竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか 作:Amur
リ・エスティーゼ王国・王都――
眼鏡の悪魔が天を仰ぐ少し前。
王都の館にてシャルティア、セバス、ユリ、ソリュシャンは王国貴族と会談を始めていた。
「よくぞ参られた。我輩はバルザック・アンド・レアル・ボンモール。リ・エスティーゼ王国が男爵である。諸君らの訪問を歓迎する」
10人ほどの護衛を引き連れて、王国貴族がナザリック一行を出迎える。
男爵という下位貴族である彼だが、王国六大貴族の一人、ブルムラシュー侯の遠縁であり、そのことを利用して私腹を肥やしている。
金貨一枚で家族さえ裏切るとされるブルムラシュー侯に連なるだけあり、ボンモール家も金に汚く、裏切り者の家系として貴族の中では有名である。
そんな彼はナザリック一行の容姿の良さや身に纏う衣服の豪華さに内心で舌なめずりをしていた。最高の金づるだと考えているようだ。しかし、彼の上機嫌も相手の名乗りを聞くまでだった。
「歓迎に感謝するでありんす。わらわはシャルティア・ブラッドフォールンでありんすえ」
年端もいかない少女が最初に名乗ったことに怪訝な顔をするバルザック。
「……君が代表者なのか?」
「そうでありんすえ」
「しかも事前に聞いていた名前と違うのだが。確か王国の土地を買いたいと申し出てきたのはア、ア……」
「アインズ・ウール・ゴウン様でございます」
名前を思い出せない貴族にセバスがフォローをする。
「そう。そのゴウンとやらだ。様を付けるということは君もゴウンではないのだな」
「はい。私はアインズ様にお仕えする執事でございます」
恭しく礼をするセバス。
横のシャルティアは顔を引きつらせ、必死で怒りをこらえている。バルザックがアインズの名前を覚えておらず、しかも呼び捨てにしているからだ。幸い相手はセバスの洗練された動きに虚を突かれて、少女が青筋を立てているのに気づいていない。
「……何故本人が来ないのだ?」
「アインズ様には外せない用事がございまして。そのため、私どもが代理で参りました」
問いかけにさり気なくセバスが前に出る。早くも不機嫌になっているシャルティアに任せていては危ないとの判断だ。
「外せない用事だと? 王国貴族たる我輩が来てやっているのに、在野の魔法詠唱者ごときが代理で済ませると? ゴウンは王国を舐めているのかね」
「アァンッ!?」
「シャルティア様」
激高しそうになる吸血鬼をセバスが手で制した。彼は表情に出していないが、戦闘メイド二人も不愉快気な顔をしている。
「急に声を荒らげてどうした? 怒っているのはこちらだ。私は六大貴族の一人である、かのブルムラシュー侯の縁者だ。多少金を持っていようが、その我輩に礼儀もわきまえない小娘をよこすなど、ゴウンとやらの程度が知れる」
気を抜けば爆発しかねない感情を懸命に抑え込むシャルティア。だが、そこで彼女はアインズに言われたことを思い出す。
『適度に挑発して怒らせてやるのもよかろう』
「……(そうでありんす。何も言われっぱなしでいなくてもいい。多少は相手を怒らせるくらいでいいんだった)」
ひと呼吸して気を落ち着けた彼女はバルザックに言い放つ。
「程度が知れるのはどっちでありんしょうか。六大貴族だか何だか知らないが、そいつの名前がないと碌に威張れもしないようね?」
「なっ!?」
まさか貴族たる自分にここまでの暴言を吐くとは思っていなかったバルザックは驚愕で言葉に詰まる。
「どうかしたでありんすか? 文句があるならそのブラ何とかを呼んでくるといいわ」
「ブルムラシュー侯だ! 貴様、ふざけるなよ! 我輩にそんな口を利いてただで済むと思っているのか!」
怒る男爵を鼻で笑い心底馬鹿にした目で見下すシャルティア。
好きに煽ってよいとなれば絶好調である。ユリとソリュシャンも溜飲が下がっているのが見て取れる。
セバスは止めるべきかとも思ったが、多少の挑発はむしろ積極的にしろと言われていたので、わずかに迷ってしまった。
だが、後に彼は語る。あそこが分岐点であった――と。
「おやおや。男爵ごときが大きな口を叩くものね。豚を馬鹿にしたらどうなるのか是非教えてほしいでありんすよ~」
「きっ……貴様ああああああっ!」
男爵という貴族としては低い地位に、密かにコンプレックスがあったバルザックの地雷が踏み抜かれた。そう、シャルティアだけでなく、交渉相手の貴族も煽り耐性が低かったのだ。
彼が手を上げると護衛の兵士たちが剣を抜き、皆を取り囲む。
「ボンモール男爵様。よろしいのですか? この者たちは竜王国の女王と関わりがあります」
「かまわん! 竜女王など我輩がガツンと言ってやれば黙るわ。それよりは貴族に対する不敬罪を償わせねばこちらの面目が立たん。わかるな?」
「はっ!」
竜王国の女王よりリ・エスティーゼ王国の男爵の方が格上と考えているような態度だが、兵士たちもそれに異を唱えることはなかった。
「爺さんは殺してもいいが、女は全員生かして捕らえろ。小娘は我輩が直々に教育してやる。……ああ、メイド二人はお前たちにくれてやる。嬲るなり売るなり、好きにするがいい」
「なんと!?」
「これほどの美女を我らが……」
ごくりと喉を鳴らし、ユリとソリュシャンを凝視する護衛の兵士たち。守銭奴のバルザックだからこそ、部下に与える褒美の有効性を熟知していた。
憤怒に燃えながらも、肉欲を隠さぬ目でシャルティアを見据えるバルザック。絶世ともいえる女を自分の好きにする姿を想像して、先程までとは別の興奮が身体に満ちている。
「……セバス」
「なんでしょうか。シャルティア様」
「わたしはアインズ様の命令通りにしたわよね?」
「アインズ様のご指示は交渉が決裂する場合、相手を怒らせ、帰らせるというものです。まだ交渉は始まってもいませんし、このままでは帰りそうにありません」
「……どうしましょう」
「まずは謝罪するしかないでしょう」
無駄だろうと思いつつも、セバスは詫びを入れることにする。
「ボンモール男爵様。申し訳ございません。シャルティアが言い過ぎました。大事な交渉が控えていますので、どうかここは穏便に」
「黙れ! ここまでコケにされて誇り高き王国貴族が引けるはずがなかろう! もはや貴様らが無事に帰る未来はないと知れ!」
セバスの謝罪も一蹴し、今にも配下をけしかけんとする男爵。
「小娘の着る趣味の悪いドレスも売ればいい値が付くだろうが、まあ破いてもかまわん。それより出来るだけ身体に傷はつけるな」
「――お前今なんて言った?」
能力、容姿、衣服にいたるシャルティアのすべては創造主であるペロロンチーノから与えられたものだ。どれか一つでも侮辱されれば即座に頭に血が上る。怒りで目が紅く輝き、牙をむき出す。
変貌する吸血鬼の姿が、逆にバルザックを冷静にさせた。
「ほ? 自慢の衣装を貶されて本性を現したか小娘。なるほど、人間ではなかったか」
相手が人外だと分かっても屈強な護衛に囲まれて余裕のバルザック。あまりにも力量が離れすぎている為、相手の強さを推し量ることが出来ないのだ。
「それがどうした下等生物が! それより、さっきなんて言っ」
「趣味の悪いドレスと言ったのだ。金だけはかかっているようだが品性というものがない」
「がっ……ぎっ……がっ!」
「シャルティア様、抑えてください!」
いまだかつてここまで侮辱された記憶がないシャルティア。
互いに挑発し合っている二人だが、さすがに口では貴族には及ばない。
「まあ、お前のような化け物を傍に置いて喜んでいるようなやつだ。アインズ・ウール・ゴウンとやらも卑しき者なのだろうなあ?」
「――!」
敬愛する主のことを貶められ、怒りが頂点に達する。それはセバスやメイドたちも同様だ。興奮のあまり視界が真っ赤に染まり、一瞬何も見えなくなる。
十分に挑発してそれなりに溜飲が下がったが、まだ足りない。ベストを尽くすのが王国貴族の矜持だとして、動きを止めたシャルテイアに歩み寄るバルザック。危害を加えられることなど考慮もしていない彼はとどめを食らわせる。
「ペッ!」
特大の痰が吐き出され、シャルティアのドレスをびちゃりと汚す。
「わっはっはっは! 品のないドレスを高貴なる我輩の痰で飾ってやったわ! 感謝するがいいぞ」
「え……?」
最初、彼女は何をされたのか分からなかった。だが、自身のドレスをまじまじ見ると汚い痰がべっとりと付いている。
「私の……ドレスが……? ペロロンチーノ様が与えてくださった物に……下等生物が痰を吐いた……の?」
先程怒りは頂点に達したと思われたが、それは間違いであった。
至高の四十一人の内の一人であるアインズの言葉に逆らうことはありえない。唯一例外があるとすれば、それは自らの創造主。生みの親たるペロロンチーノを侮辱されたシャルティアの怒りは凄まじい。
「かとうせいぶつがぁぁぁあああああああああーーーーーー!」
「シャルティア――!」
血の狂乱が発動していないにも関わらず、完全に理性を飛ばした吸血鬼。セバスたちはその姿にもはや言葉は届かぬと理解する。
おそらく止めようとすればナザリックの仲間であっても容赦はされない。
だがアインズに与えられた使命は絶対だ。セバス、ユリ、ソリュシャンは躊躇いなく命を懸ける覚悟をするが、その寸前で主にかけられた別の言葉を思い出す。
『使命は大事だが、優先すべきはお前たちの命である』
セバスは兎も角、戦闘メイドの二人では殺されかねない。悩んだ末、三人は主の言葉を忠実に守り、シャルティアの制止を諦めた。
「こおおれがああぁぁぁあああぁあああああっ! けあれすみすだああぁぁぁああああっっっ!」
怒れる吸血鬼の狂乱により、断末魔の声を上げる間もなく、男爵たちは肉塊へと変わった。
普段のシャルティアであれば苦しめて殺しただろうが、そんな冷静さも残っていなかったことは彼らにとってある意味幸運だっただろう。
ーーーー
バハルス帝国――
帝国皇帝との会談も滞りなく終わり、アインズ、アウラ、マーレはのんびりと皇城の中を散歩していた。
『アインズ様』
「……デミウルゴスか。どうした? お前らしくもなく声が震えているな」
『は……あまりにも愚かな失態故、メッセージでなく直接お会いした上で、自らの命をもってお詫びすべきなのですが……』
「待て待て! いったいどうした!? あと、勝手に死ぬことは絶対に許さんぞ! 私はナザリックの者が一人でも欠けることは望んでいない」
『こ、こんな不甲斐ないしもべにもなんという温かなお言葉!』
「とにかくまずは落ち着け。そして何があったかを報告しろ」
『ははっ、おおお落ち着いてきました……!』
「明らかに落ち着いてないだろ」
「――なるほど。シャルティアが王国の人間を皆殺しにしたか」
『すべては止めることが出来なかった私の責任。このデミウルゴスの命一つで償えるとは考えていませんが、どうかアインズ様!』
彼は失望された結果、至高の四十一人でただ一人残ったアインズまでもがどこかに去ってしまうことを恐れていた。ナザリックに属する者にとって存在価値がないと見限られることは己の死よりも耐え難いことである。
会話を聞いているアウラとマーレも顔面を蒼白にさせている。それをチラリと見てアインズは忠義の悪魔に返事をする。
「問題ない」
『は……? 』
「この結果も想定の範囲内……こういうこともあるだろうと考えていた。何故そうなったかも言わずともわかる。だから、お前が狼狽える必要はないのだ」
『な、なんと……!』
「追加で必要な人員を送る。それまでは誰も館に近づけさせるな。それと勝手に自分を罰することは許さんと皆に伝えておけ」
『ははっ! 畏まりました!』
先程までの死にそうな雰囲気から一転、一気に声に元気が戻ったデミウルゴス。
おそらく端倪すべからざるお方とでも思って目を輝かせているのだろう。
ナザリック関係者以外が見れば、配下に気を遣っていると予想は出来ただろうが、目の前に垂らされた希望の糸を前にしては最高位悪魔も飛びつかずにはいられない。また、主に対する絶対的な信頼がその言葉を疑わせなかった。
そうして
「さて、アウラにマーレよ。予想の範囲内とはいえ、やることが出来た。ナザリックに戻る必要がある故、先に貴賓室で待機しておけ。私も後から行く」
「はい!」
「わ、わかりました、アインズ様」
問題はなさそうだと理解した二人はほっとした表情で返事をする。
双子を見送った後、アインズは手近な部屋に入り、誰もいないことを確認するとおもむろに椅子に座り、思い切り頭を抱える。
「どうする? 殺した者たちを蘇生は――ダメだ。この世界で復活魔法がどのような効果を及ぼすか検証が出来ていない。それに殺されたときの記憶が残っていれば、記憶の操作も必要になるが、そちらもどこまでできるか分からない。……つい強がってしまったが、ああでも言わないと自殺しかねない勢いだったからな。アウラとマーレにも俺が狼狽えている姿なんて見せたくないし……」
あまりにも予想外の報告に、声が震えていないか不安だったが、デミウルゴスの方にまったく余裕がなかったので幸いバレることはなかった。
「落ち着け…2…心を平静にして考えるんだ…3…こんな時どうするか…5…素数を考えて落ち着くんだ…7…10…いや…違う11だ……13…17」
「なかなか斬新な精神統一だな」
「――!? ド、ドラウディロン殿。(やばい。思いっきり見られた。オレのイメージが……)」
素数を数えるのに夢中になっていたところ、声をかけられて驚く。急ぎ振り向くと、竜女王ドラウディロンが腕を組んで立っていた。
「耳がいいこともあって、たまたま声が聞こえてしまってな。どうやら計画に支障をきたしたようだな」
「い、いや……それは……」
「配下に話せないことがあるのは分かるが、ここには私しかいない。それに、計画に問題が生じたなら同盟相手には早めに相談してほしいものだ」
その言葉にわずかに迷うが、すでにバレているなら同じかと覚悟を決めるアインズ。
「………そうだな。どちらにしろ、聞かれてしまったのなら仕方ない。隠さずに話そう」
「うむ」
「うちのバカ娘がやらかしてしまって本当にすまない。貴方やジルクニフ殿に申し開きもない」
「うーむ……」
――ここで皆殺しか。これはナザリック、王国の双方がやらかしたかな。私に驚きはないが、ツアーたちは……あ、誰もそこまで気にしないか? ジルクニフにも黙っているわけにはいかんが、あいつあれで常識人だからな。そのまま伝えるとナザリックへの警戒度を上げてしまう。まあ、そこらはラナーに丸投げしよう。法国や聖王国にはバレないようにしないとなあ。
「……やってしまったことは仕方ないが、王国側の使者のすべてが全滅とは相当暴れたな」
「シャルティアにもこちらから手を出すなと言ってはいたのだが、何があったのだろうか」
「ん? そうなった経緯は聞いていないのか」
「ああ。恥ずかしい話だが、すべて私の想定内のように言わねばデミウルゴスが自害しかねなかったのでな。使者を全滅させたところまでは聞いたが、それ以上は言わずともわかる、問題ないといって抑えたのだ。後でしもべたちに話を振られたらそういう風に合わせてくれると助かる」
「わかった」
「貴族の館には誰も入れないようにして情報を封鎖してある。中であったことを知っているのはデミウルゴスたちだけだ」
「ならばこの状況を逆に利用して男爵を偽物と入れ替えるのはどうだ? 護衛の兵士たちは蘇生して問題ないだろう」
「なるほど。ドッペルゲンガーならそれも可能だな。だが、蘇生か……」
――この世界で復活魔法はどういう効果になるんだ? ペナルティや復活場所など……。
「ん? 蘇生魔法を使える者がいないのか?」
「ああ、いや。当然いるぞ。だが、蘇ったときの記憶がな」
「なるほど。たしかに死亡時の記憶は残っているからな。魔法で記憶操作は必要だろう。あと、復活時の生命力の消失だが、貴族の護衛を務める者たちなら灰になることはあるまい」
さりげなくアインズが欲しい情報を提示する女王。
「そうだな……(生命力の消失で灰になる? つまりユグドラシルのようにレベルダウンするが、それ未満の強さでは灰になるのか。これは重要な情報だな。それと魔法での記憶操作は可能というのも助かるな)」
「アインズ殿は記憶操作は出来るのか?」
「可能だ。蘇生は別の者にさせるが、そちらは私がやっておこう」
――この世界で蘇生や記憶操作を試すにはいい機会か。そう考えれば悪くはない。
「しかし、躊躇いなく偽物と入れ替える案や記憶操作を出すとはなかなか悪いな、ドラウディロン殿」
「国家元首をやっていればこの程度の謀略は珍しいことでもない」
「うむ。それもそうか」
大まかなフォローの流れが決まり、一息つくアインズ。
「ふう……何とかなりそうだな。感謝するぞ、ドラウディロン殿」
「私のことはドラウでいいぞ」
「そうか。では私のこともアインズと呼び捨てにしてくれ、ドラウ」
「うむ。――それと、先程の頭を抱えている姿を見ると、普段は気を張っているのだろう? 別に私の前では無理に支配者としての態度を取らなくともよいぞ」
「む……」
「強大な力を持つプレイヤーたちも、別に生まれながらの支配者ではなく、感性は一般人に近いと聞くからな」
「そこまで知っているのか……はあ、そうだよ。ドラウの言う通りだ。しもべたちの前では理想の支配者であろうとしていたが、本当の俺はただの凡庸な……アンデッドだ」
凡庸な人間と言いそうになるが、自身がもはや
交渉が始まる前に王国の使者全滅という事故はあったが、ボンモール男爵をドッペルゲンガーと入れ替えることで、王国の動きを誘導しやすくなるというメリットが生まれた。
偽物とバレたときに一気にナザリックの信用がなくなるが、王国に所属する人間でこれに気が付く強者はいない。とはいえ、リスクを減らすためにも入れ替えは男爵に限定した。
ーーーー
リ・エスティーゼ王国・王都――
貴族の館の空気はまるでこの世の終わりのように重々しく沈んでいた。
「セバス、ユリ、ソリュシャン。申し訳ありんせん……。何とかわたしの命だけで許してもらえないか、アインズ様に懇願してみるでありんす」
交渉が始まる前に王国側の使者を皆殺しにしてしまったシャルティアは非常に神妙な態度だ。
それにユリとソリュシャン、そしてセバスが異を唱える。
「いえ。止められなかったボクたちも同罪です」
「そうですよ。何もお一人ですべて被る必要はありません」
「罪というなら、抑え役を任された私にこそあるはず。このセバスが咎を背負いましょう」
「三人ともありがとう。でも、いいんでありんすよ。誰が一番悪いかは自分でわかっているの。けど、もし……もしペロロンチーノ様に会うことがあれば、シャルティアは最期までお慕いしていたと伝えてくんなまし」
「――!」
やらかしたことは確かなのだが、覚悟を決めた姿に言葉もない仲間たち。
「……」
デミウルゴスはその様子を離れたところから見ていたが、そろそろ良いかと思い近づいていく。その姿に気が付いたシャルティアたちはすぐさま声をかける。
「あ、デミウルゴス! ど、どうでありんす? アインズ様と連絡はついたの?」
「ええ。お言葉をいただきました」
「そ、そう。それでアインズ様はなんと……?」
「……」
恐る恐る尋ねると、悪魔は無言で眼鏡を掌で押し上げる。
「! ま、まさかわらわたちに失望してどこかに去られてしまったの!?」
「なんですと!? そんなまさか!」
「ボクたちが不甲斐ないばかりに――!」
「あ、アアアインズ様ああああああ!」
一斉に嘆き、喚き出すが、すぐさまデミウルゴスが訂正する。
「そうではありません」
ピタリと三人が止まった。
「ご安心を。アインズ様はわずかもお怒りになられていません」
「え!?」
「流石は至高の御方々のまとめ役であられる智謀の支配者です。こうなることも想定の範囲内……いえ、謙遜しておられましたが、アインズ様は十中八九こうなると予測されていたはずです」
まさしく端倪すべからざるお方――と一人で震えている悪魔。
「ならわたしはアインズ様の命に背いていないわけでありんすね!」
目を輝かせて拳を握るシャルティア。
「
「――え?」
「あくまで与えられた使命は王国の連中との交渉であり、決裂する場合は怒らせて帰すことです。皆殺しにしてしまい、それが達成できなかったことに違いはありません」
「う、うう……」
アインズは怒っていなかったが、それはあくまで結果的な話。
悪魔に天を仰がせた吸血鬼に対してデミウルゴスは怒っていた。
それでも彼は仲間思いの男。だからこそこう付け加える――
「ですが、我々に失望されたアインズ様が去られるということは避けられそうです。任務失敗によるお咎めは免れませんが、それはこのメンバーを認めた私も一緒に被りましょう」
「デミウルゴスウウウウウウ!」
感激して珍しくデミウルゴスに抱き着くシャルティア。その仲間を想う姿にセバスたちも目から熱いものを流すのだった。
デミ「シャルティアがどこまで対応できるかを試しながら、交渉が締結できれば良し、破綻しても竜女王に相談する形を取ることで、友好関係を強化する。そしていつかは実験する必要があった蘇生魔法と記憶操作までもこの機会に試す。他の人間国家に発覚した場合のリスクはあるが、当然ながらアインズ様はその対応策もお持ちのはず……ここまですべてあのお方の掌の上!」