竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか   作:Amur

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極めて近く、限りなく遠い世界の記憶

 

 大陸中央・南東方面――

 

 

 ドラウディロンとアインズは再び大陸中央にやって来ていた。

 

「竜帝の汚物?」

 

「ああ。八欲王の時代から生きている竜王たちはプレイヤーをそう呼ぶ。必然的にその呼称を使う竜王は強大かつプレイヤーに敵対的だから気を付けろ」

 

「わかった。しかし、どういった由来でそんな呼び方なんだ? 悪意に塗れているようだが」

 

「わからん。私が生まれるよりずっと前の出来事だからな」

 

 ――ツアーのやつに聞いても語りたくないのか、誤魔化すしな。

 

「そうか……」

 

「だが汚物というからには、文字通り排泄物ということかもしれん。例えばユグドラシル世界と一体化した竜帝が消化しきれずにこの世界に放出したもの、それがプレイヤー――とかな」

 

「ほお? その説には何か裏付けのようなものはあるのか」

 

「いや、ない。仮説ですらないただの私の思い付きだ」

 

「ううむ。非常に興味深い話だが、情報が足りなすぎるな」

 

「まあ現状では結論は出ないだろう。とりあえず、太古の竜王には気を付けろと言うことだ。この先には連中の勢力圏もあるからな」

 

「承知した」

 

 

 

「ご主人様、女王様。再びお会いできて光栄であります」

 

 アインズが支配する深淵なる軀の魔法戦士が出迎える。

 以前、騎乗していた魂喰らい(ソウル・イーター)は竜女王の拳で昇天してしまったことと、主たちを馬上から見下ろすわけにはいかないので、今は徒歩で移動している。

 

「時間がかかり、申し訳ありません。お伝えしました通り、深淵なる軀の構成員を発見しました」

 

「よし、案内せよ」

 

「ははっ!」

 

 

ーーーー

 

 亡国インベリアの廃都――

 

 

 目の前には廃墟が広がっている。

 都市全体で大規模な火災でもあったのか、倒壊した多くの建物に焼け焦げた跡が見られる。滅びてからかなりの年月が経過しているようで、生者の気配は感じられない。

 

「ここは……」

 

「この都市を知っているのか? アインズ」

 

「いや、知らない――だが、何故か既視感がある……」

 

 初めて訪れるはずの滅びた都市を目にして、言葉に出来ない心のざわめきを感じるアインズ。

 

「あそこに見える王城に構成員の一人がいるようです」

 

 アインズが支配するアンデッドの魔法戦士は主たちが一時帰国した後も、配下のエルダーリッチと共に深淵なる軀の捜索を続けた。なかなかその足取りは掴めなかったが、ついにこのインベリアに構成員の一人がいることを発見したのだった。

 

「ふむ。ようやく尻尾を掴んだか。他のメンバーの行方を知っているとよいのだが」

 

「ここにいるのは幹部格なのか?」

 

「いえ、女王様。ナイトリッチではありますが、内陣メンバーではありません」

 

 ドラウディロンの問いかけに素直に返事をする魔法戦士。支配しているのはアインズだが、竜女王にも従うように言ってあるので、基本的に従順だ。

 

「ナイトリッチでも無条件で内陣というわけではないのか。やはり結構大きな組織だな、アインズ」

 

「そうだな、ドラウ。流石は400年の歴史ある組織だ。ボスは本当にナイトリッチなのか? オーバーロードではなく」

 

「はい、ご主人様。バネジエリ殿はナイトリッチです。申し訳ありませんが、浅学な私ではオーバーロードという種族は聞いたことがありません」

 

 本来は深淵なる軀の内陣に上下関係はないが、最古参であること、極めて強大な力を持っていることから、6本の腕と2つの頭を持つナイトリッチ、バネジエリ・アンシャスが事実上のリーダー格として扱われている。

 

「おそらくここにはいないと思われますが、バネジエリ殿は第七位階以上の魔法を複数の系統で行使する超級のアンデッド。戦闘になればこの私ですら手も足も出ないでしょう。十分にお気を付けください」

 

「ああ……そうか」

 

 第七位階を警戒しろと言われて反応に困るオーバーロード。相棒の竜女王はニニャの修行相手にちょうどいいかなとか考えている。

 

 

 

 王城の城門は朽ち果て、侵入者を阻む用を成していない。また、門番の類もいないようであった。

 先頭を魔法戦士が進み、ドラウディロンとアインズが続く。魔法戦士の配下である十数体のエルダーリッチは城の周囲を警戒し、何かあればすぐに連絡が可能な態勢を整えている。

 

「アンデッドの番人くらいいるかと思ったが、やや肩透かしだな」

 

 何の妨害もなく城に入れたことで、拍子抜けするアインズ。

 

「ここにいるナイトリッチは部下を持たずに、一人で研究するタイプです。門番がいないことは不思議ではないかと」

 

「そうか」

 

 

 慎重に城内を進む一行。長い年月の間にいくつもの破損は見られるが、頑丈な作りから城そのものは崩壊することなく、元の形を保っている。

 

「アインズ。ことが終わったら、城内を探索しないか?」

 

「うむ。王城ともなれば秘密の書物や、珍しいアイテムが残っている可能性もある。是非そうしよう」

 

 警戒は保ちつつも、仮に戦闘になっても負けるとは微塵も考えていない二人。ナイトリッチが一人程度では相手にもならないので、それも当然といえる。

 

 

「どうやらここが王の部屋のようですね」

 

「私のアンデッド感知にも反応がある。間違いなく、ここにいるな」

 

「一番良い部屋を占拠しているわけだ」

 

 城の最奥に辿り着いた一行。目の前にはこの城でも最も豪奢な扉。かつてはこの部屋に王が住んでいたのだろう。

 

「では行きますよ」

 

 躊躇なく扉を開く魔法戦士。

 部屋の中には予想通り、一人のナイトリッチがいた。

 

「突然の訪問になり、申し訳ありません」

 

「……」

 

 ナイトリッチは返事をせず、入室した者たちを一人ずつ確認する。

 

「本日は話があって参りました。――どうかされましたか?」

 

 予想外の反応のなさに訝しむ魔法戦士。同じ組織の者が来れば、まずは用件を確認するものだが、どうにも様子がおかしい。

 そしてナイトリッチは平坦な声で告げる。

 

「獲物は檻に入りました。我が主よ」

 

「は?」

 

 その言葉に魔法戦士は怪訝な顔をするだけだが、ドラウディロンとアインズは即座に奇襲を警戒して身構える。

 

「バネジエリとやらか?」

 

「もしくは内陣が複数か。どちらにしろ来るぞ、ドラウ。今のは<伝言(メッセージ)>の魔法だ」

 

「ああ」

 

 二人が予測を立てたとき、突如として轟音と共に部屋が吹き飛び、中にいる者たちは空に投げ出された。

 一瞬の出来事だったが、ドラウディロンは半竜半人に変身することで空を飛び、アインズは飛行(フライ)の魔法で事なきを得る。

 元凶を確認しようとする二人だが、それはすぐに見つかった。いや、そもそもがサイズ的に隠れることが出来ない程の巨体だった。全長にして二百メートルは優に超える。直立すれば、魔樹ザイトルクワエすらも見下ろすほどだろう。

 

 その姿は世界最強種族、ドラゴン。

 一般的なドラゴンと比べて細身な霜の竜(フロスト・ドラゴン)よりも更に細長く、まるで蛇に手足と翼が生えたようなフォルムをしている。先程はその極端に長い尻尾を叩きつけて、城を破壊したのだろう。周囲を警戒していたエルダーリッチも巻き込まれたようで、全員が粉砕されている。

 

「初めましてというべきかな、道化――いや、竜帝の汚物」

 

「ドラゴンを模した無数のゾンビの集合体……まさか朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)だというのか!? 馬鹿な!」

 

 スレイン法国などではすでに滅んだとされているドラゴンの登場に驚愕するドラウディロン。

 彼の名はキュアイーリム=ロスマルヴァー。

 八欲王の時代から存在する真なる竜王の一体である。

 

「あ……あ……あああああ――!」

 

 その姿を見たとき、アインズの中で何かが弾けた。何故か見覚えがあった王都インベリア。そこで出会い、共に旅をした吸血姫。新生アインズ・ウール・ゴウンの仲間たち――

 

「ふははは! どうした? 竜帝の汚物よ。呆然としているではないか。だが、絶望するのはまだ早いぞ! お前たちは運がいい。今日は特別でな、もう1人来ているのだ!」

 

 ドウウウン!

 

 一瞬、空が暗くなったかと思えば、地響きを立てて、新たな竜が舞い降りた。

 

「なっ! 曽祖父さん!?」

 

 降り立ったもう一体は七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)。ドラウディロンの曽祖父である。彼は一瞬だけ竜女王を見たが、すぐに怨敵たるプレイヤーを逃がさないための結界を張る。

 

 ───世界断絶障壁

 

 直径数キロメートルに渡って、大気が歪む。

 これにより、通常の手段ではこの空間から出ることも、入ることも出来なくなった。

 

「さあ、滅ぼしてやるぞ。この世界を汚した汚物がぁああああああああああ!」

 

 

 極めて近く、限りなく遠い世界からの因縁が咆哮を上げた。

 

 




朽棺の竜王…レベル???(200年前時点でレベル95)
七彩の竜王…レベル???(200年前時点でレベル95)


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