竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか 作:Amur
大バハルス帝国・皇城――
「よし。次の案件は何だ?」
「へ、陛下……。少し休まれてはいかがでしょうか?」
明らかに疲労でげっそりしている皇帝ジルクニフに、見るに見かねた秘書官のロウネが休むように促す。
「そうはいくか。リ・エスティーゼ王国を併合したことで、仕事の量は2倍どころではなくなったのだ。一日や二日の徹夜ぐらいで休んではいられん」
「いえ、陛下。もう徹夜は三日目です」
「……そうだったか。時間の感覚も曖昧になってきているな。流石にこれはマズイな」
「はい。陛下が倒れては、それこそ帝国が傾きます」
腹心の秘書官の言葉に鮮血帝はしばらく考えこみ、決断する。
「……やむを得んか。魔導国から例の者たちを借りるとしよう」
「魔導国ということはアンデッド――エルダーリッチを呼ぶのですか!?」
「お前の言いたいことは分かる。エ・ランテルではそれなりに馴染んできたようだが、帝国内、それも首都にアンデッドを入れるなど、反発は確実だと言うのだろう」
「はい」
「いきなり各省庁に派遣しようとは思わん。まずは私の補佐として数体ほど借りる」
「数体だけですか。それで働きぶりを確認して、良ければ数を増やすわけですね」
「いいや違う」
「え?」
予想外の否定の言葉に疑問の声を上げるロウネ。
「私が今までアンデッドを借りなかったのはお前たちが懸念している理由とは異なる。あの魔導王が太鼓判を押すアンデッドが暴れるとは思っておらんし、能力的にもエルダーリッチは非常に優秀だろう。だが、逆にその優秀さ故に今まで借りなかったのだ」
「あ、もしや人間の仕事を奪ってしまうからですか?」
察しのいい秘書官は皇帝の考えを即座に読み取る。
「そういうことだ。あまりに優秀過ぎると人間の官吏が不要になってしまう。そして、一度、それほど優秀な者で仕事を回してしまうと、もはやいなかったころには戻れんだろう」
「……」
「だが、背に腹は代えられん。どうやら自分で考えていた以上に疲れているようだからな。私が過労死しないで済むレベルで仕事を手伝ってもらうとしよう。すぐに手配してくれ」
「畏まりました」
極力、影響を少なくしたいジルクニフだが、この後、派遣されてきたエルダーリッチの優秀さに感動して追加の人員を要請してしまうのだった。
こうしてアインズ・ウール・ゴウン魔導国のアンデッドレンタル業は今日も顧客を増やしていく。
「そういえば、ランポッサはどうしている? ないとは思うが、不穏な動きはしていないな?」
「はい。元国王は非常に大人しくしています」
「まあそうだろうな。いまさら反旗を翻すはずもない。哀れな元王だ。余計なことをしないようなら、今の生活を継続させてやれ」
「はっ。畏まりました」
王をやっていた頃のあいつも今の自分みたいだったのかなと、当時のやせ細ったランポッサⅢ世の姿を思い出すジルクニフ。
そんな主を見ながら、ロウネは何とも複雑そうな顔をして黙っていた。
「……(言えない。今のランポッサ殿は皇帝陛下より、よほど生き生きとしているなど)」
ーーーー
大陸中央・深淵なる軀の拠点――
ドラウディロンとアインズは支配した魔法戦士のアンデッドに案内させて、深淵なる軀の幹部の拠点を訪れていた。
「こちらが深淵なる軀の内陣――幹部の一人である、グラズン・ロッカー殿の拠点です」
「よし。ではお前が先に入れ。私とドラウはそれについて行く」
支配下に置いているので裏切ることはないが、拠点にしかけられた罠を警戒して魔法戦士を先行させる。
「畏まりました。――ご主人様。私がいればまずは警告があると思われますが、ガーディアンから攻撃された場合はいかがいたしましょう?」
「まだ組織そのものと敵対しているわけではない。やり過ぎないように対処しろ」
「はっ」
今後、大陸を冒険していくなら、いずれは他の深淵なる軀のメンバーと今回のようなアイテムの取り合いになる可能性がある。であれば余計な諍いを避けるため、今のうちに面識を持っておく方がよいとの結論となった。
目の前の魔法戦士を支配したこと(一応正当防衛)が組織への敵対と判断されれば滅ぼすしかないが、数百年生きている魔法詠唱者の知識は有用なため、友好的な接触が出来ればそれに越したことはないとアインズたちは考えているのだった。
「そういえばドラウはナイトリッチを知っていたようだが、会ったことがあるのか?」
「いやないな。死者の山に棲むドラゴンのナイトリッチ、クファンテラ=アーゴロスをスカウトしようか考えたことはあったが」
「ほう、ドラゴンのナイトリッチか。スカウトはやめたのか?」
「我が竜王国の五色の魔竜の一頭に考えていたが、私の黒色と被りそうだったのでやめた」
「え……そんな理由?」
警戒は怠っていないが、傍目からは緊張感のない会話をしながら拠点に侵入する二人。
だが、案内した魔法戦士の知識と異なり、グラズン・ロッカーの拠点には誰一人いなかった。
「何十体ものエルダーリッチや強力なアンデッドが守っていたはずなのですが……」
「私が支配している
「しかし、このあたりでは圧倒的な強者のナイトリッチが配下を連れて全力の逃走というのも不可解だ」
「ううむ……。情報が少なくて何とも言えんが、少々気味が悪いな」
「そうだな」
首をひねって考えるアインズとドラウディロンだが、原因らしきものは思い当たらない。
それを見ながら、ここまで案内してきた魔法戦士が恐る恐る声をかける。
「――あの、ご主人様たち。私はどうなるのでしょう?」
できれば滅ぼさないでほしいと願うも、完全に支配されている現状では用済みと言われればそこまでである。
「深淵なる軀の幹部と会うまでお前の処遇は保留だ。すぐに滅ぼすことはないから安心しろ」
「ははあっ。ありがとうございます!」
アインズの返答にしばらくは生き延びられそうだと理解した魔法戦士は、頭を下げて感謝の意を表した。
ーーーー
アゼルリシア山脈――
アダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇はアゼルリシア山脈で採掘できる希少鉱物の入手依頼を受けていた。
「さあ、今日も張り切っていくわよ!」
リーダーのラキュースを先頭に意気揚々と山を進んでいく。
リ・エスティーゼ王国がバハルス帝国に併合されたことで、元王国所属の冒険者たちは、帝国所属になるか、他国に流れるかの選択を迫られた。
ラキュースの実家は王国貴族だったが領地運営は堅実で、皇帝ジルクニフから厚遇を約束されたこともあり、大人しくバハルス帝国に従った。その中でランポッサ王の助命嘆願や蒼の薔薇を帝国に取り込みたい皇帝の思惑などが交錯し、結果的にラキュースたちは帝国所属にて冒険者を続けているのだった。
「ラキュースも元気になって良かったぜ。一時期はかなり落ち込んでいたからな」
「鬼の目にも涙だった」
王国が併合された直後の彼女の様子を思い出すガガーランとティア。国家への帰属意識が薄い冒険者ではあるが、王国貴族だったラキュースは例外的に愛国心が強かった。だからこそ、しばらくは意気消沈していたが、今では冒険に参加できるくらいまで気力を取り戻している。
「目指すは南の都市、フェオ・ライゾよ。やっぱり鉱物のことはドワーフに聞くのが一番よね」
「そうだな。クアゴアも対価を払えば教えてくれるだろうが、最初は無難にドワーフがいいだろう」
イビルアイが名前を挙げた
クアゴアたちが輸出するのは主に山の幸だが、中でも“黒い宝石”と呼ばれる貴重なキノコは人間国家でも人気で、バハルス帝国皇帝ジルクニフも好物だという。
「クアゴアか。少数が竜王国や魔導国にいるらしいけど、会ったことはないわね」
「基本は地底生活の種族だからな。そうそう地上の住人とは接点がない」
「フェオ・ライゾまで大きな障害はなかったよな? いや、この山脈自体が油断できない地だけどよ」
「そうね、ガガーラン。首都のフェオ・ジュラに行くには天然の要害を越える必要があるけど、フェオ・ライゾなら大丈夫よ」
「この山で最大の脅威は
ティナが首からぶら下げたペンダントを確認する。
言うまでもなく、竜王国女王ドラウディロンが作らせた物だが、思ったほどは売れていなくてガッカリしているとか。竜女王が考えていた以上に危険なアゼルリシア山脈に入ろうとする人間は少なかったからだ。
「白き竜王を象ったそのペンダントは
「店で買うときに聞いたら、確約は出来ないけど、たぶん見せたら逃げていくと言っていた」
本来の歴史では
そのため、オラサーダルクを象った装飾品は彼を恐れる巨人たちを委縮させる効果が期待出来た。
「……」
ある程度山を登って来た蒼の薔薇。
足を止めて休憩している中で、仲間の吸血鬼が東――やや南東の方をじっと見ているのに気が付いたラキュースが、怪訝に思って問いかける。
「どうしたの? イビルアイ」
「ん?」
「いや、珍しく物思いにふけっているようだったから」
「失礼な奴だな。それだと私が普段から何も考えていないみたいじゃないか。……別に何でもないさ」
「そう? それならいいんだけど」
心配するラキュースに何でもないと言葉を返しながらも、今日の彼女は自分が少しおかしい自覚があった。
何故か滅んだ故郷のある方角――大陸中央部が気になり、気が付けば東を眺めているのだった。
各国の王や元王たちの現在。
ドラウディロン…楽しく冒険
アインズ…楽しく冒険
ランポッサ…楽しく晴耕雨読
ジルクニフ…過労死寸前(ただし国土や国民は2倍近くになり、周辺国家から見ると一番の勝者)