ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強   作:ゴルゴム・オルタ

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今回も長くなったので誤字があればご指摘ください。

あんまり関係ないのですが、八重樫と白崎のコンビを見ていると、アズールレーンの高雄と愛宕を連想します。
私の気のせいでしょうか?

キャラ設定はまだ描きませんが、主人公のイメージCVは声優の中井和哉さんです。
脳内再生しながら読んでみてください。


オルクス大迷宮、そして・・・

メルド団長からオルクス大迷宮での実戦訓練を行うことを告げられた翌日、俺達はその準備に明け暮れていた。

これまでの訓練の成果を出すと意気込む者、訓練とはいえ実戦と知り緊張する者、それぞれの考えが渦巻く空気をクラスメイトの中に漂っていた。

クラスの中でもパーティとも言える物が作られ、それぞれに分かれていた。

 

天之河メンバーの通称勇者組。

何故か俺が筆頭の後方支援組だ。

確かに俺は、裏方で色々やっていたのは分かるが、後方支援組の筆頭は無いだろ。

命名したのがよりによって優花である。

前線で戦う勇者組に及ばない実力のメンバーは自然と後方支援組になったのである。

 

後方支援とはいえ、背後の守りを任された以上は仕事をこなさせてもらう。

俺自身の役割は、回復・支援役のクラスメイトの護衛、緊急時の前線への予備戦力扱いだ。

これは、勇者組の八重樫からの推薦もあり、そう言う事になった。

実際に俺と模擬戦を行い、双方の実力を知った八重樫が、天之河とメルド団長へ進言した物によるらしい。

 

俺自身のパーティはこれまで基本的に、優花と南雲なのだが、今回新たにメンバーが加わった。

優花の友人達である、菅原妙子(すがわらたえこ)、宮崎奈々(みやざきなな)、相川昇(あいかわ のぼる)、仁村明人(にむら あきと)、玉井淳史(たまい あつし)、清水幸利(しみず ゆきとし)だ。

後に、俺と南雲を除く愛ちゃん親衛隊の前身となるパーティメンバーだ。

これまで、特に接点もなく会話も碌にした事の無いクラスメイトだったが、今回の件を切欠に交流をする事になった。

 

折角なので親睦を深めるべく、城の調理場を借り、昨日再現に成功した故郷の料理をメンバーに振るうのであった。

俺は、前日作り一晩寝かせた温めた『肉じゃが』を、優花は『オニオンスープ』を作った。

個人的には、主食が白米で無く、パンなのがやや不満ではあるが、米の調達が困難なのもあり我慢した。

この世界での主食がパンなのもあり仕方ないと思うが、何時かは白米が主食の料理を出して見せると心に誓った。

 

俺が作った肉じゃがの材料は、この世界での牛肉・ジャガイモ・人参・玉ねぎを使用、調味料は醤油・砂糖、新たに調合と生成したみりん・かつおだしである。

本来なら技能を使わずとも調理できるのだが、此処は異世界である事を考慮し、惜しみなく料理したのでる。

 

優花の作るコンソメスープの材料は、玉ねぎ・パセリを使用、調味料にコンソメ、塩コショウ、バターを使い調理したものだ。

調味料のコンソメの開発にはやや時間が掛かったが、どうにか実を結び実用化に至った。

 

メンバーは、優花が料理を作るのは得意なのは理解していたが、俺が料理が出来ると知るに至っては、意外性と驚きの表情を隠せないものであった。

あいつ等、俺が料理できたのがそんなに意外だったか?

まあ、向こうでも優花以外大して話した事が無かったから仕方ないのだが。

優花の口添えもあり、いざ口にしてみれば驚愕と絶品の声が上がった。

余ほど嬉しかったのか、メンバーの中には、故郷の料理を口にし涙を出す者、一心不乱に食す者、美味しそうに頬張る者等、結果は上々であった。

 

周囲から見た俺は取っつきにくく、話し掛け難い存在だったのだが、料理という小さな切欠で、少しだけクラスメイトとの交流の道が開けたのであった。

会話を重ね、俺の実家が元居酒屋で和食が作るのが得意と知ったメンバーは、次々に好みの料理をリクエストするのであった。

以外にも、普段無口な清水ですらリクエストを言って、『鶏肉の唐揚げ』が好きだと言った。

材料と調味料が揃い次第、俺と優花は作るとメンバーに宣言するのであった。

その日の夕方、俺は畑山先生にある物を手渡した。

それは、この世界の食糧事情を俺なりに調べ、まとめ上げた書類だ。

先生も忙しいかもしれないが、時間があるときに見てくれとだけ俺は告げた。

 

 

出発前日の夜、俺は部屋で装備の確認と準備をしていた。

普段使う槍は部屋の壁に立てかけ、俺は何もない空間に指先に魔力を込め、とある文字を描くと、其処から本来の獲物を出すのであった。

その槍は、血のように赤く鮮やかに輝いており、槍の先端も万物を貫くように鋭く尖っていた。

この槍こそ、俺の相棒と言える本来の獲物だ。

普段使う槍もいいが、コイツの方が段違いで手に馴染む。

トータスに来てから出せるかどうか不安だったが、上手くいって何よりだ。

 

「師匠から授かったこの槍を使う事を無ければいいがな・・・」

 

明日向かうオルクス大迷宮は未知数ともいえる場所だ。

今使っている獲物でも十分対処できるが、万が一の時は使用するを躊躇わない覚悟だ。

俺は、再び指先に魔力を込めその槍を元在った所に仕舞うと同時に、ある物を出し手にするのだった。

 

それは昔、ある山に行った時に知り合った少女から貰った物だ。

その少女は今時珍しく、花の模様が描かれた赤い着物姿であった。

別れ際、俺に大切な人が出来たら渡してくれと言われ譲り受けるのであった。

 

「さてと、そろそろ寝る時間だが、少し行ってくるか」

 

俺はそれを手にして部屋を出た。

この世界に召喚されてからも変わらない俺の大切な人の部屋に向かった

部屋の前まで行き、ドアをノックすると中から声がした。

 

「だれ?」

「俺だ、少しいいか?」

 

ドアが開くと、其処には寝間着姿の幼馴染である優花が出てきた。

その姿に少しドキリとした。

 

「こんな時間にどうしたの竜也?」

「ああ、少し話がしたくてな、中に入っていいか?」

「うん、いいよ」

 

優花の許可も得て俺は部屋に入るのであった。

長い付き合いではあるが、部屋で二人っきりでいるのは結構久方振りである。

まあ、お互い年頃なのもあり其処ら辺はしっかり線引きをしている。

いざ、話を振ろうにもすごく緊張するものだ。

今の優花は寝間着姿であり、しかも純白のネグリジェで、部屋の窓から差し光る月の光もあり、神秘的な光景が目に入った。

その姿に魅入られそうになったが、頭を切り替え優花と目を合わすと、話に切り込んだ。

 

「実は、明日向かうオルクス大迷宮なんだが・・・」

「どうしたの?」

「前々から優花に渡そうと思っていた物があってな」

「えっ?それって一体・・・」

 

当の本人である優花は、少し驚いた顔で俺を見た。

俺は腰からそれを出すと、それを優花に渡した。

 

「これって・・・何?」

 

優花の手にしている者はお面であった。

頬に愛らしい花の模様が描かれており、可愛らしい顔をした白い狐のお面だ。

 

「これはな厄除の面って言ってな、災いを取り払うと言う意味が込められたお面だ」

 

これを渡したのには理由が幾つかある。

これから行く所には、恐らく危険性の高い場所だ。

下手したら命の危機に及びかねない所だ。

そんな場所に、優花に怪我なんてして欲しくないし、危険な目に合ってもらいたくもない。

気休めにしかならないのかもしれないが、優花には無事でいて欲しいという俺個人の祈りと願いを込めて彼女にこのお面を渡すことを決意した。

渡す機会は元居た世界でもあったのだが、結局出しそびれて、異世界に召喚されるという異常事態を皮切りに渡すことにした。

 

「このお面を渡すのは俺の一番大切な人って決めているんだ。それは・・・」

「それは・・・・」

「お前の事だ、優花」

「えっ・・・」

 

俺がこのお面を優花に渡す時に言うと決めていた事を伝えた。

クラスメイトの中で絶対に守ると決めている人物、それは優花だ。

昔からの幼馴染と言うだけでなく、向こうの世界にいた時から心に誓っている事だ。

俺の両親が亡くなってからも、親身に接してくれたのは優花とその両親だ。

今でも心に穴が開いている感覚が俺にはあるが、それでも彼女の作る料理は俺の体を温めてくれていた。

そんな大切な人である優花を、絶対に守り無事に家に帰すというのが、この世界に来た時から立てている俺の信条だ。

 

それを聞いていた優花は、俺から手渡されたお面を優しく、胸元に包むように抱きしめると、ほんのり赤くなった顔で、俺にこう言った。

 

「ありがとう、竜也。私の事、何時もそんなに見てくれてたんだね」

「当たり前だ。俺にとっての優花は身内も同然だからな」

「ううん、それでもだよ。このお面、大切にするね」

「まあ、こっちに来て色々あったけど、これからもよろしくな優花」

「こっちこそよろしくね竜也」

 

俺と優花はお互いの顔を見つめ合うのであった。

俺は優花にお面を渡し終えると、自分の部屋に戻って寝ることにした。

まだ色々話したいことがあるが、明日は早朝に出発なのもあり、早々に寝るのであった。

睡眠不足で実力が発揮できないのであれば、本末転倒だ。

部屋に戻り、ベッドに入り込むや俺は、明日に備え眠りについた。

同時刻、南雲の部屋でも似たような事があったそうだ。

 

 

翌朝、馬車に乗って目的地に向け出発する事になった。

俺達の護衛には、メルド団長を含め精鋭の騎士数名が同行する事になった。

馬車の席順だが、俺の左側に優花がぴったりと座り、右手で俺の左手を握り頭を肩に寄せ、自身の腹部に左手を置いていた。

優花は俺が渡したお面を懐の中に入れ大切にしていた。

そんな光景にメンバーの男子勢は驚き、女子勢は黄色い声を出していた。

優花もまんざらでもない顔で、そんな光景を南雲は苦笑いしつつ微笑んでいた。

 

その日の昼前には目的地である、オルクス大迷宮の正面広場に到着していた。

広場には、露店などが並び、見たこともない食品が目に入ってきた。

今回の訓練が終われば、優花と見て回る機会があると思いつつ、今はこれからの事に集中するのである。

このオルクス大迷宮は、訓練場でなく、鉱物の採掘場としても有名で、駆け出しからベテランの冒険者もこの大迷宮に来るそうだ。

 

俺達はメルド団長と護衛の騎士達と共に、中に進むのであった。

洞窟内は薄暗く、意外と槍を振り回しても問題ない広さであった。

狭い場所では槍は使いにくいことも懸念していたが、杞憂に終わった。

前衛は、天之河率いる勇者組とメルド団長の戦闘職組、後衛は俺が筆頭に優花と南雲を含むパーティメンバー、残りの後方支援の天職のクラスメイトと護衛の騎士数名の配置だ。

前衛が先を進みつつ、後衛が背後の守りを行う。

これは、何時ぞや八重樫と戦闘訓練をした際に考案した陣形だ。

万が一、魔物から挟撃を受けた際、俺と護衛の騎士でメンバーを守りつつ退路と確保し、危険と判断したら速やかに撤退するためだ。

前衛に戦闘職が集まりすぎな気がするが、俺との模擬戦を行い実力が分かる者だからこそ得た信頼もあっての判断だ。

訓練自体は、おおむね順調に進み、討ち漏らしや手頃に倒せそうな魔物を、俺のパーティメンバーで片づけていく。

稀に体を洞窟の色に擬態し透明になってた魔物がいたが、発見次第速攻で片づけていた。

俺のステータスには気配察知の技能は無かったが、自前の勘と経験で倒した事で、ステータスプレートに追加された。

未だに黒字で伏せてある部分は分からないが、師匠に授かった槍が関係していると考察しつつも、目の前の訓練に集中するのであった。

 

二十階層に到達した頃であった。

天之河が雑魚相手に周囲を考えない大技を放ち、メルド団長から大目玉を食らった時だった。

前衛組の白崎が何かを見つけたようだ。

崩れた壁の向こうに青白く光り放つ鉱物が顔を出していた。

大きさもなかなかで、美しく光るその鉱物はクラスメイトを魅了していた。

メルド団長の説明によると、それはグランツ鉱石といい同じ物でも大きさが異なり珍しいそうだ。

興味を持ったのか、その鉱石を手に入れようとする馬鹿がいた。

前衛組の檜山だ。

メルド団長の注意を無視し、それを手にしようとした瞬間であった。

護衛の騎士が、技能か魔法を使ったのかわからないが、トラップであることが判明した。

檜山が鉱物を手にした瞬間、階層にいる全員の足元から魔法陣が現れ、転移系の魔法だと誰かが言った。

慌ててメルド団長が脱出を命じるが、すでに遅かった。

光は俺達を包み、何処かへと転移させられた。

 

光が収まると、其処は巨大な石造りの橋の上であった。

橋の下は暗闇が広がる奈落の底であった。

周囲を確認すると、上り階段があるのがわかった。

メルド団長がそれを確認すると同時に、険しい顔で指示を出し階段まで走れと言う。

俺も、周囲の状況確認をすまし撤退行動に移った。

だが、それはあまりにも遅かった。

階段側の入り口付近から現れた魔法陣の中から、剣と盾を持ったガイコツ兵が大量に表れると同時に、橋の中央に巨大な魔法陣が現れ、中から体長十メートルはあろう巨大な魔物が現れた。

魔物は四足歩行で瞳は赤黒く、鋭い爪と牙でこちらを威嚇し、轟音ともいえる凄まじい咆哮を唸り上げるのであった。

それを見たメルド団長は、「ベヒモス・・・なのか」と呟いていた。

 

これが俺たちクラスメイトが直面する最初の困難であった。




次回『ベヒモスとの遭遇、運命の転換点』

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