ありふれた錬成師とありふれない魔槍兵で世界最強 作:ゴルゴム・オルタ
来年もよろしくお願いします。
九尾の白狐、コハクと行動を共にするようになり、迷宮から脱出する術を探るべく、周囲を探索しつつ行動する事になった。
その為にはまず、食料の調達から始まった。
階層を探っていくと、下り階段らしきものがありその奥へと進むのであった。
途中で魔物の襲撃が多々あったが、俺とコハクで応戦し先を進んで行った。
この世界では、魔物の肉を食べれば体が壊れ死に至る代物だ。
そこで俺はある発想に至った。
魔物の体内にある魔力が原因なら、魔力を無くせばいいと。
倒した魔物の毛皮を剥ぎ、肉を捌き手頃な大きさにした俺は、その肉に魔術を掛け魔力を分解する。
例えるなら魚のフグの毒抜きの応用である。
フグの肝には毒があるが、逸れさえ取り除けば食べれない事は無い。最も、フグの毒が抜ける詳しい原理は未だに解明されては無いそうだが。
魔物の肉から魔力を分解し、獣の肉にした俺は火を起こし焼いて食べる事にした。
結果は重畳であり、人体には何の異常もなかった。
コハクは、生のままでも良かったらしいが、焼いて食べるという工程に興味を持ち、焼き上がった肉を頬張っていた。
専用の調理器具や調味料があればもっと美味しく料理できたのだが、それが無いため現状で我慢した。
因みに今回の調理法は迷宮攻略前に考案したものである。
八重樫と魔物から素材を得る過程で試したのだが、思いの外成功したのだった。
その時、ステータスプレートを見たが、魔物の肉を食べた事により技能に『胃酸強化』が追加され、同時に各種ステータスも向上していた。
予想外の収入があったが、それが経験となり、以降魔物に遭遇し倒すたびに肉を食べ自身を強化するのであった。
尚、コハクがいた場所にあった謎の鉱石は回収済みである。
あの鉱石から零れる液体は、体力だけでなく魔力や身体の異常まで回復する物であり、結構重宝している。
俺もそうだが、コハクは華奢な体の割には結構大食いだ。
彼女曰く、500年近く食事をした事が無く非常に空腹なそうだ。
相方であるコハクなのだが、戦闘に置いては圧巻の一言である。
遭遇した魔物に形代を投げるや、対象を燃やし鎮圧させていった。
それだけでなく、青い形代は相手を倒すだけでなく、魂魄らしき物を吸い込み自身の力に変換するのであった。
コハクに聞くと、自前の能力らしくステータスプレートに表示される技能風に言うなれば『魂魄吸収』だそうだ。
生死問わず対象の魂魄を文字通り吸収し、自身の力に変換する技能だ。
元居た世界でも出来たらしいが、この世界に転移された事で霊力から魔力に変換され、吸い込んだ魂魄で魔力の回復並びに上限まで増やす事ができるらしい。
つまり、戦いを重ねればするほど自身を強化していくそうだ。
割とチートな能力だ。
コハクと行動を共にし数日が過ぎた。
迷宮の魔物を倒しながら更に先へ進み、概ね20階ほど下へ潜っていった頃であった。
目の前に巨大な壁が立ちふさがった。
行き止まりかと思いきや、その壁は明らかに人工的に作られたものであった。
手を当ててみたが、見た目より分厚い感じはなかった。
「ふむ・・・どうしたものか」
「周囲に道も階段も無い。ならやる事は一つだろ」
俺は壁からある程度距離を置くと、姿勢を低くした。
両足に魔力を込める地を蹴る、一気に壁に目掛け加速し疾走する。
最高速に達すると同時に跳躍し、手にした槍を壁に向けて投擲した。
槍は見事壁に突き刺さり、そこを起点として罅が入っていったのを確認。
それだけでは終わらず、俺は天井を足場に、槍の刺さった壁に向かって跳んだ。
そして、右足に魔力を集め、勢いを殺さず飛び蹴りを槍の石突きに叩き込む。
分かりやすく言えば、某仮面でライダーな特撮ヒーローの象徴的な必殺技を真似した蹴りである。
「でぇぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
叫び声と共に足の底へ更に力を込めた。
すると、威容を放っていた壁は音を立てて崩れていった。
俺は地面に着地し、瓦礫に突き立つ槍を握る。
奥には空洞らしき空間が薄っすら土煙の奥に見えた。
その光景を、コハクは驚くことも無く、腕を組み冷静に眺めていた。
「・・・お前は見かけと違い大胆な事をするのだな」
「まあ上手くいったからいいだろ」
「冷静さと大胆さ、そして強さを持つ者は嫌いではない」
「そうか。さて先に進もうか」
そう言葉を交わしたあと俺とコハクは先に進むのであった。
此処まで特に問題なく進んできた。
数日共に行動し付き合いはまだ浅いが、俺もコハクの事が何となく分かってきた気がした。
普段は物静かで冷静ではあるが、いざ戦闘になると敵には一切容赦しない苛烈さを見せる。
そして、敵意の無い者には見向きもしない。
強いて言うなら分別のある戦闘狂だ。
理性を失わず手当たり次第その牙を剥かない辺り、感情を制御している証拠だろう。
倒した敵の血肉を喰い、己の糧とし強くなろうとする姿は正に獣そのものである。
生きるか死ぬかの環境で敵に躊躇すれば、殺られるのは自分自身だ。
俺自身、彼女の在り方には理解できる。
そうしなければ生きてこれなかったのだから。
俺の場合は大切な人と場所を守るために力を振るうが、彼女の身の上話を聞いて何とも言えない親近感を抱いた。
だからなのだろうか、俺とコハクは何となくだが馬が合う気がする。
この先でも上手くやっていけるように感じたのだった。
コハクは俺をどう思っているか分からないが、何となくあいつの事が気になるようになった。
何処か腰を落ち着ける場所があれば、ゆっくり話すのもいいのかもしれない。
そう思っていた時だった。
奥に進むと、何やら激しい音が聞こえる。
気配を感じると、魔物が何かと戦っている様子だ。
さらに足を進めると、明かりらしき物が見え全容が分かってき始めた。
ベヒモス並みかそれ以上に巨大なサソリのような魔物が人らしき者と対峙していた。
一人は白髪の男で、もう一人は金髪の少女だった。
驚く事に男の手にはこの世界に存在しない筈である武器、銃を持っていた。
相手も俺とコハクに気が付いてはいるが、取り込み中らしく構う余裕はないようだ。
俺は槍を構え戦闘態勢に取る。
「コハク、俺達も加勢するぞ」
「構わんぞ。それにあれ程の巨体だ、中々食べ応えがありそうではないか」
「そうか、そいつは良かった。俺も同意見だ」
「折角だ、偶には自らの腕で獲物を仕留めるとするか」
そう言うとコハクは、何処からか青い狐の面を被ると、桜の花吹雪と共に姿を変えた。
普段来ている着物と違い、白を基調とした着物姿だ。
右側頭部に青い狐の面を付け、手には蒼い炎を纏った日本刀を手にしていた。
明らかに普段の中・遠距離戦から、近接戦に適応している姿だ。
その姿に驚きつつも、ご丁寧に俺に説明するのだった。
「普段の戦いは姉様の姿を真似してやっているだけで、此方の方が私本来の戦い方だ。」
「成程な、コハクは接近戦が好みって事か?」
「ああ、自らの腕で敵を倒せんのは、詰まらないにも程があるだろう」
この九尾の白狐、意外と万能のようである。
手にした刀を構えると、コハクは巨大なサソリ擬きに向かって駆け出して行った。
俺も構えをそのままに後に続く。
サソリ擬きは自前の爪で俺とコハクを潰そうとするが、俺達はそれを躱しその頭上に跳躍する。
サソリ擬きは尻尾から無数の針を飛ばしてくるが、俺は槍を自身の前に出すと、風車のように回転させ放たれた針を打ち落としていく。
「今だ、コハク!!」
「ああ、任せておけ」
その後方からコハクが手にした刀を横に一閃し、尻尾を切り落とす。
尻尾を切り落とされ頭に来たサソリ擬きは暴れだすが、俺は俊敏さを生かし懐に飛び込む。
顔面に迫ると、渾身の力を込めた一撃を叩きこむ。
同時に、真上からコハクが脳天に刀と突き刺し止めを刺す。
するとサソリ擬きは力を無くし崩れるように倒れ、瞳から光を失った。
俺とコハクは武器に着いた血を払い、敵に背を向けた。
その光景に唖然としていたのか、二人組の男女が身構えた。
「さてと、お互い聞きたいこと等あるだろうが、此処は話し合いでもしないか?」
「ッ!!!!!」
「そっちに対して敵意は無い。取り合えずお互い武器を収めようじゃねえか」
「・・・・わかった」
白髪の男は咄嗟に武器を構えようとしたが、俺の顔を見て驚愕し武器を下げた。
その後ろにいる金髪の少女はこちらを警戒しているのか、男の後ろに隠れている。
コハクは俺の後ろでその男女を観察するように見ていた。
すると、白髪の男が俺に話しかけてきた。
「お前、篠崎なんだよな?」
「俺を知っているって事は・・・お前南雲か?」
「ああ、生きて・・・いたんだな」
「そりゃあお互い様だ、お前の事も探していたんでな」
目の前の男は、俺と奈落の底に落ちたクラスメイトでパーティメンバーの南雲ハジメであった。
外見や口調、体格など最早別人とも言っても過言ではないほど変化しており、初見ではわからなかった。
思わぬ再会となり、これまでの事等を話そうと思っていた時であった。
南雲の後ろにいる少女がコハクを見て、驚愕した顔をした。
「白い9本の尻尾とその気配。まさか貴方は・・・厄災の獣!?」
「ほう、私をその名で呼び、人間とは違う気配と魔力・・・貴様、吸血鬼族か」
どうやらお互いの正体に心当たりがあるらしい。
話が長くなりそうなので取り合えず、この場を取り仕切り話し合いの場を作ることにした。
倒したサソリ擬きと、入り口に倒れていた魔物の肉と外装を剝がし、部屋の外に出て南雲が錬成で仮の拠点を作り話し合いをするべく合流するのであった。
魔物の肉を俺が焼きつつ話をしていった。
まず南雲だが、落下して生きていたものの、魔物の襲撃で左腕を失い、辛うじて逃げ延びたそうだ。
逃げた先にあった謎の鉱物『神結晶』とそこから流れ出る『神水』で何とか命を繋いでいったそうだ。
俺もコハクと出会った場所で同じ物を見つけ南雲に見せると目を開き驚愕していた。
神結晶から流れ出る神水には体力と魔力を回復させる効果がある、南雲は生きる為に罠を仕掛け、魔物を誘き寄せ倒しその肉を食べて生きて来たそうだ。
そのまま口にした魔物の肉は肉体の破壊を促し、神水は崩れる肉体を繋ぎ止める様に癒す。南雲の肉体は破壊と再生を繰り返した影響もあり、外見や体格にまで変化をもたらし今に至るそうだ。
口調も、その場であった衝撃的な出来事が切欠で変わったという。
武器である銃も錬成を重ね、自ら作り上げたそうだ。
それから、南雲は魔物との戦いを重ね経験を積み、自ら生き延びる術を身に着けてきた。
「・・・そうか、お前も地獄を見て来たんだな」
「そういう篠崎もそうなのか?」
「ああ、まあな。俺の場合こういうサバイバル染みた生活をするのは今回で2回目になるんだがな。最もお互い望んでしたかったわけじゃないんだろうがな」
「・・・・2回目?」
話を続けるとしよう。
南雲の話では、此処は真のオルクス大迷宮で50階層に位置する場所だそうだ。
クラスの連中がいたのは表面上のオルクス大迷宮であり、今俺達がいるのが真のオルクス大迷宮だそうだ。
最深部にはこの迷宮を作った反逆者の住処があるそうで、南雲達はそこを目指しているそうだ。
この情報は先程の部屋で封印されていた金髪の少女から聞いたそうだ。
その少女の名前は南雲曰くユエだそうだ。
300年以上前に滅んだとされる吸血鬼族で、王女だったそうだ。
南雲の話では、身内に騙され迷宮の奥底であるこの部屋へ封印されたそうだ。
それから年月が過ぎ、この部屋に訪れた南雲と出会い、封印と言う戒めから解き放たれ、部屋の天井にいたサソリ擬きと交戦中、部屋の壁を突き破ってきた俺達と再会したのだった。
「俺達の話はまあこんなもんだな」
「今度は俺達の話か、いいかコハク?」
「構わんぞ」
焼きたての肉を南雲とユエ、コハクが頬張りつつも今度はこっちの話をする事にした。
奈落の底に堕ち、周囲を見ながら南雲を探索している最中、コハクと出会ったこと。
ユエが言っていた厄災の獣の正体が、1000年近く生きる九尾の狐で、俺達と同じくこの世界に召喚された事。竜人族との出会いと別れ、姉であるセキと言う名のもう一匹の九尾の狐との別離。謎の存在によって奈落に堕とされた事。俺に名前を付けられ迷宮から脱出するべく共に行動していること等、これまであった事すべてを話していった。
コハクの正体を知り、南雲とユエは大変驚いていた。
まさか俺達と同じ世界から召喚されていた存在が居て、故郷では神格化までされる九尾の狐と相対するなど思ってもいなかったのだから。
「・・・以上が俺達にあった出来事だ」
「俺の方もそうだが、篠崎の所も大概ヤバい目に遭ったんだな」
「それを言うなら南雲の方がそうだろ」
俺達は、お互いの話を終え今後の行動に関する話を始めた。
奈落の底の大迷宮の最深部を目指し共に行動する事。
これには俺と南雲も賛成だ。
最深部には恐らく強力な魔物がいることを想定し、互いに力を合わせ協力するのが必要不可欠である。
コハクとユエもこれに賛成してくれた。
利害と行動目的も一致したため、改めて俺と南雲はパーティを組むことになった。
「折角だ、お互い苗字じゃなく名前で呼ばないか?」
「ああ、こっちに来てから色々お前には世話になったからな。よろしく頼む竜也」
「応、改めてよろしく頼むぜハジメ」
「私はユエでいい。ハジメからも貴方の事は聞いていたから信じる。よろしくタツヤ」
「そうなのか?まあ、こっちこそよろしくなユエ」
「・・・私の事は好きに呼ぶと言い。人間は嫌いだがお前達は信用できそうだ」
「そうか・・・ならこれからよろしくなコハク」
「私もそう呼ぶよろしくコハク」
「ハジメ、ユエと言ったか。よろしく頼む」
親睦が深まった所で、俺達は残りの肉を焼いて腹を満たすのであった。
ハジメとユエ、コハクから見た俺の肉の焼き加減は絶妙であり、高い評価を得た。
こちとら居酒屋の息子だ。
焼き鳥から揚げ物まで様々な物を取り扱ってきたのだ。
料理に関しては優花同様、他のクラスメイト達とは踏んできた場数が違うのだ。
塩コショウと焼き肉のタレが無いのは残念だが、ちょっとした焼肉パーティーとなった。
コハクも黙々と食べるだけでなく、少しではあるがハジメ達と交流を始めた。
ハジメが錬成した仮拠点の周囲にはコハクが作った青い形代を使い式神を展開、魔除けの術を込めた陣を張り、周囲に魔物が近寄らない結界を作るのであった。
それを聞いた俺達は、翌日の朝まで少しではあるがゆっくりと夜を過ごすのであった。
暗闇の中で時間の感覚が無くなりそうだが、俺は嘗ての経験を活かし時間の感覚を忘れずにいられた。
ハジメとユエがお互い寄り添うように肩を当て寝るのと同様に、意外にも俺の肩に頭を寄せ静かに眠るコハクの姿がいた。
コハク曰く、俺の横で眠るのは意外と安心できるそうだ。
「・・・普段は戦いになると鋭い目つきになる癖に、寝ている時の顔は可愛いんだな」
そんな彼女の意外な側面を見つけつつ、俺も眠りについた。
次回予告『最深部の守護者』
今回コハクが行った戦闘形態の変化は、特撮ヒーローのフォームチェンジをイメージしてくれると助かります。
後日、キャラ紹介で説明しますのであしからず
追伸
ここ一年、アズールレーンをプレイして3-4周回してますが、未だに赤城と加賀をお迎えできなくて心折れそうです。
友人に言ったら「素晴らしく運の無い男だ」言われました。
ティルピッツ、グラーフ・ツェッペリン、プリンツ・オイゲン、能代、高雄、愛宕、瑞鶴、翔鶴、フッド、ウォースパイト、ダイドー、シリアス、ヴェスタル、クリーブランドはお迎えできたのに未だに赤城と加賀が来ない。
フィギュアではブキヤさんの1/7スケールの加賀はお迎えできたけど、ゲームではまだ来ない。
気を改めて来年も頑張って周回していくぞ!!!!
皆様も良いお年をお迎えしてください