竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか   作:Amur

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 原作でも省略されそうな竜王国を舞台にした作品が増えてほしい。



戦力準備編
竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか


 竜王国。

 いかにも竜を駆る騎士団がいたり、住民の大半がドラゴンかと思うような国名だが、まったくそんなことはない。隣接する亜人国家に狩場として好き勝手される弱小国である。

 

 

「食料庫が見えてきたな」

 

「ようやくか。待ちきれねえぜ」

 

 二足歩行の獣たちが町を取り囲む城壁へと近づいていく。

 その足取りは軽く、まるでピクニックにでも行くかのようだ。

 

 獣はビーストマンという種族の亜人で、人間をも捕食する。

 彼らの言う食料庫とは人間の町そのものである。

 

「それなりの城壁で守られているな。まずは門を開くぞ」

 

「わかったぜ、リーダー。突入後は前の村と同じく戦える人間を皆殺しだな?」

 

「ああ」

 

 ビーストマンの総数は30。これは村程度なら容易く壊滅させられる戦力である。強力な個体がいれば小規模な町ですら危ないだろう。

 

「ちっとは手応えのある人間がいないもんかね」

 

「この間の村にはザコしかいなかったからな。戦士はいたが大したことはなかった」

 

 虎の獣人が不満げにぼやくと獅子の獣人が同意する。

 

「ああ、人間の冒険者か。あいつらには笑わせてもらったよ」

 

 次々と他の獣人も話に加わっていく。

 

「おお、そうそう。つまらない負け惜しみを言ってたな」

 

「いずれもっと強い人間が現れてオレたちを駆逐する……だったか?」

 

「ギャハハハハ! そんなやつがいるなら見てみたいぜ!」

 

「なんせオレたちビーストマンは人間の10倍の強さを持っているからな!」

 

 強さの基準である難度。

 並の人間を難度3とするならビーストマンは30に匹敵するとされるが、彼らはその基準を超える精鋭部隊。特にリーダーは難度70に達する猛者である。

 そんな彼らにとって竜王国は食べ放題の餌場に過ぎない。

 

 

「今回も勝負しようぜ、ライオ。先に10匹狩った方の勝ちでどうだ?」

 

「お前も好きだな、トラオ。いいぜ、オレが勝つだろうからな」

 

 虎と獅子の獣人が賭けをしているとリーダーから号令がかかる。

 

「よーーーっし! そろそろ一狩りいこうぜっ!」

 

「オオオオオオオーーー!!!」

 

 ここから激化するビーストマンの侵攻により、竜王国はいくつもの都市を落とされることになる――本来の歴史では。

 

 

 速度を上げた獣の群れが町へと迫る。

 だが、城壁を目の前にして彼らは足を止めた。何者かがいるのに気が付いたからだ。

 

「何かいるぞ。門兵か?」

 

「いや、それにしちゃあ小さくねえか」

 

 それは一人の少女だった。

 どう見ても戦えるような存在には見えないが、彼女は悠然と腕を組み、獣人たちを眺めている。

 

 軍隊が待ち構えていたのかと警戒したビーストマンだったが、その姿を見て笑い出した。

 

「おいおい。村を潰されて警備を強化したのかと思ったが、小さなメスが一匹だけかよ!」

 

「もしかしてあれか? こいつを差し出すから町は見逃してくれってことか?」

 

「ギャハハハハハ! そいつは殊勝な心掛けだな!」

 

「当然こいつは食うが、それで帰るわけねーだろ!」

 

「こんなガキ一匹なんざ、前菜にもなんねーよ!」

 

 油断しきって笑う獣人たちだが、リーダーは少女に違和感を覚える。

 あまりにも落ち着きすぎているのだ。

 だが、絶対捕食者としての自負もあり、逸る仲間を制止することはなかった。

 

「こいつはオレがもらうぜ!」

 

「抜け駆けか、トラオ!」

 

 狩り勝負を持ち掛けていた虎の獣人が真っ先に少女に襲い掛かった。

 

「まずは一匹目!」

 

 ボッ!

 

 頭をかみ砕こうと飛び掛かった獣人だが、少女の横を通り過ぎ、そのまま前のめりに倒れた。

 

「え? おい、トラオ。何をやってんだ……?」

 

 先を越されたと憤っていた獅子のビーストマンだが、倒れて動かない仲間に戸惑いの声を上げる。

 

「!? おい! あのガキの手を見ろ!」

 

 リーダーの声に従い視線を向けると、少女は右手に何かを持っていた。

 彼女の両手には人間ではありえない鋭い鉤爪が生え、血の滴る虎の首がぶら下げられている。

 

「ト、トラオ……な、何をしやがったあああああ!?」

 

 突然の仲間の死に激高して襲い掛かる獣人。

 

 ボッ!

 

 今度は左の鉤爪に獅子の生首が突き刺さった。

 それらを無造作に投げ捨て、ビーストマンの群れに向き直る少女。

 

「ラ、ライオまで……」

 

「こいつ人間じゃねえぞ!」

 

「狼狽えるな! 多少はやるようだが、しょせんは一人だ。囲んで全員でかかるぞ!」

 

 仲間が二人殺されたことで、ようやく目の前の存在の異常性を認識した獣人たち。混乱が起きかけるが、リーダーの一喝で落ち着きを取り戻す。

 

「……」

 

 逃げ場なく包囲されるが、少女はわずかも動揺せずその動きを放置していた。

 

「かかれええええーーーっ!」

 

リーダーの号令で攻撃が開始される。

 

「うおおおおおおおーーーーーー!!!」

 

 一斉に襲い来るビーストマン。

 

 尚も少女は動かないが、口を大きく開けた。

 そこから激しい炎が吐き出される。

 

 ゴオッ!

 

 少女は首を振り、全方位に獄炎を吐きかける。

 

「うぎゃあああああああああああ!」

 

 断末魔と共に一瞬で灰になっていくビーストマンたち。

 いまの一撃で残ったのは部隊のリーダーだけだった。

 

「……配下にだけ攻撃をさせ、自分は様子見か」

 

 冷徹にリーダーを見据える少女。

 

「う、うう……き、貴様は何だ! まさか評議国の竜王か!?」

 

「ドラウディロン。この竜王国の女王だ」

 

「女王だと!? なぜそんなやつがここに……」

 

「無論、我が国の村を襲った貴様らを討伐するためだ」

 

「い、いや、仮に貴様が女王本人だとしても、その身に流れる竜の血は八分の一と聞く……もはや人間と変わらぬはずだ! なのに何故それほどまでに強い!?」

 

「いわゆる先祖返りというやつだ」

 

「先祖返り……だと」

 

「分かりやすく言ってやろうか? つまり私は……曾祖父である七彩の竜王並に強いということだ」

 

「そ、そんな……そんな……!」

 

「さあ! 我が民を殺害した報いを受けろ!」

 

「うわあああああああああ!!!」

 

 恐怖にかられ、破れかぶれに襲い掛かるビーストマンリーダー。

 それに対し、ドラウディロンは左右の鉤爪を目にもとまらぬ速さで振り、一瞬で獣人を無数の肉片へと変えるのだった。

 

 

ーーーー

 

 

 私は竜王国女王ドラウディロン・オーリウクルス。

 言うまでもなく転生者である。

 

 まさかのオーバーロードの世界に転生して早数十年。この人間に厳しすぎる世界を生き抜くため、まずは自身の戦闘力を徹底的に高めた。元々それだけの素質を持っていたのか、転生者ゆえかは分からないが、幸い私は鍛えれば鍛えるだけ強くなれた。

 

 

「女王よ」

 

 頭上から声がかけられ、一頭の霜の竜(フロスト・ドラゴン)が舞い降りた。

 彼こそはアゼルリシア山脈に君臨する白き竜王――オラサーダルク=ヘイリリアルだ。

 

「我の方の獣どもは全滅させたぞ」

 

「ご苦労。さすがに早いな」

 

「相手が弱すぎた。お前に修行として戦わされた死の騎士の方がよほどマシだった」

 

「そりゃあ、デスナイト級のビーストマンなんて滅多にいないさ」

 

 ――オラサーダルクも強くなったな。鍛えまくった甲斐がある。いまならどこかの骨魔王に心臓掌握(グラスプ・ハート)で瞬殺されたりはしない。

 

 うんうんと頷く女王。

 

 ドワーフの王城跡にいたところを強制的に従わされた彼だったので、最初は不満たらたらだった。しかし、女王の修行により竜王の名に恥じない強さを手に入れ、霜の巨人(フロスト・ジャイアント)に完全勝利、名実ともに山脈の覇者となれた。

 そのことに感謝をし、いまでは竜王国の誇る五色の魔竜の一頭となっている。(ただし敬語は使わない)

 ちなみに五色と言うが、女王を含めても二色であり、残り三色の竜は募集中である。

 

 ――時間対策はクリアしたが、問題はワールドアイテムか。流石にあれは私以外だと抵抗が難しい。同じくワールドアイテムを持つか、始原の魔法が使えないと一方的にやられてしまうからな。

 

「どうした? 女王」

 

 考え込んでいると、白き竜王が訝しんできた。

 

「いや、オラサーダルクに不満はないのだが、他にも仲間が欲しいと思ってな」

 

「ふむ……。お前に聞いた100年に一度来訪するという連中――プレイヤーとやらへの対策か?」

 

「そうだ。敵対するとは限らんが、出来る限り戦力は高めておきたい。誰か頼りになるやつを知らないか?」

 

「竜族でいえば、有名どころはやはり評議国だが……」

 

「あそこの連中はスカウトに乗らんだろう」

 

「そうであろうな」

 

「それに評議国とは対プレイヤーで協力することを約定しているからいいんだよ。探しているのはお前みたいにどこにも所属していない強者だな」

 

「その条件では思い当たるものはおらぬな」

 

「そうだよなー」

 

 

ーーーー

 

 

 竜王国王城――

 

 

 ドラウディロンは自室に籠り、これからの動き方を考えていた。

 

 ――この数十年で出来ることはやったつもりだ。戦力増強だけでなく、評議国や法国と秘密裏に手を結べたことは大きい。竜と人、双方の血を引く身に感謝したよ。

 私の知る歴史だと、竜王国は王国や聖王国と違ってナザリックに滅ぼされてはいない。だが、後々まで無事だった保証もない。全面戦争する気はないが、侮られずに対等な関係を築けるのがベストか。

 

「残るは帝国、王国、聖王国、都市国家連合か」

 

 ドラウディロンは評議国、法国の二国との友好関係構築に力を注いでいたので、王国や帝国にはさほど繋がりはない。

 

「次に話を持ち掛けるなら帝国だな。王国はどうしようか……いっそのこと帝国に協力してナザリックが来る前に併合させてしまうか? 法国の方針とも一致する。連中も文句は言わんだろう」

 

 とても他人には聞かせられないことを目論む女王。王国に恨みがあるわけではないが、恵まれた立地に胡坐をかき、民から搾取するだけの国家への当たりはきつい。

 

 ――個人的にはブレイン・アングラウスが一番好きなんだけどな。あいつの最期には泣いたよ。かっこよすぎて震えた。死なせたくはない……が、ちょっかいをかけている暇がなかった。これでも国家元首に生まれた身。自国のことを最優先にしなければな。

 まずは帝国のフールーダだ。あの魔法狂いは始原の魔法を餌にしたら簡単に釣れるんじゃないか? いや、私も自分が使っているチカラが何なのかよく分かってないんだけど。他人には始原の魔法の応用だとか適当に誤魔化しているが。

 

「ナザリックが来る具体的な日を知りたいが、何かなかったかな。帝国ではジルクニフが新皇帝として大改革を完了させたところ。10代半ばでよくやるものだ。たしか、ストレスであいつの頭髪が薄くなるはず……となるとナザリックが来るのはジルクニフが30歳くらいか? いや、そもそもハゲは正史だったか? ネタとごっちゃになって分からなくなってきた」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの来訪を察知すれば、即座に動くつもりの転生ドラウディロン。大まかな歴史は知っているが、具体的な日付までは覚えていないのがネックとなっている。

 

「一番良いのはナザリックが大きく動き出す前にモモンガさんと接触すること。察しの良すぎる伊達男(デミえもん)が速攻で世界征服を進めるからな。どうしても止められないときは戦争になるのだろうが……気は進まない。序盤でうまくやれれば、ナザリックは人類の守護者にもなりえるはずだ」

 

 

 そして方針を決めた女王は動き出す。

 

「よし! 帝国に行くか。おっと、先触れを出さんとな。王族としての礼儀だ」

 

 

ーーーー

 

 

 バハルス帝国・帝都アーウィンタール――

 

 

「陛下!」

 

 玉座の間に兵が駆け込んでくる。

 相当に慌てているのか、通常の儀礼を無視して報告を行う。

 

「竜王国よりドラゴンの群れがこの帝都に! 野生ではなく、かの国の旗を掲げております!」

 

「なんだと!?」

 

 勢いよく玉座から立ち上がったのはバハルス帝国皇帝――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 

「たしかに女王が来ることは聞いていたが、ドラゴンの軍勢だと!?」

 

 若き皇帝は驚愕と怒りで震えている。

 

「複数のドラゴンを操るとは……まさかこれが始原の魔法……」

 

 混乱の渦に包まれる玉座の間で一人だけリアクションが違う者がいる。

 彼こそは帝国最高の大魔法詠唱者――フールーダ・パラダイン。

 ドラゴンに脅威を感じていないわけではないが、魔法狂いの彼としてはそれに関わる魔法への興味の方が大きいようだ。

 

皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)を向かわせろ! だが、絶対にこちらから手を出させるな!」

 

「はっ!」

 

「どういうつもりだ、あの若作りの婆――!」

 

 

 これが後にジルクニフが嫌いな女ランキングでぶっちぎりの一位となる竜女王との出会いであった。

 




ド「やあやあ。若作り婆が来たぞ」
ジ「!?」

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