竜の群を束ねる女王がドラゴンより弱いとでも思ったか   作:Amur

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最終章まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここまで来れたのも皆様のお陰です。(最終回ではないです。もうちっとだけ続きます)

特典小説(亡国の吸血姫)を知らない方もいると思いますので、そのうち簡単なキャラ紹介を書こうかと思います。(特典小説のネタバレになり過ぎない程度に)



黒鱗の竜王

 

 世界とはいくつもの可能性の数だけ存在する。

 

 モモンガがナザリック地下大墳墓ごと異世界に転移してNPCも勢ぞろいしている世界。

 一つ目の世界に近いが、アルベドやマーレが存在せず、他のNPCにも違いがみられる世界。

 ナザリックもNPCもなしで単独転移したモモンガが、アインズ・ウール・ゴウンでなく、鈴木悟と名乗り、イビルアイ(キーノ)と旅をする世界。

 その他にも大なり小なりの違いがある数多の世界が存在する。

 

 ドラウディロンが転生したこの世界は一つ目の世界に極めて近いが、彼女が転生するときに、わずかに付いていた他世界の可能性の欠片が、この世界に落ちた。それはほんの小さな欠片だった。その程度であれば、大多数の者にとっては何の影響もない。ごく数名に、記憶を引き継がせる程度の効果しかなかった。

 

 朽棺の竜王キュアイーリム=ロスマルヴァーも、その数名――最も世界に影響を与えた者――に該当している。断片的に他世界の記憶を思い出していた彼は、わずかに本来の時間軸と異なる行動をとっていた。その少しの差異が結果的に彼を、現代まで生き残らせている。

 

 

ーーーー

 

 

「どうだ? 爺さん。アインズにイビルアイが加勢して二対一。あの吸血鬼も相当な強者だ。これは朽棺の竜王も分が悪いのではないか?」

 

「むう……。だが、あやつには100万のゾンビによる鎧がある。まだ分からぬぞ」

 

 そのとき、ドラウディロンにアインズから<伝言(メッセージ)>の魔法が入る。

 

『ドラウ。そちらは大丈夫か?』

 

「! ああ、問題ない」

 

「む、ドラウディロンよ。それは遠方にいる者と会話する魔法か? 誰と話しているのだ。まさか竜帝の汚物では」

 

「爺さん。すまないが、今は通話中だ。後にしてくれ」

 

「あ、ああ。そうか……」

 

 それ以上追求せず、あっさりと引き下がる七彩の竜王。

 

『大事ないようで良かった。こちらはイビルアイが加勢してくれて、多少は余裕が出来た。今は彼女が朽棺の竜王を抑えてくれているので、その隙に<伝言(メッセージ)>を飛ばしている。合流は出来るか?』

 

「聞き分けのない爺さんを説得するのに時間がかかっているが、すぐに黙らせてからそちらに向かおう」

 

「え?」

 

 自分を黙らせるという曾孫の言葉に目が点になる七彩の竜王。

 

『よし。そう容易くこちらが負けることはないが、やつの周囲を覆う無数のアンデッドに手こずっていてな。ドラウが来てくれるなら心強い』

 

「む……それならば――」

 

 アインズに何事かを伝え終わり、曾祖父に向き直るドラウディロン。

 結局、七彩の竜王は通話を邪魔することなく、終わるまで待ってあげていた。彼の目的はあくまでプレイヤーを除去することであり、何より曾孫には意外と甘かった。

 

「お、おい。ドラウディロンよ。聞き間違えか? 我を黙らせるとか聞こえた気が――」

 

「そのことだが予定変更だ。爺さんをぶちのめすのはやめた」

 

「そ、そうか。それはよかった……ん? やめた?」

 

 安堵する七彩の竜王だが、やめたということは、まさか最初は自分をぶちのめす予定だったとのかと首をひねる。

 

「だから、その代わり――」

 

「むう?」

 

 ドラウディロンは全身に力を漲らせる。

 その身が光に包まれ、シルエットが人間のものではなくなる。番外席次と戦った時のようにわざと時間をかけての変身でなく、竜体への移行は一瞬にして行われた。

 

 神の刃すらはじきそうな強固な漆黒の鱗が全身を覆う。背には巨大な一対の黒翼。何本もの威圧的な黒光りする角が生えた頭部。

 

 

 黒鱗の竜王ドラウディロン=オーリウクルスが正体を現した。

 

 

 あらゆる部位が黒く輝き、まるで、そこにだけ夜の闇が出現したかのような威容。    

 七彩の竜の血を継ぐ者が黒竜なのは、あらゆる色を混ぜ合わせた先には黒があるということか。

 

 キュアイーリムのように東洋の龍ではなく、西洋の竜に近いフォルムだが、細身な個体が多い同族と比べて全体的にがっしりとした体格をしている。

 両腕には鋭い四本の爪、太くたくましい両足で大地に立てば、前傾姿勢ではなく、人間のように直立することもできるだろう。

 

「おお――美しい……」

 

 強さにこそ何よりも重きを置くドラゴンとして、曾孫の力強い姿に目を奪われ、言葉をなくす七彩の竜王。

 

 そして黒鱗の竜王は始原の魔法を解き放つ。

 

 

 ───<超新星(スーパーノヴァ)

 

 

ーーーー

 

 

「なんだ、汚物ども! この期に及んで逃げようというのか!?」

 

 二人そろって、キュアイーリムから急速に距離を取り、近場の建造物に隠れるアインズとイビルアイ。

 当然、追いかけられ、建物も破壊されるが、仮にも王都だった場所だけあり、身を隠す場所はいくらでもあった。

 

「グアアアアアアアアア――!」

 

 激怒し、ところかまわず破壊をまき散らす朽棺の竜王。

 二百メートルを超える彼が尾を振り回すだけで、次々と建造物は粉砕され、更地へと変わっていく。だが、アインズたちの姿を見失ってしまった。

 

「姑息な汚物があああ! どこまで正々堂々と戦うことが出来んのだ!」

 

 アインズが聞けば鼻で笑うようなことを叫びながら、暴れ狂う竜王。打撃だけでなく、支配するナイトリッチたちの広域魔法も無差別に放たれている。

 それでも埒が明かないと考えた彼は、さらに大規模な攻撃を行おうとするが――

 

「!?」

 

 キュアイーリムは恐ろしい魔力が解き放たれる兆候を感じた。

 彼も始原の魔法が使えるからこそ感じ取れたのだが、何をするにも、もはや遅かった。

 

 そして世界が白く染まる。

 

 

 本来、<核爆発(ニュークリアブラスト)>に代表される系統の魔法は、異なる次元で発生させた超爆発のエネルギーの一部をこちらの世界に転移させて攻撃するものだが、この始原の魔法は世界に接続することで、強引に世界内で直接、超爆発を発生させる。

 

 キュアイーリムにドラウディロンの<超新星(スーパーノヴァ)>が直撃する。 

 熱衝撃波の破壊範囲は数キロにも及び、100万のアンデッドの鎧を一撃のもとに消滅させた。

 

 

ーーーー

 

 

「あれは白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と同じ始原の魔法――!」

 

 己の曾孫が起こした超爆発の結果を見据えて、愕然とする七彩の竜王。

 

 

 

「――なんということをしたのだ、ドラウディロンよ。せっかくの汚物を除去する機会をふいにするとは」

 

 曾孫を叱る七彩の竜王だが、それは同胞を攻撃したことについてではなく、竜帝の汚物――プレイヤーを滅ぼすチャンスを台無しにしたことに対してだけだった。朽棺の竜王とはあまり仲が良くないのかもしれない。

 

「すまないな、爺さん。やはり私は古竜たちの考えとは相容れないようだ」

 

「……はあ。そなたと連中についての意思疎通をしていなかったことは我の落ち度だな。一度、じっくりと話し合わねばならんか」

 

「なんだ? もう戦いが終わったかのような言い方だな」

 

「そうだ。こうなってはキュアイーリムも勝てまい。大人しく引くことにする」

 

「見捨てるのか? ずいぶんと薄情だな」

 

「あやつが逆の立場でもそうしただろう。元々はそんな程度の同盟だ。それに朽棺の竜王はそなたのことを快く思っていないようなのでな」

 

「ん、私か?」

 

「そうだ。今回は共通の敵を前にして手を組んだが、元々、反りは合わなかった。いずれは敵対していたかもしれん」

 

「……」

 

 手を組んでいた相手をあっさり見捨てる曾祖父を薄情と思いつつも、自分のことを案じるような言葉に微妙な顔をして無言になるドラウディロン。

 

「しかし、やはりそなたは素晴らしい。あれほどの始原の魔法に加えて、力強く美しい竜体。どうだ? 真なる竜王の誰かと子をなしてみる気はないか?」

 

「子を? 今のところそんな気はない」

 

「少しは考慮してくれ。例えば白金の竜王はどうだ? 仲が良いらしいではないか。きっと素晴らしい子が生まれるぞ」

 

「ツアーか。まあ憎からずは思っているがな」

 

 いつの間にか話が曾孫の婿取りに変わっていた。

 

 

ーーーー

 

 

「あ……が……がぎぎぎ……」

 

 全身を覆う無数のゾンビを吹き飛ばされ、本体をさらけ出されたキュアイーリム。ゾンビが盾になったとはいえ、あまりの爆発の威力に、彼自身もかなりのダメージを負っている。

 

「……ぐ、が……我も無事ではないが、どこかの建造物に潜んでいた汚物どもは――流石に死んだか?」

 

 見渡す限り、更地となった地平しかなく、動くものはない。それに安堵する朽棺の竜王だが――遠くの地面で何かが動くのが見えた。しばらくすると、土が吹き飛ばされ、下から何者かが這い出てくる。

 

「ふう……土中に潜んで正解だったな」

 

「うわ、何も残ってない。これが話に聞く始原の魔法か。凄まじいね」

 

「ああ。とんでもない威力だ。これがドラウのチカラか」

 

 地中から出てきたのはアインズとイビルアイ。

 ドラウディロンから超爆発の魔法を使うと聞いた二人は、建物に隠れたと見せかけて、地中の奥深くに避難していた。

 

「悟。朽棺の竜王のゾンビの鎧が吹き飛ばされているよ」

 

「ああ。ずいぶんと小さくなった」

 

 佇むキュアイーリムを見ながら告げるイビルアイ。大きさが十分の一程度になったとはいえ、それでも数十メートルはある巨体だ。遠くからでもすぐにその存在を確認することができた。

 

「グガアアアアアアアアア――!」

 

 先程まではゾンビの視界を使っていたが、今は竜王としての知覚能力を使用することで、即座に生きていた怨敵の存在を察知したキュアイーリムは猛然と襲い掛かる。

 

「この状況でも向かってくるか。どう考えても、もう勝ち目はないだろうに」

 

「でも逃がす気はないんでしょ? 悟」

 

「当たり前だ。あいつは確実にここで滅ぼす」

 

 

「再び、再び我は敗れるというのか! 認めん! 認めんぞ!」

 

 断片的ながら己が滅びる姿を見たキュアイーリムは、本来の時間軸よりも更なる自身の強化を行った。全身を覆うゾンビの数や掌握する魂の数を増やし、それらを不足なく制御できるように努力もした。

 だが、それでも敗れた要因はやはり信頼できる仲間の有無。

 

 

「来るぞ。やれるな? キーノ」

 

「任せて。いまの私は武力面でも悟の力になれる。それがとても嬉しい」

 

「ふ……。頼りにしているぞ」

 

 

「せめて貴様も道連れにしてやるぞ、汚物がぁああああああ!」

 

 そして、オーバーロードと吸血姫は異なる世界からの因縁に決着を付ける。

 

 


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