竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか 作:Amur
ナザリック地下大墳墓――
アルベドは階層守護者たちを招集して緊急会議を開いていた。
「外に出ていた守護者まで呼び戻すとは、よほどのことがあったようですね。アルベド」
「ええ。由々しき事態よ」
緊張感を漂わせるデミウルゴスたちをゆっくりと見渡して守護者統括は口を開く。
「竜王国の女王。これがとんだ曲者だったわ」
「ドラウディロン? 竜女王がどうかしたのでありんすか」
「どうもこうもないわ! 警戒するべきはイビルアイとかいう小娘だけかと思ったけど、あの女もアインズ様の妃の座を狙っている可能性があるのよ!」
この時点でデミウルゴスの顔からやる気がなくなっていた。
他の守護者たちも、いつものやつかと思いつつも、まだ付き合ってあげるようだ。
とりあえずアウラが質問を投げる。
「具体的に何かあったの?」
「アインズ様の正妻としての勘よ」
「……」
つまり具体的には何もなかったとも言い換えられるが、あまりにも堂々と言い切るので、アウラは黙ってしまった。
ちなみに正妻部分にはもはやシャルティアすら突っ込まない。
「以前ハ女トシテノ目ハ確カト褒メテイナカッタカ?」
「ええ。私も迂闊だったわ。あのときは初対面だからああいう態度だったかもしれないけど、アインズ様の偉大さの一端にでも触れてしまえば、惹かれない女はいないということね」
「考え過ぎでありんすよ。ドラウディロンはアインズ様と仲が良いし、わらわも個人的に嫌いではありんせん。機会があれば閨に誘ってもいいと思っていたくらいよ」
「あんたの変態趣味は置いておいて。そうなのよね。アインズ様のあの女への態度もだんだんと親密なものに変わってきているわ。早めに何とかしないと……」
そこで、それまで黙っていたデミウルゴスが、やれやれと話に加わる。
「シャルティアの言う通り、考え過ぎ――というよりアインズ様の竜女王に向ける感情はそのようなものではないよ。至高の御方々が去ってしまわれたことで、アインズ様は唯一無二の絶対者となられた。しかし、至高なる御方にも支配者の孤独というものは存在していたのでしょう。だからこそ、対等な友を求めていらっしゃるようです」
「それが竜女王だと言うの?」
「そういうことだね」
例えアインズが望んだとしても、ナザリックのシモベではそのような立場にはなることが出来ない。聡明な彼はそのことを十分に理解していた。
「アルベドが危惧するようなことはないと、分かってもらえたかな?」
「……そうね。完全に気を抜くことはないけど、外の女の警戒に時間を割くより、私自身がアインズ様を振り向かせる方に力を入れるわ。まだまだアピールが足りないようだしね。今後はもっと積極的にいかないと」
決意を新たにする守護者統括にデミウルゴスは満足気に頷く。内心で今でも十分にアピールしているのではと考えたが、口には出さなかった。
ーーーー
竜王国――
「どこよりも安全なはずの我がナザリックで、最近怖いことが起こる様になってな」
「天下の不死者の王が怖いこと? 具体的になにがあったんだ」
意外な言葉に、ドラウディロンが首を傾げると、アインズがそのことを思い出しながら語りだす。
「まず部屋の私物が気が付いたら減っているだろ、その代わりに明らかに女物の私物が置かれている。メイドたちが完璧に整えてくれているベッドが少し荒れていると思えば、女性のものらしき匂いがそこから漂ってくる。他には」
「ああ、いやわかった。もういい」
もう十分だと手を振ってそれ以上聞くのを止める。
「それってたぶんというか間違いなく、玉座の横が定位置のサキュバスだろう」
「やっぱりそうだよな。本人に問いただした結果、爆発しても困るからあえて触れてはいないんだが……」
アルベドのアピールは完全に逆効果になっていた。
「前はもう少し、さり気なさを装っていたのだが、最近はこれ見よがしな身体的接触も増えてきてな。いったいどうしたというんだ……」
ここに避難して愚痴を言う頻度が増えるごとに、それらのアピールも過激になってきているが、今のところ、その悪循環を止める者はいなかった。
「気晴らしに冒険にでも出てはどうだ? 私も付き合うぞ」
「おお――それもいいな。だが、建国してすぐに王が不在というのもよくない気がする」
「それならば影武者を残していけばいいのでは? ナザリックにそういうのが得意な者はいないのか?」
「……いるにはいる。姿だけでなく、ある程度は俺の能力もコピーできるやつが」
「適任じゃないか」
「ただなあ……。そいつは俺が創造したシモベなんだが、個人的にあまり外には出したくないんだ。その、見た目というか言動がちょっと問題のやつでな」
「けれどそいつ以上の適任はいるのか?」
「残念ながらいないな。……まあ仕方ない。パンドラ――パンドラズ・アクターという名だが、あいつもたまには外に出してやるべきではある。いい機会と思うべきか」
こうして非常に優秀だが製作者に黒歴史扱いされているドッペルゲンガーが動き出すことが決まった。
ーーーー
大陸中央・深淵なる軀の拠点――
一般的に知性を持つ強力なアンデッドといえばエルダーリッチだが、それが膨大な魔力を得た結果、より上位の存在になることがある。
その名はナイトリッチ。
第六位階以上の魔法、高い知性、多数の特殊能力を持つ究極ともいわれるアンデッドだ。単体で高位のドラゴンと渡り合い、小国を滅ぼすことも可能とされる存在だが、そんなナイトリッチが三体も集まり、会合を開いていた。
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国? 聞いたことのない国ですな」
クネヴィラの疑問の声に、リーダー格のバネジエリ・アンシャスがより詳細な情報を教える。
「最近になって大陸の最北西に建国された国でな。トップはアンデッドの魔法詠唱者らしい」
「アンデッドが国家元首とはね。あのあたりだとスレイン法国が黙っていないんじゃないかしら?」
紅一点のグラズン・ロッカーがアンデッドの仇敵とも言える国家の名前を出す。
「どうやらスレイン法国も国家として認めたらしい。なにか裏取引でもあったのかもしれぬ」
「そうなのね。しかし、バネジエリ殿はそんな辺境の話をよく知っているわね」
「新たに組織に加わったあやつ――デイバーノックからの情報だ」
「ああ。エルダーリッチごときの身で『不死王』と呼ばれていた彼ね。うふふ……滑稽よね」
「そう言ってやるな、グラズン。あやつもエルダーリッチにしてはそれなりだぞ。冒険者共の使う難度であれば70前後(レベル23~25)といったところか。だからこそ下僕ではなく構成員として認めた」
「なるほど。冒険者でいえばオリハルコンからアダマンタイト級の実力はありますな」
年を重ねたナイトリッチである彼らは全員が難度にして160を超える。多少強力なエルダーリッチが不死王を名乗っていれば失笑するのも当然と言えた。
「それでその魔導国とやらの王はどの程度の力量なのかしら?」
「デイバーノックは会ったことがないので詳細は不明らしいが、戦争で第三位階の火球より上位の魔法を使った可能性が高いとのことだ。よほど己の魔法に自信があるのだろう。魔導王を名乗っている」
「ご大層な名前ですが、第四位階以上の使い手となれば、そやつもナイトリッチかもしれませんな」
「バネジエリ殿はその者を仲間に誘うつもりなの?」
「いや、国を持っているとなれば目立ち過ぎる。魔導国から接触を図ってきたときは考えるが、そうでないならば放置がいいだろう」
「デイバーノックですら、我らに接触できたのです。魔導王とやらが【深淵なる軀】のことを知っている可能性はありますな」
「下手にウロチョロされたら面倒ね。もしその存在が不利益になるならどうする?」
「決まっている……滅ぼすだけだ。気の毒だが、せっかく建国した新しい国ごと消えることになるだろう」
「おお、怖い怖い。バネジエリ殿だけは敵に回したくないわね」
深淵なる軀のナイトリッチたちのレベル
クネヴィラ…レベル54
グラズン・ロッカー…レベル56
バネジエリ・アンシャス…レベル60
いつも感想に評価、誤字報告をありがとうございます。
次話かその次から最終章の予定です。