竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか   作:Amur

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使節団(聖王国)

 魔導国――

 

 

 ドラウディロンはアインズからスレイン法国の使者に関する愚痴を聞いていた。

 

「ナザリックのシモベのような者(ニグン)が増えたのだが。どういうことなんだ」

 

「はははは。この世界での信者獲得おめでとう」

 

「いやいやいや。ただでさえシモベたちからの忠誠心や過剰な期待に精神が削られているのに、まさか法国の神官も同じようなベクトルだとは思わなかったぞ。これが俺のストレスを溜める策なら実に効果的だ」

 

「使者と謁見しただけでそれなら、スレイン法国に直接訪問したら凄いことになりそうだな」

 

「……いずれはこの世界を冒険して回るつもりだが、法国は後回しにするとしよう」

 

 信仰心の高さから、逆に神の降臨が遠くなってしまったスレイン法国。彼らがこれを知ればガッカリである。

 

「外に出るときは全身鎧姿になればいいんじゃないか? 女王だとバレないように私の冒険者スタイルもそれだぞ」

 

「なるほど。私が全身鎧でナザリック内を移動しても、シモベたちにはすぐにバレるが、法国の人間には分かるまい――分からない……よな?」

 

「流石に一般人に気付かれることはないだろう」

 

 一方でニグンなどの信仰心厚い人間には察知されるかもしれないと考える二人だった。

 

 

「ところで、ローブル聖王国からの使者についてだが」

 

「ああ。たしか聖騎士団が来るんだったか」

 

「うむ。聖騎士団団長、レメディオス・カストディオ自ら率いてやって来る」

 

「聖騎士の長か。いかにもアンデッドの天敵のように聞こえるが、どの程度の実力なんだ?」

 

「ナザリックの者でいえばプレアデスくらいかな」

 

「なるほど……」

 

 アインズとしても油断をするつもりはないが、そのレベル帯の者であれば、自身を害することはまず出来ないと安心する。

 ちなみに、本来の歴史ではこの時期のレメディオスは英雄級(レベル30前後)なのだが、この世界ではドラウディロンという超えるべき壁がいることで、すでに英雄すら越えて逸脱者の領域(レベル40~60)に達していた。

 

「頭を使うことが苦手で、感情の赴くまま行動するやつでな。謁見でも無神経なことをポロっと言うかもしれんが、悪気はないんだ。ある程度は流してやってほしい」

 

「なかなか困った奴のようだな。俺は構わないが、シモベたちが怒りだすかもしれん。暴走しないように言い聞かせておくとしよう」

 

「すまないな」

 

「ふ……。まあ気にするな」

 

 鷹揚に笑い、手を振るアインズ。

 

「その代わりというわけではないが、聖騎士団長の訪問は魔導国としてもメリットがあるかもしれん」

 

「ほう? どのようにだ」

 

「それは――」

 

 

ーーーー

 

 

 レメディオス率いる聖騎士一行は魔導国の門内にて、入国のための講習を受けていた。相手は入国管理官の一人、ナーガのリュラリュース・スペニア・アイ・インダルン。

 魔導国はじわじわと支配領域を広げ、彼のような現地の実力者を複数取り込んでいる。

 

「これで話は終わりじゃ。清聴感謝する。本来なら兵士が門まで案内するのじゃが、お主らはあの方と合流するのじゃろ? この先で待っておられるぞ」

 

「もしかしてドラウディロンのことか?」

 

「そうじゃ。なんとあのドラゴンの女王を呼び捨てか」

 

「私はあいつとは修行仲間だからな」

 

「そ、そうなのか……」

 

 あの竜女王と修行仲間とは、この聖騎士の女も自分より遥かに強い存在なのかと震えるリュラリュース。実際、今のレメディオスであれば、目の前のナーガに何もさせることなく、勝利することは可能だろう。

 

 

 聖騎士一行が門を出てエ・ランテルの街に入ると、見知った声がかかる。

 

「暴れ出したりしなかったようだな、レメディオス」

 

「お前は私を何だと思っているんだ、ドラウディロン」

 

 開口一番に揶揄ってきたのは竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルス。

 その姿は普段の小柄な少女のものではなく、成人女性の体格で、頭に二本の角を生やし、背には皮膜のある翼、竜の尻尾もある。

 

「珍しいな。今日はその姿なのか」

 

「まあな」

 

 半竜半人の姿にも聖騎士団長に戸惑いはない。竜女王との手合わせで、すでに何度も見ているからだ。

 

「ドラウディロン・オーリウクルス女王陛下なのですか!?」

 

「グスターボはこいつの第二形態を知らなかったのか?」

 

「第二形態――!? いえ、初めて見ます」

 

 レメディオス以外の聖騎士と鍛錬をすることもあるが、副団長を含めて女王の変身を見たことがある者はいなかった。団員たちがややざわつくが、団長が落ち着いているので、すぐに沈静化する。

 

「では宿に行くか。すでに目星は付けてある」

 

「助かるぞ。ありがとう」

 

「申し訳ありません、女王陛下。本来、他国の国家元首に案内していただくなどありえないのですが……」

 

「気にするな。私が勝手にやっているのだ」

 

 

 フットワークが軽い女王が案内したのは高級宿屋、黄金の輝き亭。

 部下たちは休ませているが、団長のレメディオスは副団長と共にドラウディロンと明日の謁見に向けて話し合いをしていた。

 

「思ったほど元王国の民たちに混乱は見られないようだな。入国時の講習でアンデッドやナーガが出てきたときは、もっと化け物が闊歩している国かと思ったが」

 

 都市内を歩いてきた感想を述べるレメディオス。

 

「一気に変えるのでなく、少しずつ人間以外の種族を増やしているからだろう。共存可能な姿を見せて、徐々に意識改革をしているらしい。一部の亜人や異形種と協力関係にある聖王国の者からすれば意外でもないのではないか?」

 

「ん~まあそうだな」

 

「しかし、魔導王がアンデッドだと知れば、民たちの反応も変わるのではないでしょうか」

 

 大きな騒動が起きることを懸念するグスターボ。

 

「そのあたりは法国の協力も得て、混乱を最小限にするつもりらしい」

 

「法国ですか? ……たしかにあの国が保証するならある程度は民たちも納得するかもしれませんね」

 

「ところで、レメディオス。正式な使節団を出したということは、聖王国は魔導国を国家として認めるということだよな? それなら、外交も得意な妹のケラルトが派遣されると思ったが、何故お前が来ることになったんだ? あまり他国のことに口は出したくないが、どうも疑問でな」

 

 ドラウディロンから聖王女カルカ・ベサーレスに魔導国――つまりナザリック――の脅威は対応マニュアルと共に教えてある。その上で、交渉に長けた妹ではなく、暴力担当の姉が派遣されたことに怪訝な顔だ。

 

「あ~、それは、あれだ。そう、あれだよ」

 

 あれと言いながらそれ以上が出てこないレメディオスは副団長をチラチラ見る。

 

「――おほん。女王陛下。私が代わりに説明してよろしいでしょうか?」

 

「ああ。頼む」

 

 レメディオスが部下に頭脳関係を丸投げしていることを知っているドラウディロンに否はない。

 

「他ならぬ女王陛下だからこそ、我が国の内情をお教えしますが……そもそもこの使節団を派遣することになった理由として大きいのが、先程も名前が挙がったスレイン法国です」

 

「……そうか。帝国、竜王国に続いて、魔導国を国家として認めるとの声明を出したからか」

 

「おっしゃる通りです。女王陛下もご存じの通り、聖王国と周辺国家の関係は、竜王国、法国、王国は友好。帝国と魔導国は敵国とまではいきませんが、非難対象です」

 

 アーグランド評議国は遠く離れていて交流もほぼないため、割愛している。

 

「後者は戦力や労働力としてアンデッドを利用しているからだな」

 

「はい。特に魔導国は強大なアンデッド兵団を所持しています。アンデッドを嫌悪する者の多い聖王国としては、いずれ法国と協力しての戦争すらあり得ました」

 

 ドラウディロンからカルカへの忠告もあり、彼女の即位中に戦争が起こる可能性は低かったが、アンデッドの軍勢に占拠されたエ・ランテルを解放すべしとの声が上がるのは自然なことであった。

 

「しかし、そこに今回の法国の対応。これには上層部も国民も驚愕しています」

 

「周辺国家最強であり、立場的に最も近いと考えていたスレイン法国が、早々に魔導国を国家として認めたことに、混乱しているわけだ」

 

「そういうことです。これについては会議が紛糾しました。法国は洗脳された、おぞましい手段で脅されている、ただ純粋に魔導王に心酔したなど、結論が出なかったのです。そこで、表向きは友好の使節団を送り込み、魔導国内の視察、あわよくば魔導王と対面してその善悪を見極めるべし、となりました」

 

「なるほど。あくまで魔導国が悪がどうかを見定める目的故に、交渉に長けた妹ではなく、直感に優れる姉を選んだか」

 

「それにケラルト・カストディオ神官団団長は我が国唯一の蘇生魔法の使い手。王族を除けばもっとも重要な存在です。そんな彼女を不穏な魔導国に派遣するわけには参りません」

 

「確かにな。我が国には蘇生魔法の使い手がいないから、スカウトしたいくらいだぞ」

 

「それはご容赦ください……」

 

「ダメだぞ、ドラウディロン! ケラルトは渡さんぞ!」

 

 竜女王の冗談(半分本気)を真に受けたレメディオスがぷんすかと怒る。

 

「逆に団長であれば、万が一何かあっても魔導国を脱出して、我が国に情報を持ち帰ることが出来ますから、出し惜しみせずに派遣が決まりました」

 

「ふーむ……」

 

 ――たしかに相手がそれなりの連中なら分かるんだが、魔導国が本気で捕まえる気であれば、いまのレメディオスでもどうしようもないぞ。だが、カルカやケラルトはともかく、重臣たちがそれを信じることはないか。いまのあいつは逸脱者級だからな。せめて王国との戦争を直に見ていれば違ったかもしれんが。

 

 ここにきてレメディオスが本来の歴史以上に強くなったことが、聖王国上層部の目を曇らせていた。なにせ今の彼女は間違いなく、かの国の歴史上で最強の存在なのだから。

 

「事情は理解できた。であれば、これ以上は聞かないが、私から改めて言っておくことがある」

 

 ドラウディロンがレメディオスに向き直る。より真剣な空気を感じて、グスターボも口をつぐむ。

 

「確かに魔導王アインズ・ウール・ゴウンはアンデッドだ。だが、一度友誼を結んだ相手を裏切るような者ではない。これだけは理解しておいてほしい」

 

 その言葉にしばし無言となるが、考えがまとまったのか、竜女王の目を真っすぐ見つめて返答する。

 

「聖騎士としてアンデッドの王など信用できるはずがない。だが――」

 

「だが?」

 

「ドラウディロンのことは信用している。だから、お前がそう言うのであれば、先入観にとらわれずに、一個人としての魔導王を見極める努力はしてみようと思う」

 

「おお、あの団長が! 成長しましたね!」

 

「なんか私を馬鹿にしていないか? グスターボ」

 

「いえいえそんな」

 

「ふ……そうか」

 

 昔のレメディオスであればまず言うことはなかった言葉に、満足気に微笑む女王。

 

 

 

 ドラウディロンと聖王国一行は魔導国におけるアインズの居城を訪れていた。

 

 そこは王城とはいっても、エ・ランテルに元からあった都市長の館を改造したもので、一国の王が住むにしては小さな住居だった。

 その建物を見て聖騎士たちは拍子抜けしたような、やや嘲るような空気を出しそうになるが――

 

 ゴゴ……!

 

 ドラウディロンは ちからを ためている。

 

 半竜半人の竜女王から漂う不穏な気配に顔を青くし、すぐに気を引き締めた。無意識に身体が反応したのか、レメディオスですら顔を引きつらせ、迂闊なことを口にすることはなかった。

 

 ――やれやれ。アインズはああ言ってくれたが、迂闊な態度は取らせないに越したことはない。謁見の間に行くまで目を光らせておくか。せっかくのレメディオスの決意が、うっかりで台無しにならないように、多少強引でも止めねばな。

 

 ドラウディロンが拳を握りこんでいると、メガネをかけたメイドが出迎える。

 

「ようこそいらっしゃいました。竜王国のドラウディロン・オーリウクルス女王陛下、聖王国の聖騎士団の皆様。私はアインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下にお仕えしているユリ・アルファと申します。役割としては戦闘メイドたちのリーダーを務めております」

 

「出迎えに感謝する」

 

「ご丁寧にありがとうございます。私はローブル聖王国の聖騎士団団長、レメディオス・カストディオです。本日は私どものためにお時間を作っていただき、誠にありがとうございます」

 

 一言、感謝の言葉を述べただけの竜女王に対して、レメディオスは普段の彼女からは想像できない程、丁寧な態度で返す。

 そう、アホの子と思われている――間違いではない――レメディオスだが、要職にある者として、ある程度の礼儀作法は弁えていた。頭に血が上れば、その礼儀も行方不明になるが、普段はそこまで傍若無人ではない。

 

 

 謁見の間に進んでいく間、グスターボが世間話としてユリに疑問を投げかける。

 

「ユリ・アルファ殿は戦闘メイドとのことですが、聞いたことのない役職ですね。魔導王陛下たちは転移事故でこのあたりに来たとのことですが、元いた地では当たり前だったのでしょうか?」

 

「いえ。私どもは拠点であるナザリック地下大墳墓ごとこの地に転移してきましたが、転移前もナザリック以外では聞いたことがありません」

 

「そうですか」

 

 それを聞いたレメディオスが怪訝そうに呟く。

 

「墳墓にメイド? 何というか似合わ」

 

 ゴッ!

 

 凄い音がしたのでユリが振り向くと、何故か聖騎士団団長がうつ伏せで倒れていた。

 

「どうされました!?」

 

「どうやらレメディオスは疲れているようだ。そうだな? 副団長」

 

「は、はい。女王陛下のおっしゃる通りです」

 

 グスターボが声を震わせながら、ドラウディロンの言葉を肯定した。そして目の前で起こったことを分析する。

 

 ――おそらく……おそろしく速い拳。私ではまったく見ることが出来なかった。元から怪物のような強さの団長でしたが、最近はさらに実力に磨きがかかっていた。そんな怪物を超えた怪物を一瞬で沈めるとは。団長が竜女王をライバル視するわけか。

 

「今日の謁見は副団長様にお任せした方がよいのではありませんか?」

 

 心配そうにしながら、ユリが提案してくる。

 どうやら純粋な善意から出た言葉のようで、幸い、聖騎士団長の危なげな発言には気が付かなかったようだ。

 

「そうだな。本人に聞いてみよう」

 

「う、うーん……。私はいったい……?」

 

「話していたら急に寝てしまったぞ」

 

 目を覚ましたレメディオスにしれっと嘘をつく竜女王。

 

「え、そうなのか?」

 

「疲れがたまっているのだろう。病欠ということで、魔導王との謁見は副団長たちに任せておいたらどうだ?」

 

「いやそれはダメだ! これは聖騎士の長として為すべきことなのだから!」

 

「そうか。どうやら本人はやる気満々らしいぞ、ユリ・アルファ殿」

 

「分かりました。けれどご無理はなさらないでください」

 

「気遣い感謝します。けれど私は大丈夫です」

 

 

 

 そうして、レメディオスが失言しそうになるのを察知するや否や、ドラウディロンが目にも止まらぬ速度で気絶させるというやり取りを何度かしつつ、一行は謁見の間までやって来ていた。

 逸脱者の領域まで達したレメディオスを一瞬で撃沈するには変身前のドラウディロンではやや厳しい。そこで聖騎士たちと合流後はずっと半竜半人になっているのだった。

 

「なんだか鎧が痛んでいるような……? こんなにボコボコではなかったと思うんだが」

 

 あちこちが強い力で殴られたように凹んでいる鎧に首をかしげるレメディオス。

 

「だ、団長の鎧も亜人たちとの長い戦いを潜り抜けてきましたから、相応に痛みもするでしょう。元からその程度の凹みはありましたよ、ええ」

 

 グスターボ必死のフォローが功を奏し、そうだったかなと取り敢えず納得するレメディオス。

 

「やはり疲れているのかな。身体のあちこちが痛い気もするし」

 

「疲れている証拠だな。なあ副団長?」

 

「は、はは、はいっ! (あなたがボコボコにしたんですが……。危なそうな発言はガツンと止めると聞いてはいたが、この女王怖い)」

 

 先導するユリも流石に何かおかしいと感じているが、本人たちが問題なさそうなので深くは聞かなかった。

 

「この先が謁見の間になります」

 

 ここまでは同行していたドラウディロンだが、他国の者としてそこで別行動となる。

 

「ではまた後でな。私も用があるから、城内にはいるが」

 

「ああ。今日はありがとう、また後で」

 

 

ーーーー

 

 

 アンデッドの儀仗兵が掲げる国旗の下を進みながら辿り着いた謁見の間。

 

 泣いているような怒っているような仮面を付けた、魔導王アインズ・ウール・ゴウンが玉座に座りながら聖騎士たちを歓迎する。

 隣には黒い翼を持つ絶世の美女――魔導国宰相アルベドが控えている。

 

 玉座の間も建物と同じく、一国の王が出迎えるには簡素なものだった。だが、玉座そのものや、後ろにある国旗、なにより魔導王の纏う服はいままで見たどんな王侯貴族のものよりも豪奢であった。その落差が却って彼の存在感を際立たせている。

 

「私が魔導国の王であるアインズ・ウール・ゴウンだ。はるばる聖王国からここまでご苦労だったな。我が国は貴殿らを歓迎しよう」

 

「ありがとうございます。アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下」

 

 

 

 その後、謁見は当たり障りのない言葉の応酬で進んだが、ついにレメディオスが訪問の肝に当たる部分に切り込む。

 

「ところで、魔導王陛下に一つお聞きしたいことがあります。よろしいでしょうか?」

 

「構わない。国家機密に関わること以外であれば答えよう」

 

 アインズは鷹揚に許可を出す。

 

「ありがとうございます。……魔導国の国是。『あらゆる種族が平等に繁栄を謳歌できる理想郷』とのことですが、この種族とは文字通り、人間種・亜人種・異形種のすべてということでしょうか?」

 

「その通りだ」

 

「我が国でも海巨人(シー・ジャイアント)やマーマン、またはドラゴンと取引をしています。ですが、明らかに相容れない存在はいるでしょう。例えば――」

 

「アンデッドなど――か?」

 

「……」

 

 発言を先読みして割り込む魔導王。

 それに対してレメディオスは無言だが、アルベドからの気配がやや剣呑なものに変わっている。

 

「どうやら聖騎士団長殿もご存じのようだな。私がどのような種族かを」

 

 そう言うとアインズはおもむろに仮面を外す。当然現れるのは頭蓋骨がむき出しの顔。

 確かにアンデッドだが、聖騎士たちが過去に見てきたアンデッドとは明らかに違う。おぞましさはなく、逆にどこか神々しさすら感じる気配、背からは黒い後光が差している。

 

「――!」

 

 その姿にグスターボたち騎士団員は呑まれてしまっているが、彼らの団長だけは気圧されつつも、赤い光が灯る眼窩を真っすぐに見つめ返す。

 

「見ての通り、私はアンデッドだ。当然ながら、国是である『平等に繁栄を謳歌するあらゆる種族』の中にはアンデッドも含まれる。――聖騎士としては信用できないかね?」

 

「それは……」

 

 言葉に詰まるレメディオス。

 

「ふ……聖騎士の長は腹芸が苦手のようだ。ならばこうしてはどうか? カストディオ殿をはじめとした聖騎士団員が何名か、魔導国に留まればいい。我が国は客分として歓迎しよう。そして私の統治を自らの目で見極めるのだ」

 

「……よろしいのですか?」

 

「構わない。私としても痛くもない腹を探られたくはないのでな。お互いの今後を考えれば双方ともにメリットのある話だろう」

 

 魔導国としても、法国に加えて聖王国の協力も得られれば、民たちの混乱は更に小さくて済むという利点がある。

 そこに頭脳担当の副官が発言の許可を求める。

 

「失礼します、魔導王陛下。私は聖騎士団副団長、グスターボ・モンタニェスと申します。発言をお許しください」

 

 軽く頷き、発言を促すアインズ。

 

「レメディオス・カストディオは聖王国の最高戦力です。いつ亜人たちの侵攻があるか分からない現状で、長期間、国を空けるわけには参りません」

 

「それについては私に考えがある。――デミウルゴスよ」

 

 アインズの呼びかけから程なくして、眼鏡をかけた悪魔が入り口から姿を現す。傍らにレメディオスの記憶にない人間を一人、伴っている。

 

「……悪魔」

 

「ふっふっふ。敵対していない悪魔と会うのは初めてかな? 当然ながら魔導国では悪魔も天使も等しく扱われる。彼は我が国の外交と軍務を一手に担うデミウルゴスだ」

 

「お見知りおき下さい。聖王国の皆様」

 

 恭しく礼をする伊達男は、次に隣に立つ神官風の人物を紹介する。

 

「そして、こちらの方はスレイン法国よりの友好使節団団長、ニグン・グリッド・ルーイン殿です」

 

「ニグンと申します。初にお目にかかります、聖騎士団の皆様。カストディオ団長のご勇名はかねがね伺っておりました」

 

「ニグン殿が今回の件で協力をしてくださいます。つまり、戦力の穴をスレイン法国が埋めてくれるというわけです」

 

「なに? それは有難いが……何故法国が?」

 

 ローブル聖王国とスレイン法国は隣国ではあるが、間にアベリオン丘陵が広がっている為、それほど交流は盛んではない。

 

「それは無論、偉大なる魔導王陛下の真実を世に知らしめるためです! いまは誤解をされているかもしれません。ですが、聖騎士の方々もしばらくこの都市で暮らせば、陛下のご威光を感じ、過去の自分を恥じることになるでしょう!」

 

「は、はあ……」

 

 隣のデミウルゴスはうんうんと頷いているが、レメディオスたちは唐突に出てきた男のハイテンションに困惑気味だ。

 

「ええと、失礼ながらニグン殿の行動はスレイン法国の方針と一致しているのでしょうか?」

 

 グスターボが腫れ物に触る様に慎重に尋ねる。

 

「無論。各神殿の神官長たちも同じ考えです。私は全権を委任されております」

 

「そ、そうですか」

 

 はっきりと言い切られて大人しく下がる。

 

「更に竜王国も移動手段として竜車を出したりなど、協力してくれるのだろう?」

 

 そう言いながらアインズが目をやると、竜女王も入室してくるところだった。

 

「ああ。微力ながら我が国も力を貸そう」

 

「ドラウディロン……」

 

 その姿を見ると、レメディオスがどこか安心したような顔をする。気丈にふるまってはいるが、強力なアンデッドに囲まれた状況は彼女をしてもやはり緊張していたのだろう。

 一方、副団長はドラウディロンの姿を見て思わずビクッとしたが他意はない。

 

「おお! ドラウディロン・オーリウクルス女王陛下! 共に魔導王陛下にご協力して、理想世界を築き上げようではありませんか!」

 

 陽光聖典の隊長として、人類の脅威への討伐作戦にて竜女王と共闘したこともあるニグンは更にテンションを上げる。

 そんな法国の神官を自然とスルーしてアインズが提案する。

 

「魔導国への長期逗留や他国の部隊を国内に入れるとなれば、この場では判断がつかないだろう。返事は後日で構わない」

 

「ありがとうございます。魔導王陛下」

 

 

 こうしてその日の謁見は終了することとなった。

 ドラウディロンの去り際にさりげなくアインズが片手を上げて、挨拶をする。

 

「ふっ……」

 

 それに対して竜女王は軽く笑って返すのだった。

 そのやり取りにアルベドがピクリと反応したが、二人とも気が付かなかったことにした。

 




本日のデミさん「玉座にいるまま、遠く離れた二か国の動向を意のままに操るとはさすがはアインズ様! スレイン法国とローブル聖王国。国家の方針から友好関係を結ぶのに最も時間がかかると思われた二国を逆に国内の統治に利用するとは……!ここまでの流れが全てアインズ様の掌の上だったのですね……!」

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