生から告げられた話に騒然としていた。
俺とハジメは現場を見てきた冒険者の代表としてその会議に出席していた。
明日にはこの町に魔物の大軍勢が押し寄せてくると言う話に誰もが耳を疑った。
普通ならば狂人の戯言と言われ聞く耳など持たないのだが、『豊穣の女神』と呼ばれる畑山先生の言葉と魔人族が魔物を操るという公然の事実を無下にする事など出来る筈も無かった。
話をする中で、ティオとコハクの正体は伏せておくことにした。
竜人族の存在が公になるのは好ましくないのと、厄災の獣が復活を果たしたとなれば大混乱は免れないからだ。
竜人族と厄災の獣の存在は聖教教会の中でも禁忌とされる物であり、混乱に拍車が掛かるだけでなく最悪、討伐隊が組まれたりすれば面倒極まりない。
なので、ウィル自身にも黙ってもらう事にした。
コハクの恐ろしさは山脈で十分知ったのか二つ返事で承諾してくれた。
問題は、魔物の大軍勢をどうするかであった。
このまま行けばウルの町が滅亡するのは避けられない。
違う町へ避難するか、町を守るために徹底抗戦するかで意見が割れた。
女子供は逃がすとしても、男手で戦うと言っても町の住民は素人同然の非戦闘員だ。
畑山先生の護衛である神殿騎士もいるとはいえ数万の軍勢では焼け石に水だ。
ウルの町は見ての通り観光地であり、町の防衛など高が知れている。
正直言って手詰まりと言ってもいい状況だ。
最悪、山中でも言っていた通りコハクに力を貸して貰うのもあるが、代償として畑山先生の魂魄を差し出すのが条件となりこれは却下である。
どうすればいいのか考えている中、畑山先生はハジメと俺にこう言うのであった。
「南雲君、篠崎君。君達なら魔物の大群をどうにかできますか?」
その一言に様子を伺っている町の重鎮達が一斉に騒めくのであった。
畑山先生は真っ直ぐな眼差しで見上げ、どこか確信しているような声で俺達を見てきた。
その言葉に対し、俺とハジメは沈黙を貫いた。
確かに数万の魔物の軍勢を殲滅できるかと言われれば、出来ないとは言えない。
だが、もしも大勢の人たちの目の前で力を誇示したら他者に利用されるのは明白だ。
オマケに畑山先生の護衛である神殿騎士達の目の前で戦うとなれば手の内を晒す事にもなる。
この地で戦ったことによる結果次第では、これから先に進む旅の障害になるのは目に見えている。
考え込む俺に対し、畑山先生の問いにハジメはこう答えた。
「先生、幾等何でも無理に決まっているだろ?とてもじゃないが・・・・」
「南雲君、山から下りる際に平原なら兎も角、山中で殲滅戦なんてやりにくいと言ってましたよね?それはつまり南雲君達なら何とかできるですよね?」
「・・・よく覚えていたんだな先生」
話を聞くに、帰りの車中でハジメが先生に対しそう答えていたらしい。
周囲の人間が見守る中、俺とハジメは回答に困った。
俺達の目的は、ウィルの保護であり町の防衛は依頼の対象外である。
この地で戦う事はデメリット以外何でもないのが普通の考えだ。
だが、この町で優花達と再会したことでその考えが少し変わった。
ウィルが生存している時点で依頼はほぼ完遂されているのも同然である。
万が一、ここでウィルをフューレンへ連れて帰ったとしても、ウルの町の住民を見捨てて逃げた者として罵られるのは間違いない。
ハジメは畑山先生に質問を交えながらこう答えた。
「先生は生徒の事が最優先じゃなかったのか?」
「それは・・・・」
「俺にはこの町を守る理由が無いし、目的はウィルを連れて帰る事であって魔物の大軍勢と戦う事じゃない。先生が生徒に戦えなんて命じるなんてまるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」
「それは重々分かっています。ですが、このままだとこの町が壊されるだけでなく多くの命が失われます!」
「その為だったら、戦う意思も無い奴に見ず知らずの人々のために戦えと言うのか先生は?」
「確かに南雲君の言う通りかもしれません。ですがこれだけは知ってください。」
畑山先生はハジメと目線を合わせるとこう言った。
「この世界で生きている人達と出会い、言葉を交わして笑顔を向け合った事で知る事が出来ました。この世界の人達は私たちと同じ生きている人間です。」
「・・・・・・」
「そんな人達を見捨てる事なんてしたくない。出来る範囲で守りたいんです。ですから、力を貸してください!」
町の重鎮達や生徒達も、愛子の言葉を静かに聞いている。
俺もその一人である。
ハジメはどう考えているか分からないが、気持ちが揺れ動いているのは見えた。
畑山先生の話はまだ続いていく。
ハジメに対して「これから先ずっと大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか?」と言う質問を投げた。
それを聞いたハジメは目を開き内心動揺しているのが分かる。
先生はその生き方はとても寂しい事であり、大切な人達に幸せをもたらさない物だと。
本当に幸せを望むと言うのならば他者を思い遣る気持ちを捨てないでほしいと懇願された。
それを聞いたハジメは、少しばかり目を閉じ考え込むと、先生にこう返してきた。
「確かに先生の言う通りかもしれない。だが、俺の価値観は簡単に変わらないし変える気も無い」
「南雲君・・・・」
「最も、俺一人だったら此処を見捨てて何処かに行くのも考えていたかもしれないが、そう思うのは間違いだと言うのが最近になって分かった気がするんだよ」
「えっ・・・・それって」
「だがその前に聞きたい事があるんだがいいか先生?」
「はい、なんでしょうか?」
「先生は、この先何があっても俺の・・・俺達の先生か?」
「当然です!!」
これから先も自身の味方であり続けるのかと問うハジメに対し、一瞬の躊躇いもなく答える畑山先生であった。
その言葉に偽りがないか確かめたハジメは、踵を返し出入口へと向かった。
畑山先生が制止しようとしたところで、ハジメは首だけ向けてこう言った。
「流石に数万の相手に何も準備しないままって訳にはいかないだろう。町の住民の避難と話し合いはそっちでやってくれ。」
「南雲君!!」
ハジメの返答に顔を輝かせる畑山先生。
終始見守っていた俺もまたハジメの後ろへ続き行動を開始する事にした。
町の広場に集まった俺達は話し合いを行い、それぞれに役割を分担する事になった。
ハジメは魔物がやって来ると思われる予想侵攻ルートである北の山脈地帯側の平地に外壁を錬成させる。
コハクは式神と連動させてターレットレンズのアーティファクトで魔物の動向を監視する。
残った俺とユエ、シアとティオはハジメのサポートをしつつ、炊事を行う。
これから大規模な戦いが予想される為、腹が減っては戦が出来ぬと言うのもあり炊事を炊くのである。
力作業をするという事もあり、町の男手はハジメの手伝いをすると言うで体力回復に打ってつけの料理を作る事になった。
行動を開始する前に俺はハジメにある事を聞くのであった。
「なあ、ハジメ少しいいか?」
「なんだ?」
「お前の事だから、てっきりウィルを連れてフューレンにでも行くかと思ったんだが、先生の話を素直に聞くなんて意外だったな」
「なんていうか・・・まあ、俺の知る限り一番の『先生』からの忠告もあってな、ユエやシアの幸せにつながるなら今回は取り敢えず、奴らをぶちのめすのも悪くないかと思ってな」
「それだけって訳には見えないけどな」
「まあ、そう思えるようになったのは竜也のおかげでもあるけどな」
「俺の?まあいいさ。最悪の場合俺とコハクでやり合う事になるんだが、ハジメがやる気を出すなら大歓迎だ」
万が一、ハジメが町の防衛を拒否した場合の事も考慮していたのだが、杞憂に終わったようだ。
俺が3万、コハクが2万と言った感じの割合でやるつもりだったのだが、それを聞いたコハクが私が3万で竜也が2万と言ってきた。
それを聞いていたハジメがどんな割合だよと答えてきた。
俺としてはこの程度の数など問題ないと答え、付け足すように師匠の元で修行していた時に戦ってきた魔獣や亡霊の群れに比べれば楽勝だと自信気に答えた。
お前が修行していたところってどんだけだよと言い若干引くハジメではあったが、気を取り直して作業に入るのであった。
ハジメの練成で作り出すのは唯の壁ではなく、外壁とも言える代物である。
とは言えハジメの出来る錬成の範囲は半径4メートル位が限界なのもありそこまでは高くはない。
外壁を作り終えたハジメは、折角だからあれの実戦テストにもなるかと言うと、宝物庫から分解状態になって出来たある物を組み立てようとしていた。
完成したらお披露目をするからそれまでは秘密だと言い、壁の外側へと出るのであった。
何か知っているのかと思い俺はユエに聞くことにした。
すると意外な答えが返ってきた。
「ハジメ、ブルックの町からフューレンに着くまで馬車で何かを作っていた。」
「何かってなんだ?」
「詳しくは分からなかったけど見た限り、ミレディの大迷宮にいたゴーレムみたいのだった。」
「ゴーレムだぁ?なんでまたそんなのを作ろうとしたんだハジメの奴」
「分からない。でもハジメに聞いたらミレディのゴーレムが甲冑を纏った騎士なら、俺が作るのは鉄の装甲を纏った騎兵だとか言ってた。」
「騎兵ねぇ・・・・外見はどんなのだ」
「頭と肩が丸くて目が3つあって、ハジメが使う銃みたいのを持ってた」
ユエから聞いた話を何となく頭の中でイメージしようと思ったが、それよりも俺達4人は自身のやるべきことを果たすためにある場所へと向かうことにした。
それは、町の漁業組合と呼ばれる場所であった。
ウルの町に来た際に、あちこちと見回った際に目が付いたものだ。
俺はそれを思い出し、此れから作る料理に必要なある魚がある事を期待しつつ足を運ぶのであった。
湖に面した町と言うのもあり、そこで採れる魚は淡水魚とも言える物である。
取れた魚を拝見していくと、目的の魚が見つかった。
組合の人に話を聞くと、その魚は雑魚扱いで食えたものでは無いと言うが、俺はそれを譲ってくれないかと交渉した。
案の定、組合の人もその魚の扱いには困っていたらしくタダ同然で入手する事が出来たのだった。
その魚を見たユエ達は怪訝そうに見るも、俺は気にすることなくその魚を生簀の中へと入れていった。
生簀に入れ終わった所で俺を探していた優花を含むクラスメイト達と合流する事になった。
何か手伝えることは無いかと言われ、俺は優花達に協力を頼み宿屋の厨房にその魚の入った生簀を運ぶのを手伝ってくれるのであった。
宿屋のオーナーさんには事前に話をしていたのもあり快く承諾してくれた。
「さてと、いっちょ始めるとするか!!」
俺は部屋に戻り宝物庫(試作品)からある服を取り出すと、普段の鎧姿から板前の着る調理衣と帽子、エプロンに着替えるのであった。
そしてと作業を開始する事にした。
次回予告『篠崎さんちの今日のご飯 その①』
次回は戦いの前のちょっとしたほのぼの回になる予定です。
タイトルは某漫画のオマージュとなります。
元居酒屋の息子である竜也が作ろうとしている料理が何なのかは次回明らかになりますのでお楽しみを。
機会があれば第2、第3弾とやっていく予定です。
皆様からのご感想を心よりお待ちしております。